覚悟の幽波紋   作:魔女っ子アルト姫

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大きな差と向上

「ぐっ!!うわぁっ!!?」

「まだまだ、行きますわよぉ!!」

 

進志と一佳の対戦で大幅に壊れてしまったステージの修復もようやく終わって今は出久対百の対決が行われている。だが対決は想像以上に一方的な展開が広げられている、出久は善戦している。素早いスピードに強弱をつけた動きで滑らか且つ小回りの利いた動きをする。飯田との戦いで良いヒントを得られたのだろう、だがそれすらを軽々と飛び越えるのが特待生である八百万 百という女である。

 

「くっ槍っていうのが此処まで厄介なんて……!」

「八百万流槍術は伊達ではございませんわ」

 

八百万家の人脈の幅は幅広い、様々な世界に通じているだけではなく家の人間にはそれに精通する猛者が多くいる。彼女の両親もそうだが今回は槍を習ったのは彼女の叔父、八百万流槍術の開祖に鍛えこまれた槍の腕前は伊達ではない。

 

ただ槍の速度が速いだけではない、打ち込まれると思いきや槍が突如軌道を変える。そして次の瞬間には百の肩からジャージを突き破って更なる槍が飛び出して襲い掛かってくる。それを構えて折れる上等の物量作戦のような槍の嵐が襲い掛かってくる。それらを防御して弾いたとしても新たな槍が生み出されて襲い掛かってくる、ハッキリ言ってキリが無い。

 

「やぁっ!!」

「うわぁっ!!?」

 

槍の動きに集中していると今度は蹴りが飛んでくる。バク転で回避しようとするが今度は足首の少し上あたりから棒が飛び出して腹を捉える。思わず息を吐きだすが即座に槍の薙ぎ払いがわき腹を捉えて自分を吹き飛ばした。

 

「ぐっ……創造、なんてとんでもない個性なんだ……!!」

 

創造。相手にするうえで厄介な個性だと思ってはいたが改めてそれが想像以上だったと思い知らされる。相手に対して完璧なメタを張る事が可能だと出久は思っていた。だからこそ彼女に最も有効な対抗策が速攻だと思い、全力で向かって行った。だがそれらをあっさりと受け流したうえで完璧なカウンターを決められてしまった。

 

「あの日、私は我が身の弱さを呪った。しかしその呪いは私に祝いをくれました、進志さんの隣に立つ力をくれたのですから。私の槍を立てるのは一つの思いのみ、さあ緑谷さん―――貴方は私の槍を倒す事が出来ますか」

「―――ッッッ!!」

 

その時、凄まじい重圧(プレッシャー)を受けた。全身が怯えを発散させている、策もないのに震えている、何故震えているのかさえも理解出来ない。全身を突き抜ける恐怖に委縮している、対策を考えたそれだけでは到底足りなかった。覚悟が、違う……。彼女を支えているのは一重に―――進志への思いだろう。彼女と進志の間には何物をも凌駕する固い絆がある、それに支えられている彼女は強い。

 

「僕っだって負けない……!!決めたんだ、僕だって……!!」

 

しかし出久も必死に身体を引き起こしながら叫ぶ。彼とてこの舞台に遊びに来たわけではないのだ、自分が来たと高らかに宣言するためにやって来たのだ。それをこんなところで終わらせたくない、彼女の思いに負けないように自分だって歯を食いしばって立ち向かってやるという反骨心にも似た何かで身体を奮い立たせながら構えを取る。

 

「(もう出し惜しみとか次の試合の事とか考えてる暇なんてない……!!全力で決めるっ……!!)」

 

体重を掛けながら腕に力を込めていく、込められて行く力は限界を超えていく。それを放てば身体が深く傷つくこと間違いないだろう、それで力を込めるのをやめない。それは何故か、勝つにはそれしかないという強い確信があったからだ。がっ

 

「全力を出されるのは素晴らしいと思いますわ、ですが相手に隙をさらしてまでされるのはいただけませんわね」

「うわぁっ!?」

 

その時、瞬時に目の前まで移動した百によって軽く足払いされて地面へと身体を沈めた。そして即座に足に鞭のようなロープを巻き付けられるとそのままジャイアントスイングの要領で投げ飛ばされてしまい、場外へと投げられてしまった。

 

「DELAWARE SMASH!!!」

 

指を弾いて空中での制動を試みる、だが彼にとっては未だやった事もない試み。それ故にでたらめな方向へと空気を弾いてしまい身体が不安定になってしまい、そのまま地面へと叩きつけられた。急いで顔を上げるが、身体が場外へと出てしまっていた。それにミッドナイトが判定を下し出久は敗北を認めざるを得なかった。

 

「緑谷さん、本当に素晴らしかったですわ。今度は空中制動の訓練もメニューに入れましょう」

「あはははっそういわれるとちょっと辛いですね、最後のあれカッコ悪かったからそうしないとダメですよね」

 

と挨拶を終えると出久は出場ゲートへと向かっていく。そして廊下を進んでいき周囲に誰もいないのを確認すると溜息とともに拳を壁に叩きつけた。

 

「緑谷少年、よく頑張った」

「ッ!」

 

突然の言葉に顔を上げて声の元へと顔を向けると、そこにはガリガリに痩せていて骸骨のような印象すら与えるような風貌をしている男が居た。しかしその姿を見ると出久はそちらへと向き直った。頑張った、その言葉には苦々しい表情を浮かべながら思っていた言葉をぶちまけた。

 

「僕は……完全に負けました……。八百万さんには何よりも譲れないものと倒れない意志がある、それに比べたら僕なんて……ちっぽけで弱い存在なんだって思い知らされました……」

「八百万を支えるもの、傍立少年との事だね?」

「はいっ彼女と進志君の間にはとても大きな絆がある……」

 

男は進志と百の事もしっかりと知っている。彼がヴィランを撃破しその代償として片目を失ったことも、百が彼の隣に立つ為に強くなろうと決心した事も知っている。二人とも並の覚悟の決め方ではない、普通の少年少女が出来るものでは到底ない。今のプロヒーローでもあれだけの固め方は難しいだろう。

 

「僕は八百万さんの覚悟を聞いた時、倒せるかと言われた時怖かったんです……あの場から逃げ出したいぐらいに怖かった……そんな僕が、あなたの後継者に相応しいんですか……。進志君や八百万さんの方がいいんじゃないんでしょうか……?」

「―――緑谷少年、君は本当にネガティブボーイだね」

 

その時、男の声色が変わる。そこにいたのは骸骨のような男ではなく筋骨隆々な肉体をした笑顔が似合う巨漢の男、平和の象徴たるオールマイトであった。

 

「怖いというのは大切な感情だよ。君は八百万少女を明確な格上だと認識出来ていたんだよ、それが出来るという事は君にはまだまだ潜在能力が多くあり向上できるという事なんだよ」

「僕が……」

「怖い、恐ろしい。大いに結構!!大事なのはその恐怖に身体を支配され過ぎないという事なのさ、君は怖いと思った後に立ち向かおうとしたじゃないか。それこそ正に巨大な悪に立ち向かうヒーローさ!」

 

サムズアップしながら白い歯を見せながら笑うオールマイトは出久を励ますように言う。

 

「それに君は彼らに比べたらまだまだ発展途上、それならもっと凄くなっていけばいいのさ!!」

「オールマイト……はいっ僕頑張ります!!」

「うむっその意気だ!!」

 

そんな風に笑うオールマイトは出久の背中を叩いた、叩かれた出久はまるで力を注入されているかのようにいい笑顔で笑うのであった。


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