戦闘訓練の相手の組み合わせとなった上鳴と耳郎は先に舞台となるビルへと入っていく。そこにある核兵器とされる物を確認してから5分後にヒーローチームが突入するという事とになっている。それをビルの前で待機している進志と百、こうしてみると矢張り進志はVIPのお嬢様の護衛として付けられた軍人という風に見える。まあ実際彼女は紛れもないお嬢様なのだが。
「さてと、如何切り崩すか……核は本物として扱う事か、あまり派手な事は出来ないか」
「そうですわね。それを考えると私も跳弾や爆破による被害を考慮して、そういったものの創造は自粛した方がいいかもしれません」
「その方向で行った方が良いだろうな。近接主体、出来るよな」
「はいっ抜かりなく」
何の迷いもなくノータイムで返してくる彼女に安心を持つ進志。そんな思いを抱いていると5分が立ったのかタイマーが鳴り響いた。そして直後にオールマイトの声が響き、遂に戦闘訓練の幕が開くのであった。
『それでは時間だ、屋内戦闘訓練……スタート!!』
「では進志さん、始めますわ」
「ああ」
直後、百の腹部からドローンが生成されていく。それらは進志の手によってスイッチが入れられると直ぐに飛び上がってビルの周囲を囲むかのように展開されていく。そしてドローンからはマイクとカメラのようなものが展開されていきそれはじっと、獲物を見つめるかのようにビルへと集中していく。それらの全てを受け取る小型モニターを見つめながらポイントを決める。
「……見つけました。目標は4階の小部屋、座標の取得にも成功しました。ジャミングの心配もありません」
「分かった、それじゃあいいよな」
「ハイッお願いします」
そう言われると進志は渡されたボタンを押す。直後にドローンから火が噴出して次々と墜落して燃えていく。元々使い捨て予定のドローン、既に役目を終えた存在故に破壊する。そして進志は帽子を目深に直しながら鋭い瞳を作りながらそのまま百を連れてビルの中へと入っていく。明かりなどもない暗闇が広がっている、片目しかない進志にとって正直見にくい場所だが百が前に出る。
「こちらです」
文字通りの目となって案内していく彼女に従う。2階、3階、そして4階へと上がろうとした時……
「食らいやがれっ放電ッッ!!!」
真下の2階から凄まじい電機の奔流が百と進志を包み込もうと放射された。そこにいたのは上鳴、待ち伏せていたのか。分からないが凄まじい電撃が二人を包む込んでいく、それが30秒ほど続いたのちに息を荒くした上鳴が3階へと上がってきた。
「き、きっちぃ……ウェイになる寸前の放電だから身体にくるぜぇ……」
彼としても許容量の限界の電撃だったのかかなり疲弊しているかのように見える。階段の踊り場、そこにいた筈の二人は黒焦げになっているかのようになっている。それを見た上鳴はヤバいやり過ぎたっと思った。確かに目の前でイチャイチャされたからか、イライラをぶつけると言わんばかりに放電したが此処までになるとは思ってもみなかった。
「や、やばいやばい如何しよう俺やっちまったか!!?」
「―――この程度でやられると思われる、思った以上に不快だな」
「ッ!!?」
声が聞こえる、それが意味するのは絶望の手招きいや希望だ。自分はやり過ぎていなかったという安心感に近い何かだった。黒い影が揺れるとそこからロングコートを大きく振るい表面の焦げた埃を払う進志とコートの内側にいた百の姿があった。傷一つ、火傷もない姿に上鳴は驚いた。
「俺のコスチュームは特別な事はされていない。純粋な防御に特化されている、中に織り込まれている絶縁素材が電気を塞き止めただけの事」
「絶縁……相性最悪って事かよ……!!」
「そう言う事です。そして貴方はここで確保します、ご覚悟ください」
彼女のニの腕から約1メートル近い槍が生み出されその手に握られる。そして目の前にて大きく槍を身体に添わせるようにしながら振り回しながら構えをとる。上鳴は先程まで百の美貌とそのスタイルにある種の憧れを持っていたがそれを目の前にしてもそれが産れない。純粋にこのままではまずい確実に敗北するといった予感しか生まれてこないのである。如何にかしないと、自分が夢見たヒーローはギリギリのギリギリまで踏ん張ってピンチの連続でも負けない、そんなヒーローだ。
「負けねぇから来いやぁぁっっっ!!!!」
「はいっでは終わりです」
「―――えっ」
そんな間抜けの声が口から出る。次の瞬間、スピーカーからオールマイトが上鳴少年確保!!というアナウンスが流れた。それを聞いても何が起きたのか全く理解できなかった。百が槍で足を指さすようにしているのを見て自分の足を見てみるとそこには、確保テープがしっかりと巻かれていた。
「いっいつの間に!!?」
「私が何故敢て演武のように槍を構えたのかお分かりですか?」
「百、その話は後だ。今は核の確保を」
「承知しました」
「ではな、また後程」
そう言って上がっていく二人を見て上鳴は呆然と見送るしかなかった。何時自分は確保判定のテープを巻かれたのかすら気づけなかった、彼女の言う演武の理由も分からない。分かるのは唯二つ、この戦闘訓練は確実に自分たちの敗北であること、そして―――
「やべぇ……世界って広いなぁ……」
敗北に胸が沸き立ち、ゾクゾクとした胸を満たすような高揚感の存在だけだった。
そんな彼に同意するように、ヒーローチームの勝利がアナウンスされる。
戦闘訓練の詳細については次回、講評にて。