狼の子を拾った翌日。御伽はいつもよりも少し早く起き、朝ごはんの準備をしていた。
連れて帰った狼の子はまだ目を覚まさないだろう、とのんびり準備をしていると
かたん
彼の居る部屋から控えめな音が聞こえる。
「(あら、意外と早起きなのね……)」
コンロの火を消し、物音の聞こえた彼の居る部屋に向かう。
コンコン
自分の家なのにノックをするなんて不思議な感じだ、と思いながら御伽が扉を開ける。
「おはよ、よく眠れたかしら?」
御伽が声をかけると狼の少年は布団の上で深々とお辞儀をする。
「ああ、、いいのよ、あたしが勝手に連れてきちゃった見たいなとこもあるし、所であんた名前は?」
「……ぁ、……?」
名前を尋ねると少年は口をぱくぱくさせ、喉に手を置き、首を傾げ、同じことを繰り返す。
「……あんたもしかして声が出ないの?」
御伽の問いかけに少年はコクコクと首を縦に降る。
「……そう、でも名前分からないと不便よね、紙にかけるかしら」
御伽は紙とペンを持ってきて少年に差し出す。
サラサラと少年は紙に文字を書き、御伽に見せる。そこに書いてあったのは「狼」という字。
「……?オオカミさん?」
御伽がそう言うと、はっ、とした顔をし首を横に振る、そして、狼と言う字の上に平仮名で「ろぅ」と書き足した。
「ロゥ、そう、あんたロゥって言うのね、いい名前ね」
優しくロゥの頭を撫でて微笑む御伽。
「あたしは御伽よ、これからよろしくね」
そう言ってロゥを布団から立たせる。
「さ、ご飯にしましょ!食べられる?」
うん、と首を縦に降り、ほんのりと笑う。その笑った顔にはあどけなさが残りこの子が意外と若いのではないかと思わせる。
じゃ、行きましょ。と部屋から出ようとした時。
バタン!!
「御伽!おっはよー!!」
勢いよく扉が開けられ社が入ってくる。
御伽に飛び掛った社は部屋のもう1人の人物に目を向け、、ただでさえ大きい目をぱちくりさせた。
「……えっと、どちら様??」
御伽は事の発端を淡々と社に話す。
「……なるほど?つまりロゥくんは何者かに襲われ、そのショックで声が出なくなっちゃったんだね?」
ふむふむ、と顎に手を当て頷く。
「ところで御伽、のんびり僕に説明してるのはいいけどさ、そろそろお店の準備をしなきゃならないんじゃない?」
そう言って社は部屋の時計を指さす。時刻はもうすぐ9時、御伽の経営するカフェバーのオープン時刻は10時。つまり、オープン準備をしなければならない一時間前。
「やだっ!コットンに怒られちゃうじゃない!ロゥ!社とご飯食べたらあたしの店に来るのよ!社教えてあげてね!行ってきます!!」
「いってらっしゃーーーい、……じゃ、ご飯食べて御伽のお店行こっか」
社の言葉にロゥはこくん、と頷く。
「コットン!こっちのやつ3番さんに持って行ってちょうだい」
「はーいマスター」
慌ただしく動く店内で爽やかな笑顔を振りまく黒い大きな耳を揺らす少年は、御伽の営むカフェバーの従業員であるコットンだ。コットンが言われたとおりに品物をテーブルに運ぶとその席の女性客らは小さく黄色い声を上げる。少し離れた席から、コットンを呼ぶ者もいる。コットンはその見た目の良さと優しい言葉遣いでこのカフェの人気店員だ。
「ねぇ、コットン君お店そろそろ終わりでしょー?このあと遊びに行かなぁい?」
猫なで声で声をかける化粧の濃い女。
「すみません、このあとクローズ作業があるので……」
苦笑いを浮かべるコットンを気にも止めず女達はしつこく誘う。
カランコロン
「あ、いらっしゃいませ」
「お!コットンじゃん!!ちゃんとやってるー??」
タイミング良く社とロゥがやって来てコットンをさらって御伽の近くのカウンターに腰掛けた。その光景にコットンにしつこく声をかけていた女達は小さく舌打ちをした。
「おい、今仕事中なんだけど!」
「大丈夫大丈夫!ね、御伽!」
グラスを拭く御伽に社が声をかける。
「……まぁ、もうそろそろカフェも終わりだし、少し休憩しててもいいわよ」
「だってさ!あ、そーいえば紹介してなかった、この子はロゥ!御伽の拾い子」
ペコりと、ロゥはコットンにお辞儀をした。
「よろしくね、ロゥくん」
にこりと、笑いコットンは椅子に腰掛けた。
「コットンくーん!こっち来てよー!」
先程の化粧の濃い女がまた声をかける。
すると今度は御伽が出向く。
「ちょっとあんた達ね、他のお客様もいるんだからもう少し上品に過ごしなさいよ」
「えーー、だってコットンくんがきてくれないんだもん」
「そんなグイグイ来る女、誰だって喰われるんじゃないかって怖くなるわよ、ほら、もう閉店時間の15:00過ぎたわよ、帰った帰った」
「はーーい、コットンくん!またねー!」
意外にも御伽の言葉に素直に応じた女達は店のベルを鳴らしながら出ていった。
それを見ていた他の客達もチラホラと席をたち始め、少しするとカフェのホールは静かになった。
「よし、お掃除始めるわy「あああー!!もうやだ!!」」
客のいなくなったホールのカウンター席でコットンが突っ伏す。カウンターに戻ってきた御伽が布巾を水で濡らし程よく絞りテーブルを拭き始める。
「ねぇ!!なんであの女達あんなに臭いの!?香水ホントにやなんだけど!!化粧も、ケバいし!!」
うぎゃーーー!!と騒いでるコットンを横で社が笑っている。
「いや、ほんとに!!絶対マスターのがいい匂いするからね!?ね!?「おい小童、誰の許可を得て僕の御伽をくどいてるんだ?」」
ドスの効いた低い声がコットンに降り掛かる。
「うわっ!!」
慌てて振り返るコットンの後ろには黒い艶のいい髪に大きな白い翼を持った青年が立っていた。
「黒影(コクエイ)じゃない、いつ帰ってきてたのよ?」
「ただいま御伽♡ついさっき街に着いたところだよ!」
さっきとはうって変わりコロッと声色を変え御伽にハートマークを飛ばす。
「そ、じゃあシロも帰ってきてるのね?」
「うん、でももう街を出てったよ、だから僕ももう行くけどね」
御伽と離れるの残念、と言って翼をだらんとさせ、あからさまにテンションを下げる黒影。
「何言ってんの、そう言って何年もいなくなるくせに」
「そーだよ、クロもシロもすぐどっか行くじゃん」
ぶーぶーと口をとがらせ社が話に入る。
「ゴメンなやっちゃん、そーいえばその後ろの子は?」
そう言って社の後ろに座ってるロゥの事を指さす。
「ああ、ロゥっての、今うちで暮らしてるのよ」
その言葉に黒影は衝撃を隠せず膝から床に崩れ落ちた。
「っ、そ、そんなっ!!僕とは一緒に暮らしてくれなかったのに!!」
「ちょっと誤解されるようなこと言わないでくれる?てか、さっさと行かないとシロに置いてかれるわよ」
そう言って御伽は拭いていたグラスを棚に戻す。
「……それもそうだ、じゃあまたねー!」
「はいはい、シロにもよろしく言っておいて頂戴」
「おk、じゃあ御伽、愛してるよ♡」
ちゅっ、と投げキッスの仕草を御伽に向けて、黒影はそのままお店をあとにした。
「い、今の人誰」
呆然としていたコットンがやっと声を上げた。
「あれ、コットン知らないんだっけ?この街でめちゃんこ強ーーーい人だよ、黒影は。シロ、白蓮(ハクレン)もめちゃんこ強いんだけど何分放浪癖があってね、クロは」
「マスターの、恋人??」
聞いちゃ行けないと思ってるのか恐る恐る聞くコットン。
「そんな訳ないでしょ、アイツが勝手にあたしの事を好きになっただけよ」
「そーそー!御伽の初恋はクロじゃなくてシロだもんねっ「余計なこと言うとぶっ殺すわよ??」」
社の頬を鷲掴み御伽が微笑む。その光景にコットンとロゥはひぃぃぃぃ、と心の中で叫んだ。
からん、からん
扉の開いたことを告げる鈴がなる。
扉の前には目元だけ、紙の面のようなものでおおったすらっとした男性が立っていた。
「あら、あなたは……」
その男性はゆっくりと歩き御伽の前にくる。
「時計の針が重なった、だから、あなたに会いに来た」
「「??」」
コットンとロゥはなんの事かさっぱりわからず首を傾げるが、御伽と社の顔つきが変わる。謎の言葉を発した男性はただただ静かに微笑んでいた。
To be Continued
のんびりとまだまだ続く予定ですー!!
読んで下さりありがとうございます♡!