聖杯戦争に薪の王が参戦しました   作:神秘の攻撃力を高める+9.8%

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遅くなり申し訳ないです。


開戦の匂い

「…さて、おおかた『ソウルの魔術』の理論については話せたかな。どうだ、何か質問はあるか?」

 

雁夜が改めてリンカーの弟子となった後、『ソウルの魔術』の由来や理論などについて話してくれた。その全てに現代では感じることのできない神秘が秘められており、その全てに歴史と魔術の奥深さが込められていた。微塵も知らない魔術理論ということもあり、三流以下の魔術師たる雁夜にとっては理論だけでも難しい。だがもとより魔術の才能はないわけではなく、一から教えられたもの、しかも自分の為に教えられているものだということもあってか理論だけならば初日にして理解できていた。

 

「質問か…まあ沢山あるんだが、一番はこれだな。『ソウル』ってなんだ?」

 

リンカーを召喚した日から度々口にしている『ソウル』という言葉。リンカーが生きていた時代の言い回しか何かかと思えばそうでもないらしく、あまつさえ『ソウルの魔術』という魔術がある。これまではあまり気にしてはいなかったが、その名を冠する魔術があるのであれば知っておいた方がいいだろう。

 

「『ソウル』って言うくらいだ、魂ってことでいいのか?」

 

「そう言い換えてもいいかもしれないが、やはり現代においての魂と『ソウル』では少し意味が違うな」

 

「そうなのか?」

 

どう説明していいのか少し悩んでいるのだろう、顎に手を当て目を瞑っている。もしかしてリンカーでもあまりわかっていないのか、なんて思えば、どうにも迷いつつ説明を開始した。

 

「たとえばそれぞれの解釈について話してみようか。魂というのは生きる者達の生命そのものというか、まあそれがなくては生きれない、のような存在だろう?」

 

「そうだな」

 

「では『ソウル』だが、これもあまり変わらず全ての生きる者に宿る。だが、『ソウル』は宿る者の本質そのものだ」

 

「…んん?何が違うんだ?」

 

「うーむ、そうだな。わかりやすく言えば、魂とは概念のような物だろう?存在こそすれど触ることはできず、またそのものが力を持つことも稀だ。だが『ソウル』は実在し、それ自体が力を持つ」

 

あまりに抽象的な解説に理解が及ばなかったのか、顔をしかめる雁夜を見てリンカーが笑い、笑われた雁夜は少し恥ずかしげに言い返す。

 

「…そう笑うなよ。難しいものは難しいんだ」

 

「はは、もとよりたった1日で理解できるようなものではないさ。じっくり時間をかけて理解していけばいいさ、私も協力しよう」

 

「…そうか、そうだな。ありがとうリンカー、明日からも頼む」

 

任されたと微笑むリンカーの笑顔が頼もしくて、雁夜もまた安心してか微笑みを返していた。

 

 

〜〜〜〜

 

 

リンカーとの魔術講習が終わり夕ご飯を食べている時に、ふと思い出したというようにリンカーが雁夜に話しかける。

 

「そうだ。時に雁夜、貴公はなにか魔術は使えないのか?貴公がまともな魔術訓練などできていなかったことも、そうせざるを得なかったこともわかっているが、それでも魔術師だ。何ができ、何ができないのかは把握しておきたい」

 

不躾ですまないが、と申し訳なさそうにするリンカー。それもそうで、リンカーは雁夜の地獄のような一年間を知っているのだ。なればこそそのような試練を乗り越えた者に鞭打つような質問はあまりしたくは無いのだろう。

 

「いや、謝らなくてもいいさ。…なんとも恥ずかしいが、俺ができるのは臓硯の蟲を操る程度で、それも借り物の力だ。臓硯の呪縛から逃れられた今、蟲を使えるとも思えない。現にもう俺の身体に蟲はいない筈だが…」

 

そう言いながら身体の隅々まで魔力を通して調べていく雁夜。リンカーの魔力と主たる臓硯の死により全ての蟲は灰になっている筈だ。だからこそ、探ったところで何もないのはわかっている…、

 

「…んん?」

 

「どうした?」

 

「いや、俺の身体から蟲は全部いなくなったと思っていたんだが…。ん?いや待て待て、何だこれは…」

 

雁夜が己の身体から感じ取ったのは蟲との魔力のパス。これまではただ使役するだけでそんなものは感じることはなかった。

 

「んんんん?これは…使役?いや、服従か?…まさか!」

 

急いで魔力を滾らせ掌に集めていく。このような単純なことさえ少し前までは満足にできていなかったにもかかわらず、二流魔術師程度の魔力の行使ができるようになっているのも、短いながらもリンカーとの魔術訓練や単身での鍛錬のおかげだろう。

 

だが焦っているのかそれに気づくことなく、魔力を十分に集めた雁夜は蟲を召喚する。

 

「こ…これは…!」

 

手のひらを少し超えるほどの体長に、シャープな体。そしてその身体の半分を占めるほどの鋭い角に、その左右からはこれまた鋭い角が内側に弧を描いて生えている。そしてその全てを漆黒の甲殻で覆った姿は紛うことなきーーー!

 

「…カブトムシ?」

 

「ああ。それもだいぶカッコいい、な」

 

雁夜もリンカーも、一緒にいた桜でさえも呆気にとられている。いち早く硬直から立ち直ったリンカーが考察する。

 

「ふむ…。魔術というのは使い手の意思により大きく変容するものだ。恐らくだがその蟲は元の主の死に加え、私の魔力により浄化された状態だったのだろう。故に雁夜を宿り主とし、新しい主が使役するに相応しい形を取ったのではないか?」

 

「成る程、そういうことか…」

 

まあ、何にせよ、とリンカーが続ける。

 

「かっこいいというものは、それだけで良いものだ」

 

 

○○○○

 

 

どうにも、()()()()()()()。それは此度の聖杯戦争に召喚されてより暫く経った頃から感じるようになっていた。それこそ、かつての大敵が眼前に立ち塞がったかのような威圧感を放つ存在、それが自身の行く手を阻むようにも、導くようにも。そんな訳の分からぬ()()は、聖杯戦争の舞台、日本の冬木に向かうこの飛行機の上でもひしひしと感じ、それどころか強まるようにも思えた。

 

アインツベルンのマスター、衛宮切嗣に召喚されたセイバーは己の直感を疑いはしない。何故ならそれは己が戦いの中において身につけたものであり、実際その直感はよくあたる。

 

だからこそ信じられない。己が数ある英雄、その中でも聖杯に選ばれた英霊の中で頂点だなんて微塵も思いはしない。だが、ブリテンの王、そしてかの聖剣に選ばれた自分ならばある程度の格はあるのだろうと自惚れではなく知っていた。

 

「…ブリテンの王、か。結局私はその役目を全うすることはできなかったのだろうな」

 

もし、完璧に王として国を幸せにすることができていたなら。もし、完璧に王として為すべきことを成せていたなら。彼の心情を、息子の心を理解してやることができたのなら。

 

「セイバー、どうかした?」

 

「ああ、申し訳ないアイリスフィール。少し考えごとをしていました」

 

考えごと、という単語に目を光らせ、私興味ありますと雄弁に訴えかけるその瞳はやはり女性かと笑うべきなのだろうか。

 

「へぇ、かのアーサー王にも悩みごとはあるのね!それで、どうしたのかしら?私でよければ相談の相手くらいにはなれると思うけど…」

 

あまり面白いものでもなし、話していいものかと悩むセイバーに話したくなければいいと申し訳なさそうな声をかけるアイリスフィール。

 

「いえ、そういう訳ではないのですが…。そうですね。あの時こうしていれば、そうやっていれば、なんていう悩みは尽きることはありません。いくら聖剣を抜いたとしてもただの人間だと己を正当化することもあります。所詮人間に為せる事など限られているのだ、と」

 

「…!いいえセイバー、それでも貴女は偉大で、立派な王なのよ。ブリテンという国をまとめあげた自分をあまり卑下しないで。…あまり人生経験のない私が言えた義理でも無いのかもしれないけどね」

 

「…いや、ありがとうアイリスフィール。私もいつかこの悩みに終止符を打てる人間になれるよう目指しましょう。…さて、私の話はこれくらいにして、目下聖杯戦争においての悩み、というかただの直感なのですが…」

 

セイバーは己の直感について話す。どうにも強大な敵がいること、だがその敵が自分を導くことになる予感がすることも。そんな荒唐無稽な話でもアイリスフィールは聞き逃すことはない。何故ならそれが歴戦の騎士王の直感であるから。

 

「たかが直感、なんて笑い飛ばすことはできなさそうね…。警戒するに越したことはないでしょうし、あとでキリツグにも私から話しておくわ」

 

それがいいでしょう、と今現在取れる対策を練っていく2人。

 

聖杯戦争の舞台、冬木。セイバーとアインツベルン陣営は、そこに微かな緊張を持って合流することとなった。

 

 

○○○○

 

 

少しだけ、時は遡る。

 

アーチャー、ギルガメッシュを召喚した魔術師、遠坂時臣は、夜の遠坂邸にて己の弟子である言峰綺礼より報告を受けていた。

 

「ほう。間桐の屋敷が炎に飲まれた、と?」

 

「はい。ですが燃え広がることはなく、すぐに鎮火したと。他にも屋敷から出てくる間桐の者以外の人物がいたとの報告もあります。恐らくですが、そいつが間桐のサーヴァントだと見て良いでしょう」

 

「ふむ、そうか。火、炎か。屋敷が燃えたとなれば制御しきれていないのか?」

 

サーヴァントを御しきれない、それはまだわかる。何故ならマスターはあの間桐雁夜であり、力のなさを克服するためバーサーカーを召喚したのだろう。だが、屋敷が燃えたとならば解せないことだ。あの屋敷には臓硯がいる。

 

「あの男を以てして、制御しきれていないということか…?それほどまでに強力な火を扱う英雄、か」

 

「炎を扱う英霊、ですか。どのような者がいるので?」

 

己の弟子の質問を受けながらも、それ自体は時臣も考えている。だが、わからない。火を扱い、バーサーカーでありながらもあの臓硯でも御しきぬ程の英雄。

 

「さあな。火にまつわる伝説を持つ英雄はどちらかといえば多い方だろう。屋敷が燃えた、というだけでは特定は難しいだろうな」

 

「左様でしたか。私の知識不足でごさいました、申し訳ありません。…では、私からはこれで」

 

「ああ、ご苦労だった。引き続きアサシンには監視を続けさせろ」

 

通信を切り、一人思案する時臣。御しきれぬほどの力を持つバーサーカー、というだけならば心当たりもある。…まあ、それ通りならばこの聖杯戦争での勝利は難しくなってしまうのだが。

 

だが、相手は火を扱う。火にまつわり、狂化のスキルを持つに足る伝説を持つ英雄となれば…。

 

「何か面白いことでもあったのか、時臣?」

 

そんな時だ。背後よりかかるその声。その声の主こそがアーチャーであるギルガメッシュだ。

 

「ッ!…王よ、あまり小心な私を驚かさないで頂きたく」

 

「ふん、この程度で縮み上がるその肝を持った自分を恥じよ。それで、何かあったのか?」

 

苦情を皮肉で返されたことに多少憤りながらも、その感情を表面には微塵も見せることなく答えていく。

 

「ふむ、炎を操る英雄とな…」

 

「ええ、それもかなり強力だと思われます。…王よ、何か心当たりがあるのですか?」

 

「いやなに、唯の空想よ。…ああ、時臣。ひとつだけ質問だ。『薪の王』を知っているか?」

 

『薪の王』、薪、王。どれも聞いたことのない話だ。アーチャーが知っているというのならば古い伝承か何かであろう。少しでも不敬の無いように考えるが何も思い当たらない。

 

「…王よ、申し訳ありません。『薪の王』なる存在を私は知っておりません。私の知識不足をどうかお許しください」

 

ふん、と鼻を鳴らし、もう興味などないと言うかのように扉の方へ歩いていく。結局『薪の王』が何なのか知り得なかった時臣は、焦ってそれが何たるかを質問する。

 

「何、単純なことだ。幼き(オレ)を冒険に駆り立てた男の名だ。もう古く、知る者もいるかはわからぬがな」

 

時臣は驚愕する。あのギルガメッシュを、英雄王を冒険に駆り立てた者が存在しようとは。せめてその男の話を聞こうとするが、その前に霊体化し消えてしまった。

 

 

もとよりギルガメッシュはこの聖杯戦争に何も思うところなどなかった。己の財を我が物にせんとする浅はかな雑種どもを蹴散らそうとしたまで。だが、本当に聖杯が万能の願望器足るのならば。

 

「我自ら『薪の王』を召喚するのも、悪くない」

 

 

○○○○

 

 

様々な思惑を孕みながらも、やがて戦争は始まっていく。

 

 

 

 

 

 




次の話からやっとZero本編に入ります。
長くなって申し訳ございません…!

ここからは自分語りなんですけど、うちのカルデアにエルキドゥさんが来てくれました。特にピックアップもなく、たまたまあった石で単発引いたら何故か来てくれました。やはり単発教こそ神の導き、左乳首教など邪教よ…!

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