「一佳さんと進志君の対決かぁ……如何なるだろう」
「なんだよ緑谷、進志が負けるとでも思ってるのか?」
「そういう訳じゃないよ上鳴君」
観客席では出久が始まる試合の事についての思案を巡らせている中でどのような試合内容になるのかを気になっていた。しかしそれが進志が負けると思っていると思われたのか、電気から怪訝そうな声が届く。彼はUSJで進志と共に脳無を討ち取る立役者達、その相方たる進志が負けるわけがないと頑なに電気は思っているようだ。当然出久も進志がそう簡単に負けるなどとは考えてはいない。個性の使い方のヒントをくれたこともあるので応援したいとも思っている。
「だけど拳藤さんの個性は相当強いよ、それに使い方も心得ている」
「うん。俺もそれにやられてるからその凄さは分かる……しかも個性発動から効果が出るまでのタイムラグが凄い短いんだ」
尾白の語る通りに一佳の"大拳"は恐るべきパワーを持つだけではない。攻撃の最中に差し込めるレベルで個性を発動させて、攻撃する事が可能になっているほどに鍛えられている。つまり接近戦を仕掛ける事自体が愚策と言えてしまうほどの強さを発揮する。
「でも進志なら負けねぇよ!!あいつにはあのなんだっけ……そう、スタンドがあるんだぜ!!」
「うんっ進志君にはスティッキィ・フィンガーズがいる。あの攻撃速度にジッパー、それらがある事を考えると進志君は大きなアドバンテージを持ってる」
対する進志、彼には他の個性とは一線を画す。一番近いのは常闇だろうがそれでも明らかに違うと誰もが理解する。可視化不可視化が完全に自由なうえに凄まじいパワーとスピードを併せ持つ、そしてジッパーを設置する能力というこれが本当に一つの個性が持てるだけの力なのかと疑いたくなるようなものだ。
「でもそれは拳藤さんも知ってる……だから、勝負が長引くなんて事はあり得ない……」
「ええっ私もそう思いますわ」
それを百も肯定した、恐らく出久と彼女が二人の強さを最も知っている存在。進志のスタンドという個性の強さと一佳の大拳の屈強さの両方を知っている。
「決めるとしたら、直ぐ……」
「長引けば互いに不利になる、だから二人が取るのは―――」
「「速攻、それだけ」」
ステージ上の二人、進志と一佳は一切視線をずらさずにぶつけ合っている。宛ら長年のライバル同士の激突、目をそらしただけで勝敗が決するかのような雰囲気に流石のマイクも茶化すことをしない。間もなく始まろうとする中で互いは全く同じタイミングで腰を落としながら、足に力を込めている。そして―――遂に封が切られた時に飛び出すのは
「やぁぁぁっっ!!!」
「スティッキィ・フィンガーズ!!!」
巨大化した右手と出現したスティッキィ・フィンガーズの拳がぶつかり合う。大きさの観点からいえば一佳の圧勝、その手の大きさは進志どころかオールマイトすら覆い尽くせるであろうの巨大さ。そして握力が織りなす破壊力は凄まじい物だろう、だがそれに対するスティッキィ・フィンガーズとて全く引けを取らない。
「ぐぅぅっっ!!」
「アァァアアア!!!!」
ジリジリと押されていくのを感じる一佳、以前よりも強化されている大拳の一撃を押し込んでくる進志の個性。彼も当然ながら成長し続けている、自分だけが強くなっている訳ではないと思い知らされながらも口角を上げると、思いっきり息を吸い込んだ。すると―――
「ふんっ!!」
彼女の右手が更に巨大となった、それは正に巨人の腕。"巨大化"の個性を持つMt.レディというヒーローが居る、そんな彼女もこの雄英体育祭の警備として参加をしているのだが、巨大化した彼女並の拳を作り出していた。一佳の個性"大拳"、一佳はこれの更なる応用を考えた時、巨大化を片方の腕に集中させる事が出来たら凄いのではないかと考え付いた。それが今の巨大すぎる拳。
「
ステージを根こそぎ破壊尽くさん一撃、余りにも巨大すぎる上に流石のスティッキィ・フィンガーズでもそれを抑え込む事は出来ない。全力で押し返そうとしてもビクともせずに地面を抉りながら迫るそれに進志は危機感を通り過ぎて死の予感すら覚えた。これを受けたら完全な一撃で
『アリアリアリアリアリアリアリアリアリィィィ!!!!!』
必死の抵抗といわんばかりのラッシュを放っていくスティッキィ・フィンガーズ、しかし巨人の拳に流石のスティッキィ・フィンガーズのラッシュでも全く歯が立たない。そして余りにも巨大すぎる故にジッパーの設置も間に合わない上に設置したところで開ききるまでに時間がかかりすぎてどちらにしろ自分がアウトになるという事実がある。
「いけぇぇぇえええ!!!!」
「マジかよっ……!!?」
拳に飲み込まれるかのように進志は消える、拳を必死に振るっていた一佳は腕を伸ばし切った。そして肩で息をしながら勝ったのかと静かに思う、同時に凄まじい疲労感が身体を突き抜けていく。正しく巨人の拳を体現した状態だがそれを振るうには彼女の体格はあまりにも足りていない。そして片手にだけ個性を集中させた事で、右手にも激しい痛みが走っている。その痛みに顔を歪めながら個性を解除して、自分の攻撃の跡を見る。そこにあるのは深くまで抉られてステージの姿、これが自分でやったのかと僅かな陶酔感に酔いそうになる中で意識が戻る。
「―――進志……?」
彼が居ない、彼の姿がない。場外になった?いや、それどころかミッドナイトも目を凝らして探しているようにも思える。一体何がどうなっているのかと思っている中で抉られているステージにジッパーが出現して、それが開かれていく。そしてそこからは幼馴染が姿を現した。
「危なかった……あと少しでも判断が遅れてたら確実に場外でKOされてたな……」
「アンタ、どうやって……」
躱したんだと言いたいのに言葉が出ない、疲労か驚きからか言葉が上手く出ない。理解はしている、きっと直撃の寸前でジッパーを設置してその中に逃れた。それしかない。驚きというよりも……嬉しかった、やっぱり進志は簡単には超えられないという事実が自分に嬉しさを齎していた。
「やっぱり凄いよ、アンタ」
「そりゃおめぇだろ。なんだあの攻撃、どんな状況で撃つんだよ」
「そりゃでっかいヴィランに決まって―――」
不意に、世界が回った。ぐるりと回っていく世界の中で意識が薄くなるのを感じる、そしてある地点で世界が止まる。進志が自分を優しく受け止めていた。
「お前、あれ相当身体に負担がかかるんだろ。無理はするなよ、あれだけ出来るんだったら十分だ」
「……やっぱりアンタは、変わらないね……」
―――流石、アタシの憧れる人……。
そのまま一佳は意識を手放してしまった、それを確認したミッドナイトは進志の勝利を宣言する。