「な、なぁ緑谷……傍立の奴大丈夫かなぁ……!?幾ら何でもあいつ一人であんな化け物に立ち向かうなんて無茶過ぎるぜ!?」
「でもそうしてでもと足止めしなきゃいけないって進志君は考えてるんだ、それに進志君にはきっと勝算があるんだと思うよ」
「やっぱり緑谷ちゃんもそう思うのね?」
出久、峰田、梅雨ちゃんの三人はそれぞれで相澤と上鳴を背負いながら進志が言ったいた通りに百と耳郎が待っているはずの方向へと動いていた。進志は確実に相澤と上鳴、そして三人が逃げられるようにする為に一人残って相澤の役目を引き継いだ。それは峰田の言う通り無謀な行動だと思うが、出久と梅雨ちゃんはそうとは思えなかった、普段から酷く冷静なうえに物事の先まで考える彼が何の勝算もなく勝負を挑む何てしない筈だ。
「あの脳みそヴィランは上鳴の全力放電を受けてかなりグロッキーだった、電気は小さくてもダメージを負う危険があるんだ。静電気でも痛いじゃない、それの比にならないほどの大電撃だからきっと進志君は倒せると確信してるんだ」
「ケロッそれだけじゃないと思うわ。傍立ちゃんの個性、多分あれは自分以外の生物にも付けられるのよ。だとしたら……」
「「相手を間違いなく無力化出来る」」
それを聞いて峰田も理解した。進志の個性であるジッパーを相手に設置した上でそれを完全に開いてしまえばその部分は完全に切断されたも同然。事実としてあの脳みそヴィランの両足は彼によって外されていた。あれに加えて両腕を外したら完全な達磨だ、勝機は十二分にある。
「それに進志君言ってたじゃない」
―――ここは任せろ、この目に誓って守る。
「きっと、勝つさ」
オールマイトに向けるのとはどこか違うベクトルの尊敬を彼に向けながら背負った相澤を支える為に腕に力を込めながら歩き続ける。
「おいお前……脳無に何をしやがった……?」
「何、とは返答に困る返答をするな。俺はそいつの両足を外しただけだ」
身体の彼方此方に手を付けているヴィランは表情を隠している手の奥から瞳を光らせながら、未だ視界の中で両足がジッパーによって外されたせいでまともに動けなくなっている脳無へと視線を向けた。両腕でなんとか身体を支えているが何度も地面に身体を叩きつけてしまっている。
「如何して脳無の足が戻らねぇ……!?ただ切断されただけなら問題はないはずなのに、どうしてあいつはいまだにあんな無様にもがいてやがる!!?」
「……成程、あいつは再生出来るのか。さあどう言う事……かなっ!!」
その眼前で再びズームパンチを繰り出してもがくヴィラン、脳無の腕へとパンチを命中させつつもその腕を外しつつもそれを掴み、一気に引き戻しながらそれを水難ゾーンへと投げ捨てるかのように放る。これで脳無とやらは無力化したに等しい。
「てめぇっ……!!」
「自分で考えろ、俺はお前に答えをやるなんて優しさなんて持ち合わせてないんでね」
不敵に笑いながら挑発するかのような態度の進志にハンドヴィラン、死柄木は強い苛立ちを覚え始めた。対平和の象徴として作られたあの脳無が容易く倒されただけではなくこいつは自分を馬鹿にしているのが彼の自尊心を著しく傷つけ焚きつけた。
「黒霧、お前は準備だけしてろ……あいつは俺が殺す!!!」
「し、死柄木弔!!?」
転移個性を持つ黒霧はその指示通りに一応の準備を進めながらも駆けだして行く死柄木を止めようとするが、彼に自分の声は届かずに進志へと向かっていく。優れた脚力で地面を蹴って疾駆する、そして腕を伸ばし進志へと掴みかかろうとするが進志はそれを受け流しながら拳を握る。
「お前っ気に入らねぇ……!!!いいからさっさと死ねぇっ!!」
「爆豪みたいだな、この場合はお前に似てる爆豪が問題なのか?」
そんなことを思いながら冷静に対処していく進志、だが数回それを繰り返していく中で奇妙な違和感を覚える。この死柄木は妙な程に自分を掴もうとしてくる。殴ろうとすれば間違いなく殴れたであろうタイミングをそうしてこない、まるでそうする事で自分の力を誇示出来ると思っている子供のような……そう思うとその両手に妙な圧力を感じる。
「ッッ!!!」
「あぶねっ!!!」
考え事の隙を突くかのような攻撃に掴み掛かられそうになるが、それを咄嗟に死柄木の腕を掴んで止める事に成功する。
「その手を、離せぇ……!!そうすればお前を今すぐにでも殺せるんだからよぉ!!」
「やっぱりな、お前は自分の両手に絶対的な自信を持ってやがる。つまりお前の個性は両手、いや手で発動するタイプの個性かっ!!」
ならばこの距離はまずいとスティッキィ・フィンガーズでがら空きになっている死柄木の腹部へとジョルトブローを叩き込む。それに死柄木は一瞬呼吸を忘れる、それと同時に手を離した事で吹き飛んでいく死柄木。それをフォローするかのように黒霧が霧を広げて死柄木を守るかのように展開する。
「ゴホゴホ……クソがぁ……何だってんだよ……!!」
「死柄木弔、彼はとんでもなくやばい!!脳無を無力化する時点で引くべきだったのです、今すぐに撤退を!!」
「クソッ……!!此処でゲームオーバー……けど、平和の象徴を必ず殺す……お前は俺の手で殺してやる……!!おい脳無、そいつを殺せ!!!」
黒霧の中に消えていく最中叫んだ言葉、それに反応するかの如く脳無は残った腕一本を軸にしながら立ち上がるようにしながら地面を殴るかのようにしながらこちらへと向かってきた。時間稼ぎという事なのだろう。だが未だ身体に上鳴から受けたダメージが大きく蓄積しているのか、動きは鈍く簡単に避ける事が出来る。
「電気に感謝しないとな……あいつに報いる為……そして、相澤先生の仇を討たせて貰うぜ。スティッキィ・フィンガーズ!!!」
再度、向かってくる脳無だがそれよりも早く懐に潜り込んだスティッキィ・フィンガーズが肩部分を思いっきり殴りつけた。設置されたジッパーは即座に開いて肩から脳無の腕を完全に切断してしまった、血を見たくないという思いで只の切断ではなくジッパーの中に別の空間を作り出すタイプで切断を行ったのだが正解だとは思わなかった。完全な達磨になった脳無を見下ろしながら進志は呟いた。
「……あっ水難ゾーンに沈めた腕、如何しよう……」
こうしてヴィランが行った雄英内施設、USJ襲撃は幕を下ろすのであった。
この後、百たちと合流した際、百に如何して作戦通りに直ぐ撤退しなかったのかと進志は説教されるのだが、それは別の話。