一佳に殴られた後無事に教室へと達する事が出来た進志、しかしかなり人目を引いていたからかクラス内からもそれについて知っている者がおり詳しく聞いて来ようとするものが多かった。まあいきなり女子生徒に殴られたと思ったら直ぐに仲良く教室に向かっているのだからどうしてそうなったのかは気になることだろう。と言っても同じクラスの皆にはUSJの事で心配をかけたから殴られたと伝えると直ぐに納得して貰えた。皆も他クラスの友人達から心配を寄せられたりしていたらしい。そんな事で話をしていたらHRになったので席に着くと、チャイムが鳴った直後に身体の一部に包帯を巻いた相澤が入ってくる。
「おはよう」
『相澤先生復帰はやっ!!?』
「大した怪我じゃない、婆さんが大袈裟だから包帯を巻いてるだけだ。気にするな」
そう言う相澤だが実際はリカバリーガールの治癒を施しても治癒しきれていない程の怪我を負っているのは違いない。そしてその怪我は進志と電気のコンビネーションで脳無から救出出来たからそれで済んでいるともいえる。相澤も内心ではそれを理解しているが生徒を危険に曝す教師がどこにいるんだと自罰的にいた。そんな自分を収めながらHRの連絡を行う。
「先日の件で色々言いたい事があるとは思うが残念ながらそんな暇はない。戦いはまだ終わっていないからな」
そんな言葉に思わず一同は身体に力を入れてしまう。先日のUSJでのヴィラン襲撃、それがまだ続いているのかと皆に緊張が走っていく。誰もが自分達に危機が及ぶのではと緊張感を持っていた、そして相澤の口から語られる言葉に―――
「雄英体育祭が迫っている」
『クソ学校っぽいの来たあああ!!!』
大声をあげて歓喜する。どうやら危険ではなかったらしい。これには進志も百も少なからず興奮していた。雄英の体育祭と言えば学校規模のイベントというわけではない一大イベントなのだから。
嘗て存在した世界規模のイベントであるオリンピック、がそれらは個性の出現によって廃れてしまい今は存在しない。故に今はヒーロー達が個人の技などを競ったりする物がそれらに代わっている、その中でも雄英の体育祭はそれらの中でも規模も内容も群を抜いている。それは全国規模で放送される訳でここで結果を残すか目立つかしてプロの目に留まれば、将来目指すヒーロー像への近道が生まれてくる。己の力をアピールするチャンスなのだ。
だからこそ、この雄英体育祭に向けられる熱意は内側からも外側からも並大抵のものではない
「しかし相澤先生、先日の事件のようながありましたがそれでも体育祭を開催しても宜しいのでしょうか?」
「飯田の疑問も理解出来る。だからこそだ、雄英の管理体制や屈しない姿勢を見せつけるいいチャンスでもある。勿論ヴィランを警戒して警備は例年の5倍以上、オールマイトも手が空いているプロヒーローに声をかけて警備に協力してくれている」
それらを聞いて皆安心感を持った。オールマイトが声をかけるヒーローともなればその実力は折り紙付きの筈、自分達は安心して体育祭に臨めるというものだ。早速今日の放課後から演習場を使って特訓を百、そして出久の練習相手にもなるつもりでいる。出久は出久で個性の出力調整と戦い方を覚えたいと頼み込んできたので了承した。百も相手が多いと特訓のバリエーションが増えるからいいですねっと快諾した。そしていよいよ放課後になったので演習場へと向かおうとするのだが……。
「な、なんじゃこりゃぁぁ!?」
何処か低い唸るような声で電気が驚いた。廊下には凄い数の生徒たちがA組の教室を覗いているのである。
「な、何これ……!?」
「まあヴィラン襲撃を味わった生徒を見に来た野次馬だろ」
「敵情視察というのもあるでしょうね」
「あっそういう事か」
出久も驚いていたがすぐに納得したような声を上げる。在学中にヴィランと遭遇して生き延びたという事はかなりの話題性となっている、故にA組はマークされているに等しい。そんな中、爆豪はンな事知るか、と言わんばかりの傍若無人な態度で生徒たちをかき分けて帰っていく。それを見てあれを見習うべきかと思う中で野次馬の中の生徒の一人が声を上げる。
「ふぅ~ん……あんなのがヒーロー科の生徒ねぇ……幻滅だな」
その生徒は爆豪を見ながらお前らもそんな感じかと挑発的に言葉を続ける、皆としてはあれと一緒にしないでっと言いたくなる。
「……ヒーロー科落ちた奴の中には、そのまま俺みたいに普通科に行った奴がいる。今度の体育祭の
「……へぇっ言うじゃねぇか」
その言葉に反応したのは意外な人物、進志だった。反応しないだろうなぁと思っていた人物の言葉にA組の皆は驚いた。そんな挑発的な態度を取る生徒の前へと歩み寄るとさらに挑発的に言葉を続ける。
「ヒーロー科に受かって、続けてヴィラン相手に無事に生き残って調子に乗ってますってか。どうだよその椅子の座り心地は」
「……おいてめぇ今なんつった?無事に生き残った、だと……?」
その言葉が進志を苛立たせた、無事に生き残った?あれのどこが無事に生き残っただ。運よく個性が通じただけの話だ、下手をすれば死んでいたかもしれない状況にいたものとしては聞き流せない。
「お前、ヒーロー科転入への志望はやめろ。人の命を甘く見るような奴にヒーローは務まらない」
「なんだと……?」
「一歩間違えれば俺たちは死んでいたかもしれない、そんな状況にいた。ヴィランは問答無用で俺たちを殺すつもりで来た、本気で怖がってたやつもいた。死ぬかもしれないって状況で必死に足掻いた奴だっている。それを無事に生き残っただぁっ?舐めてんじゃねぇぞてめぇ……」
殺す気で向かってくるヴィランに当然恐怖を覚えたものもいる、峰田がそうだ。この前まで中学生だった自分がどうしていきなりこんな場面にあるんだと泣いたりもした。それでも必死に頑張る出久や梅雨ちゃんが傍にいたから、勇気を出せた。そんな努力を踏みにじるような言動をする相手に獣が獲物を狩るかのような低い唸り声。廊下にいた生徒たちは皆威圧されているのか後ろに後ずさった、進志に向かっている生徒も同様だった。
「それにな、俺たちが無事だったのは相澤先生や13号先生が必死になって俺たちを守ろうとしてくれたからだ。それでも二人は怪我をした、それでも戦おうとした。俺たちを守ろうとしてな、そんな先生を侮辱するんじゃねぇ……!!!」
「―――……!!」
「ヒーローは常に命を危険に曝して、ヴィランと戦って誰かを守る存在だ。自ずと自分も傷つく、命を大切にする仕事。お前はそんな覚悟があんのか……こんな風に、こんな傷を負う覚悟が」
そういうと進志は片目にしていた眼帯を取って見せた、それを見た廊下の生徒達は言葉を失ってしまった。眼帯の下にある傷は進志が初めてヴィランと戦った際に出来た大きな傷。それによって彼は大きなものを失っている。眼帯を着け直しながら言う。
「俺達に宣戦布告するのは勝手だ。だけどな―――俺達はお前たちと決めているものが違う、それだけは理解しておくんだな。百に緑谷、早く行こうぜ。時間が惜しい」
「そうですわね、参りましょう」
「うっうんそうだね……」
そんな進志を先頭にしながら百と出久は教室から立ち去っていき、一歩歩くごとに割れていく生徒たちの間を進んでいく。そんな中で出久は聞いた、進志の眼帯の事を。
「あの、進志君……その眼帯の事だけど……」
「……昔ちょっとな、後で話すよ。いいよな百」
「はいっ大丈夫です」