やや身の危険を感じつつも教室へと辿り着いた進志、今までは割と軽く流せる事が出来ていた百の言葉をこれから確りとスルーしたり受け止めたりする事が出来るのかと酷く不安になってきてしまった。席に着きながらも
「さてと、今回のホームルームだ。急で悪いが今日はお前らに決めて貰う事がある」
思わず全員直ぐに身構えた。つい先日に、合理的虚偽とはいえ除籍処分のペナルティがついたテストを受けたばかりなのでそれをひどく警戒してしまう。相澤ならば抜き打ちテストで赤点を取ったら即刻補修送りにしても納得できてしまうからである。そんな中相澤が言ったのは……
「クラスの学級委員長を決めてもらう」
全員が安堵の溜息をついた、普通に学校でやるそうな行事且つ自分達に大きなペナルティやらが降りかかる心配がないからである。皆がぜひとも自分がやりたいと手を上げる中で進志は我関せずっと言った表情で手を上げなかった。誰かを纏めるというのはあまり得意ではない、自分は引っ張っていくよりも押し上げていくタイプだと考えている。そんな中で一際大きな声が上がる。
「皆、他のクラスの事もあるのだから静粛にしたまえ!!委員長とはクラスを纏め上げ牽引する責任重大な仕事だぞ、やりたい者がやれる事ではないだろう!?周囲の皆からの信頼があってこそ務まる政務だ、民主主義に則り真のリーダーを皆で決めると言うのなら、これは投票で決めるべき議案!!」
「飯田、腕聳え立ってるぞ」
とボソッとツッコミをいれる進志の言う通り、自分も凄いやりたいです!!と言わんばかりに腕が綺麗な程に一直線に上へと伸びている飯田の姿がそこにあったのである。まだ一週間ちょっとしかたってないのに信頼もないだろうという意見も出るが、だからこそ票を獲得した物こそがふさわしくないかという言葉に一理あると皆感じたのか多数決で決める事となった。
「(誰に入れるかな……まあ俺はやりたくないし百にでも……)」
という訳で票は入れられ、即座に開票となった。意外な事に投票数が一番多かったのは3人、全て2票ずつであった。それは進志、百、出久の三人であった。
「えっ僕二票!!?」
「なんでデクにぃ!!?」
「いやまあお前に入れるよりは理解できるけどな」
「んだとゴラァ!!?」
と出久に何故2票も集まっているのかと遺憾を露わにしている人間が約一名いるが、兎に角2票集まったのは事実。このまま3人の内で誰を選ぶかを決める決選投票となる筈だったのだが……相澤が3人もいると時間がかかりそうだからと後は話し合って決めろとそこでぶった切ったので後は三人で話し合って決める事となった。一体だれが委員長になるのか、という皆が思う中昼休みに突入し、三人は飯田と麗日も交えて昼食を取る事にした。
「はふぅ……お米美味しい」
「全く流石ランチラッシュ……本当に米に落ち着くなぁ……」
「このお米は一粒一粒がとても立っておりますわ、きっと土鍋ですわね」
「あの進志君に八百万さん、委員長決める話しなくていいの……?もう昼休みだけど」
「そうだぞ、確りと決めなくてはいけない!!」
とキビキビした動きで急かす飯田だが進志の答えは決まっているし百の答えも既に決まってしまっている。
「百、お前やる気ある?」
「進志さんがやるのであれば」
「んじゃ一抜けた」
「二抜けました」
「えええええっあっという間に僕だけになったぁ!!?」
「二人とも何故そんなにあっさりと降りる事が出来るんだ!?」
「本当、凄い似合うと思うんだけどなぁウチ」
と三人からしたら不思議でならないようであるが、進志からしたら最初から委員長なんてやりたくもない物だった。百からすれば進志がやるのであれば全力でやるがやる気がないのであれば自分もやる気はない、彼女からすれば当然の事なのである。しかしそうなると委員長候補は出久だけになってしまい、副委員長も不在になってしまう。
「それなら飯田、お前がやればいいだろ」
「何ッ!?何故ぼっ……俺なんだ!?」
「だってお前、あの時一番教室を仕切ってただろ。自分で言ってたろ、クラスを纏め上げ牽引するって。お前が投票制にするって言ったらそうなったんだから十分仕切ってるし牽引してるだろ」
その言葉に飯田は動揺しながらも確かにそうかもしれないが……とオロオロする、がその背中を叩いたのは出久であった。
「やろうよ飯田君、確かにあの場は飯田君が一番仕切ってたよ」
「む、むぅぅうん……」
と複雑そうな唸り声をあげる飯田。確かに委員長をやりたいという思いはあるのだが、それに自分が相応しいのだろうかという思いも強くある。飯田曰く、やりたいか相応しいは別であるらしくかなり考え込んでいる。そんな最中の出来事であった、食堂内に凄まじい警報が鳴り響いた。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難してください』
雄英のセキュリティは極めて高度である筈、それを突破した者が侵入しているかもしれないという事。その事で食堂内は一気にすさまじい大パニックへと陥ってしまった。
「ぼっ僕たちも急いで外に!!」
「待て俺が道を作る!!開けジッパー!!」
と腕を飛ばして窓ガラスにジッパーを設置して大きな出口を作ってそこから百たちと共に外へと出る。それを見たのか他の生徒達も個性やジッパーを通じて外に出始めている。
「流石進志君助かったよ!!」
「本当ですわっ即座の判断力流石です進志さん!!!」
「うん本当にありがとうね!!」
「矢張り君こそ委員長に相応しい判断力を持っているよ傍立君!!」
「気にするな、しかしなんで警報が……」
と外に出た進志が視線を巡らせているとそこにはマスコミの大群が雄英の敷地内に入っているのが見えた。本来は生徒証などがないと即座にブロックが働いて入る事が出来ないはずなのに……。そのブロックである通称雄英バリアが完全に崩壊しており、そこからマスコミがなだれ込んだらしい。
「おいおいマジかよ……やっぱりゴミはゴミか」
「そんなことを言っている場合ではない、早く事態の鎮静化を……そうだ、八百万君メガホンを作れるか!?」
「はいっ直ぐに!」
飯田の判断を聞いた百は即座にメガホンを作り出しそれを飯田へと手渡した。そして飯田は咳払いをしたのち、大きく息を吸ってメガホンに向けて声をぶつける。
「皆さんご安心ください、これはただのマスコミが入って来ただけです!!ここは最高峰の雄英!!そこの生徒に相応しい行動を取ってくださいぃぃぃっっ!!!!」
余りの声の大きさに耳が痛いがそれを聞いた生徒たちは徐々に落ち着きを取り戻していき、パニックは鎮静化されて行った。そんな間に進志はバリアを破ったマスコミの写真をスマホで撮影していた。
「よし証拠写真撮影成功」
「し、進志君何やってるの?」
「後で相澤先生に渡す。十分すぎる問題行為だ、怪我人が出るかもしれない不法侵入の証拠だぜ。ネットに晒すのも悪くないな」
そんな話をしていると相澤とマイクがバリアを越えてきたマスコミの対応をし始める、軽い脅しのような言葉などを巧みに使ってマスコミを大人しくさせると直ぐに飛んできた警察にマスコミたちは連行されて行った。
「あの相澤先生、マイク先生」
「んっなんだ傍立、お前も早く教室に戻れ」
「いえ、マスコミの写真を一応取っておきました。これ役に立ちますかね」
「どれどれっ……おおっイレイザーヘッドこれ良く撮れてるぜ!」
「……一応データは預からせて貰う」
この後、不法に侵入したマスコミは写真などを証拠に雄英から抗議を受ける事になり活動を自粛させられ、怪我人の治療費や生徒達が脱出のために割った窓ガラスの修理代などが請求されたらしい。そして委員長はパニックを見事に鎮静化させた飯田を出久が推薦し、彼が委員長、出久が副委員長という形に落ち着いた。
「しかしよ、この雄英バリアをマスコミが壊せんのか?」
「……第三者の可能性もあるな」
「……校長に警戒するように言うか」
「それが一番だろうな」
私もマスコミ嫌いだからかこんな感じに……。