聖杯戦争に薪の王が参戦しました   作:神秘の攻撃力を高める+9.8%

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前回に原作本編に入るとか言いましたが、入れたらめちゃ長くなりそうなので切りました。すいません。


絆の深まる音

今や主人の居なくなったその執務室は、だが主人が居た時よりも騒々しく、そして楽しげに新たな主人を迎えていた。

 

「くっ……んぬぬぬぬ」

 

「…なあ雁夜、力んでも魔術は発動しないぞ」

 

「ぬぬぬっ…。はぁ、わかってるよ。冷静に、だろ」

 

簡単に言うなよ、なんてボヤいてみても未だにソウルの魔術どころかソウルを具現化させることすらも出来ていない雁夜にとって、その言葉はとても痛いところを突いていた。

 

『佇む竜のように冷静に』

 

リンカーが教えてくれた魔術の理想の一つであるこの言葉。あらゆる魔術師に通じるであろうこの理想を説いてくれてから3日が経っているのだ。その間、それこそ魔術の基礎の座学は上達すれどもソウルの魔術に関してはからきしだ。

 

リンカーが言うには才能こそあれど、上達が遅いのだろうと言ってくれた。そういう者は扱えるようになったときに高い技量を秘めている、とも。ただの慰めなんかではなくて、理解しようと努力したぶん、理解した後のことも使いこなせるようになるらしい。それに手ごたえが全く無いわけではないし、あと2日もあればソウルの矢程度ならば使えるだろうとリンカーも言っている。

 

だが、それでも焦ってしまうのだ。

 

「おお、流石だ桜嬢。『短矢』を放てるようになったか。その魔術は簡単なようで出力を絞るための理力を必要とするからな。それを使いこなせれば、魔術戦で大いに役立つはずだ」

 

「ありがとうリンカー、でも使えたからって調子に乗ったらダメなんだよね?ちゃんといつでも撃てるようにならなきゃ」

 

「ああ、その通りだ。しばらくは基礎を固めると良い、完璧になれば次の魔術を教えよう」

 

「ホント!?やったあ!」

 

これだ。この和気藹々とした魔術トーク、だがその中に自分が入っていないのだ。別に桜のほうが才能があったとか、こいつら今絶対俺のこと忘れてるなとかそういうことは思ってはいない。ないったらないのだ。そう言うことではなく、問題はこの楽しげな会話に自分が入れていないことだ。

 

魔術の授業が始まって初日を除き、ほぼ毎日繰り広げられているこの雰囲気。その中に自分はおらず、いるのは褒めるリンカーと喜ぶ桜のみ。ああ、まざりてえなあと思った雁夜を誰が責められようか。だが、それにしろソウルの魔術というのは難しい。なにせソウルという存在自体が現代にない概念であり、それを具現化させただけでも驚く程の神秘を纏っているのだ。それをなんでもないかのように顕現させ、また揉み消した初日のリンカーの行動からはリンカーがとんでもないことをしていると理解出来てしまう程に。

 

自分には才があると言ってくれている。この調子ならばすぐに使えるようになるだろうとも。だが、それは焦らない理由にはならない。一刻も早くこのトークに混ざりたいーー!

 

「…なあ、簡単に魔術を使えるようになる方法ってないのか?」

 

情けないとは思いつつもそんな言葉がついつい出てしまう。そんな弱音にも近い言葉にも、リンカーは笑顔で返す。

 

「そうだな、ない訳では無い。…魔術はイメージだ。一流は脳内にてその魔術の構成、効果、内容を一瞬で全てを想像し創り出す。そして、見習いはその境地を目指せども、どうにも想像が下手だ」

 

その通りだ。雁夜もその『想像』というところにおいてつまづいていた。何をすれば良いのか、どう構成すればいいのか。そんなことを一瞬で考えようとすればするほどわからなくなってしまう。

 

「それで、どうすればいいんだ?」

 

「なに、簡単だ。声に出せばいい。今から何を使うのか相手にわかられてしまうという欠点を除けばこれ以上ないほどに有効だ。なにせ、声に出してしまえば今から何を使うのかが自分でもわかるからな」

 

なるほど、簡単だ。確かに声に出せばこんがらがることもなく、今己が何をしたいのかをすぐにイメージすることが出来るだろう。だが、そんな初心者向けな方法があるのに、なぜ。

 

「…今まで教えてくれなかったんだ?」

 

「いやなに、今はここまでゆっくりできているが、聖杯戦争の最中というのは変わらない。当然、その中には雁夜が魔術でもって戦うこともあるだろう。なればこそ、より上達をして貰いたくて…」

 

と、そこでリンカーが言葉を切った。まるでなにか重要なものに気付いてしまったかのように、真理にたどり着いた者のように。

 

「…ああいや、そうか。この時代に『ソウルの魔術』は知られていなかったのか。ならば別に声に出しても問題は無かったか。…いや、申し訳ない雁夜、どうやらうっかりしていた」

 

この英霊、基本ハイスペックなのに時々ポンコツか、なんて考えてしまった雁夜を誰が責められようか。

 

 

〜〜〜〜

 

 

「ねえリンカー、リンカーって魔術をいくつ使えるの?」

 

魔術修練も終わり皆でご飯を食べている途中、桜がそういえばと切り出した。

 

「確かに、それは俺も気になるな。俺たちにあれ程教えられるのだから理解は深いんだろうが…。どうなんだ?」

 

「ふむ、私もあまりちゃんと数えたことはないのだが…。まあ、恐らく50は今すぐにでも使える程度には習得している」

 

50、その数に2人は驚愕した。雁夜も桜も、腐っても魔術の名門の血を引く者、魔術の才能は恐らく優れている筈だ。その2人をしても初歩中の初歩の魔術を習得するのに4日もかかっており、現に雁夜は行使すらできないでいる。ようやく葉を一枚取れたとて、その元の木は大樹であるかのよう。それ程の難度なのだ、ソウルの魔術とは。

 

それを即座に扱うことのできる50の術式、その中には自分達の考えも及ばぬほど難解な物も含まれているのだろう。

 

2人の驚愕と畏敬をよそに、リンカーは言う。

 

「ただ魔術がいくつも使えるからと言ってその者が優秀とは限らない。本当に優秀な者とは、強力な物も簡単な物も、その全てを理解し使いこなせる者の事だ。…私も、未だそんな高みには立てていないさ。貴公らの期待するような者ではなくてすまない」

 

どこか悲しげに話すリンカーに、雁夜も桜も声をかけることが出来ないでいた。リンカーのその過去、過酷な不死の旅路においてどのようなことがあったのかを雁夜はまだ知らない事の方が多い。

 

過去の『不死の英雄』になにがあったのか、など。

 

「…お前が高みに立てていないって言うなら、そうなんだろうな。俺らには魔術のことなんてまださっぱりだ。だけど、期待するような人じゃないなんて、いつ言ったんだ」

 

「貴公らに魔術を教えてやると、習得させてやると言ったのは私だ。なればこそ、その師は熟練者で在るべきだろう」

 

珍しく落ち込んだような口調。この数日リンカーと過ごして初めて聞くその言葉に、雁夜は驚きよりもずっと怒りを感じていた。なんなのだ、その俯いた顔は。一体俺は何を聞かされているんだ。

 

「俺はお前の過去をあまり知らない。この前みたお前の記憶だってその一部だとお前は言う。だから、その知らないところにお前にそう思わせる何かがあったんだろう。それはいい、別にお前の事を全て知りたい訳でもない。でも、なんだ、お前のその言い分は?いつ、俺がお前は魔術の熟練者でなければならないなんて言った?」

 

俯いていたリンカーの顔が驚きによるものか、目を見開き雁夜を注視する。

 

「さっき魔術を50くらい使えるって言ったばかりじゃねえか、十分すごい事だろう!?それともなにか、まだ一つも扱えない俺を馬鹿にでもしてるのか!?」

 

「いや、違う。決してそんな事では…」

 

「じゃあもっと誇れよ!俺たちがやっと根元に立てた木のてっぺんには登れなくても、その全貌を知ってるんだぞって誇れよ!…俺の知ってるリンカーはそんな事気にしないだろ、そんな俯かないで笑えよ」

 

『今のリンカー』を知る雁夜にとって、その弱音にも似た言葉を聞くことは苦痛であった。まだ出会って1週間も経ってないお前に何がわかるのだと、そう言われてしまえばそれで終わりだ。

 

それでも。桜を助け、自分まで助けてくれたリンカーには、いつも通り見透かしたような微笑みが似合うのだ。

 

「…私が、貴公らの魔術の師であっても良いのか?」

 

「良いに決まってる、というか最初に言っただろ、頼むって。それにお前はこう答えた筈だ、師となろうって。ならもうそれは覆せない、いやさせない。俺が一流の魔術師になるまでお前にはずっと師でいてもらう。だから、さ。…弱音なんて吐かずに笑ってくれよ、な?」

 

リンカーが生きていた時代からすれば本当に優秀とは言えないのかもしれない。だが今の俺たちにとっては確かめる術なんてなく、リンカーが全てだ。だからこそ、そのリンカーには誇ってほしい。その技術を、その神秘を。

 

「…はは、そこまで言われれば私も誇りを持てるかな。なに、随分と情けない所を見せてしまった。…一流になるまで、か。なら、厳しく行こうか。一流というならば、私の使える魔術、その半分は完璧に扱えるようになって貰いたいものだ」

 

半ば冗談めかしたその言葉、それでもちゃんと笑ってくれている。誇りにしようと、そう言ってくれた。ならば、己もこたえるべきだ。

 

「ああ、やってやるとも。次からはもっと厳しくてもいいぞ、絶対食らいついてやる」

 

その食卓には喧騒が戻り、笑い声が時おり聞こえる。マスター(三流魔術師)サーヴァント(古の英雄)という歪な関係、それでも確かに絆の深まる音が響いた。

 

 

 




理力99が一流じゃないわけないんだよなぁ…
リンカーがあんな持論を持っているのは、オーベック君を自分のせいで殺してしまったと思っているからです。自分が師を殺してしまったのなら、せめて自分が教えるときは誰よりも上であろうと思ってしまっていたんでしょうね。

遅くなり申し訳ありません。色々と忙しかったり、なかなか筆が進まなかったこともあってとても待たせてしまいました。

次はやっとリンカーと英雄王が出会います!英雄王の口調や各サーヴァントの特徴などをうまく捉えられると良いのですが、不安です。もし間違ってたりしたらそっと教えてくれると助かります。

それと、もし拙作を楽しんでくれたり、続きを読みたいと思ってくれるのなら、評価や感想をくれると私がむせび泣いて喜びます。あとモチベーションが爆上がりするので更新頻度も上がると思います。お暇があればよろしくお願いします。

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