何かが迫ってきている、それに最も早く気付けたのは進志であった。嘗て命のやり取りをしたからこそ敵意や殺意に敏感になっているのか己の感覚が警鐘を鳴らしていた。一歩前へと踏み出しながら何時でもスティッキィ・フィンガーズで攻撃出来るように態勢を整える。それに僅かに遅れて百も戦闘態勢を取りつつも創造を行い、その手に槍を構える。
「おいお前ら何を……っ!!」
相澤はいきなりの事に如何したと言おうとするが同時に当人も異常に気付く。噴水前の空間が奇妙なほどに捻じ曲がるかのようにどす黒い霧のような広がっていく。そして生徒らに纏まったままで動くなっと指示を飛ばしながら13号に防御を固めるように伝える。そして掛けていたゴーグルを装着し戦闘態勢を整える、まさか―――ヴィランがこの雄英に直接殴り込みをかけてくるなんて思いもしなかった。
「やはりあのマスコミ共はクソ共の仕業だったか……!!13号、お前は生徒達を連れて避難させろッ!!上鳴は個性を使って通信を試みろ、俺はあいつらを食い止める」
「でも先生!!幾ら個性を消せても
「心配無用だ、紛いなりにも俺もプロだ。それに一芸だけではヒーローは務まらんッ!!」
そう言いながら相澤は抹消ヒーロー・イレイザー・ヘッドとして能力を使う戦闘へと飛び込んで行く。常に身に纏っている特別製の捕縛布と個性を消す個性、それらを上手く掛け合わせ相手が個性での攻撃を仕掛けようとした瞬間に個性を消して攻撃のタイミングを狂わせながら捕縛布で絡めとり、地面などに叩き付けていく。異形系の個性は消すことはできないが、それでも統計的に接近戦を主体とするものが多い異形系の対策も取っている相澤はたった一人で大多数の敵を翻弄していた。その隙に13号が生徒らを先導して脱出を試みる、しかし―――
『逃しませんよ、生徒の皆様方』
瞬時に移動し、出口への道を封鎖するかのように立ち塞がる霧のような姿をしているヴィラン、他のヴィランをここに連れてくる役目も背負っている黒い霧のヴィランは何処か紳士的な口調をしながらも明確な敵意と悪意を向けてくる。
『はじめまして生徒の皆様方。我々は"
「オールマイトをっ……!?」
『しかし奇妙ですねぇ。この場にオールマイトにいないのは計算外。何か授業に変更でも、まあ良いでしょう。それならば、動きを多少変えるだけです』
「させるかぁっ!!」
それを聞いてオールマイトのファンの一人として許せなかったのか、左腕にジッパーを設置して飛ばす梅雨ちゃん曰く
「お見事です傍立君!」
「っ駄目だ手応えがない!!」
「ならばっ―――!!」
その言葉を聞いて即座に13号は能力を発動させるようとするのだが、進志の攻撃に続けと言わんばかりに爆豪と切島が飛び出していき爆撃と強烈なラリアットで追撃を掛ける。それによって更に吹き飛ばされるが―――13号は二人を巻き込んでしまうとして攻撃をやめてしまい、二人に急いで退くようにと促すが……
『危ない危ない―――いけませんね幾ら生徒と言えど金の卵、という訳を失念していましたか。だが所詮は――卵、私の役目は貴方達を散らして、嬲り殺す事ですので』
ヴィランは全身から霧を放出するかのようにしながら生徒らを包みこんで行く。そして霧が晴れるとそこは周囲には岸壁で身動きが取りづらい場所―――大勢のヴィランが自分達を待ち受けていた。周囲には百、上鳴、耳郎が居り自分と同じく周囲を警戒している。
「ギャハハハ来やがったぜ!!」
「獲物だ、獲物だぜ!!」
「無事か!?」
「問題ありません!ですが、これは分断されたようですね」
「マジかっ……相当まずい状況じゃねぇか!?」
「完全に囲まれてるしね……」
4人はお互いがお互いを守るかのように背中を合わせるように陣取り、自分達を包囲しているヴィランを見つめる。総勢20人強、数で言えば圧倒的に不利な状況だが進志にとっては自分が体験した時よりも楽な状況且つ改めて京兆の個性はかなりの強個性だったんだなぁと暢気な事を思うのであった。
「百、二人にも武器を作ってやってくれ。上鳴お前は武器を持ったらそれに電気を帯電させろ、そうすれば戦闘力が大幅に上がる」
「マジか!?」
「あまり時間もかけない方が良いと思いますので、鉄の竹刀に致しました」
「サンキュー八百万!!」
そう言って百お手製の武器を手に取るとそれに電気を纏わせる。これならば放電量を上げなければ遠くまで飛ばせない、電力を上げ過ぎると脳がショートするという上鳴の弱点を補える。
「さてと……どうやって突破するか」
「進志さん、此処は作りますわね」
「……非殺傷にしろよ、お前に人殺しの汚名は似合わない」
「まあっ♪」
そう言いつつも百は腹部からアサルトライフルで有名なAK-47を創造しそれへマガジンをセットして構えた。それを見たヴィランたちは思わずえ"っと声を濁らせた。ついでに耳郎と上鳴も声を濁らせる。
「おいおいおいおいマジかよあの女ぁ!!?ライフル出しやがったぞ!!?」
「お、俺たちを殺す気かぁ!?」
「オールマイトを殺すと宣っておいて自分たちが危険に陥るとそれですか、恥を知りなさい!!」
『ギャアアアアアッッ!!!!』
そう言うと百は迷うことなくトリガーを引いた。激しいマズルフラッシュと共に弾丸が囲んでいたヴィランへと撃ち込まれていく。射撃訓練を受けている百は巧みにライフルの反動を受け止めながらも見事な射撃精度見せながらヴィランを撃ち続ける。一応弾丸は非殺傷の弾丸なので死ぬことはない、まあ死ぬほど痛いが。それを見た上鳴、耳郎は愕然とした。まさかクラスメイトが迷う事も無くライフルをぶっ放すなんて思いもしなかったのだろう。
「おい上鳴、今の内に俺たちであいつらを制圧するぞ。浮足立っている今がチャンスだ」
「お、おう……分かったぜ!!」
「あ、あのさ傍立……アンタはヤオモモがライフルぶっぱするのは何も思わない訳……?」
「クラスメイトに向けて撃つよりは健全だろ」
「「ええっ……」」
この後、耳郎は百の護衛をしつつライフルの弾を冷静にリロードする姿に僅かに恐怖を覚えた。そして進志と上鳴はヒーロー志望とはいえ女子高生にライフルを撃たれるとは思っていなかった事で浮足立っているヴィランたちを見事に制圧する事に成功するのであった。
「ねえヤオモモ、これ本当に生きてるんだよね……?」
「大丈夫です全員息はありますわ。まあっ死ぬほどの痛みを味わっているでしょうが」
「死ぬよりはマシだろ、うん死ぬほど痛いだけだ」
「どっちも嫌だぞ俺……」