覚悟の幽波紋   作:魔女っ子アルト姫

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先生を救え

「覚悟は良いか電気」

「ああっ何時でもいいぜ」

 

相澤を助けるという事を決めた進志と上鳴、その為に今まさに飛び出そうとしている。作戦は単純明快、相澤をあの脳みそヴィランから引き剥がし全力ダッシュで逃走。これ以外にない、単純だが難しい作戦。その為に逃走要員として百と耳郎は逃げる準備をして、入口の方向に待機しながら百が個性把握テストの時に使ったローラーブレードにバッテリーとエンジンを組み合わた物を創造し、装備してもらっている。

 

「この八百万特製の金属ロープも準備万端だ!!」

「よしっ……行くぞ!!!」

 

設置していたジッパー、それを戻す勢いを利用して勢いをつけて飛び出す二人。その表情に恐怖こそあるがそれを既に乗り越えている。そして上手く着地しながら相澤の元へと駆けだして行く最中、近くの水難ゾーンの端から出久、梅雨、峰田がいるのに気づいた。これは僥倖だ、相澤をさらに確実に助けられると進志は思いながら上鳴と共に疾駆する。

 

「おぉいコッチを見ろぉぉおおお!!!!」

 

その叫びに凄まじい速度で反応する脳みそヴィランはこちらに視線を向けるが、ほぼ同時にズームパンチを繰り出し相澤を抑えつけている腕にパンチを当てる。進志のジッパーはあらゆるものに付けられる、生物であろうと無機物であろうと。そうそれは自身で実証済みなのだから、ズームパンチを受けたヴィランの腕にジッパーが設置され一気に開く。それによって腕は分離され、相澤を動かせるようになった。

 

「ッ!!?」

「なっ腕が!?」

 

流石に腕が取れた事に動揺したのか脳みそヴィランの動きが鈍る、そして相澤を掴みながら伸ばした腕を一気に縮めながら跳躍する。戻ってきた相澤と共に腕を戻しながら彼を抱きかかえながら進志は叫ぶ。

 

「今だっやったれぇぇ電気ィィ!!!」

「おうよっ合点承知の助だぜ!!!」

 

共に疾駆した上鳴は脳みそヴィランへと百特製の吸着する素材を付けた金属製のロープを投げる、腕が取れた事に動揺しているのかまだ動かないそれへとロープは容易くかかった。そして上鳴は進志の近くに着地しながらそれを確認すると、息を深く吸いながら全力で叫んだ。

 

「食らいやがれってんだ!!」

 

放電後のリスクなど知った事かと言わんばかりに笑顔を作りながら上鳴は叫んだ、彼の個性は帯電。電気を操るのではなく纏うだけ。指向性などは皆無、だが纏うのであるならば簡単に指向性を生み出せる。通電性があるものを持てばそれにも電気は回り、それを相手に接触させれば相手にも電気は流れていく。

 

「出力MAX……超必殺サンダーボルトォ!!!!」

 

纏うは全力、加減を知らない全力全壊の大放電。たった一人が纏うそれは正しく雷、天から落ちる神の怒りと同等のそれがあふれ出している。それが地上より放たれ天へと昇る、雷撃を目の前の敵へと定める。

 

「ッッ……!!―――!!!」

「まだまだ、上げんぞゴラァァア!!!」

 

更に煌めく閃光が増していく、上鳴は生まれて初めて自分の全てを出し切ろうと思った。誰かを助けたいという尊い思いだけではない。自分の考えに賛同してくれたライバルの為でもある、後は全て彼に任せてある。ならば全力を出すと決めた自分のすべき事なんて分かり切ってるじゃないか、彼の負担を少しでも削る為にダメージをより多く、より深く与えられるように―――後先考えずに放電し切るだけ―――!!!

 

 

「す、凄いこれが上鳴君の全力!!?」

「放電で地面がなんか軽く抉れてね!?」

「上鳴ちゃんの個性って本当にすごいのね……!!」

 

水難ゾーンから様子を伺い、出来る事ならば相澤の援護をと考えていた三人は目の前で起こっている出来事を見て驚愕していた。まるで火山の噴火の如くあふれ出す電流が脳みそヴィランへと襲い掛かっている光景。上鳴の凄さの一端は戦闘訓練で知っているつもりであったが、それはあくまで脳がショートしないギリギリの範囲の話。後の事を全て進志に託している為に出せる全力は知る事などなかった。

 

「おい三人とも、動けるか」

「し、進志君!!相澤先生も!!」

 

大急ぎで自ら上がった三人は相澤の重傷を見た目を覆いたくなった、そんな中で相澤は激痛が走る身体で顔を上げながら言う。

 

「馬鹿が……なんで、来たんだ……!!」

「ヒーロー科に居る者だから、そして先生の教え子だからです」

「っ……大馬鹿だ、やっぱりお前は……」

 

進志を叱咤するが、何処か柔らかな声色になっている事に皆気付いていた。そして限界が来たのか相澤は意識を失ってしまった。その直後に上鳴からの放電も収まっていく。が、あまりの電気の放出量故か地面の一部は赤熱し煙が上がっていた。進志はすかさず百特製の絶縁素材の手袋を付けると腕を飛ばして上鳴を回収する。

 

「よくやったぞ上鳴、後は任せろ」

「……任せ、るぜ……」

 

彼としても本当の意味で限界を超えた大電撃だったのか、脳がショートするどころか意識を失ってしまった。それでも脈などは確りしているのでただ気絶してるだけと分かって出久たちは安心する。そんな中で進志は更に時間を稼ぐためにあることを決めながら腕を飛ばした。狙うのは―――脳みそヴィランの足!!

 

「先生の痛みを思い知れ!!」

 

見事に頭部に炸裂したズームパンチは見事にヴィランの両足と身体を分断して地面へと落とした。これであれは自分たちをそう簡単に追ってくることはできない、だが問題はまだある。敵のボスと思われるのがこちらを見ている。

 

「おいお前……なんてことしてくれるんだよ……?チートが!!!」

「チートに頼るとかガキか、誰かを攻撃するならせめて実力でやれ」

 

USJの戦いは、まだ終わらない。


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