覚悟の幽波紋   作:魔女っ子アルト姫

20 / 55
合理主義者担任

「ぼ……俺は私立聡明中学出身、飯田 天哉だ」

「聡明ぃ~?糞エリートじゃねえか、ぶっ殺し甲斐がありそうだなオイィ!!」

「ぶっ殺し甲斐?!君の物言いはなんて酷いんだ。本当にヒーロー志望なのか?」

 

取り敢えず教室内に入った進志と百は席に荷物を置き、百は進志の席へと移動しながら先程から口論に近い言葉のぶつけ合いをしている二人へと目を向けながら雄英での学校生活に僅かに不安を抱くのであった。眼鏡の真面目君は不良の態度丸出しの生徒への注意はこれ以上しても無駄だと判断したのか、それとも席に着いた自分たちに気づいたのかは分からないが此方へと近づいてきて挨拶をしてきた。

 

「先程から騒がせてしまって済まない、俺は私立聡明中学出身、飯田 天哉という者だ。これから宜しく頼む」

「ああ宜しく。傍立 進志、呼び易い呼び方で呼んでくれ」

「八百万 百と申します。宜しくお願いいたします飯田さん」

 

と挨拶を返すと飯田の方も理性的且つ丁寧な挨拶が返って来た事にほっとしているのか胸をなでおろしている。先程のような会話の直後なのだから分からなくもないが……。その後も次々と生徒らが入ってくるのを見つめていく中、緑色でモジャモジャな髪をした男子生徒とそんな彼と知り合いだと思われる元気いっぱいな女子生徒が入口前で何やら話をしている時の事だった。

 

「お友達ごっこがやりたいなら他所に行け」

 

廊下から寝袋から顔だけを出した男が立っていた。その風貌は余りにも整っているとは言えない、切らずに放置されている無精髭に伸び放題なぼさぼさの髪の毛、疲れ切った瞳とその周囲に刻まれた深い隈。あれはホームレスだと言われたら素直にそうと思うこと間違いないだろう。

 

「此処はヒーロー科だぞ」

「進志さん、此処はヒーロー科ですよね……?」

「……」

 

何処か不安そうにする百に返答を求められる進志だが、彼も自信を無くしてきたのか応える事が出来なかった。

 

「ハイ、静かになるまで八秒かかりました」

「(静かになってんじゃなくて言葉を失ってんだよ……)」

「時間は有限。君達は合理性に欠けるね」

「(いや寝袋に入ったまま教室まで来たアンタに言われたくはねぇよ……)」

 

心の中でツッコミをいれる進志だが、次にその男は自分が担任である相澤 消太であると伝えると即座に新しい言葉を飛ばす。それは酷く簡単な指示だった、体操服に着替えてグラウンドに出ろというものだった。そしてグラウンドで告げられた次の指示は……個性把握テストを行う、という趣旨のものだった。

 

「テ、テストっていきなりですか!?あの、入学式とかガイダンスは!?」

「ヒーローを目指すならそんな悠長な行事、出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。それは先生達もまた然り」

 

一人の少女の意見をあっさりと一蹴した担任、相澤は更に続けていく。先に述べた通り雄英は自由な校風が売り、常軌を逸した授業も教師によっては平然と行われる。そしてそれがいきなり自分たちに適応されるという事に皆戸惑っているが、そんな事なんざ知らんと無視するかの如く、相澤が進志を見た。

 

「個性禁止の体力テストをお前ら中学にやってんだろ。平均を成す人間の定義が崩れてなおそれを作り続けるのは非合理的、まあこれは文部科学省の怠慢だから今は良い。今年の実技入試首席は傍立だったな」

「んだとぉ……!!?」

 

その言葉、首席という言葉に反応したのか飯田と激しい言い合いをしていた男子生徒、爆豪は何やら敵意と怨みのようなものを込めた視線を進志へと送り付ける。それに反応したのか、進志の隣にいた百が鋭い眼光を飛ばす。敵意には敵意で返すと言わんばかりに睨み返す百に爆豪は舌打ちをしながら気に入らなさそうに地面を踏む。

 

「お前の中学時代のソフトボール投げの最高記録は」

「確か……68メートルです」

「正確には68.88です」

「八百万補足ご苦労。んじゃ今度は個性使って投げてみろ、全力で。円の中から出なきゃいい」

「了解です」

 

そう言うと進志は相澤から測定用と思われるソフトボールを受け取る、重さ自体は変わらないが何やら機械のパーツのようなものが埋め込まれているボールに一瞬気を取られるが直ぐに振り払って円の中に入る。入る際に百からエールを貰ったのでそれに応える為に気合いを入れる。

 

「さてとっ……」

 

利き腕である右側でボールを持つと左手で軽く右腕を叩く、すると右腕にジッパーが螺旋状に出現してそれによって右腕がまるで鞭のように伸びていく。そんな光景に思わず百以外の生徒達からが驚愕の声が上がる。彼らからすればいきなり進志の腕が千切れているようにも見えるので驚くのは致し方ない。

 

「う、腕が!!!?」

「な、なんだあの個性!?こ、こえええっっ!!!??」

「腕に何が付いてるけど、あれって洋服とかについてるジッパーなのか……!?」

 

後ろから何やら凄い声が聞こえて来るが、進志はそれなど無視して確りとボールを握っているのを確認すると少しずつ腕を回転させていく。腕を回していく事でボールを掴んでいる右手はその先端で凄まじい勢いで回転していき、一本の線のようにしか見えない速度で腕を回している。そして進志は思いっきり足を上げて、それを一気に地面へと叩きつけるかのように踏みしめながら最適な角度でボールを投擲した。

 

「アリィィッッッ!!!!」

 

裂帛の気合と共に放たれたボールは射出されたミサイルかと見間違えるかのような勢いで空を駆け上っていく。そして次第に落ちていき遂には地面へと接した。そしてその結果が相澤が持っていた端末へと送られてきた、それを皆へと見せ付けながら言う。

 

「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの筋を形成する合理的手段だ」

 

そこに記されていたのは今の進志の最大限、個性を使用した結果の記録。そこにあったのは908.3メートルというとんでもない記録が示されていた。




これはスティッキィ・フィンガーズが透明のまま、進志の腕と重なるようになりながら投げていました。普通にスタンドのまま投げてもいいのですが、こういう描写にしました。

理由は、そうしたかったからです。

この作品のヒロインの行方は?

  • 八百万 百 (ヒロイン一人固定)
  • もう一人もいる

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。