戦闘訓練から数日、進志は雄英の初登校以来常に一緒に百と登校を行っている。彼女がそうしたいというのもあるが進志自身も心の何処かでそうしたいと思っているというにもある。そんな風に登校していると雄英の校門前に妙な人だかりが出てきているのに気づいた。多くの人間がカメラやマイクなどを所持しているのを見ると雄英の取材に来たマスコミと言った所だろうが、それを見て進志は思わず重いため息を吐いた。
「はぁっ……なんで朝からゴミを見なきゃいけないんだよ」
「進志さん、お言葉が宜しくありませんわ。ですが同意致しますわ、これでは雄英に入れません」
「報道の自由を免罪符にして振り回し、他人の自由を侵害する存在だ奴らなんて」
「本当に進志さんはマスコミが嫌いですよね」
「当然だ、誠実な記者なら登校を邪魔するようなこと自体をしない」
進志は前世の影響もあるのかマスコミを非常に嫌っている、当然この世界でもマスコミはハッキリ言って嫌われている傾向が強い。ヒーローの活躍を広める役目と言えば聞こえはいいだろうが、それでもプロヒーローのプライベートを大解剖とかテロップを付けながらヒーローの所有の敷地に侵入、警備システムに検知されて警察送りになるマスコミも非常に多い。加えて、プレゼント・マイクのプライベート云々もやっていたので進志は余計にマスコミが嫌いになった。
「百は嫌いじゃないのか」
「嫌い、というよりも苦手というべきかもしれませんわ」
「あれが好きっていう奴は少ないだろうからな……無言で通すか」
歩き出す進志に合わせるかのように彼女も歩き出す、校門へと近づいていくとマスコミが次の目標を見つけたと言わんばかりにニタニタと気持ち悪い笑みを張り付けながら歩み寄ってくる。聞こうとしてくるのは教師となったオールマイトの事だった。成程、確かにオールマイトの事ならば聞きたいと思うのは当然だろう。それでも許容は一切しない。
「マスコミっていうのは他人の迷惑を一切考えずに取材して飯の種にする連中なんだな」
とその場にいる全員に聞こえるように敢えて言う、それを言われて一瞬怯んだのかマスコミは張り付けた笑みを凍らせた。同時に進志が差し向けた冷たい視線を受けて背筋がゾッとしたのだろう。ハッキリ言ってこれを受けるぐらいならば京兆の銃弾を受ける方がマシかもしれないとさえ思えるほどに、マスコミは嫌い。そんな進志に付き従うかのように百は早足で校門をくぐる彼に続いた。そして内側に入ってさえしまえばこっちのものだ、マスコミは自分に対して礼儀がなっていないなどと溢しているがお前が言うなとは正にこの事である。
「……進志さん」
「教室に行こう百。あれに関わるだけ無駄だ」
「はいっ♪」
銃器でも創造しそうな百を諫めながら手を差し出す、それを声を弾ませながら取って共に教室へと向かっていく。
「だけど、流石にあれは言っちゃまずかったかな……」
「ご安心ください進志さん!」
そう言うと胸ポケットからあるものを取り出した、それは所謂ICレコーダーであった。そしてネクタイの一部を指さす、そこには何やらレンズのようなものがあった。
「何かあった時の為に私は常にICレコーダーと小型カメラで状況の録音と録画を行っております。あのマスコミたちが何か言うようであるならば、この百がこれらを提出し裁判にまで駆け込む準備はできておりますわ!!」
「おいおいそんなの準備してたのか……」
「因みに私と進志さん専属の弁護士は選出済みですわ」
「えっ嘘俺のまで!?」
軽く自分の世界に飛び立ちながら、如何に準備が万端なのかを高々に語る百に進志は遅くなりながらも色んな意味で危機感を募らせ始めた。
「(……これ明らかにやばい傾向だよな、百が俺に依存しているのは正直分かってた。でも幾ら何でも俺専属の弁護士ってやり過ぎだろ……。しかもこれって多分百のご両親も協力してるよな……早いうちに手を打たないとなんか、大変なことになりそうだぞこれ……)」
「そうですわ進志さん、今度の休日に是非顔合わせを行いましょう!!」
「ああうん……あの百……幾ら何でも弁護士はやり過ぎなんじゃ……」
「やり過ぎではありませんわっ!!!」
顔をずずいっと近づけてくる百、その迫力に押されて思わず引き気味になってしまう。遅く登校してきたおかげで周囲に生徒がいないので見られていないが、傍から見たら完全に百が進志を食いに行っている感が半端ない。
「寧ろ進志さんは何あれほどの体験をしてしまったのですから、これほどをするのが当然なのです!!ヴィランの襲撃そして対決などを経験しておるのですからこのぐらいは当然なのです!!」
「そ、そうなのか……?」
「そうなのです!!」
「わ、分かった分かった分かった!!百が正しい俺が悪かった!!」
「ご理解頂ければ幸いです♪」
そう言って百は笑顔に戻りながら歩いていき、自分も続くのだが本当に大丈夫なのか本気で不安になってきた。そんな中後ろから肩が叩かれる、振り向いてみるとそこには一佳がいた。
「……何があったかは分からないけどさ、相談ぐらいなら、乗るよ?」
「……マジで一佳有難う」
この日から、進志は内々に一佳にメールで度々百に関する相談をするようになったのであった。
「というかさ、それもう親戚中で結託している可能性あるんじゃ……」
「考えたくないからやめて……」