聖杯戦争に薪の王が参戦しました   作:神秘の攻撃力を高める+9.8%

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リンカーという男

夜は明けて、サーヴァント・バーサーカー『薪の王』が召喚されてから2日目の朝となった。ベットからのそりと起き上がった、いや、起き上がれた雁夜は、昨夜の出来事を思い出す。

 

蟲蔵での英霊召喚に、名も知らぬ無名の英霊。かと思えば()()()()()()()()()()()()()()などという偉大も偉大、まさに英雄にふさわしい行いをしているにもかかわらず誰の記憶にも残らない。正直に言えば、雁夜はこの話が嘘ではないかと疑いもした。だが、あれを見せられた。

 

桜に突き刺さる螺旋を描いた剣、だがそれは桜を傷つけることなくそれどころか身体を癒し、蟲まで焼き切ってくれた。ただの癒しの力をもつ英霊は多い。だが、あれは何故かそう思うことができなかった。ただの癒しではないナニカ。まるで神の力の一端のように思え、そんな自分を馬鹿だと切り捨てた。だが、あの英霊、リンカーと呼ぶようになったあいつはどこか底知れない。

 

起きて早々そんなことを考え目も覚めたところでベッドから降り、軽く着替えてリビングのある一階へと向かう。リビングのドアを開けると、庭に立つ人影ひとつ。それが誰かすぐにわかった雁夜は窓を開け、おはようと声をかける。

 

「ああ、おはよう雁夜。どうかしたか?」

 

こいつこそがリンカー。昨晩召喚した英霊。数年ぶりに友人になりたいと思えた人。

 

「いや、とくに何があるでもないんだが…。ああ、そういえばこんなとこでボーっと突っ立って何してたんだ?」

 

そんな疑問を覚えたのも当然だ。リンカーは何をするでもなくただ立っていただけなのだ、それも昨晩の鎧装束のままで。

 

「ああ、そのことか。なに、町を見ていたのさ」

 

確かにリンカーが先程まで見ていた所に視線を合わせれば、高台に建つこの家からは冬木の町が一望できる。

 

「町?」

 

「そうだ。まあ、何というか、な…。私の生きていた時代、というか世界にはあんなに高い建物など……あるにはあったが、あそこまで、こう、きらきらしたものではなかったからな」

 

そう言いながら見るのは恐らくビルだろう。それにしても、ビルがきらきらしている、とはどういうことであろうか。

 

「きらきらって?確かに朝日が窓に当たって反射してはいるが…」

 

「そうではなくてな。まあ、あれだ。私の知っている大きな建物は大体が壊れていたし、中には敵がたくさんいるものもあった。だからこそあそこまで綺麗で、生きた人を感じれる建物はきらきらしているように感じたのだ」

 

「そうか…。まあ、実際はあまり良いものではないらしいけどな。何だったか…。社畜なるものがたくさんいるらしい。なんでも、企業に飼い殺しにさせられている人たちだとか」

 

残業は当たり前、なのに当然のように定時で切られるタイムカード、「これは君の責任ね」などとのたまう上司…。この頃社会的問題になっているんだとか。

 

「まあそんなことどうでもいいさ。リンカー、腹減ってないか?何か料理でも作ってやるぞ」

 

もともと1人で暮らしていた身だ、今でこそ自分で食べることは叶わないが自炊程度ならできる。あまり上手というほどでもないが、十分に食べれる程度の腕前はあったはずだ。

 

「ほう、いいのか?料理を食べることなど久しぶりだ。不死となってからは食料を食べる必要がなくなって、思えばずっと食べていないな。ああ、料理か…。実に楽しみだ」

 

ただ料理を作ってやると言ったつもりがここまでハードルが上がるとは思っていなかったが、まあ、やるだけやってやろうという半ば投げやりになりながらも厨房へ向かう。と、何を思ったか雁夜が反転し、庭からリビングへ上がろうとしているリンカーへと声をかける。

 

「そういえばお前ってどんな顔をしているんだ?あった時からずっと鎧じゃないか。飯を食べるのだし鎧は脱いだらどうだ?」

 

そうなのだ。リンカーはこれまで鎧を一回も外していない。その爛れたような、焦げたような鎧をずっと着ている。

 

「ふむ、確かに食卓に甲冑姿など相応しくないな。外すとしようか」

 

途端、何かに吸われるように忽然と消えるそのヘルム。どんな顔かと覗き込んだ雁夜は唖然とする。まず目を引くその金が混ざったような灰色の髪、そして深い、青というより碧というような言葉が似合う瞳。そして、時代錯誤な貴族のようにも思える整った顔立ち。

 

「お、お前…こんなイケメンだったんだな…」

 

「はは、褒められるとは嬉しいな。私の故郷は整った顔立ちの貴族が多くてな。何を隠そう私も貴族でな、この髪ももともとは金色だったんだが旅を続けるうちにいつのまにか灰色になっていた」

 

もとよりダークリングが現れてからは一気に囚人だがな、と笑うリンカーに複雑な感情を向ける雁夜。果たしてその当時、今のように笑い事として話せるような心持ちだったであろうか。貴族として生きていたならば、それなりに裕福な暮らしをしていたはずだ。それが一気に囚人だ。どんな感情であれ、今のように笑って話せるような状態じゃなかったことは確かだろう。

 

「お前…」

 

「ん、どうした?」

 

無理してないか、という言葉は飲み込んだ。そのことを聞くのはなんだかリンカーを馬鹿にしているように思えたからだ。それに、いま笑えているのならばいいじゃないか。

 

「いや、なんでもないさ。そうだ、料理だったな。待ってろ、すぐに作ってやる」

 

「おお、そうか!楽しみにしているぞ!」

 

プレゼントを渡された子どものように目を輝かせたリンカーに苦笑を浮かべつつ背を向け、再び厨房へと向かう。料理を作ってやる、なんて偉そうに言ったがそもそも雁夜も作るのは久しぶりだ。なぜなら、もう固形物が喉を通らなくなって久しい。今はとても調子が良い為笑って過ごせているが、しばらくすればまた体の蟲どもが動き出し、蝕むだろう。だが、そんなことはおくびにも見せない。この気のいい、優しい友人によけいな心配事を増やさぬように。

 

そんなとき、リビングに顔を出したのは桜であった。蟲を焼かれ、体をリンカーによって癒された影響か随分と顔色が良くなっている。リビングを見回し、テーブルに座っているヘルムを外したリンカーを見て目を丸くしている。

 

「リンカー、だよね。凄いかっこいい」

 

「はは、ありがとう桜嬢。貴公も顔色が良くなっているな、まるで本物の桜と見紛うような可憐さだ」

 

「んふふ、ありがと」

 

歯の浮くようなセリフをさらさらと言い放つリンカー。こんなところで貴族出身としての社交界スキルのようなものを発揮している。だが実際に頰を赤くして照れる桜はとても可愛い。

 

「おはよう桜ちゃん、よく眠れた?」

 

なんだかむず痒くなって割り込むように声をかければ、そこでやっと雁夜に気づいた様子の桜。この年で面食いの素質かとにわかに戦慄した雁夜に、これまでは見せることのなかった、いや、見せられなかった年相応さを感じさせる笑みを浮かべる。

 

「おはよう雁夜おじさん、なんかね、とても元気なの。久しぶりにぐっすり眠れたよ。それよりも、リンカーってとてもイケメンさんだね!」

 

イケメンでここまで元気になるなら俺もイケメンになりたかったと軽い嫉妬を、椅子の上で薄く微笑むリンカーに向ける。男でも確かにかっこいいと思えるその微笑みに、ああ、イケメンとはなにをしても絵になる生き物なのだと半ば諦め、桜が元気になるならそれでいいと思うようにした雁夜であった。




短くて申し訳ないです。
本当に週一くらいのペースになりそうです。でも絶対に途中で投げないのでゆっくり待ってくれるとありがたいです。

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