覚悟の幽波紋   作:魔女っ子アルト姫

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嵐の前の静けさ

騎馬戦も無事に終了しその後は昼食を堪能したのちに全員参加レクリエーションが行われる事になった。体育祭らしい種目が行われていく、本戦の出場を得ている選手たちは任意での参加を選択可能で休むのもよし気分転換に参加するのもよしとされている。因みに進志は借り物競争にだけ参加した、その際に借りてくるものとして

 

「一番先に戻って来たのは進志君ね、それで借りてくる物として書いてあったのは?」

「はいっ俺の紙には『宝物』と書かれてました、それなのでこれを」

「これは……イヤホンとスピーカー?」

 

ゴール地点で待機して借り物が正しいかどうかを判断するミッドナイト、そんな彼に進志が差し出したのはBluetoothスピーカーとイヤホンであった。これが確かに本人が宝物だと言われれば確かにそう判定すべきなのだろうがそう思っているだけで実際は違うのではと思う、が一部を見てそれを改めた。そこにはマイクのサインがあったからだ。

 

「そういえば進志君はマイクの大ファンだったわね」

「はいっ俺が入学直後に先生からもらった大切なものです!!」

「よしっ許可します!」

「ッシャアア!!!」

 

とこんな一幕があったりもした。そんなこんなで遂にトーナメントが始まろうとしている、セメントスが自身の個性を使用して戦いの舞台となるステージを制作した。雄英体育祭の最後に相応しい闘技場が完成し、本戦出場者はそこで戦う自分を幻視しやや興奮してしまう。そこで行われるであろう激戦を想像して観戦を行うプロヒーロー達も興奮を抑えきれないようにしている、そしてそんな第一試合を飾るのは―――進志と焦凍の対戦カードであった。

 

「えっ~……いきなりあいつとかよ」

「第一試合が進志さんと轟さん……いきなりとんでもない事になりそうですわ」

「う、うん……凄い対戦カードだよね」

 

控室にて待機をしている進志に対して百と出久は心配そうな表情を向けながらも彼の反応をうかがっている。相手はあの焦凍、出力も桁外れな個性を備えその実力も身体能力も折り紙付きだ。その個性も氷と炎を生み出すという二面性を保持する。氷もビルを丸ごと凍結させるほどだと考えると炎も同等だと思われる。

 

「でも進志君としてはかなり相性悪い、よね……まともに戦ってくれるかも怪しいし」

「だろうなぁ……俺に対する恨みで開幕ぶっぱで俺を倒しに来るなんてことも考えられる」

「氷だけならば勝機はありますわね、氷をジッパーで排除出来ますし」

 

勝機があるとするならばジッパー設置が可能となる氷主体の攻撃の場合、逆に設置する事が出来ない炎では非常に相性が悪い。進志の相性のいい相手は肉体的な戦闘を行ってくれる個性を持つ相手、言うなれば出久や切島と言った個性の相手が一番しやすい、そういう意味では百も相性自体は良くはない。流石のスティッキィ・フィンガーズも氷を砕く事は出来ても炎を消す事は出来ない、出来たとしてもラッシュの風圧で一時的に弱める事ぐらいだろう。だが進志の表情に焦りは全く浮かんでいなかった。

 

「大丈夫だ、俺は負けないから」

「凄い自信だね進志君、何か根拠でもあるの?」

「あんな面白みのない奴に俺は倒せない」

 

そう絶対の自信をもって言う進志に対して出久は良く分からなかった。体育祭が始まる前に焦凍との間に生まれた因縁、進志曰く面白くない焦凍に自分は倒せないと語る意味が良く分からなかった。

 

「そうだな……出久、仮にお前が爆豪とトーナメントで戦うとしてその時はどんな気持ちで臨む?」

「えっか、かっちゃんと?えっと……かっちゃんはとっても強いし僕にとっても憧れでもあるから全力で挑むと思うよ、考えられるだけの対策と行動と気持ちを準備してかっちゃんに真正面から挑むよ。そうしないとかっちゃん怒りそうだし僕も失礼だと思うから」

 

出久の答えは進志としては100点満点な物だった、戦う相手に敬意を払いつつも全力を尽くして挑む。自分の全てを出し切ってやるという思いと負けないという思いを胸にして戦う、相手の事を考えている。彼らしくもあり正々堂々な考え方だ。百も概ね同じだと意見を返す中で進志は言う。

 

「あいつは俺を、いや俺達を見てない。全く別の所を見てやがるんだ、あいつに何があったのかは知れないけどな。そしてあいつは相手を舐めてる、全力を出す必要なんてない、自分の半分だけで勝ってやるって考えてる」

「確かに轟君は今まで氷しか使ってない……」

「それが進志さんが轟さんを嫌いという理由ですね」

 

戦う相手というのは自分を映す鏡でもある、そう語るヒーローが居た。だからこそ全力で戦うからこそ相手は全力で迎え撃ち、自らの全てを知れるのだと言っていた。だが焦凍の瞳は鏡を見ない、別の場所を見つめて己を見ない。自分の力から目を背けている、いや炎を避けている。

 

「つまり、轟君がガチで戦わないから嫌いって事なの?」

「簡潔に言うとまあそうなる……のかな。だから俺はあいつを全力で叩き潰してやるつもりだ、是が非でも炎を使わせてやる」

「本気ですわね進志さん」

「本気も本気。本気と書いてマジと読む」

 

()から目を背け続ける焦凍を全力で叩き潰すと決めた進志。己を臆病者と呼んだ事に怒りを覚える焦凍、二人のぶつかり合いが雄英体育祭最終種目、ガチバトルトーナメントの初戦で始まろうとしていた。


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