聖杯戦争に薪の王が参戦しました   作:神秘の攻撃力を高める+9.8%

2 / 12
英霊召喚

詠唱の最後の一節を言い終え、召喚陣の上には魔力が渦巻き始める。その詠唱をした者、間桐雁夜は息も絶え絶えに召喚陣を見つめる。やがて魔力が光を放ち、その光も()()()となって陣の周りを舞っている。

 

その光景を見ていた老人、間桐臓硯は驚きを隠せないでいた。それもそうだろう、まだこの世に現界していないにもかかわらず魔力を炎にするという現象を起こしたのだから。果たしてどのようなサーヴァントが召喚されるのかと、2人は息を呑んで待つ。そして炎が収縮し、人の形を取り始める。炎もやがて消え、その姿がはっきり見えると、雁夜は安心したように、臓硯は興味を目に震わせた。

 

「ふむ、此度は…バーサーカーか。此度の聖杯戦争、バーサーカーとして現界した。私のマスターはどちらだ?」

 

その声は、まるで祝詞のように美しく感じた。恐らくは同年代であろう男性の声にもかかわらず父のような安心感を覚える。しかしその言葉を発したその英霊は、変わった甲冑を纏っていた。まるで焼け爛れたような鎧が、ずっと火の粉を撒かせている 。

 

「あ、ああ。俺だ。俺、間桐雁夜がお前のマスターだ」

 

バーサーカーにもかかわらず言葉を発したことと、その爛れた鎧に意識を向けていた雁夜は答えるのが遅れた。言葉を理解できているのは狂化が浅いのだろうとあたりをつけ、答える。

 

「そうか、よろしく頼むぞ、マスター。して、貴公はどちらかな?」

 

言葉を振られた臓硯は思考を止める。召喚中からこの世に影響を与えるほどの力ならばさぞ高名な英霊なのだろうと期待した。が、爛れた鎧に火の粉を纏う騎士など聞いたこともない。ああ、こいつは()()()だ。無名なのだろうと落胆し、言う。

 

「儂は臓硯。そこな雁夜の親だ。して、雁夜よ。どうやらこいつは無名の英霊のようだ。この儂でさえ知らないとなればあとはただの雑兵がなんの偶然か、英霊の格を与えられただけの雑魚に過ぎん。励めよ、雁夜」

 

それを聞いた雁夜は絶望とともに憤慨する。たとえクズといえどもこいつの魔術師としての腕は確かだ。臓硯でさえ知らないのならば本当に無名なのだろう。だが、だからといって貶していい理由にはならない。もし本当に偶然だとしても、英霊として聖杯に選ばれた英雄なのだ。それを侮辱するなどあっていいことではない。

 

そんな憤慨をよそに、召喚された英霊は言葉を繋ぐ。

 

「そうではない。貴公、()()()だ?人間か、そうではない異形か。貴公からは闇の匂いがするのでな」

 

雑魚だと侮っていた相手に見抜かれたのが悔しかったのか、吐き捨てるように臓硯は答える。

 

「人間ではないと言ったらどうする?まさか殺すか?ふん、できないであろう。貴様のような雑魚、取るに足らん」

 

「いや、すまない。失礼した。ただ気になっただけだ」

 

「ふん…おい、雁夜。儂は部屋に戻っている。約束通り聖杯を手にすればあの遠坂の娘は解放してやろう」

 

その言葉を残し、臓硯は階段を上っていく。姿が見えなくなったところで雁夜が口を開いた。

 

「あのジジイはあんなこと言っていたが、俺はお前のことを雑魚だなんて思わない。それよりも、お前のことを知らないんだ。教えてくれないだろうか」

 

「ああ、わかった。しかしその前に1つ聞いていいか?」

 

「なんだ?」

 

「『薪の王』という言葉に聞き覚えは?」

 

「『薪の王』…すまない、ないな。それがお前の出自に関わるのか?」

 

「ああ。いや、ないならいいんだ。さて、互いも知らないままでは不便だ。どこか場所を移さないか?」

 

確かにその言葉通り、ここは地下の蟲蔵でとても話すような場所ではない。そのことに気づいた雁夜は、自分の部屋へと移動した。

 

 

〜〜〜〜

 

 

「…さて、私の出自としてはこんなものだろう。私は『薪の王』。火の時代を終わらせた者だ」

 

時刻は深夜を回り、『薪の王』の話を聞いた雁夜は驚きを隠せなかった。なぜなら、その冒険というにはあまりに過酷すぎるそれを、旅というにはとても幸せでないそれを信じたくなかったのかもしれない。その長い地獄のようなものに比べると、自分の醜い復讐心など矮小すぎて泣けてきそうだ。

 

「じゃあ…お前、いや、貴方は王なのか…?」

 

これまでの短いやり取りの中でもこの鎧の男が誠実な男であるのはわかっているため、嘘ではないだろう。だが、信じるかは別だ。

 

「ああ、敬いなどしなくていい。王といっても民を導いた訳でもない。自然体で頼む」

 

「そ、そうか。それにしても、今の話が本当であればなぜ今伝わっていないんだ?お前はもっと有名で、偉大であるはずだ」

 

「なに、簡単だ。一度世界が終わっているのに、それを知る人などいまい。それにもしいたとしても、時が経ち過ぎている。誰も知る人などいるまいよ」

 

それは、本人にとってはどうなのだろうか。あたかも気にしていないように振舞っているが、それだけの偉業を成してなおそれを知る人のいない。それは果たしてどれだけ寂しいことだろう。想像することしかできないが、良いことではないと考えるには容易だ。

 

そこまで考えたときだ。たったった、と軽い足音が聞こえる。そんな音を出す者はこの屋敷に1人しかいない。間桐桜、遠坂の家からこんなクソったれな家に養子に出された哀れな少女だ。そしてその足音はこの部屋の前で止まり、扉が開く。部屋に入ってきた桜は部屋を見回し、『薪の王』を見る。

 

「桜ちゃん、どうしたんだい?」

 

「雁夜おじさんがおしゃべりしてるから、気になって。…あなた、だあれ?」

 

「ん、私か?私は『薪の王』。此度の聖杯戦争、マスターに召喚され現界した」

ふーん、と。わかっているのかわかっていないのかよくわからない返事をし、そのまま雁夜のベッドにもぐって寝てしまった。もう深夜であり、眠かったのだろう。

 

そんな桜を見つめ、『薪の王』は雁夜に質問する。

 

「この子…桜嬢、といったか?桜嬢は、これを自ら受け入れているのか?」

 

もしや、この男はわかっているのだろうか。桜の中に巣食う臓硯の怨念を。

 

「っ!!…これ、とは?」

 

「蟲だ。先ほどの臓硯だったか?によく似たソウルを感じる」

 

「…自ら、受け入れているはずがないだろう!!」

 

思わず声を荒らげる。『薪の王』は何も悪くないはずなのに、これまでのすべてを、怒りをぶつけてしまう。だがそれになんら感情を露わにせずに、聞いた。

 

「…訳がありそうだな。聞こう」

 

そこからは、とても表すことはできないだろう。雁夜の感情の全てをぶちまけ、怒っているのか、悲しんでいるのかわからないままに桜の境遇を話した。しかしそのすべてを聞いたはずの『薪の王』は、本当に、心の底から悲しんだように、提案をしてきた。

 

「それは、酷いな…。ああ、私なら、その蟲を焼き払うことが出来る。だがそれをすれば貴公がこの戦争に参加する理由がなくなってしまうが、どうする?」

 

「…!!本当か!頼む!今すぐやってくれ!!…日に日に桜ちゃんの感情が感じられなくなってきてるんだ。もう、耐えられそうにない。参戦する理由なんていらない。お願いだ。今すぐにでも」

 

当たり前だ。そもそもこんな戦いに参加する気なんてなかった。桜が無事で、幸せに暮らせるならなんだっていい。そのようなことを伝えると、『薪の王』は力強く頷いた。

 

「では、やろう」

 

そういうやいなや『薪の王』はベッドに寝ている桜を抱え、床に寝かせた。すると、虚空から螺旋を描いた剣を取り出し、逆手に構えて振りかぶる。剣に、焼き払うという言葉。何をするかがありありとわかった雁夜は急いで止める。

 

「おい、お前!もし殺す、なんてこと言ったらただじゃおかないからな!」

 

相手は英霊だ。もし本気で抵抗されれば令呪を使わざるを得ない。そんな覚悟とは裏腹に、いたって冷静に『薪の王』は返した。

 

「安心してくれ、決して殺しはしない。信じろとは言わないが、マスターの不利益になるようなことはしないと誓おう」

 

そう言われてしまえば何も言えない。雁夜はおずおずと『薪の王』の前からどき、経過を見ることにした。もし何かしようとしたら、令呪で止めるという覚悟を決めて。

 

またその螺旋の剣を構えて、切っ先を桜に向ける。やはり刺すのだろう。安心させるためか、言葉を交えていく。

 

「私の炎は世界を照らした"はじまりの火"。それにかつての薪の王たちのソウルや、神のソウルが混ざっている。それにより、私の炎はいささか特殊でな。悪しきものを焼き払うことが出来るようになった」

 

そう言い、螺旋の剣を勢いよく桜に突き刺す。途端、燃える桜の体。大丈夫と言われていてもこんな光景を見て冷静でいられるわけもない。

 

「おい!本当に大丈夫なんだろうな!?」

 

「ああ、安心してくれ」

 

その確かな確信をもった言葉に少し落ち着けた雁夜は、ただ眺めることにした。しばらくして、『薪の王』が剣を抜く。それから少しして火も収まり、急いで確認すれば傷もなく、呼吸だって正常だ。

 

「これで桜嬢のなかの蟲はすべて焼いたはずだ。身体もやがて回復するだろうが、心は違う。これからは沢山接してあげることが心の回復にもつながるはずだ」

 

螺旋の剣をまたどこかにしまい、桜を抱いて呆然としている雁夜に向けてそう言った。

 

「お、お前…いや、貴方はいったい…?」

 

最初は、臓硯も知らない無名の英霊だとどこかで侮っていた。だが、実際は違った。万人が目を背けたくなるような旅をしてなお人を思いやれる偉大な王だ。知りたい、そう心の底から思った。この偉大な男を、もっともっと知りたい。

 

「かしこまられるのは苦手なのだが…」

 

そう言って困ったような声を出す目の前の男は、とても偉大には見えない。だが、そこがいいとすら思えた。

 

「ああ、すまない。なあ、『薪の王』。お前のことをもっと知りたい。もっと仲良くなりたい。どうすればいい?」

 

その問いは、自然と出た。平常なら恥ずかしくてとても言えないようなそれを、何の恥ずかしげもなく、ただ、己の願望に沿って。

 

「ふむ、そうだな。…ならば私のことはバーサーカー、もしくはリンカーとでも呼んでくれ。私も貴公のことは雁夜、と。そう呼ぼう。これで私たちも友人、友達だ」

 

「ともだち…友達か!いいな!じゃあ、改めてよろしく、リンカー」

 

「ああ、宜しく、雁夜」

 

ここに、雁夜/バーサーカー陣営は完成した。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。