聖杯戦争に薪の王が参戦しました   作:神秘の攻撃力を高める+9.8%

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大幅な変更


襲撃

○○○

 

『…またね、○○○!』

 

彼女が笑う、花が咲くように。それを見て私はーーー。

 

○○○

 

 

 

まず目が覚めたときに感じたのは有り余る程の幸福だった。ひなたぼっこをした時のような暖かさと、母に抱かれた時のような安心感。これこそが幸せなのだと言い切れる程の物。そして、その次に訪れたのは深すぎる喪失感だった。

 

愛おしい、頬が緩むほどに。それと同じくらいに切なく悲しい。

 

上体を起こし、目元を拭えば雫が付いた。枕を見てみれば水滴の跡があり、どうにもしばらくの間泣いていたようだ。

 

「…悪夢でも見たのかね…」

 

自然と垂れる鼻をすすりながら雁夜はぼやく。夢を見たのはほぼ確定だろうが、それの内容はもはや思い出せない。泣いていたのだから何か怖い夢、もしくは悲しい夢でも見ていたのかもしれない。

 

「悲しい夢…か。でも何か違うような…」

 

起きた瞬間に感じたあの感覚。深く、深く。それだけを人生の糧にできるほどの幸福感は、およそ雁夜自身は感じたことはなかった。暖かくて温かいあの感情を思い出すだけで多幸感に包まれる。

 

それと同じ程の、ともすれば感じた幸福感さえも呑み込むような喪失感と悲壮。それを確と認識してしまえば戻って来られなくなるほどの悲哀。それだけの絶望も、同時に感じていたのだ。

 

複雑に蠢く2つも、やがて夢の記憶と同じように消えてしまうのだろう。所詮はこの感情も夢の中を歩いた軌跡に過ぎないのだから。

 

「…でも、忘れたくないな」

 

「あれだけ心を揺り動かす感情は、何か自分の成長に繋がるかもしれない」、そんな魔術師の打算もある。しかし、それ以上に手放したくない。その意志がどこから来るのかは、自分自身わからないのに。

 

 

〜〜〜〜

 

 

顔を洗ってリビングに向かえば、いい匂いと香ばしい音が雁夜を出迎える。先程鏡で確認したので、自分が泣いていたのはもうわからないはずだ。別に泣くのは良いが、それを見られるのはあまり許容できないのが男というものだ。それも相手が友人とあれば尚更だろう。

 

どうやら雁夜が起きたのはいつもより遅く、桜とリンカーが朝ごはんを作ってくれているらしい。邪魔するのも悪いので、キッチンで忙しなく動く2人におはようと声をかけるに留める。

 

リビングのソファに深く座り込み、BGM代わりにテレビをつける。朝のニュースを聞き流しつつ、自室から持ってきた『ソウルの魔術』の教本を読み込むことで朝ごはんが出来上がるまでの時間を潰す。

 

この『ソウルの魔術』の本もリンカーの手製だ。雁夜が魔術を教えてもらうことになったとき、「言葉だけではわかりづらいだろう」と用意してくれた物だ。その内容はとてもわかりやすく、それに加えリンカーによる指導も合理的であり、魔術師によくある無駄な形式を必要としないということもあってか非常に効率のよい授業が行われており、殆ど魔術の教養が無かった雁夜でさえこの短期間で魔術を習得することに成功している。

 

そうこうしている間にしばし経ち、朝ごはんを作り終えたリンカーが雁夜を背後から呼ぶ。

 

「雁夜、食事の用意が出来たぞ。手伝ってくれ。……」

 

「んぁ。そうか、わかった。…どうしたんだ?」

 

リンカーが動かないことに疑問に思った雁夜が声をかけても動きは無く、だんだんと顔が険しくなっていく。その視線を辿ってみると、それは今流れているニュースにあるようだ。

 

『ーーーさんも昨日の午後8時頃から消息が掴めなくなり、集団児童失踪事件も発生から20件を超えます。警察はこれを連続誘拐事件として調査は続けていますが、未だに手掛かりは掴めておりません。何か心当たりのある方は警察への連絡をお願いしまーーー』

 

事件の概要がわかったところで意識を現実に戻す。確かにこれは胸糞の悪い事件であり、リンカーが眉を顰めるのも納得できる。

 

「気味の悪い事件だな…。早く犯人が捕まってくれればいいけど」

 

そうぼやく雁夜に、険しい顔のままリンカーは言う。

 

「そうも言ってられんぞ。…この事件、恐らく聖杯戦争(こちら側の人間)が絡んでいる」

 

「なにっ!?」

 

「恐らく、ではあるがな。…朝食の後に話をしよう」

 

ぴりり、と緊張感が走った。

 

 

ーーーー

 

 

「それで、そう感じた根拠は何だ?」

 

時は午前11時の半ばを少し過ぎたころ、雁夜とリンカーは書斎にて向き合っていた。話は必然リンカーの先ほどの言動だ。

 

「まず、サーヴァントの魔力供給についての話だ。サーヴァントの魔力は基本マスターのパスから供給されるが、他にも手段があるのは知っているだろう?魔力の込もった物をサーヴァントが飲むことでも魔力は補給できる。そして効率は悪いが食事でも出来るし、体液交換なんて物もある。…そして、魂食い」

 

魂食いという単語に何か思う所があるのか、僅かに自嘲的な笑みを浮かべるリンカー。そういえば以前、リンカーは自分のことを「魂食らいの化物」と言っていた事を思い出した。それ関連であろうが、深く事情の知らない雁夜ではその心境を計ることは出来ない。

 

その事を悔しく思うが、今はそれではない。子どもの誘拐に魂食い、なれば結論は一つだ。

 

「どこかの陣営のサーヴァントが攫っている、ってことか?」

 

本来ならば有り得ない。聖杯戦争のみならず、こちら側の世界のことは表に出さないのが魔術師達の暗黙の了解となっているからだ。

 

頷いたリンカーは話を続ける。

 

「そういうことになる。もしマスターが一般人に危害を加える事を罪としないような人間なのであれば、そういうことも考えられる」

 

「…確かに納得は出来るけど、根拠としては薄いな。それで断定は出来ない」

 

「ああ、分かっている。私がこれをどこかの陣営による物だと考えた根拠はもう一つあり、こちらのほうが比重は大きい。…これは私の感覚なのだが、ここ数日、具体的にはあの誘拐事件が発覚したあたりからこの街付近で大きく力をつけているソウルが感じられる。始めは関係のないものだと思ったのだが、そのソウルが大きくなって初めて理解した。あそこまで()()()()()()()()()()が聖杯戦争に関係していないとは考え辛い。…どうだろうか。完全に感覚である故、信じてくれとしか言えないが…」

 

話を振られた雁夜と言えば、理解するのが遅れていた。ソウルとは結局何なのか、暗く澱むとはどういうことなのか、その陣営に対してどうするつもりなのか。質問は多々あったが、さしあたってひとつだけ。

 

「…なぁ、リンカー。もしかして、そのソウルの感知能力で各陣営の拠点とか居場所とか分かったりはしないのか?」

 

「む、そうだな。あまり離れると流石に無理だが、この街の中にいるのなら大まかにだが分かるはずだ」

 

絶句した。なんたる能力だ。この街にいるなら居場所が分かる?冬木がどれだけ広いのか分かっているのだろうか。以前にもソウルについて少し話してくれたことがある。そのときは、「生命体の本質であり、見ればだいたいの人となりが分かる」ということを言っていた。それだけでも()()()な技能だと思っていたが、まさかソウルの感知という技に居場所の特定という物まであるとは思いもしなかった。

 

他の魔術師たちは己のサーヴァントや魔術を駆使してそれぞれの拠点や居場所を突き止めようとしているのだろう。だが、リンカーという男一人いるだけで襲撃する時もされる時も備えることができる。なぜなら場所が分かるのだから。

 

目をまん丸にした雁夜に対し、リンカーは苦笑した。

 

「とは言っても精度を求められても私はその期待には添えないだろう。わかると言っても、本当に大まかにしかわからないんだ。ああ、こちらの方向のこれくらいの距離にいるな、くらいのものだ。それに、それこそ英雄級のソウルでなければ察知なぞできん」

 

ゆえに、サーヴァントならある程度わかるがマスターだけとなるとおぼろげだ、とリンカー。

 

「なるほど…。いや、それはいい。それで、その暗いソウルの持ち主とやらが別陣営のサーヴァントである可能性が高く、子どもを攫って魂食いをしているようだというのもわかった。それで…」

 

「私はかのサーヴァントを倒したい。無辜の民が殺されていくのをただ眺めているなんてできない」

 

「ああ、俺も賛成だ。関係ない一般人をこれ以上巻き込むわけにはいかないからな」

 

「感謝する。…それで、どう行動するのかだが…」

 

そのときだ。冬木の空に花火が数発咲いた。乾いた音を伴うそれは決して娯楽のモノではなく、聖杯戦争の監督役からの招集の合図である。

 

「…申し訳ないけど、この話の続きはもう少しあとからにしよう。ひとまず教会まで行かなければならないみたいだ」

 

「それがいいだろうな。…さて、なら私はお茶でも作っておこうか」

 

お茶に合うような話題ならいいのだが。そう呟くリンカーに少し笑ってしまった。

 

 

 

〜〜〜〜

 

 

 

「…どうやら、あまり()()()()みたいだ」

 

「それは残念だ。紅茶に合わない」

 

時刻は少し進み、雁夜はもはや自分の物となった蟲を教会に送り込んでいる。そこで手に入った情報は、キャスター陣営が民間人を殺していること、そしてキャスターを止めた(殺した)陣営には監督役より令呪を一画贈与される、ということだった。

 

「…やはりサーヴァントだったか。それに、キャスター陣営…」

 

「ああ。キャスターとなると襲撃がとたんに難しくなるぞ。奴らは拠点防衛の達人ばかりだ」

 

しかし、相手がキャスターであると分かったのは大きな収穫だ。一筋縄ではいかないだろうが、対策なら少しは立てることができる。

 

「こうなってくると、襲撃するなら早い方がよさそうだな」

 

「…よし。…襲撃は今夜だ。リンカーが相手の位置を確認できているなら、わざわざ拠点探しから始めなくても良い。それに、教会から目をつけられて焦っているはずだ。この隙を突こう。やれるな、リンカー」

 

「御意に、マスター」

 

 

 

 

○○○○

 

 

 

「マスター、間桐の陣営に動きが。…恐らく、アインツベルンの城へ向かっていると思われます」

 

「追跡…、いや、城へは私が行こう。引き続き屋敷を監視してくれ」

 

「承知しました」

 

そこはどこかの小部屋。修道服を纏った男が動き出す。

 

「…衛宮切嗣と間桐雁夜が一堂に会するか。これは何か、分かるかもしれないな…」

 

 

 

 

 

 




次は9月中には投稿します。
本当だよ?
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