「上鳴、終わったか」
「ああっ全員間違いなく気絶してるぜ、にしてもここまで念入りにしといた方が良いもんなのか?」
百のゴム弾乱射によって浮足立ったヴィランたちを掃討した後、上鳴は倒れている上に百特製の拘束具を付けられた連中を電撃で気絶させて回りそれがようやく終了し移動を開始したところであった。
「なんか死んでないけど死体蹴り感半端なかったよ……」
「ですがこれが今とれる最善の一手なのです」
「あいつらが動けて背後から襲われるって心配がなくなるのはかなり有難い、一応拘束してあるとはいえ外されないとも限らない。取れる手段はとっておいた方が良いんだよ」
「はぁっ~……勉強になるなぁ」
最初に経験した戦いがたった一人であっても多勢として相手に襲い掛かれる京兆だった為にその対処法について何度も百と考えたりもした。同じような個性と会った場合に対処できるようにと、同時に相手が大勢であっても機能するので有効だと考えている。そして皆は留まっているとあの転移個性のヴィランが増援を送ってくるのではないかという事を考えて、細心の注意を払って移動を始めた。
「な、なぁ進志。じっとしてても良かったんじゃないのか?」
「確かに先生達が異変を感じて救援に来てくれる事も期待出来るが上鳴、お前の個性で通信が出来なかったんだろ」
「あ、ああっずっとノイズばっかりだ」
上鳴は電気を纏う個性である関係で自らを電源にする事が出来るので通信機などをコスチュームに付けている。それで緊急用チャンネルで雄英の教員室に通信を試みてみるのだが、返ってくるのは不気味なノイズのみ。闇に問いかけてもその闇に声が絡め取られているかのような気分だ。
「でしたら電波などの妨害系の個性がいると見て間違いないですわね。そうなると教師の皆さま方の対処はかなり遅くなる可能性がありますわ」
「それまでウチらの身は自分で守らなきゃいけないって事ね……」
「いざってときは俺がMAXで蹴散らしてやるぜ!!進志、その後は任せるぜ」
「分かった、任せられよう」
相手がヴィランからなのか、それとも戦闘訓練での一件で完全に吹っ切れているのか迷う事も無く最大放電をすると公言する上鳴。それは彼にとっても危険な状態になるというのを示すことだが友達を守る為に躊躇などしていられないと決心を固め進志にフォローを頼む。
「もうすぐ中央広場ですわね、しかしそこは確かに相澤先生が敵を引き付けてくださってる場所ですわ」
「避けた方が良いよね……」
「だなっ様子を見れる位置を取りつつも、迂回していこう」
相澤先生が自分たちの為にしてくれている事を無駄にしない為にも底を迂回して進むことに決めた一同、それでも心配なのか見えるギリギリの位置を慎重に進んでいく事にする。そしてそこをゆっくりと進んでいくが思わず一同は足を止めてしまった。なんとそこには完全に組み伏せられているボロボロの相澤の姿がそこにあったのだから。
「う、うそっ相澤先生が!?」
「マジかよ何だよあのヴィラン!?プロヒーローが敵わないのか!?」
耳郎と上鳴の表情が絶望に染まる、厳しく恐れられている相澤だがそれでも皆からは良い先生だとは思われている。厳しいのは自分たちの為だと生徒たちなりに理解を示しているからだ。そんな相澤が完全に組み伏せられ、今腕の片方が圧し折られたのか相澤の絶叫が響く。
「せ、先生っ……!!」
「……っ進志、こんな頼みするの悪いと思うけどよぉ……俺と一緒に来てくれないか!?」
「……お前まさか
「相澤先生を、助けに行く!!」
上鳴のその言葉に皆驚かされた。先程まで絶望に染まっていたはずの上鳴が必死に自身を奮い立たせながら、相澤を助けに行こうと言い出したのだ。
「む、無茶だよあんな奴に敵いっこない!!無謀すぎる!!」
「あまりにも危険すぎますわ、ですがこのまま相澤先生を見捨てて行く訳には……!!」
「だ、だけどウチらに何が出来るっていうのさ!?」
彼らはヒーローを志している、そんな彼らが目の前で担任が自分たちの為に戦って重傷を負っている場面を見過ごせる訳なんてなかった。それでも状況の最悪さも理解しているからこそ理性がストップをかける。脳みそがむき出しになっているヴィランはあの相澤を容易く組み伏せるだけではなく、鉛筆を折るかのように人間の腕を容易く折る事が出来るのだ。そんな相手に向かって言って勝てるとは思えないのだ。
「でも、俺は嫌なんだよ!!目の前で苦しんでるのに見捨てるなんて、ヒーローのする事じゃねぇだろ!!?ここで相澤先生を見捨てるなんて俺は嫌だ!!」
「―――蛮勇だな」
そんな中、冷や水が飛んでくる。上鳴は信じられないような表情で冷たい目をする進志を見る。
「一時の感情がお前を殺す。ヒーローになりたいからこそ相澤先生の行動の全てが無駄になる」
「だけど進志!!」
「冷静になれ、お前のそれは勇気じゃない。自尊心が生んだ蛮勇だ」
「んだとぉてめぇ!!!」
我慢出来なくなったのか進志の胸ぐらを掴んで血走った目で進志をみる、それでも冷たい目をする進志は更に言葉をぶつける。
「俺が夢見たヒーローはギリギリのギリギリまで踏ん張ってピンチの連続で、もう駄目だった時に助けてくれるヒーローなんだよ!!!今がその時じゃねぇか、今行かねぇで如何すんだよ!!!」
「お、落ち着きなよ上鳴!!」
「そうですわ今は喧嘩なんてしている場合では!!」
「もう一度聞くぞ、お前は何をしたい」
「相澤先生を助ける!!!」
「―――乗った」
『えっ!?』
間抜けな声が漏れる中、進志は優しい目を作りながら言った。
「お前の目に覚悟を見た、そしてやりたい事もな。俺も先生を助けたい、だから助ける事を最優先にしてその後は全力で逃げるぞ。それでいいな、電気」
「あっああそれでいいぜ、やろうぜ進志!!」
「ああもうこれだから男って奴は……分かった、分かったよウチも協力するよ!!」
「これはもうやるしかありませんわね、では相澤先生を助けましょう!!」