「900メートルオーバーってマジか!!?あと一歩でキロ単位じゃねぇか!!」
「しかもボールをぶっ飛ばすというか、投げ飛ばしてこれって……」
「ふふんっ流石進志さんですわっ♪」
一人目から900メートルを超えるという記録を見せ付けた進志、それによって周囲から驚きの声が満ちている。しかも個性を使っているとはいえ、個性を利用して遠心力を加えているだけに近い投げの為に一部のものは進志の強さに驚きを隠せなかった。百は進志ならば凄い記録を出すに決まっていると信じていたのか、驚くことはなく寧ろ信頼の笑みを浮かべる。
「個性を全開に使うとこんな風になるんだな!!流石雄英!!」
「楽しそう!!直ぐにやりたい~!!」
「楽しそう、か……随分とお気楽だな」
今まで抑制されていた個性を存分に使える事に快感と面白さを覚えたセリフを聞いて相澤は鼻で笑いながら、彼らに大きな受難を与える事にした。
「よしそれならもっと面白くしてやる。このテストのトータル成績最下位はヒーローになる見込みなしと判断して、除籍処分に処す」
『ええええっっ!!!??』
相澤の言葉に思わず皆の顔が青くなった。全国集まった凄まじい数の受験者数の中から潜り抜けた狭き門を潜って入学出来た超名門校、そんな名門校が一日目から突き付けてきたのはそんな狭き門を潜る為の努力を無に帰すようなとんでもなく大きな受難であった。当然抗議の声を上げる生徒もいるのだが相澤はそれもあっさりと一蹴する、だったら安心出来るような他所に行けと。
「自然災害、大事故、身勝手なヴィラン。いつどこから来るか分からない厄災。今の日本は理不尽に塗れている。そんなピンチを覆して行くのがヒーローであり君たちはそれになる為にここへ来た。放課後マックで駄弁るのを期待するならお生憎。これから三年間、お前達には絶えず試練が与えられていく。"
そんな言葉に一同息を飲む中で一部の生徒達はその言葉が正しいと感じていた。進志もその一人、京兆の列車襲撃もひどく唐突な物であった。その為に備える為に、強くなる為に雄英に来た。ならばこれはむしろ絶好の機会なのだと思いながらそれに臨む事にする。
「まずは50メートル走、さっさと始めるぞ」
出席番号順にさっさと行うという事で進志も腕を戻しながらスタンバイをする。簡単な準備体操をしていると一緒に走ると思われる隣のレーンに並んでいる少女が話しかけてくる。
「あっさっきのボール投げで凄かったえっと……カケソバさんだっけ?」
「成程そりゃ美味そうだな、ナイスネームセンス。因みに俺の名前は傍立 進志な」
「あ、ごめんなさい間違えちゃって……えっと麗日 お茶子です、よろしくね」
「おう」
そう言って謝りつつも挨拶をしてくるお茶子に対して進志は軽く手を上げて会釈する。軽い会話をしている中、彼女は自分の服や靴に触れていく。恐らく個性に関するものなのだろうが如何にもどんな個性なのかイメージ出来ないのか、進志は取り敢えず自分も再びジッパーを応用して記録を出すことを思いつく。レーンに立った進志はかがみつつも地面に触れると、地面にジッパーを設置する。そしてそれをどんどん延長してゴール地点まで伸ばす。
「じ、地面になんかできてる!!?」
「あっ悪い驚かせた?俺の個性だ」
「凄いなんか面白いねそれ!」
「だろっ?俺もそう思ってる」
お茶子は素直な感想を述べつつも自分もそれに同意する、そしてスタート準備のためにかがむとそのジッパーに触れる。スタートの合図とともに開けていたジッパーを勢いよく戻して、その勢いで一気にゴール地点へと移動を掛けていく。そしてお茶子よりも遥かに早くゴールを決める。
『3秒23』
「こんなもんか……流石に全身をジッパーで引っ張ると遅くなるな……んっ?」
「地面に設置されていたのはやっぱり洋服とかで見るジッパーだ、という事は個性はジッパーを触れた物に生み出すって事なのかな。それならかなり凄いぞ、ジッパーでそのまま物を切断したり繋げる事も出来るって事だから簡易的な修理や治療にも応用出来る。しかも生身にも出来るって事は触れる事さえできれば相手を簡単に無力化出来るって事だから近接戦闘だったら相当怖い個性だし、射程距離までカバー出来る……それ以外にもまだまだ応用方法が……」
と自分の事を見て何やら凄い勢いで小声で何やら言っている少年が見えたのだが、進志は自分の事を相当よく見ていると感心しつつもその解析能力を尊敬した。彼ならば某解説王にも負けず劣らずの存在になられるのではないかと。
「進志さん、私の記録は3秒53でした」
「えっ如何やって……」
「ローラーブレードにバッテリーとエンジンを組み合わたものを創造してみました」
「流石百……俺よりも遥かに応用の利く個性だな」
流石に物を創造出来る百の個性と応用力を比べること自体が間違いのような気もするが、取り敢えず進志は彼女共に次のテストへと挑むことにした。次々とテストをこなしていく二人、最後の持久走はバイクを創造して走る百と自力で頑張る進志という感じだったが無事にテストを乗り越える事が出来た。
「テストのトータルはそれぞれの種目の評価点を合計したものになる。口頭で結果を言うのは時間の無駄、モニターによる一括開示で発表する。自分が何処なのか確り見て置け」
そういうとモニターにテスト結果が表示された、そして進志と百は直ぐに自分たちの項目を発見する事が出来た。一位:八百万 百。二位:傍立 進志、トップツーを見事に独占する事が出来ていた。流石の進志もジッパーを確りと活用していたのだが……流石に百には敵わなかった。ソフトボール投げでは投げる角度を調整したことで更にいい記録が出たのに、百は大砲を創造した結果、飛距離は20キロオーバーを叩き出している。
「だぁくそ……流石に創造相手だと分が悪いか……」
「それでも進志さんは二位ですわ、自信をお持ちになってください。次は必ず一位になれますわ」
「一位を取った百にそう言われるのはなんか複雑なんだが……」
互いの成績に満足が行っている中で一部生徒は除籍になると震えている中、相澤はなんの悪びれる事も無く、まるで散歩のついでに牛乳買ってきて、と言うな感じで言った。
「因みに除籍云々は嘘な」
『……えっ?』
「君たちの最大限を引き出して限界値を知る為の、合理的虚偽」
『はぁぁぁあああああっっっっ!!!!!???』
しれっと言った相澤の言葉に安心を抱くような肩透かしを受けたような複雑な気分になる一同、だがこれが雄英のやり方というよりもこの男のやり方なのだと理解する。これからの雄英での生活は本当に受難で塗れている事を実感しつつ、それに向かっていくのである。
この作品のヒロインの行方は?
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八百万 百 (ヒロイン一人固定)
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もう一人もいる