聖杯戦争に薪の王が参戦しました 作:神秘の攻撃力を高める+9.8%
「さて、やろうか」
リビングにて雁夜が魔術の基礎について軽くおさらいをしていると、そうリンカーが声をかけてきたのはその日の昼過ぎだ。自室にこもってなにやらやっているのは知っていたが、なにをやっていたのかはまるでわからない。
「やるって…魔術を教えてくれるのか!?」
「ああ。こちらも準備が整った。…さて、その前に私が魔術を教えるにあたって条件を加えることにした」
魔術を説くことに条件がつくのは当然と言えるだろう、己の秘儀を伝えるのに無償で施す者なんていまい。だが、その内容はわからない。リンカーの記憶を見た限りでは簡単なものしか扱えていないようだが、それでも見ただけでは全く理解できない、いわば新しい魔術理論なのだ。実際はとても古いのだが。
そんなものを他人に教えるのだ、どんなことを言われようと仕様がない。それにリンカーのことだ、何だかんだ優しい要求にしてくれるはずだ。
「条件か、何だ?」
「桜嬢にも魔術を教えさせてほしい」
それは、どうなのだ。新しい技術を教えようとしているにも関わらずそれを広めることを良しとするそれ。優しい、なんてものではない。遊園地のチケットを一枚買ったらもう一枚くれたようなものだ。
「…それじゃお前に得はないんじゃないか?」
「そうでもないぞ。貴公と桜嬢が魔術を扱えるようになってもらえれば他陣営の魔術師に襲われても多少自衛ができるはず。なればこそ私も来たるべき戦いに集中できるというものだろう」
「そう…かもしれないが、本当にいいのか?」
「それがいいのだ。マスターの無事を案じぬサーヴァントなどいるまい?それに、貴公たちには私がいなくなってもちゃんと暮らしていて欲しい。雁夜、まがりなりにも魔術師である貴公が安全に生きるには力をつけるしかないのだろう?」
「まあ、そうだけど…。いや、いいか。ありがとうリンカー、好意に甘えさせてもらうよ」
別に好意でもなんでもないんだが、と呟くリンカーには本当にそれ以外の打算もなく、ただただ雁夜たちの先を案じているだけなのだろう。
この男には頭が上がらないな、そんな言葉を胸にしまう。それを口に出せば、多分言葉は止まらないから。
「では、桜嬢を呼んできてくれ。…ああそうだ。別にこの部屋でも構わないのだが、どこか魔術用の部屋はないのか?できればそこを使いたい」
「ああ、あるぞ。臓硯の執務室が二階のほうにあるはずだから、そこを使ってくれ。中にあるやつは邪魔だったら捨ててもらっても構わない」
「おお、そうか。ならばそこで軽く準備をしておこう、桜嬢を連れて来てくれ」
わかった、と答えてから二階の桜の部屋へ向かう。正直なところ桜をこの戦争に巻き込みたくはなかった。だが、そうは言っていられない。リンカーの言ったとおり、雁夜だけでなく桜も狙われる可能性もある、というか確定だろう。聖杯という至上の宝がある以上、相手の親族や親しい人に手をかける魔術師の方が圧倒的に多い。そんな奴らを相手に明らかに弱点である桜を放置できるわけがない、というのがリンカーの考えであり、そしてそれはあたっている。
「だいたい、俺が桜ちゃんを放っておける訳がないなんてこと、サーヴァントにはあまり関係ないんだけどな、思慮深すぎだろうあいつ。…バーサーカーなのにな」
バーサーカーというクラスの英霊は、総じて「狂化」というスキルを持っている。それは文字通りそれを所有する英霊を狂わせるというものだ。リンカーもバーサーカーである以上狂化のスキルは持っているはずだ。だというのに小さいことでも一喜一憂し、今を楽しんでいる。
そしてそもそもの話、リンカーの旅の記憶を覗き見た雁夜からすればなぜリンカーのクラスがバーサーカーなのかは理解しがたい。あの旅路では剣はもちろん弓も、槍でさえ使いこなしていたリンカーだ。なぜ三騎士のどれかではなくバーサーカーなのだろうか。
「…今度聞いてみるか」
まともな者でもその人物のとある一面や、後世への伝わり方によっては英霊の核が変質することもあるというが、リンカーもそうなのだろうか。
そんな事を考えていればもう桜の部屋の前だ。というか、桜がこの話を断る可能性もあることを忘れていた。その場合は身を呈して守ろう、そう決意する。
「桜ちゃん、少し話があるんだ」
ドアをノックしてそう言えば、はーいと返事が聞こえる。
「どうしたの、雁夜おじさん?」
「ああ、あのな。…魔術を、習ってみないか?」
「やる!」
即決でとても安心だ。
○○○○
「さて、まずは魔術理論から説明しようか」
桜を連れてリンカーがいる部屋へ行ってみれば、丁寧な日本語で『ソウルの魔術』と書かれているノートを渡され、そのまま椅子に座らされた。このノートはどうしたのかと聞けば、「書いた」だそうだ。朝食の後から今までにノートを用意するなど、仕事が早すぎではないか?
「私が教えてもらった魔術、『ソウルの魔術』は、竜ととても関係が深い」
「竜?」
「ああ。まずは魔術師の理想、『竜の二相』についてだ。雁夜、竜の二面性について知っているか?」
「竜の…二面性?」
「…まあ、わからないで当然か。竜の二面性、それは『静』と『動』だ。岩のように佇む事もあれば、力をもって吼えたてることもある」
「それが二面性、か。それが魔術と関係があるのか?」
「ああ。これは見た方が早いか。…これが、『ソウルの魔術』だ」
そう言ってリンカーが手のひらを上に向ければ、そこに魔力が集まり数秒もしないうちにそれができた。
それは青く光り、だが炎のように熱いわけでも氷のように冷たい訳でもなく、ただ球体になってリンカーの手のひらの上に浮いている。魔術に疎い雁夜でもわかるほどに『神秘』を纏い、明らかに現代にはない魔術であることを如実に感じさせる。
「これは一体…?」
「これが、ソウルの魔術の核たる『ソウル』だ」
そう言った後に、浮かんでいる『ソウル』の球を握りもみ消す。
「身体に宿るソウルを感じ取り、具現化、放出して固める。それを打ち出して攻撃、または何かに纏わせるも良い。どんな状況だろうと佇む竜のように冷静に、そして攻めるときは吠える竜のように大きな一撃を。それこそが『竜の二相』、魔術師の理想だ」
「成る程…、どんな状況だろうと静と動をコントロールするのが理想、か。それは現代の魔術においてもそうなのかもしれないな」
擦り切れた精神状態で放った魔術は全力の半分にも満たないことは多々あるらしい。それはリンカーの時代においてもその通りで、だからこそ魔術師の理想たる『竜の二相』という言葉が生まれたのだろう。冷静に、しかして獰猛に。
魔術の基本にして理想、それを教えてくれたリンカーはもう既に師匠であり、リンカーも何も言わずとも授業してくれるだろう。だが、それは筋が通らない。
「改めて。…魔術を教えてくれ、リンカー。果たして俺がその崇高たる理想にたどり着けるとは思わない。だけど、何かを守る力が欲しい。自分の手で、守りたい」
「…魔術を一から習得するというのは大変だ。術式を理解し覚える
本当に難しいのだろう、それを覚悟できるようにあえて厳しい言葉を使っている。その優しさに感謝しつつ、またもリンカーの世話になるという情けなさを胸に隠して。
「ああ。教えてくれ、頼む」
「私にも教えて、リンカー。…雁夜おじさんとリンカーの戦いに、私が邪魔になるなんて嫌。だからお願い」
2人からの嘆願を受け取ったリンカーは、だがその顔を綻ばせ、先程の言葉とは一転した優しい声でもって話しかける。
「ああ、貴公らの覚悟、よくわかった。サーヴァントバーサーカー、『薪の王』。貴公らの魔術の師となろう」
『ソウルの魔術』、現代に存在し得ない神秘が今、2人に継承された。
短くて申し訳ないです。ソウルの話まで書きたかったのですが、いささか長くなりそうなのでカットします。
リンカーの魔術ですが、ローガンからは簡単なものと魔術理論だけ教えてもらっています。本格的にやり始めたのはオーベックに出会ってからです。
そして完全に私の事情なのですが、少し生活リズムを変えました。もしかしたらこれまで以上に更新速度が遅くなるかもしれないし、早くなるかもしれません。なので、あまり期待せずときどき確認して、「あ、こいつ更新しとるやんけ!」ってな感じで読んで頂けると嬉しいです。