「よし、これで準備はいい」
静かな部屋の中で扉に背を預けるように立ちながら進志は窓際に並べているペットボトルを見つめている。もはやそれは日常の一ページ同然となっている行為の姿、その手に持っているパチンコなどで使われる玉。それを手の中に仕込むかのように握りこみながらも静かに集中しながら
『アリィ!!』
同時にスタンド、スティッキィ・フィンガーズが指を弾いて玉を弾く。彼の手にあるのはスタンドの手の中にあるのと同じ。弾かれた球は次々とペットボトルに当たりはしたが目標の中心には程遠く、キャップ近くに当たって大きくそれを揺らして窓際から叩き落してしまう。
「……やっぱり難しいな」
スタンドを消しながら床に散らばってしまった玉とペットボトルを拾いながら愚痴る。彼が行っているのはスタンドの訓練、スタンドの操作性と精密さを身に着けようと行っている物。スタンドを生み出す矢によって生まれたネズミ、それを討ち取るために承太郎と仗助が用いた遠隔攻撃法を訓練として用いている。スター・プラチナに比べてクレイジー・ダイヤモンドは狙いをやや外していたが、自分はそれ以上に外している。
「流石に精密さがCじゃ中々に難しいな……まだまだ練習は必要だな」
そう思いながら拾ったものを専用の箱の中へと入れていきながらも命中したペットボトルの状態を確認する。命中した玉の跡、この部分を確認すればスタンドのパワーが上昇しているかのどうかの確認もできるようにもなっている。流石にまだまだ変化がない事を確認した進志は部屋にある鏡を見ながら自分の身なりを見た。
「本当に私服で大丈夫、なんだよな……?」
「全然大丈夫じゃないだろこれ……」
「大丈夫ですよ進志さん、皆さま私服ですわ」
「明らかに俺の常識にある私服と違う」
隣にいる百が自分の服装について大丈夫だと言葉を漏らしているが、進志は全く大丈夫ではなかった。一応今着ている服は両親が新しく買ってくれた物だが、それでもこの場には似つかわしくない。黒いジーンズに青いシャツに黒いジャケット、個人的には気に入っている組み合わせだが周囲は煌びやかなドレスやスーツなどで固められている大人たちばかりであった。どう見ても私服には見えない、パーティ用に拵えられたドレスコードにしか見えない。
傍立 進志は今、恩人であり友人である八百万 百の招待を受けて彼女の親戚が主催しているパーティへと参加しようとしていた。その会場へと向かう最中の列車内で彼は自分の場違いさを感じていた。冷静に考えれば解る事であった、百はかなり裕福な家の出でそんな彼女が招待されるパーティなのだから私服で行っていいようなものではない。そもそもパーティに私服で行く時点であれな気もしてきた。唯一の救いは、彼の服装が見ようによってはスーツ的なファッションに見えないこともないというところであった。
「というか百のそれも明らかに私服じゃありませんよね」
「そ、そうでしょうか?私はお母様とお買い物に行く時はこのような服装なのですが……」
「ドレス着て行く買い物とか明らかに高級店ですよね」
何処か遠い目で隣に立っている百へと視線を送る進志。そんな彼の視線を受けてこれは私服じゃないのだろうかと首をかしげているドレスを纏っている百に思わずため息が漏れる。
「でも進志さんの服もスーツ姿に見えますわよ?」
「かなり苦しいフォローな気もするけど礼を言っておくよ。というかこれ本当に会場に行く為の交通手段だよな、それなのになんで列車の中でもパーティが起きてるんですかね」
どうやら百のご親戚というのはとんでもない大富豪らしい。この超豪華列車も所有物であるらしい、もう本気で頭が痛くなってきた。今自分と百がいるこの個室の豪華さもとんでもなく、フカフカ過ぎるソファに気が休まらない。
「なんか、これから向かう親戚の豪邸でのパーティもとんでもない規模な気がしてきた……」
「そうご心配なさならなくても大丈夫ですわ。叔父様がお開きになられるパーティは小さい物ですから」
「それ、比較的って意味じゃないよな……?」
言い方は悪いが、百の言葉は真に受けずに自分の中にある常識で咀嚼しなおして理解して覚悟を決めていた方がいいのかもしれない。所用で遅れるので後で合流すると言っていた両親がここまで憎いと思った日もない。取り敢えず合流したら一言二言、何かを言っても許されることだろうから今の内に言う事を決めておこう。それは一旦置いて、進志は手の届かない位置にあったジュースをスタンドで手に収める。百からすればいきなりジュースが宙を舞って進志の手に収まったように見えた。
「なあ百、本当にこいつ見えないのか?」
「はい私には何も……ただジュースがいきなり宙を舞っているようにしか……。進志さんの言う
「そっか……まあ見えないならしょうがないか」
矢張りスタンドは見えない。両親の個性が遺伝した結果として生まれたスタンド、だがそれは自分以外の目に見えない。ではこれは個性ではないのだろうか、疑問は尽きないが考えても分からないことは考えても無駄なので進志は思考を放棄することにした。
「ちょっと手洗い行ってくるわ」
「それでしたら隣の車両に行くと直ぐにありますわ」
場所を教わりながらも隣の車両へと移ってトイレに入る。豪華列車らしくトイレも豪華な装飾品などが沢山あって何処か居心地の悪さを感じてしまいため息が漏れる。
「欠席すりゃ良かったかねぇ……でも百の誘いを断れる訳がないしなぁ……これも恩による弱みか……」
もう諦めていっそのこと貴重な体験になると思って、経験の為に頑張るかと思おうとした時だった。不意にこの車両にはどんな人たちがいるんだと気になって、ドアにある窓からそっと車両の中を覗き込んだ時の事だった。自分の目を疑った。
「お、おいおいなんだこりゃ……!?」
―――そこに見えていたのは何やら軍服のようなものを着用し、アサルトライフルと思われるものを向けている集団とそれによって車両の中央に集められている身綺麗な人達。そしてそこに一人だけ、タキシードを纏っている男が集団から離れた位置で軍服の者たちを従えるようにしながら葉巻に火を点けているのが見えた。そっと、耳を澄ませてみると男の声が聞こえてきた。
「黙れっつってんだよ!!一々大声出さねぇと理解出来ねぇほどに俺の親戚たちは能無しだったか!?いいか、てめぇらの生死はこの俺が握ってるのを忘れんなぁ!!既に俺の兵隊たちが前と後ろから列車を制圧してんだからなぁ!!」
「―――ッ……!!百っ……!!」
その時には、進志はそっと扉から離れながらも百の元へと向かっていた。この列車は、ヴィランによって制圧されかかっている……!!