覚悟の幽波紋   作:魔女っ子アルト姫

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覚悟の初陣

「し、進志さん!?どうしたのですかそんなに慌てて……」

「しっ静かにするんだ百……」

 

トイレから戻ってきた進志が血相を変えてあわてて戻ってきたのを見て驚きを隠せない百、そんな彼女に静かにするように言うと進志は百に対して今の状況を説明することにした。

 

「百、落ち着いて聞いてくれ。隣の車両にいる人達がヴィランだと思われる奴に拘束されてる。しかもそのヴィランは凄い数の部下を連れている、かなり計画的な犯行だ」

「そ、そんなっ……!?では他の皆様は人質に!?」

「ああっ。前と後ろの車両から順々に制圧しているって言っていた」

 

今いる自分たちがいる車両は丁度真ん中に位置する車両、それが幸いしているのか恐らくヴィランたちがやってくるのは一番最後だと推測出来る。だが主犯格だと思われるヴィランは隣の車両にいる、もうじきここにもやって来てしまう。一体どんな目的があるのかわからないが、何とかしなければならない。

 

「百、ヒーローに対する救難要請を出したとしてヒーローがここに来るまでどのぐらいかかると思う」

「この列車は走り続けておりますし、近場のヒーローがいたとしてもかなり時間がかかると思います……」

「なんとかそれまで凌ぐしかないのか……」

「と、ともかく要請を出しますわね!」

 

百は持っていた携帯から手早くヒーローへの救難要請を発信する。八百万家と親交があるヒーローに対する救難要請なので恐らく確実に来てくれるという確信はあるが、問題はそれまでの時間をどうやって凌ぐかという事だった。

 

「いかがしましょう……どこかに隠れるといってもこの部屋に隠れられる場所なんて……」

 

この部屋は豪華な装飾やソファなどなどはあるが、子供二人が隠れられるスペースというものはあいにく存在しない。ソファの影などに隠れたとしてもあれらは確実に徹底的に捜索を行うだろうし、隠れる事なんて無意味。いや隠れるという選択は取れる。自分のスタンドはそれが出来る。

 

「大丈夫だ、俺が何とかする」

「な、なんとかと言われましても……」

「開けっジッパー!!」

 

スティッキィ・フィンガーズが壁を殴りつけた。それによって生み出されるジッパー、少し開かれているジッパーの口の先にあったのは隣の個室などではなく全く別の不思議な空間が広がっている。これもスタンドの能力、只ジッパーを取り付けるだけではない。

 

「こ、これは……!?」

「俺のジッパーの開閉は2種類に分けられるんだ。単純にジッパーで開閉(切断or接続)が出来るようにしたものとジッパー先の物体内部に空間を作り出す。これなら何とか隠れる事が出来る」

 

驚く百だったが同時に希望も持つ事が出来た。これならば確かに隠れる事が出来るしこんな力があるなんて相手は思う事はないだろう。余りにも特殊過ぎる個性故に想像すら出来ない。

 

「さあ百、少し狭いだろうがこの中に入るんだ」

「はいっ……!」

 

これなら隠れ続ける事が出来る、ヒーローが来るまでなんとかなると思いながらジッパー内の空間へと身を入れていく。空間は少し肌寒いがそれだけで全く問題はない。そしてすっぽりと身体を収める事が出来ると振り向いて今度は進志だと手を伸ばすが、進志はそっとジッパーを閉め始めた。

 

「悪いな百。俺の能力は一度にまだ一人分が入るジッパーしか開けられないんだ。だから俺は一旦ジッパーを閉めて、新しくつけたジッパーの先にいる。一人になるだろうけど我慢してくれるか」

「し、進志さん……。だ、大丈夫です、私は大丈夫ですわ!!だから、あとでお会いしましょうね」

「ああっ。一応言っておくけど、ジッパーは中からも開ける事は出来るが、絶対に開けようとするなよ。それと声も上げちゃだめだ、外に聞こえる恐れがある。お口にチャックだ、ジッパーなだけにな」

 

軽くウィンクをすると百は少し吹き出しながらも微笑んで頷いた。それを見つめると進志はそっとジッパーを閉めるとその前にソファを移動させた。そして―――小さく、彼女に嘘を吐いた事を謝った。

 

「大丈夫だ百。お前は俺が守るから、そこにいてくれ」

 

聞こえないように静かに呟いた言葉は彼女に対する謝罪と誓いの言葉。覚悟を固めた言葉、彼のスタンドであるスティッキィ・フィンガーズには限界が存在している。それはジッパーを一定量設置してしまうとそれ以上使えなくなってしまうという物。その限界量は人間一人が入れる大きさのジッパー、つまり百を隠れさせた時点で彼はジッパーを新たに設置出来なくなってしまっている。その直後、部屋の扉の前に影のようなものが見えてきた。同時に進志は立ち上がりながら震えている腕を胸に当てながら深呼吸をする。同時にスティッキィ・フィンガーズがこちらを見つめてくる。何かを問いかけているかのように、それに対する答えは決まっている。

 

「―――覚悟を決めた」

 

勢いよく開け放たれる扉、中へと入ってくる軍服を纏った仮面を付けているかのような者たちが数名入ってくる。アサルトライフルを向けながら床に伏せろと言いたげなようにサインを送ってくるが、進志は全く動じない。何時までも伏せない進志にライフルの銃口を押し付ける、がその時―――

 

『アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリィ!!!』

 

スティッキィ・フィンガーズが唸りを上げた。常人よりも優れたスピードで軍服の連中の顔面や首などを重点的に狙ったラッシュが奔った。たとえ人並みの正確性だとしても相手の頭部や首を狙ってパンチを打つぐらい造作もない。そしてラッシュを受けたそれらは壁へと叩きつけられると、煙のような物を身体から放出して消えていった。

 

「こいつら……個性によるものか。成程、ならば俺の兵隊たちってのはそういう事か……」

 

更に矢張りスタンドは見えていない、見えないものから攻撃。これはかなりのアドバンテージに成り得る、胸に灯った希望を更に大きく燃え上がらせる為に一歩前に出た進志、覚悟をもって立ち向かう。

 

「―――おいおいおい、4体消えたと思ったらこんな餓鬼が俺のアーミーを倒したのか」

 

開いている扉からこちらを覗き込むかのようにしている男、先程見たタキシードの男は葉巻を咥えたまま不敵な笑みを浮かべたまま進志を睨みつける。

 

「おい餓鬼、てめぇ何者だ。俺の親戚にてめぇなんざぁいなかった筈だが」

「奇遇だな。俺もてめぇみたいな奴を親戚に持った覚えなんざねぇよ」


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