「……んんっ……」
何処か重くなっている瞼を開く、冬の朝にいるかのような感覚。もっと惰眠を貪っていたいという思いもあったが一先ず瞳を開けてみる、再び惰眠を貪るかを決めるのは後でも構わないだろう。ぼんやりとした視界の先にあったは真っ白な天井と自分を見下ろすかのような明かりだった。
「(あれ……俺の部屋の天井ってあんなに白かったっけ……?)」
何処か起きている記憶との齟齬、それを感じつつもぼんやりとそれを見つめ続けていると身体を動かしたくなったのか寝返りを打とうとするのだが、身体が軋むかのような痛みが全身を貫いて動きを静止しすると共に寝ぼけていた意識が一気に覚醒していってしまう。
「つぅぅっ!!?んだぁこりゃ……!?」
昔肉離れを経験した事があったがそれ以上にとんでもない痛みだ、身体が抉られて貫通しているかのような傷が身体のあちこちにあるような痛みがある。加えて意識がハッキリしてきているので分かってきたが、如何にも視界が狭いというよりも片目に強い圧迫感を覚える。左手で顔を触ってみると左目が包帯やらで厳重に覆われているのが分かった。そしてその時、なぜ自分がこうなっているのかを思い出した。
「そうか……俺、京兆の奴に撃たれたんだよな……しかも最後はナイフで……ってやっぱいてぇ!?」
「んんっ……」
その時だった。何処からか声が聞こえてきた。まだ満足に身体を動かせないが顔を動かしてみると自分が横たわっているベットにうつぶせになるようになりながら眠っている少女がいた。それが自分が必死に守ろうとしていた少女、百がそこにいた。
「いけません、つい眠ってしまいました……進志さんの看病をしなければいけないのに……」
「も、百あんまり無茶するなよな。睡眠不足は美容の敵だぞ」
「はいっ以後気を付け……」
目を擦りながらこちらを見た百は思わず硬直した。彼女の目の前には目を覚ました進志がこちらを気遣った言葉をかけてくれていた。進志からすれば純粋に彼女を気遣ったつもりだったのだが、徐々に彼女の顔は破顔していき、大粒の涙を流しながら思わず進志へと抱き着いた。
「わぁああああああああああ!!!本当に本当に良かったですぅぅぅぅ進志さぁぁぁあああん!!」
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッッッ!!!!!き、傷がぁぁぁぁあああああ!!!!!????」
「本当に良かったですぅぅぅぅう!!!」
「百ォォォオオオお願いだから離れてくれぇェェエエ!!!傷がぁぁあああああ!!!」
この後、進志の絶叫で飛んできたナースと医者がなんとか百を引き剥がしたが、その時には進志は壮絶すぎる痛みで軽く痙攣しながら意識が消えうせる寸前にまでなっていた。早急に鎮痛剤が投与されて漸く彼の痛みは治まったのであった。
「な、なんか川が見えた……父さんと母さんがなんか手振ってたって二人は死んでない……あれっじゃああれ誰だったんだ……」
「ほ、本当に申し訳ございませんでした……本当に嬉しくて、進志さん三日も眠り続けていたのでもう起きないのではないかと思って……」
「そんなに寝てたのか俺……」
京兆を破った後、途中停車駅で止まった列車から自分は病院へと緊急搬送され手術が行われたらしい。手術は成功した物のそれから三日間の間ずっと眠り続けていたらしい。京兆は駅到着と共に到着したヒーローに拘束されて、そのまま警察と共に連行していたらしい。
「三日……9食も食い損ねてるじゃねぇか」
「いやそこではないと思いますけど……」
「分かってるよジョークだよ。なぁ百、お前は怪我ないんだよな」
「えっ!?あっはい私はずっと進志さんのジッパーの中に居ましたので」
「そうか、そりゃよかった……改めて、安心したよ」
そう思うと再び身体から力が抜けていく。安堵が胸を包む。そんな中、百は両手でスカートを掴みながらも歯を食い縛るようにしながら言った。
「進志さん、その本当に、申し訳ありませんでした……。私の為にこんな……」
「謝られても正直困るんだよなぁ百、俺がそうしたかっただけだし」
「しかし、私がパーティにお誘いしなければ進志さんは大怪我をしなかったのに、それに目が……」
百の視線はやはり包帯などで包まられている左目へと向けられている、その言葉を聞いて察しが付き確信した。京兆と戦っている時から気づいてはいた。あの時、ナイフは自分の左目に当たっていたんだと。視界が赤で染まったのは血が目に入っただけではなかったのだろう。
「あなたの左目はもう光を取り戻せない……」
「なあ百」
「私が……私が……!!」
「おい百、俺を見ろ」
少し力強い言葉に導かれて百は進志を見ると、彼は口元を緩ませて笑っていた。どうして笑っていられるのか理解が出来なかった、もう片目は見えないのにどうして笑っていられるんだ。自分が憎くないのかと思う中、進志は言った。
「俺、今どんな顔してる?」
「わ、笑って、おられます……ど、どうして……?」
「お前が無事で俺の傍にいるからだよ。あの時の俺は何としてでも、お前を守りたかった。それが出来て俺も生きてまたお前といられる。それだけで俺は満足だ」
信じられなかった、進志は自分の事を全く恨んでも怒ってもいなかった。寧ろ一緒に居られるだけで嬉しいと言ってくれている。再び涙が零れ落ちる。そんな自分を見て進志は泣かないでと言う。
「進志さん、進志さん……!!!私は傍におります……そして貴方の、貴方の目になって支えます……!!だから、傍に居させてください……」
「嬉しい事言ってくれるなぁ……ありがとうな百」
この時から、二人は強く深い絆で結ばれた。