「オラァッ!!」
「ぐっ……ちぃぃ!!」
「……なんだよこれ」
誰が呟いた言葉に皆が賛同する、同意を並べて目の前の光景を呆然と見つづめ続けている。歓声を上げながら熱狂している者以上にそれに見入るようにしながら生み出されていく氷を切断しながら迫っていく少年を見据えて思う―――彼にとって轟 焦凍という存在の個性は相性が悪いと言わざるを得ない。氷を切断できるとは言え彼には炎がある、どのタイミングで出されるかわからない物にジッパーなど設置出来ない。出されたら終わりの状況が続く中で彼は恐れるという意志を見せることもなくただ、前へ前へと進み続けている。
「くそってめぇっ!!」
空気を切り裂く音、焦凍は生み出した氷を投げる。それが彼の頬を掠る、皮膚が裂けて血が滲み出すが文字通りの掠り傷に動じもしないどころかだから如何したと言わんばかり更に前へと出ながら腕を振るう。それを右腕で防御しながら進志の腕を凍結させるが、凍結してしまった腕をそのまま振るって焦凍を殴り飛ばした。
「ガッ……!?」
『轟吹っ飛んだぁあああ!!!というか傍立お前腕凍ってるけど大丈夫かぁぁああ!!?』
マイクの声が木霊する、私情からの言葉というよりも早く氷を何とかしないと凍傷で腕が腐ってしまう事もあり得るから心配している。だが進志が戸惑う事もなく無事な腕で氷を殴るとジッパーで氷が切断され全く無事な腕が姿を見せる。それらを振るって無事であることを見せつける進志に焦凍は歯ぎしりをする、お前の氷など意味がないと言っているかのような行為だ。
「銃弾の方がよっぽどいてぇ」
「……まるで、食らった事のあるみたいな言い方だなっ!!」
再度、焦凍から凄まじい冷気が放射されるかのように広がっていく。周囲を飲み込むかのように広がっていく氷河、それらはステージどころか周囲一帯を飲み込むように進志を取り込んでいく。
「無茶しやがって……!」
流石に焦っているのか空中へと飛び出した進志だが、即座に氷柱が飛び出して襲い掛かってくる。それらをジッパーで対処するがうち一本が肩へと刺さりそこから身体が凍結していく。即座に氷柱を切断するが左肩にかけて頭部の左目を覆うかのように氷が付いた。その一部を取り除きつつ、眼帯が完全に凍結してしまった事に苛立ちを覚えた。
「……くそが、百が作ってくれた眼帯がこれじゃあ使い物にならねぇじゃねえか」
「俺を舐めるからだ」
漸く一矢報いたとほくそ笑む焦凍、あれだけの事を言っていた奴を漸く凍らせる事が出来たと喜びを感じずにはいられない。元々眼帯をしていた理由は以前話していたような気もするが覚えていない、あれが死角ならば遠慮なくつくだけだと思っている中で進志は眼帯に手をかけてそれを放り投げた。地面に落ちると同時に今まで隠されて続けていた進志の左目があらわになり、焦凍は言葉を失った。
「お前……その顔は……傷は……」
「……そういえば緑谷以外に話した事はなかったか……」
以前事故でこうなったといった事、それは嘘だと述べる進志。そこにあったのは左目を両断するかのように入っている大きな傷跡、眉毛の辺りから頬の上あたりまで続いている傷は深く完全に彼の左目を潰していた。焦凍も顔にやけどを負っているがそれ以上の存在感を放っている。
「お前のその傷、なんで……」
左目の傷、それが語るのは進志のオリジン。誰かを本気で守ろうと覚悟した時に付けられた消える事の無い痕跡。
「俺は昔、一人の女の子を守ろうとしてこの傷を負った。左目は完全に潰れ視力は失われた、だが後悔なんて一ミリもしない。あいつの笑顔が守れただけで俺は満足だったからな」
左目の傷に触れながら進志は微笑む、もう戻る事ない視力などよりも彼女がまた笑ってくれる事の方が自分にとっては価値がある。ただそれだけの事でしかない。
「それとお前もう負けてるぞ」
「んだと……?」
「あんだけ氷を発生し続けてんだ、随分冷えてるんじゃねぇのか。お前の身体」
その言葉に焦凍は軽く息を飲んだ、左側である炎を全く使っていない焦凍。炎か氷を片方だけ長時間使用すると体温に影響が出てきてしまう。体温が高すぎても低くなりすぎて影響は酷く大きい、既に身体は震えて悴み始めている。あんな身体ではもう素早い動きは出来なくなってくるだろう、だがそれは焦凍が使わないことに執着している炎を使えば氷を溶かす事が出来る。自分の力でデメリットを完全に打ち消す事が出来る、正しく強個性。
「お前が全力を出すのであればそんな事はない、それだけ舐めてるって事だよな……この体育祭に参加している皆をっ……!!」
「っ……!!」
「お前が全力を出さないのは勝手だ、個人の自由ってやつだ。だがな―――ここに立つ為に全力を尽くした奴らを否定する事だけはすんじゃねぇぞぉ!!!!」
怒りのままに咆哮が上がる、進志が最も怒りを感じるのは彼が全力を出さないからではない。体育祭はヒーローになる為の夢の過程において重要な意味を成す、自らの実力を見せつけアピールする為。ヒーローに見初められる為には此処で全力を出して自分の全てを見てもらうのが一番、そんな中で焦凍がやっているのは個人的な理由で炎を使いたがらない。それは他を否定する事につながる。
「俺、は……右だけで№1になる……それに意味がある……!!それが、あのくそ親父を否定することになる……!!」
「そんな意味なんて捨てろ、お前がやってるのは炎を恐れてるだけだ。本気で№1になってあのエンデヴァーを完全に否定する気なら―――てめぇの個性を完璧に支配してあいつを完膚なきまでに超えてみせろぉ!!!てめぇが自分の力を、個性を使って完全にあの炎野郎を超えて見せろぉおお!!!」
―――いいのよ。お前は……なりたい自分に、なっていいのよ。
「母さん……」
―――血に囚われることなんてない。なりたい
―――熱いものがこみあげてくる、身体の内側からあらゆるものを燃やし尽くす熱が生まれてくる。忌避していた熱が今、噴火する。正に火山の噴火と見間違えるほどの炎が焦凍から巻き起こっていく、最早爆風と遜色ない熱風を巻き起こしながら焦凍は熱い瞳を燃やしながら進志と相対していた。
「俺が凍ってる間に、倒せばいいのによ……如何してンな事言ってんだ……!!」
「良い顔になったじゃねぇか、その顔嫌いじゃないぜ」
「悪い傍立、お前の言う通りだ。俺は―――皆を馬鹿にしてた、だからこっからは本気で行くッ……!!」
軽く笑いながら言った、今の焦凍は非常にいい顔をしている。自分に素直になっている酷く好戦的で今すぐにでも自分を叩きのめしたいというのが伝わる表情。満面の笑みを浮かべながら炎を氷を纏っている姿は素直に美しいとさえ思える。
「焦凍ォオオオ!!!」
そして、それを喜ぶ者がいる、エンデヴァー。反抗期故に頑なに氷だけに固執していた自慢の息子が炎を使うようになった。その事に、歓喜が止まらない。本質を理解せぬままに感情のままに言葉を発する。
「やっと受け入れたか、そうだいいぞ!!これからだ、俺の血を持って俺を超えて行き……俺の野望をお前が果たせ!!」
「ッ―――うるせえええっっっ!!!!」
エンデヴァーの声を受けてさらに莫大な炎を出しながら焦凍は叫んだ、明確すぎるほどの拒絶な言葉をはしながら右側で地面を凍結させながら爆炎を纏う姿に誰もが言葉を失った。
「うるせぇんだよお前の野望なんか知るか!!!てめぇの野望はてめぇで叶えやがれくそ親父!!!!」
「しょ、焦凍、お前……!」
聞いた事の無いような声に思わず
「悪い、変なとこ見せたな」
「気にするな。後俺もお前に謝るべきなのかもしれないな、俺もこれからガチの全力で行く―――だからお前にも見せる、その方がフェアだからな」
それは唐突に表れた、進志の隣に立つかのように浮遊するそれは拳を握ったまま静かに鎮座していた。
「それがお前の個性、本来のデザインか……?」
「ああっ俺の個性はジッパーっていうのがある意味間違いだ。俺の個性は"
「……光栄だな、なら俺も全力でお前を倒すぞ!!」
「ああっやってみろ焦凍ォ!!」
「ああっやってやるさ進志ィ!!」