「ふむっ……悪くない顔つきだな、喧嘩慣れしてるって感じの餓鬼か」
葉巻を吸いながらこちらを舐めるように見つめて、品定めを行ってくる主犯だと思われる男。改めて前にした進志はその男をじっと見た。精悍な顔付きをしつつも目つきはとても鋭くて凶悪そう。それでも何処か落ち着きと百と同じような富豪のような雰囲気を感じる、親戚と言っていたことから八百万家に関係あるのだろうか。じっと見つめていると男は新たに葉巻を一本取りだすと、吸い口を噛み切ると手に持ったライターでじっくりと炙りながら言葉を紡ぐ。
「俺のアーミーズは並の大人よりも力がある。それを倒すって事は……個性を使う事に躊躇がない、だが普通に喧嘩慣れしている訳でもない。面白い餓鬼だ」
「アーミーズ……その名の通りなように軍人並みに強いってか」
「分かりやすいだろ。シンプルイズベストって奴だ」
奇妙な男というのが第一印象だった。目の前の男は自分の部下が倒されたというのに全く焦っていなかった。寧ろ部下を倒した自分という存在に興味を抱いていると言ってもいいような言葉遣い、そして自分の力を誇り見せびらかしたい子供のように自分の力を語っている。
「兵隊を作り出す、それがアンタの個性か……」
「ああそうだ、面白いだろう。約75人の兵を自由に生み出し、それらの状況をある程度把握した上で操作できる。それが俺の個性"
中隊運用、それがこの男の個性でありながらこの列車を制圧した仕組み。75名の兵隊を生み出し、それらが置かれている状況を把握した上で操作する。途轍もなく厄介な能力だ。自分が操れる複数の存在を生み出すというだけで十分すぎる脅威だというのに先程の兵隊を見る限り、それも武装を行っている。武装を持った存在を生み出すのか、それとも持たせているのかは分からないがこの列車には70以上の武装した兵がいるという事になる。
「やれやれ残り67体になっちまったじゃねえかよ」
「……何人か、倒されてるのか」
「まあな。この列車に乗ってるのは知っての通り金持ち連中だ、当然護身術をやってる連中もいる。中には護身だけじゃすまない奴もいるって訳だ。制圧したけどな」
忌々しげだがどこか満足な笑みを浮かべている。改善できる点を見つけた、まだ自分は弱いと理解できる部分がまるで嬉しいと思っているかのような表情に進志は相手の考え方が分からなくなってきている。葉巻の香りが自分の鼻につく中で男は仰々しい礼をしながら挨拶をした。
「改めて自己紹介をしようか、これでも紳士なもんでね。礼儀は確りと守らせていただくよ。お察しの通り、俺は八百万家の血縁者だ。本名は名乗るつもりはなかったんだが俺の兵隊を倒した事に敬意を表してそちらを名乗らせていただこう―――京兆だ、苗字はない。勘当されてるんでね」
「わざわざご丁寧にどうも……進志だ」
「ほうっ進志君か……」
何やらしげしげと名乗った自分を見つめる京兆、何処か不気味なものを感じつつも進志はそっと足を引くようにしながら体勢を変えながら問いかけた。
「京兆、アンタは何でこんなことをする……如何してこの列車に乗り込んだ!?狙いは身代金か何かか……」
全くビビることもなく問いかけてくる進志に対して京兆は本気で敬意を感じているのか、言葉を整えて最初の時のような荒々しい言葉遣いを使わずに丁寧な口調で語りだした。
「威勢がいいな進志君、さすがは俺の兵隊を倒すだけの事はある。単純な理由だ、俺は一族から追放されてな。その仕返しに態々この列車に乗ってやったのさ、金なんて考えてなかったな……仕返しだけを考えてたからな」
「その為に列車を占拠したってのか……!?その為だけに」
「ああそうだ」
当たり前のことを聞くなよ野暮だな、と言いたげなようにあっけからんと答えて見せた京兆に進志は固まってしまった。彼には到底辿り着けないような純粋で単純すぎる回路、やられたのだからやり返す。余りにもシンプル過ぎる目的に言葉を失った。
「その為にだけに……許せない、その為にこんな事をしただとぉ!!?ふざけるなぁああ!!!」
進志の思考の尺度からは考えられない結論に怒りを覚え、その感情のままに咆哮した。彼にとっては大切な恩人の親戚を危険に晒したという以上に、百に危険な目に合わせているという事が何よりも許せなかった。そして今決めた、彼女を守るために自分はこの京兆と戦うッ!!その途端、瞳を鋭くした京兆は葉巻を足元に落とすとグリグリと力任せに血を踏み消した。
「今君は俺に敵意を、怒りを向けたな。理解しているんだろうな、
鋭くも荒々しい瞳が心臓を射抜くのように突き刺さる。それでも進志は瞳に怒りを込めて向け続けていた、今彼の中に怒りしかない。燃え滾る炎しか存在していない。
「ああっ向けるな……それよりもお前は俺と戦う覚悟は出来てるか、俺はお前の兵隊を4体倒してるんだぜ」
改めて敵意がある事、自分はお前を倒す事が出来るだという事を宣告する。すると京兆は大きく笑うと邪悪な笑みを浮かべながら言った、そして同時に京兆の周囲を7人の兵が守護するかのようにライフルを構えていた。
「なら―――単純に数を増やして対応してみようじゃないか」
京兆が指を鳴らす。同時に兵が持ったアサルトライフルが火を噴いた。至近距離からのライフルの連射、それだけで人間はあっさり死ぬだろう。だがライフルから放たれてくる弾丸を怒涛のラッシュを放ちながら防いでいる存在が進志を守っていた。彼のスタンドであるスティッキィ・フィンガーズが京兆のライフルの銃撃を防いでいた。京兆からすれば放たれる弾丸が進志の目の前でそれで弾かれているかのような光景が広がっているが、見えない何かを操作する能力なのかと推測する。
「やるな……俺の弾丸は本物の弾丸に比べたら威力はないしそこまで速くはない。それを差し引いても凄まじいな」
「こんなもんかぁっ京兆ォ!!この程度だっていうんならよぉ、紅海を渡ったモーゼみたいにお前に近寄るぞォ!!」
「それも可能だろうな―――本当に出来る物ならな」
「なッ―――!?」
瞬間、突如として弾丸の威力が跳ね上がった。先程まで弾く事が出来ていた弾丸が急に威力と速度が跳ね上がり、防御しきれなくなった。弾丸は次々とラッシュを潜り抜けていき、脇、肩、太ももなどを貫いていく。更にラッシュで弾ききれなかった弾丸が顔などを掠って血を滲み出させる。
「ぐっがぁぁっ……!!!ぁぁぁぁっっっ……!!!」
「生憎、実弾もあるんだよなぁ。こっちはリアルな金が掛かるから使いたくないんだけど、君はこれでないと止められないだろうからな」
「がっ……ぐぅぅううああああ!!!!」
体験した事もないかのような痛み、熱く鋭く苦しく辛い。それらを凝縮されたゼリーが体内に複数出来たかのような苦痛が身体に複数出来ている。声が迸る、痛みが突き抜けていく、それが精神を一気に支配しようと駆け巡ってくる。
「ここで降参してくれるなら、攻撃はしない。手当もする、どうかな進志君。俺は君を心底気に入った。気に入った奴は傷つけたくない」
蹲って痛みに耐えている自分に目線を合わせるようにしながら言う京兆。自分を気遣っているようにも見えるが明らかに自分を煽っている、見下している、馬鹿にしている。自分のような子供には倒されないと暗に言われているような気がした。
「これでも子供に実弾使っちまったって心配してるんだ。なあ降参しろ」
「嘘つけ……心配してん、なら……銃向けんな……」
「それは無理だ。君が降参しない限りな」
合理的だ、相手に戦力差を明確にさせながら状況を認識させ降参を勧めている。嫌な奴だと思いながらも進志は言う。痛みが降参を勧める中で言った。
「誰がするか……アホがぁぁ!!!」
力を振り絞って、スティッキィ・フィンガーズに京兆の頭部を狙わせたパンチを走らせる。命中して相手の意識が薄れれば勝ち目はあると思った逆転の一手―――だが所詮は子供の浅知恵だと言わんばかりに、それよりも早くに兵隊が所持していたナイフで自分の顔を切りつけていた。同時に、視界が血に染まる。
「残念だ進志君。君の事は気に入っていたのにな」
「―――ッ……」