一話
原作通りにフェストゥムに島の位置を探知されそうになった。
次世代機であるノートゥングモデルはアイン、ツヴァイの二機はロールアウトされたものの、現状はパイロットが見出だせないためブルクで眠っている。
そのためコード形成率をあまり要求しないティターンモデルreを主戦力としたL計画が生駒正幸により考案された。
正直、L計画は行われないと期待していたが、やはり運命は変えられないようだ。
しかし、問題として一つ。
戦闘統括指揮をするため+敵の読心能力を防ぐためのジークフリード・システムのパイロットを決めるのに難航していた。
優れた状況判断に高い同化耐性率、それと二ヶ月という長い間、戦い続けられる覚悟と精神。
適性を持つ候補として、俺たちの世代から近藤剣司、春日井甲洋、皆城総士、そして…俺こと真壁信が挙げられた。
近藤剣司、春日井甲洋の両名はメモリージングによりAlvisの存在すら思い出していないため+精神が成熟されていないためとの理由で除外。近藤はHAEから覚醒、春日井は両親が少々アレだし。
その為、必然的に俺と皆城が残った。
……そして、とある日。
父さんが皆城公蔵と総士を家へ連れて来た。
「こんにちは、信くん」
「お邪魔している」
「……珍しいですね、司令が家に来るなんて」
「二人とも今日はお前に用があって来たんだ」
ふぅん。一騎が居ないのを見計らってことは。
「……もしかしてL計画のことですか?」
「おい、信。どうしてそれを知っている?」
「悪い父さん。ちょっと会話を傍受させて貰った」
「またバカなことを……」
「…本来はアルヴィスへのアクセス権限を剥奪するところだが、今回はことがことなので不問とする」
「ありがとうございます」
「説明が省けたが……率直に聴く、君の意志を聴きたい」
「……5パーセント」
「なに?」
「俺が算出した"一人"が帰還する場合の可能性です。生駒さんも大体同じ数値を提示したんじゃないですか?」
『っ!?』
父さんと皆城が驚いた表情をした。
知らなかったのか、原作では作戦開始後に知らされていたっけ。まあ、違いと言えば作戦で全滅する可能性が殆どないとうことくらいか。
「……父さんその話本当なんですか?」
「……ああ、その通りだ」
皆城司令が肯定すると俺たちは沈黙した。だが、諦めないのが一人。子供の特権だ。
「……だったら、別の作戦を考えましょう!まだ時間はあるはずです」
「いいや、皆城それは出来ない」
「どうしてだ!?」
おー、総士が怒ってる珍しい。
「理由はこの島にある」
「……島に、だと?」
「まず、防衛機能がまだ完全じゃないこと。だが、問題はそこじゃない。もっと根本的な部分にある」
そうなんだよ。高望みだがあの子がもっと成長していれば島を拠点にしたファフナーによる防衛作戦も立案出来ただろう。
「島のコア…総士の妹に当たる乙姫ちゃんがまだ成長していないからだ」
「っ!?」
ようやく総士も理解してくれたか。
まだ、この時代の島のミールは生と死の生命の循環を学んですらいない。その証拠に島の子供たちは遠見先生が考案し人工子宮から誕生した者だけだ。
そして、乙姫ちゃんが悲しみという感情をフェストゥムに教えてすらいない…本当に原作みたいになるかは俺には判らないけど。
少なくともまだ希望が芽吹いてすらいない。
「俺が、やります」
「いや、ダメだ信。僕がやる」
「さっきの反応じゃ無理だろう」
声も震えてるぞ、総士。
しかし、その気持ち分かるよ。
……行う前に自分だけ犠牲が出ることが判ってしまったからな。
誰かがいなくなることが前提の作戦。それに、もしかしたら自分がいなくなるかも知れないと思うと怖いと思う。正直俺も少し怖いし。でも、それがこの世界の物語なんだ。諦めるしかない。
「よかったのかね、本当に?」
「はい。だけど、一つだけ条件があります」
「内容にもよるが、出来る限り聞き入れよう」
「では島に帰還した後、参加者には緊急時を除き戦闘には参加させないで頂きたい」
死ぬ予定は元よりない。なら、後は一騎たちに丸投げするための契約はしておくべきだろう。
「善処はさせてもらうとだけ答えさせて貰う、それではダメか?」
「いえ、それで大丈夫です。ありがとうございます」
「そうか。なら、この話は終わりだ」
こうして、L計画への参加が決まった。
***
幼い頃から島の為に生きることを決意していたがどうやら僕には覚悟が足りなかった。
『5パーセント』
最高戦力であるファフナーを投入しても40人中たった1人が帰ってこれる可能性。
犠牲が出ることは覚悟はしていたものの、もっと希望的観測を抱いていた僕は現実を知り酷く動揺した。
最善だと理解しても納得出来ない。けれどあの後、生駒さんが全員で帰ると進言したから、その言葉を信じて計画の承認をしたということを父さんから教えてもらった。
彼も帰るつもりでいるから、約束を交わしたのだろう。
未だ気持ちは固まってはいない。けど、僕は友達を見殺しにすることは出来ない。
「信、僕と勝負しろ」
「断る」
「僕に負けるのが怖いのか?」
「そもそも勝負する理由がないだろ」
「僕にはある」
「俺にはないんだけどな」
「だったら計画から辞退しろ。そうすれば僕はもう君に纏わり付かない」
「あっ、一騎だ」
「何?」
後ろを振り返るとそこに一騎は居なかった。
「居ないじゃ……おい、信!」
信はその場から逃げ去り廊下を駆け抜けていた。
一騎には劣るものの信は高い運動能力を有している。恐らく僕と同じくらいか。
「鬼ごっこか…いいだろう」
だが、負ける訳にはいかない。
***
「なあ、いい加減諦めてくれよ」
「僕はまだ……」
結局、信に追いつくことが出来ず僕が根を上げてしまった。いつも、後少しという所で信に負けてしまっている。統計上では同じくらいの勝率だというのに、最初に勝つのはいつも信だ。そういう勝負強さも必要なのだろうか。
「ちょっと、旅行に行ってくるだけさ」
「楽観視し過ぎだ」
死ぬかもしれない、旅だというのに。
「そうかもな」
「……恐くはないのか?」
「そりゃ恐いさ、でも」
信は空を見上げながら。
「誰かが進み続けなければ何も変わらないからな」
「……一体、何の話だ?」
「俺たちが大人になった未来の話さ」
「未来、か。考えてもいなかった」
「生存限界や同化現象とか考えているだろ?」
「……現実ではそうなる可能性が高い」
今の島の医療技術では遠見先生には失礼だが、僕らが中学生を卒業するまで"ここ"に居られるかは解らない。第一に敵の規模も把握が出来ない現状だ。今日という平和を享受している僕にとって父さんたちのような大人になることなんて想像をしたことはなかった。
「……約束しろ」
「?」
「絶対に帰ってこい、君はこの島に必要だ」
「わかってるさ。帰ってきた時には一騎とは仲直りしていてくれよ」
「善処はしよう」
そして、数日後。
L計画が決行され、Lボートは参加者40名を連れ島を離れた。