覚悟の幽波紋   作:魔女っ子アルト姫

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燃え上がる覚悟

「(進志、さん……!!!)」

 

暗く肌寒い空間の中、彼女は大粒の涙を流しながらも必死に声を押し殺し今すぐにもジッパーから飛び出して進志の元に行きたい衝動を抑え込んでいた。ジッパーの中でも音は聞こえてくる、大きな音ならば聞こえてくる。それに必死に耳を澄ませ、彼女は外で起きている出来事を把握していた。同時に進志が自分を守る為に戦ってくれている事、そして自分がここから出たら彼の思いを無駄にするという事を理解してしまっていた。

 

「私の、ために……そんなぁっ……」

 

聞こえて来るのは京兆という八百万家から追放された男が報復の為にこの列車を制圧したこと、それに対して進志が怒ったこと、そして直後に戦いが始まった事だった。だがすぐに戦いは終わった、耳を劈くかのような激しい銃声の直後に聞こえてきた進志の苦痛に歪んだ声に声が出そうになり必死に手で口を押える。

 

『―――ここで降参してくれるなら、攻撃はしない。手当もする、どうかな進志君。俺は君を心底気に入った。気に入った奴は傷つけたくない』

 

それが聞こえた時、思わず必死になって祈ってしまった。お願いだからもう戦わないでほしい、もう傷つかないで。もう傷ついて苦しむ声を聴きたくない、お願いだから降参してほしいと素直に思った。大切な友人である進志が苦しんでほしくはないという思いが胸いっぱいに広がっている。聞こえてくる進志の息遣いはとても苦しく、歯を食い縛って痛みを耐えているかのような物だった。だが―――

 

『誰がするか……アホがぁぁ!!!』

「(進志さん……!?)」

 

彼は足を止めようとしなかった。尚も立ち上がって戦う意思を見せる彼に驚きを隠せなかった直後、先程まで聞こえていた進志の声がしなくなり何かが崩れ落ちるかのような音が聞こえてくる。

 

『残念だ進志君。君の事は気に入っていたのにな』

『―――ッ……』

 

「―――私のせい……私が誘いなんてしなければ……」

 

 

 

「君が悪いんだよ進志君、素直に降参していれば何もしなかった。最後にナイフでの攻撃もなかった」

 

進志の血が付いたサバイバルナイフをしまう兵を見ながら目の前で倒れこんだ進志へと視線を向ける。頭からそして身体の各部から流れ出す血の中に沈むかのように倒れこんでいる。最後の反抗の意思を見せたときに反射的に行った兵のナイフはかなり深くまで入っていた為に多量の出血が起こっている。ドクドクと流れ出す血が床を染めていく。

 

「アーミーズ、最低限の手当てをしろ」

 

このまま死なれても困る、そう思いながらも衛生兵を呼び出して彼の治療を行わせる。元々進志は自分の親戚ではなかったので報復の対象外であった。自らの行為に巻き込み、その中で自分に戦う意思を見せてきたと言ってもこのぐらいの治療はしてやるのが筋だと思い、最低限の治療を施そうとする。衛生兵が進志の様子を確認しようと手を伸ばした時―――

 

『アリィッ!!!!』

「何ッ!?」

 

いきなり衛生兵が天井へと吹き飛ばされた、腹部を思いっきり殴りつけられたかのようにくの字になりながらも激突した。そして一瞬でダメージの限界を超えたのか消えていった。一体何が起こっているのか一瞬志向が混乱する中でそこに何かが立った。まるで進志を守るかのように不透明の守護霊が存在していた、それが自らの兵を殴り飛ばしていた。

 

「こ、こいつは……!!そうか、こいつが進志君の個性。そして見えない攻撃の正体か……!!」

 

残っている兵を進志から距離を取らせながらも実弾を装填し射撃体勢を整える。まだ進志に戦う意思があるというのか、子供だと侮っていたと思いながらもトリガーを引かせようとするが京兆は命令を取りやめた。不透明な守護霊は全くこちらに仕掛けてこようとはしていない。拳を構えてはいるが此方に殴りかかろうとは全くしていない。

 

「こいつは……まさか一定距離にある奴を攻撃するのか……?」

 

試しにマガジンから弾丸を一発抜き出して進志へと向けて投げてみる。弧を描いて進志へと向かっていく弾丸は先程衛生兵がいた距離ほどに入ると……

 

『アリィッ!!!』

「やはりか」

 

凄まじいパンチを繰り出し、弾丸を拳で真っ二つに圧し折ってしまった。あれほどのパワーで殴られたら一溜りもないがあれならば実弾の射撃もラッシュで十二分に対応する事が出来た筈。それなのに実弾の射撃を対応し切れずに進志は何発もの弾丸を身体に受けている。一体どういうことなのか、理解できない。

 

「何が起きている……?」

 

一先ず目の前のこれはただただ純粋に進志を守ろうとしている事、そして進志に近づこうとするもの全てに対して攻撃を及ぼす存在となっている事、何故か先程よりも力が強いという事。残念だが治療は出来ない、このまま放置するしかない―――。

 

 

 

 

―――……痛い、辛い……。

 

激しい痛みの中で倒れこんだ進志は血の中に居る。その中で朦朧とする意識の中で熱病のような凄まじい痛みを味わっている。全身に染み渡っている痛み、そして徐々に身体が冷えてきているのが分かる自分がいる。あふれ出している血の池の中、肌に触れているそれが酷く暖かく、まるで風呂に入っているかのように思えてきた。

 

―――……俺、死ぬのかな……。

 

ぼんやりと茹で上がってきた頭が示した死というもの、不思議と恐怖はなくあったのはこの苦しみから逃れられるのではないかという思考だった。全身に走る痛みをこれ以上味わいたくないそんな思いがある、もう痛みの中に居たくはないという思いから瞳を閉じようとした時、不意にソファが気になった。なぜ今と思ったが理解した。ソファの影からほんの僅か、意識しないと分からない程度に見えているジッパーがあったからだ。

 

―――も、も……。

 

今自分が死んだら百はどうなるのだろうか、京兆に見つかってしまうのではないか、それともジッパーが無くなり空間ごと消滅してしまうのか、様々な憶測が飛び交う中で思った。このまま死ぬのは……いやだ。そう思うと同時に―――スティッキィ・フィンガーズが出現する。自分を見つめているかのようにしながら立っている。

 

「―――覚悟は、決まってる。ならば俺はどうすればいい……スティッキィ・フィンガーズ、お前が教えてくれた……」

 

同時に力が漲ってくる、火事場のバカ力という奴だろうか。それでもかまわない、例えこの力が蝋燭が消える際に一際大きく炎のようなものだとしてもいい。その炎であいつを焼き付せばいいだけの事だ。

 

「俺がすべきことは……百を守る。その覚悟を見せ付ける、奴の報復を……打ち砕く……!!」

 

血だまりに沈んだ四肢に力を籠める、同時に弾丸に当たった部位が凄まじい熱と共に痛みを走らせるがそんな物は気にならなかった。決めた事をやる為に覚悟で身体を動かす。真っ赤に染まった視界の中にいる京兆を捉える、もう絶対に逃がさない……奴を打ち砕く。

 

「……何故立つ……?」

「単純な事だ……俺は決めていた、それに報いる為そして―――俺が決めた事を守る為に俺は立つ……俺は……覚悟を決めたぜ」

 

血に染まった身体を持ち上げた進志はこちらを見つめる京兆へ威嚇の意味を込めて、スティッキィ・フィンガーズで壁を殴りつけた。その一撃は壁に罅を走らせながら大きく砕けていった、先程とは明らかに違う力の大きさに進志は気付けていなかったが彼は―――拳を彼に向けた。

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