side 呆然とする研究者の1人
なんて事だろう
私は今、恐らく自分の“死”と対面している
自分が非人道的な科学者であり道を踏み外した外道だと自覚もある
しかし現代に受け継がれた知識や技術は過去には人体実験を皮切りに数多の非人道的な実験によるデータの積み重ねであるのは間違いない
だが結果を出してしまえばソレほど騒がないだろう
皆が我々の技術を欲しがる“客”になるからだ
自分達もその偉大なる偉人の仲間の1人に成るために
私を見下した奴等を見返すために
崇高な実験のために犠牲になる被験体も本望だろう
嫌がり泣いても最後は我等と未来の礎に成れるのだから
しかし今の状況はどうだ?
最有力候補の最終実験の最中に突然の異変、此方のコントロールを受け付けなくなった
被験体は眼や鼻、耳からも出血しながらのたうっている
ソレも拘束具を破壊しそうな激しさでだ
何かあれば被験体を殺してでも実験を中断する積もりだったが何故かその扉も開かない
同僚が何かを叫ぶ、どうやら施設のコントロール“も”ダメになったらしい
別の同僚も何か叫ぶ、被験体の“首輪”が反応しないと言う
“首輪”と言うリミッターが無くなった被験体の未来は大きく2つだろう
M.M.の暴走による自滅
進化する者の行き着く先は“自滅”と言う最もポピュラーなものだ
M.M.とラーニングシステムの学習による完全適用
ラーニングシステムを組み込んでいるのだからもしも最後まで最適化が進めば我々ではもう止められないだろう
上司が何かを叫ぶ、皆気付いていないのか?
少年はもう起き上がっているのに
本当ならば皆の様に慌てるのだろうが妙に頭がスッキリしている
少年と目が合う
どうせ最後なのだ
近くのタブレットを引き寄せ彼にメッセージを送り、頭を下げる
頭を下げながら私はニヤリと口を歪める
Side out 呆然とする研究者の1人
ガシャン!!
突然の異音、拘束された被験体が大きく身体を痙攣させている
ガシャン!ガシャン!ガシャン!!!
「大変です!被験体の生命維持に支障が出ています!」
「出血です、口内、瞼、耳からも出血しています」
「バイタルの変動が大き過ぎます?M.M.の適合率も急速に低下!」
「実験中止!直ちに停止信号を!!」
「・・・っ!ダメです、信号を受け付けません!」
周りが慌てだすが既に遅いだろう
「仕方無い、被験体を殺処分する」
「首だ!確実に首を落とせよ!」
男が非常用の斧を手渡す
「もしもの為に首だけは傷付けなかった、再生はしない筈だ!」
「解った!・・・ッおい!何で扉が開かないんだ!」
「何故開かない?チッだったら破れば良いんだ」
「む、無理ですよ!ロケット砲にも耐える設計と素材で作られているんですから!」
「馬鹿が!!何故そんな施設に斧しかないんだ!!マニュアル操作の鍵とか有るだろう!?」
「奪われると不味いからと・・・あぁ?不味いぞこれ!」
「今度は何だ!!」
「施設のコントロールが私達から離れました、操作不能です!!」
「ふッフザケルナ!!直ぐに取り戻せ!!」
「無理です!操作出来ません!それと被験体の“首輪”の反応が消えました!!」
「次から次へと馬鹿にして!!斧でも何でも良い!兎に角破るんだ!」
「わっ解りました、オラッ!!」
ガギャン!ガギャン!!と派手な音と火花が散るが軽く歪むだけで突破は難しそうだ
《危険です、危険です、ジェネレータの出力が危険域です、直ちに避難してください》
急な警報に皆が黙る
「おぃ、どう言う事だよ、アレは完全に制御されているのに・・・」
「まさかアイツが!?」
男達の視界に映ったのは48基ある全てのジェネレータが臨界間近なのを伝えるモニターと強化ガラス越しの“鬼”であった
電脳空間 PE-951326号 side
鋭い痛みが走る
暗転した視界が戻りだす
ズキッ!ズキッ!!
頭痛に合わせて視界にノイズも混じる
ノイズに合わせて辺りも変化していく
《ぅぅッ、これは何だ?周りと言うか世界?いや空間?ができている?》
ただの光と数字の羅列だけだった世界が今や劇的な変化を遂げていた
色々と荒いが“この研究施設”を象っている様だ
気付くともう頭痛は無く周りのノイズも消えていた
施設の壁に何か“丸いカード?”の様なモノが幾枚も貼り付いて、浮いている?
意識を向けると“丸いカード?”は独りでに動き僕の前に、少しの文字と四角い枠が現れ何かが流れ込んで来た
―――
――
―
「やめてよ!おとうさん!おかあさん!たすけて!!」
「五月蝿い!黙れ!」
捕まった子供が助けを求めるが男は容赦なく子供を地面に叩き付ける
「アがッ!?ゲホッゲホッ!嫌だ、だズゲで!」
「黙れって言っているだろうが!おりゃ!オラッ!」
腹に蹴りを受け壁まで転がり呻く
「ヒューッヒューッゲホッ」
もう喋る気力も無い様だ
「お前がバカな事をすればお前の父ちゃんと母ちゃんには痛い目に会って貰う」
「・・・やだ・・・や・・・めて」
「まぁ、今お前がバカな事をしたから少なくとも一回はボコらなきゃな」
男が端末で何かをした
部屋のスピーカーから声が流れ出す
《ココでのルールは俺達が全てだ、バカな事はしないことだ》
《五月蝿い!――ガツ》
《五月蝿いじゃあ無いんだよ、お前が歯向かえばお宅のガキが代わりに制裁を受けるんだ、丁度ガキが受ける処か》
《―たすけて!おとうさん!おかあさん!―》
《―五月蝿い!黙れ!―》
《いやーーー!!》
女の悲鳴の後に呻き声
《コレで解ったかな?子供を生かしたければ従順でいる事だ、勿論安全や生存を保証など出来ないし無いが貴方達には選ぶ選択しも無いだろう?》
《糞野郎が!》
男げ怒鳴る
《―黙れって言っているだろうが!おりゃ!オラッ!―》
《追加の制裁を受けてもらいましたが?》
《――》
《もう意見は無いですね、有っても困りますが、さぁ実験を始めましょう》
ソコで音が切れる
「クックックッ、ア~アお前のせえで父ちゃんと母ちゃんは痛い目にあいました(笑)」
男は子供を引き摺る様にして部屋から連れ出す
ソコで映像が止まる
―――
――
―
アレはココに連れてこられた頃の僕?
ならあの声は父さんと母さん?
先程の“丸いカード”は元の位置へと戻っていく
《見なきゃ全部見なきゃ!》
因に現実世界では殺処分が決定されたところだった
―――
――
―
多分始めから知っていたんだろう
全てのデータを閲覧した後によくある隠しアイテムの様に1つの映像データが現れた
今までの物とは違いファイルの名前が僕の名前[―――]だったんだ
見ればそれは母さんだった
母さんは最初から電脳化実験だけの被験体で最後は脳が過剰な負荷に耐えられずに脳を焼かれたらしい
しかし母さんは意趣返し、悪足掻きだろうか?
少なくとも諦めてはおらずこんな事をしたらしい
元々プログラマーだったらしい母さんは“電脳空間”で“ラーニングシステム”を使い更に“全てのデータを見る”事を鍵として隠した
電脳実験だけならラーニングシステムと合わせても問題無いらしいが他の機能も一緒となると話は違うらしい
母さんはラーニングシステムに細工してオーバーフローを起こして電脳空間と外界を隔離し時間を稼ぎ館内システムを誤認識させて閉じ込めた
最後に“首輪”を外してくれるらしい
もう居ないのに死んでしまったのに母さんは俺を助けてくれた、父さんとだって身体を掻き回されてみ諦めてはいなかった
寧ろ積極的に処置を受けていた、多分母さんの為だろう
[M.M.稼働阻害用プログラムを削除しますか?]
[××××××××××××]
[Y/N]
既にパスワードも用意されている
《お父さん、お母さん、本当にありがとう、助けてくれてありがとう、助けられなくてごめんなさい!》
[クリーンアップを開始します]
電脳空間 out
現実 PE-951326号 side
電脳からこっちへ戻ってきたと実感できる
身体を起こす
「コレが本当の目覚めってヤツか」
身体が思い通りに動き軽い
今までのがストレッチャーや車椅子での移動だったがこれは凄い
僕を見るおっさんと目が合う
穏やかだった内面が急に暗くなる、嵐の前の何とかみたいだ
スゴくムカムカ、イライラする
おっさんが頭を下げた
近くのモニターにウィンドウが映る
『おめでとう、養ってやった恩を仇で返すとは素晴らしい成長だ
そのまま迷惑を振り撒きながら“幸せ”に生きると良い』
―――ブチリ
そんな音がした気がする
訳が解らない事を言うなよ
幸せなんざお前等がみんな奪い去ったじゃないか
フザケルナ!!フザケルナ!!フザケルナ!!!
瞬時に電脳空間へ入り映像データから不必要なモノを削除して集める
いかに独立したネットワークでも何処かで外と繋がってる筈だ
ソコにこの映像データを流してやる!
この施設の資金も全部寄付にしてやる!
誰も生かさない、この施設の扉を全て閉じた非常扉も全てだ!
良いものが有った、ソレも48個も、コイツを同時に爆発させてやる!!
さぁ、カウントダウンだ、自らが処刑されるカウントダウンだ!
既に臨界を越えた、もう停まらない
最後にクソッタレ達を嘲笑ってやろう
現実に戻るとクソッタレ達がこっちを引きつった顔で見ている
ビシッ!
何だか地面が揺れているけど関係無い
バキッ!
何かが壊れていく感じがする、でも関係無い
父さん、母さん、もう直ぐ行くよ
最後はヤッパリ笑顔だよね
にっこりと笑ってやる
「みんな死んじゃえ!!!」
ビシッ!バキッ!バリバリ!!!
激しい閃光と衝撃で僕の視界は真っ暗になった
PE-951326号 side out
情報の補完
M.M.技術
M.M.技術は攻殻の一部を妄想して膨らませました
ぶっちゃけてM.M.でココまでの事は本来出来ません
イカれた技術者と被験者とプログラマー達の要素が全てプラス方向へ伸びた偶然や奇跡的なモノです
この世界ではココまで高性能なM.M.はもう二度と出ては来ません
ジェネレータ
この世界で出てくるジェネレータとは大きさが2㍑ペットボトルより一回り大きい位の核発電機です
M.M.を多用し[高出力で移動に便利、緊急時は操作無しで即停止]
を売りにしたレンタル品であり研究施設の資金源だった
車輌で運べるものの重量があり専用の運搬器具が必須である
被災地等で大活躍な実績がある