「やれやれ、お前さんと会う時は決まって怪我してる気がするねぇ」
「まあ以前お会いした時は病院でしたしね、今回もお願いしますリカバリーガール」
初戦を終えた進志は焦凍と共に医務室を訪れていた。焦凍も進志との戦いでそれなりにけがをしているのでその治癒をしてもらう為、進志は氷柱が刺さった肩を治してもらう為だ。
「それで傷はどんな具合だい?」
「今はジッパーで閉じて止血してます、このまま放置してても治るでしょうけど時間がかかります」
「ふぅむ……軽度の凍傷だね、大丈夫軽く治癒を掛ければ直ぐに治るさ。それにアンタは体力が有り余ってるから大治癒しても問題ないだろうけどね」
そういわれると肩をすくめる進志。確かにスタンドを完全にコントロール出来るようになってからは何処か体力が上がっているような気もするしスタンドを鍛えれば鍛えるほどに、それに比例するように力がついているようにも思える。精神が身体を引っ張っているといった感じだろうか、それでも限度は存在するが。
「お前のジッパーって傷の治療も出来るのか、便利だな」
「元々ジッパーは何かを閉じたり開けたりするもんだからな、それで傷を閉じただけで治ってない。言うなれば傷を縫っただけだ」
「それじゃあ治癒するよ」
「お願いしま~す」
と治癒を施される進志に焦凍は素直に尊敬を抱いた。正直な事を言えば個性の使い方で言えば進志は相当先を行っている事は間違いない、あのスタンドと呼んでいる幽霊のような存在にしてもそう。感覚的なのか念じて動かしているのかは分からないが自分もあそこまで激しく動きながらもう一つの存在を操作するなんて事は早々出来ない。両手で別々の事を書きだしながら目の前の授業の内容を暗記しているようなものだろうか。
「進志、お前個性の訓練は如何やってたんだ」
「そうだな……ジグソーパズルとかバイオリンをスタンドとやったりとかかな、それを何年もずっと。まあ継続は力なりってやつだ」
「成程」
それを聞いて焦凍も素直に納得した、自分も氷の扱いに長けているのはそれまで父親の炎のようで使うのがとてつもなく嫌だったからずっと母親と同じ氷ばかり使ってきた。だからこそ氷は自在に扱えるが炎の出力の調整ははっきり言ってお粗末も良い所、これからはそちらの訓練もするべきなのかもしれないと思いつつも左手を見つめる。自分は自然と炎の訓練をしなければと思った、あれだけ使うのが嫌だった炎を使いこなそうと思った。随分と、自分が変わっている気がしてきた。
「……」
「焦凍、お前随分と憑き物が落ちた顔してんな」
「そうか、鏡なんて見ないからわからねぇな」
「本当にいい顔をしてるよアンタ、ほら見てごらんよ」
と手鏡を渡してくるリカバリーガール、ぎこちなく受け取りつつも喉を鳴らしながらそれをそっと覗き込んだ。そこには確かに火傷の跡がありあまり見たくない顔があるが、自分の表情は何処かすっきりとしていて以前よりも明るくなっているような印象を自分でも受ける、思わずそれに驚いてしまう。
「これが、俺なの、か……洗面所の鏡だって見てなかったのになんか、違うって感じがする……」
「それは自分で分かる位に変化を実感してるんだよ、それを感じられた時は一気に成長するもんだよ。アタシが保証してあげるよ」
「成長……」
何度も手を握っては開くを繰り返しながらも軽く両手だけで氷と炎を出してみる。手のひらサイズの氷と炎、それらが出てくる。この位なら容易い事なのだがそれでも何かが違う事を感じているのがわかる、何か今まで以上にスムーズに出来ているような感覚がある。
「……何かが違うな、今すぐにでも演習場で試してぇ……出せるだけの炎を出してみてぇ……!!」
「それなら何時でも出来るはずだよ。それよりもアンタはこれからやるであろう試合を見ないといけないだろう?」
「……確かにそうですね、進志。勝てよ」
「おうよ」
笑いながら進志は拳を突き出した、焦凍はどういう事か分からなそうにする。が、進志がんっ……といいつつ拳を突き出すのを見てようやく悟ったのか、自分も拳を突き出した。左腕の拳で進志の拳を突いた。
「焦凍、お前腹減ってねえか。ステージの修復まで時間かかるだろうし、飯でも買って観客席に行こうぜ」
「分かった。ソバってあるのか?」
「流石にそれは如何なんだ、焼きそばならあると思うけど……」
そう言いながら治療を終わった肩を回しながら去っていく進志と焦凍にリカバリーガールが笑みを零しながら窓の外から見える景色を見つめた。過去を懐かしむようにしながら次にやってくるかもしれない怪我人に備えて準備を始めるのであった。
「いい青春だねぇ……アタシにもあんな風な事が出来た時もあったねぇ……」
「……何の用だよ親父」
進志と共に廊下を進んでいた焦凍を待ち受けていたのは父親だった、進志に先に行っていてくれというその場に残った。進志はそれを受けて先へと進んでいく、それを見送りながら父と向かい合った。
「敗北したとはいえ遂に炎を受け入れたな、これでお前は俺の完全な上位互換となった!」
「ああそうだな」
エンデヴァーは笑いを浮かべつつも言葉を紡いでいく中で驚きを感じる、あの反抗的だった息子が素直に自分の言葉を受け入れたのだから。やはり進志に驕り高ぶったものを壊してくれと頼んだのは正解だったとほくそ笑みながらこれで自分の野望がかなうと思いながら手を伸ばす。
「卒業後は俺の下に来い、覇道を歩ませてやろう!」
「覇道、ンなもん興味ねぇ。俺は俺がなりたいヒーローになるだけだ、覇道は自分で勝手に歩け」
「ッ―――」
再び反抗的な態度……いや、そこにあったのは冷えた瞳だった。自分に対して呆れを持っている焦凍の瞳。
「親父一つ聞かせろよ。仮に俺がオールマイトを超えるヒーローになったとしてアンタはそれで満足なのかよ」
「―――ああっ満足に決まっている、俺が超えられなかった奴を我が子が超えるんだからな!!」
「……ああっそっか、親父はオールマイトを超えたいんじゃなくて否定したいだけなんだな」
言っている言葉が分からなかった、ただひたすらに掲げて走っていた事を全て否定されたような気持ちだった。たった一人でNo.1ヒーローとして君臨していたオールマイトの背を追い続けてきた自分の全てが。
「なっ……にっを……?」
「今の親父の顔はヒーローじゃない、ただのオールマイトアンチだ」
そう言い残すと焦凍は呆然とする父親を無視して去っていく、ただ一人残されたエンデヴァーは両手を見つめながら立ち尽くしていた。炎の個性がある己が震える姿を見つめながら。
「違う俺は、あいつを超えたい……オールマイトよりも先の……」
「わりぃ待たせた」
「気にしてねぇよ。それよりも親父さんとの話は終わったのか?」
「ああっなんかすっきりした」
「ははっそっか、んじゃ飯買いに行こうぜ」