まだまだお話は続きますのでどうぞお付き合い下さい!!
今回はビジョンの屋敷を出た御伽がある人物に出会います!
どうぞー!
「っ、ほんっと最悪っ!!」
御伽はビジョンの屋敷からの帰路に着いていたが、途方もない道のりを1人で歩いて帰っていた。表の日本であれば自動車やら電車やら飛行機やら科学が発展し便利な世の中になっているが、こちらの裏の日本では基本誰もが妖力を扱えるため空を飛んだり一瞬で場所を移動できるものが多い。そのため交通機関というものがほとんど発展しなかった。そして、御伽の様に幻術などが上手い妖にはその空を飛ぶや瞬間移動などが苦手な妖もいて、いざ遠出するとなるとその手の者たちに力を借りなければならないが、こんな状況見ず知らずの場所でそんな都合よく巡り会える訳もなく、1人イライラしながらも時折位置確認をしてこうして歩いている。
場所的にはようやく半分といった所だろうか、ちょうど茶屋が視界に入り、御伽はひと休みしようとその店に立ち寄った。
「はぁぁあ、次会ったら1発ぶん殴ってやるわ」
「おやおや、物騒ですねお兄さん」
茶屋からにこやかな笑顔を貼り付けた人の良さそうな娘がお茶と茶菓子をお盆に乗せてやってくる。
「ありがとう、ちょっとイライラしてて」
「旅の方ですか?」
「まぁ、そんな所よ」
御伽の傍にお盆を置くと娘が口を開く。
「そういえばつい先程も旅の方が寄られましたよ」
「そうなの?」
「はい、3人で一緒に旅をしているようで、何でもこの先の大きな街に用があるとかで、、あ、すみませんこんな話しかけてしまって、ごゆっくりどうぞ」
娘は軽くお辞儀をすると店の中に戻っていった。
「(今どき旅をしてる人が居るのね)」
お茶を口に含み、ほっと一息つくと先程までの苛立ちもどこかに消えていた。青空の広がる天気のいい今日は鳥たちも空を飛びかい、それだけで心が落ち着く。
「(黒影、よべばよかったかしら)」
御伽はふと、アルビノの烏天狗の黒影のことを思い出していた。彼はいささか性格に難はあるものの自分を育ててくれた1人でありその実力は計り知れない。それに空も飛べる。きっと呼んでおけばすぐ着いてきてくれていただろうが、考えても後の祭りなので考えるのをやめた。
御伽は出されたお茶と茶菓子の皿を娘に渡してお礼を言ってからまた歩き始めた。すると、先程までの快晴が嘘のように雲行きが怪しくなってくる。
「嫌ね、雨降りそうだわ、、、あら?」
空を見上げてからふと視線を戻すと、道の端で蹲っている人を見つける。近づくとその子は顔を上げ御伽と目が合う。ピンクとオレンジ色の珍しい瞳のうさぎの獣人と目が合い御伽はじっ、とその子の顔を見つめてしまった。するとあることに気がつく、そのこの足のくるぶし辺りが微かに赤みを帯び腫れている。
「ちょっと、怪我してるじゃない、転んだ?」
咄嗟に持っていた手ぬぐいをちぎり、薬草の入った瓶を取り出し腫れている所に塗っていく。
「いたっ」
「ちょっと我慢して、この薬はよく効くから明日にでもいつも通りに動くようになるわ」
「…ありがとう、お兄さん」
「いいのよ、ところで貴方1人?そうなるとどこか休める所まで運んであげるわよ」
「ううん、大丈夫1人じゃないよ」
その子が大丈夫、と言った次の瞬間。凄まじい勢いで視界を銀色の影が横切り御伽は咄嗟にその子から距離をとった。するとまるで母猫が仔猫を守るかのようにその子の前に銀色の美しい髪と、狼の耳にピアスをした紅い瞳の男が現れる。
その男は低く唸り声をあげ御伽を睨みつけていた。
「シー君!大丈夫だよ!この人僕を助けてくれたの」
シー君と呼ばれそこで御伽は、はっとした。
「…あんた、銀狼、シルバ?」
ぴくん、と男の頭の上の耳が揺らぎじっ、と御伽を見つめる。
「主の事なぞ知らん、悪いが我の知り合いにオカマは居らんのでのぉ、玲殿を助けてくれたのは感謝する、だが、彼奴が来る前にここを離れた方が良いぞ」
「彼奴?」
玲と呼ばれた子を抱えあげながらシルバは御伽に忠告する。
「彼奴は少々気が早い所がある、我と違って様子見なぞせず殺されるぞ」
ふぅ、とため息混じりにシルバが言ってすぐ、全身を悪寒が駆け巡り毛が逆立つ。
こつ、こつ
足音が近づく度にその悪寒はまし御伽の額に冷や汗が滲む。その瞬間足音が消えたと思うと突然首元に強い衝撃が走る。
きんっ
金属音がなり首元の鈴が崩された事をしる。
「…っ!(まずい!)」
「お前、玲に何をした」
「溯!その人は僕を助けてくれたんだよ!!離して!」
「だが、」
「離して」
先程までの声色とは全く違い玲は冷たく強く言い放つ。すると溯もその手を離し、御伽は地面に崩れ落ちた。
「げほっ!!はっ!」
急激に酸素が入り込み思わず御伽はむせる。
「もう!そうやってすぐ突っかかるの悪い癖だよ!溯!早く九尾狐の所に行こ!」
その言葉に御伽はビジョンの言葉を思い出した。
『お前の前にもうじき桜が舞い降りる、その桜は良くも悪くもお前に大きな影響を与えるぞ』
「(さくら、)」
御伽は自分を襲ってきた男を見つめた。シャンパンゴールドの髪の先に桜色のグラデーションが入り、瞳は濃い桜色をしていた。
御伽の中で嫌な予感が大きくなり、こいつらをあの街に近付けさせては行けない、と思ったが、それは叶わなかった。
「そうだな、飛ぶぞ」
溯がそう言うと、体の周りを黒い影のようなオーラが包み込み、そのオーラは翼の形を為して玲を抱え飛び立って行った。シルバもそのオーラの尾を掴み3人はあっという間に御伽の前から消えていった。
『御伽』
突如頭の中に声が響く。
鈴が割れた。
あいつが、やってくる。
『なぁ、御伽、聞こえてんだろ??そろそろ俺にその体返してくれよ、なぁ、御伽』
「うるさい!!あんたにこの体は渡さないわよ!だめ、ダメなの、早く早く、」
「黒影」
突如強い風が吹き、黒影の髪を揺らす。
「どうした、クロ」
「…御伽が、“扇形”が出てくる、行かなきゃ」
その瞬間黒影は白い大きな翼を大きく羽ばたかせ目にも止まらぬ早さで白蓮の前から消えていった。その背中を白蓮は見送った。
「くろ、くろ!早く早く!!」
自身の体を抱きしめるようにしながら御伽は黒影の名前をうわ言のように呼び続けた。
『もう諦めろよ、意識もぼんやりしてきただろ?俺に身体明け渡しちまえば、楽になるぜ』
その囁きに意識を手放してしまおうと思った霞む視線の先に、まるで天使が舞い降りたかのように錯覚をする程の景色が広がる。先ほどまで曇っていた空は夕日が差し、光の柱がいくつも立ってその中に黒影がゆっくりと御伽の前に降り立つ。
「くろ、くろっ」
近づく黒影に縋り付く御伽に黒影はゆっくり声をかける。
「大丈夫、御伽、少し寝なさい、起きたら君はいつもの君に戻ってる、さぁ、安心しておやすみ」
そして、ゆっくり御伽の瞼を撫で瞳を閉じさせる。
手を離し、傍の岩に身を預けさせ、黒影はその御伽の前に座る。少しすると、御伽の目が開き、黒影を捉える。しかし目覚めた御伽はどこか様子が違く、いつもは上品に笑う口元には大きく三日月が浮かべられていた。
「ああ、会いたかったよ扇形、僕の愛しい扇形」
「俺はあんたが嫌いだ」
口調もいつもと代わりオネェの要素は一切消え去り、御伽いや、扇形は大きく伸びをする。
「どおしたの?今日は暴れないじゃないか」
「目覚め1番に俺の封じ手の顔を見ちゃ暴れる気も起きねぇよ、今回はまた大人しく眠ってやる早く鈴つけろよ」
「えぇ、つまらない今日こそ僕を殺してくれると思っていたのに」
はぁ、と息を吐き黒影は立ち上がる。すると黒影の周りにプスプス、と炎が燻りだし、それは次第に大きな炎へと形を変え黒影の周りを包み込む。やがて炎が収まり中から現れた黒影は赤く燃える美しい翼に、長い尾羽、瞳の色もオレンジとも赤とも言えない燃える炎そのものを彷彿とさせる色に変え、顔には大きく痣が浮かぶ。
「いつ見ても、その姿は美しいな」
「へえ、扇形にも美しいと思うことがあるんだ」
そう言いながら黒影は尾羽を2枚抜き、息を吹きかける。すると黒影の手のひらの上でそれはカラン、と音を立てて鈴に姿を変える。
「今度起きたら次こそ僕を殺してくれるかい?扇形」
首元に新たに鈴を付けられ、チリーン、と澄んだ音が辺りに響くと、微かに扇形の顔が顰められ、にぃぃ、と笑みを浮かべる。
「ああ、その時はたっぷりお前を愛してやるよ(殺してやるよ)」
それを聞くと黒影は満足そうに笑い炎が収まりいつもの黒影の姿へと戻っていく。
「楽しみにしてるよ、扇形」
そう声を掛けた扇形は既に意識を失っていて、黒影はそっと、御伽の頬を撫でる。
「…おやすみ」
ーFinー
ここまで読んでくださりありがとうございます!今回は少し短めになってしまいました。ごめんなさい。
ここから遂に溯達3人は御伽の住む街へと向かい、九尾眞白様を狙い、御伽たちは眞白様を守らねばならなくなってきます!果たしてこの先どうなっていくのか!お楽しみに!