標的01銃と黒猫と紅いリボン
なんだか大切な何かを忘れてしまったような気がする。
たゆたう意識、私という人格が何もない真っ暗な闇の中糸の切れた風船のようにふよふよと漂っている。周りは混沌とした闇ばかりでただただこの身を委ね流される。
それが心地いいのだ、何も考えなくていいから。
『アレ』を思い出さなくていいから
ふと思った。アレってなんだろう?
『オモイダシテハダメアナタガコワレテシマウ』
『オモイダシテハイケナイアナタガキエテシマウ』
私の思考は強制的に何かによって止められてしまった。
また心地いい眠りが私を深く暗いところへ誘う。まるで麻酔のように。
それもいいかもしれない。何も考えずただただ深く暗い場所へ埋まろう。
そうすれば何も思い出さなくてもいい。心に【また】傷を負わなくてすむのだから。
『駄目よ』
誰?
『眠らないで一人にしないで』
…起こさないで。私は眠りたいの。
『貴女にはワタシがいるわ』
……やめて、構わないで…。
『起きて起きて頂戴、ワタシの為に』
………やめてっ!
『お願い、お願いよ。ワタシを忘れないで』
やめてぇぇぇえ―――!
※
あれ、私なんでこんなところにいるの?
気がつくと建物が入り組んでいる薄暗い路地に座り込んでいた自分の状況が把握できないあの時確かに私の体を何かが貫いたはずなのに、あのとき契約を結んだ代償として何かを取られた私。
服を大量の血液が真っ赤に染めていく中何かを助けるため、無我夢中で心臓に刺さった剣を抜いた。それ以降まったく覚えがない。というか記憶がごっそりと抜け落ちている。
ふと、考える。私は、誰を助けたかったんだろう、と。
大切な、『ナニカ』を…だれかを…忘れているような気がする。それは命よりも大切でずっと守ってきたもの。誰にも何者にも譲れない宝物のようなもの。
おもいださなければ、必ず思い出さなければ。
その時頭を鈍器で殴られたかのような痛みに襲われる。
「-――っ!!」
いたい!いたいぃ――!
鳴り止まない痛み。収まることはなくむしろだんだんと痛さを増していた。
ぁぁあああああ――!
爪が皮膚に食い込むほど力が込められ頭を抑えるところからかすかに血がにじんでいた。
だんだんとエスカレートする痛みに意識を失いそうになった時、ちりん、清浄な鈴の音がなった。
「……っ…?」
するとどうだろう、不思議なことに痛みが引いていくのだ。さっきまでの頭痛が嘘のように消えていく。どうして、と戸惑う私の耳にある生き物の鳴き声が入った。
「にゃー」
ふと振り返ると猫。真っ黒で瞳が赤い銀の鈴をつけた小さな子猫がいたのだ。
「にゃ」
その猫は軽い足取りで私の膝の上に乗る。
警戒心の欠片もないあどけない顔して私をじっと見上げてくる姿に毒された私は柔らかい身体を撫でた。猫は、逃げなかった。それどころか撫でられることを心地よいと思っている様子につい、表情が緩んだ。
子猫の毛はわずかに水っけあり濡れていた。雨など降っていたか?
この場所は薄暗くて分かりにくいが雨など降っている気配もなければ降る気配もない。ただ、匂いが、ね。
だがいつまでもこんなとこに座りこんでいるわけにはいかない。
明るいところにでなければ。子猫を抱き上げて立ち上がろうと足に力をこめた時、ふと違和感に気づいた。
カツン、カツンと靴音が響くのだ。しかも誰かがこちらに近づいてくる。
なぜだか本能が訴えるのだ。私に害成す者がやってくる、と。
「だれかいるぞ!」
叫び声とともに複数の足音になった。
「フゥ―――――!」
腕の中の子猫がうなり声をあげて警戒している。
足音が近づき、相手の服装などが見えてくる。黒いスーツにサングラス。
なんかやばくない?
ぞろぞろといかつい顔したおっさん集が来た。
あれ、なんか異様にこいつら身長高くね。あっ、外国人だからか。
「おい、全然違うじゃないか!ただの薄汚いガキだ」
「っち!誰だ!?キャバッローネのボスだといった奴は!」
はい?キャバッローネ?なんか聞いたことあるんだけど、何処でだろう。
「あの跳ね馬め!どこ行きやがった!?」
跳ね馬?跳ねに馬?どこぞで聞いたことがある名前だ。
もしや、ここは……!?
只今最大のピンチだと思う。なぜかイカツイおっさんどもに囲まれ身動き取れないのだ。
腕の中の子猫もさっきから毛を逆立て威嚇している。
「おいこの餓鬼なかなか上等なやつじゃないか?」
餓鬼とは私の事、なのだろうか。
「そうだな。汚れちゃいるが将来いい女になりそうじゃないか」
さっきからなんなのだ。非常に不愉快だ。餓鬼呼ばわりされることと上から偉そうに見下ろしている事。全然検討つかないんだが、……ふと思考にふける私に魔の手が忍び寄っていることなど気づかなかった。
「おい。お前こっちにこい」
男がこちらに近づき私の腕を掴もうとする。その時、抱きしめていた子猫が飛び出し相手に勇敢に飛び掛かった 。
「フシャ―――!」
子猫ちゃんっ!
伸ばした手は届かず子猫ちゃんは男の手にガブリと勢いよく噛みついた。
「いてっ!?このっクソ猫がぁ!」
相手の手に必死に食らい付くが小さい体が今にも振り落とされようとしている。
「離しやがれ!」
小さな体を乱暴に捕まれ地面へと叩きつけられそうになる。
ダメ!
私は転がるように男の方へ向かい子猫を受け止めることに成功した。
「……にゃ…」
弱々しい声で鳴く姿に胸が締め付けられそうになった。私を庇う為にこんな小さな体を張ってまで守ってくれた。それをただ見ることしか出来ずどうすることもできない無力な私。
…ごめん…と謝ることしかできない。私は弱い。無力だ。
力が欲しいと強く願う。欲する。
力があればこんな奴らなど一捻りなのに。誰かを悲しませずに守れるのに。
不意にどこからか聞こえてくるのか分からない謎の声が耳に入ってきた。
『力がほしい?』
私と同じような声だけど私ではない誰かだった。
誰と私は心の中で尋ねる。
『圧倒的な力がほしい?全てを破壊するこの力がほしい?』
……欲しいわ。無力じゃ誰も守れない。弱虫な私は認められない!
『それが貴女を傷つけ苦しめることになっても?』
構わないわ。自分がどうなったとしても大切な人を守れるならこの身捨てることさえ本望だもの。
『わかったわ、貴女にこの力をあげる』
……貴女は、誰?どうして私を助けようとするの。
『貴女はやっぱりそうなのね。自分を犠牲にし、他者の為に命を賭ける。そうでしか生きられないよう呪いを掛けられている』
え?
『それがどんなに愚かしいことか、それがどんなにつまらないものか貴女は知らないわ』
何を、言っているの。誰かの為に生きるって最高な事じゃない。誰かに必要とされることがなぜいけないの?
『でもそんな無垢な貴女だから愛おしい。なにも知らない貴女だからこそ守りたい』
私の何を知っているというの。私を知らない癖に!
『フフッ、ワタシは貴女をよく知っているわ。貴女が自分自身を知らないよりもずっと。―――眠って。深く誰も踏み込めないところへ』
その言葉が終わった途端、急に意識が遠くなっていく。引き寄せられるように眠りは降りてくる。
『安心して、あとはワタシが全て終わらせるから』
◇◇◇
子供は虚空を見つめたまま、先ほどから地面にへたり込み反応がなくまるでアンティークのビスクドールのような美しさを放っている。異様と言えば異様だ。生きているような気がしないのだ。黙っていればなおさらにそう思える。
「おい、さっきからこいつ黙ったまま、動かないぜ?」
「恐怖ですくんで動けねえじゃねえか。おら!立ちやがれ」
仲間の一人が子供の髪を引っ張り立たせようとする。
だがすぐに仲間の鋭い悲鳴が響いた。
「ぎゃあっ!」
「どうし、うわぁ!」
「てがぁ!俺の手がぁぁあぁあ――!?」
仲間の手が、子供の髪をひっぱっていた仲間の手が綺麗に手首から上が無くなっていたのだ。いや、綺麗に切られていたといって方が正しいか。切断部分が見事にまっすぐで骨が浮き彫りになっている。
俺はすぐに銃を取り出し、痛さに体を蹲らせて「俺の手が、手がぁぁあああ!!」と呻くばかりの仲間を横目に辺りを警戒した。走る恐怖にまともな判断ができずにいた。
「誰だ!?どこにいやがるっ!」
考えられない。刃物など見当たらないのだ。勿論、襲ってきた不審な人影だって何一つない。そう、俺たちしかいないはず―――。だがその考えは間違っていた事を思い知らされる。ここには俺たち以外にまだ動ける人間がいたのだ。自分よりも遥かに年下で獲物と思っていた餓鬼。
不意に言いようのない恐怖が俺を包んだ。あの子供の声によって。
「フフッ」
まだ子供特有の含み笑いが俺の耳に入り反射的に銃口を奴へと構えた。
「ひっ!」
口から漏れる俺の声に餓鬼は面白そうに笑った。
「汚い手でワタシに触れるからよ。イイざまぁだわ」
餓鬼は乱れた髪の隙間からアメジストの瞳を妖しく輝かせ、せせら笑う。
コイツは悪魔だ。コイツがやったんだ!
俺は本能で察した。ヤバい奴だと。殺すしかない、殺してこの場から逃走するしかない!
そう思った俺は躊躇わずに引き金を引いた。餓鬼の頭に一発目がけて。銃弾が放たれた、はずだった。だが何度引き金を引いても弾は出ない。
俺は何度も何度も引き金を引く。悪魔に向けて。だがついに奴のどたまに風穴開けることができなかった。
「クソッ!」
俺は舌打ちしながら銃を横に投げ捨てジャケットの懐から簡素ナイフを取り出す。だたの餓鬼だ。ナイフちらつかせりゃすぐに泣いて降参するに決まってる。そう考えたがまるで俺の存在など視界に入っていないかのように餓鬼は俺を無視した。
「みゃあ」
餓鬼の側にはあの猫が寄り添っていた。
「シロ」
猫を抱き上げこちらにちらりと視線を向けた。だが興味が失せたのか汚ねぇ猫と暢気に話していやがる。コイツ頭がイカレテんじゃねぇか。
「お前もやり返せばいいのに」
「みゃ」
「あの子の前で本当の姿見られたくないって?優しいわね。でもアイツワタシの髪を抜く勢いで引っ張ったのよ。そこの男は私が殺るわ。そこで蹲っている薄汚い溝鼠はアンタにやるわ。しっかり生きたまま食べてやりなさいな」
「……」
「言っとくけどワタシに汚い肉片飛ばさないでよ。せっかくの服が台無しになっちゃうわ」
そう言うと猫は餓鬼の腕からスルリと飛び降りた。こちらを一瞥し腹の底から唸るような声と共にあり得ないことが目の前で起こった。
猫が、赤い目をした猫が徐々に体を大きく変化させていったんだ。
信じられるか、こんなの。ただの薄汚いクソ猫が俺の身の丈よりもデカい虎に変わるなんてよ……。
「グルゥゥ」
鋭い牙と威圧するような眼光。震えあがりそうな唸り声。少しでも身動きすればすぐに飛びかかってきそうな勢い。駄目だ。逃げ場がない。餓鬼に構ってる暇なんかなかった。
さっさと逃げれば良かった!
「始めましょうか」
餓鬼の声と共に周りの温度が急に冷え込み始めた。寒さで動くこともできない。いや、未知なる恐怖で俺は縛り上げられていたんだ。
頭が逃げろと警告を送り続けるが動くこともできない。
もう、逃げることはできない、あの、紅い瞳からは……。
「じゃあ、お仕置きタイムね。ねぇ、一瞬でくたばるのとじわじわと苦しんで死ぬのとどっちが好き?」
「あ」
許してくれ、許してくれ――。
そう懇願しようにもできなかった。目の前の悪魔は最初から許す気など微塵もなかったのだ。
「せっかく楽しませてくれたから選ばせてあげる。ねえ、あなたはどっちを選ぶ?
それともワタシが選んでいいのかしら?だってさっきから何も言わないんだもの。そのお口はただの飾り?ならいらないわね?」
悪魔は面白そうに両目を細めて俺を見やった。
これから始まる愉しい時間を心の底から嬉しいのだと言わんばかりに笑みを浮かべゆっくりと手を自分の目の前に差し出した。
「久しぶりだから調整が利かないかもしれないわ。細切れにしたいけど大雑把になったらごめんなさいね?あぁ、でも生きたままバラバラにされるなんて声に出したくても出せないわねぇ?……楽に死ねると思うなよ、屑」
俺の意識は恐怖に囚われたままそこでプツリと最後を迎えた。
◇◇◇
ディーノside
「くそっ!」
俺は撃たれた傷を庇いながらも迷路のように続く裏路地をひたすらに走った。
あるマフィアとの抗争の内ロマーリオ達と、はぐれ不意をつかれた俺は情けねえことに敵の銃弾を受けちまった。俺の師であるリボーンが見たらダメダメだなと言うだろう。
確かにまだまだボスらしくねえ。だがあいつらが傷を受けていないことを切に願うしかない。
「なんだこれ?」
ずっと走っているとなにか妙な事に気がついた。
血が転々と地面についているではないか。
しかもそれは自分が今歩いている方向に続いていたのだ。
したたり落ちている血それに何か錆びっぽいと言えばいいのかとにかく異臭がする。
それがだんだん濃くなっていくのがわかる。歩く足が止まって体が変に緊張しだした。
手に汗もにじんできた。
進むべきか、元来た道を引き返すか。
心の中で自問自答を繰り返すが答え一つしかねぇな。
もしここの住人が抗争に巻き込まれているのなら助けなくてはいけない。
ボスともあろうものが人を見殺しするなど考えられない。それに違ったとしても、まぁどうせ今の俺には前に進むしか道はないからな。
また足を動かし歩き始めた。目指す場所に運命の出会いがあることも知らずに俺は進む。慎重に辺りを警戒しながら。
最初に視界にはいったのは辺り一面、真っ赤な血の海だった。
「ぐっ!?」
瞬間的に鼻を塞いだ。倒れている黒服男達だろう。原型をとどめていないが衣服からそうだと判断できる。胴体と手足がバラバラに切断されていて、もう一人は何かに食い散らかされていて臓器があちこちにばらまかれている。
もはやそこは生きるものが存在しない、死の路地とかしていた。
「死んでる奴ら……俺を狙ってたクワイエットファミリーか?」
『ちりん』
「…………ん?」
なにか鳴る音がした。ふと足元を見てみると鈴をつけた子猫がいた。
「にゃあ」
「おまえ、いつの間に…?」
「にゃ」
何かを訴えたいのか、俺の足元をぐるぐると回ったり行ったり戻ってきたりする。
「なんかあんのか?」
「にゃ」
俺の問いに答えるかのようにある方向へ歩き出した。だが徐々にその足は小走りに走りに変わっていく。
「おーい!……どこ行ったんだ?…」
全速力で走ったのにあの子猫いつの間にか見失ってしまった。あの酷い現場から結構離れた場所にやってきたが肝心の猫の姿が見当たらない。暗がりだから目を凝らして見つけないとな。
「にゃ」
「お!いたいた。さがし…た…」
背後から鳴き声が聞こえ俺は勢いよく振り返るとあるものが視界を入った。
建物の影に隠れるかのように丸くなり横になっているもの。それは
「…子供…か…?」
ゆっくりと歩み寄ると子供の顔が見えた。
「……………」
声が出なかった。余りにも子供、少女の顔が綺麗すぎてだ。
銀色の長い髪に白磁の肌、綺麗に縁取られた睫毛、触れると柔らかそうな赤い唇。
服から覗く細い華奢で折れそう四肢。絵本の中から飛び出てきたかのような子供だった。まだ幼いのに、なぜこんなところにと疑問を抱かずにはいられなかった。少女は場違いなほどに健やかに寝息を立てていた。気持ちよさそうに。
とにかくここに寝かせているわけにはいかないので俺は少女を抱きかかえた。すると余りにも軽いことに驚いた。この年齢ではまず考えられない軽さだ。
すると大人数の走る足音がしてきた。
「ボス!」
「ロマーリオ!無事だったか」
「ボスこそ…その子供は?えらい美人ですねぇ」
やはり腕の中の子供は目を引く容姿らしい。
「そこで寝ていたんだ。そのままにしておくわけにはいかねえからな」
「そういえばアレ見ましたか?」
「ああ、さっき通ってきた。アレをした奴は尋常ではない神経を持ってるな」
「はい人間の仕業とはとても思えないですよ」
「意外に人間じゃなかったりしてな」
「ボス。幽霊の仕業とでも言うんですかい?」
「いや………悪魔だよ…」
あんなグロテスクな事、普通の人間ができる事じゃない…。
「にゃあん」
黒い猫が一鳴きする。俺の腕の中でぐっすりと眠る少女。彼女はいまどんな夢を見ているのだろうか。それは夢見る少女しかわからないもの。ようやく暗闇から朝日が顔を覗かせ永い夜が明けようとしていた。
【悪魔の眠り】
日常編、黒曜編までの設定
ジル
見た目4歳
ストレートな銀髪にアメジストの瞳を持つ記憶を失った少女。以前の記憶がすっぽりと抜け落ちている状態に。自分のずば抜けた容姿に違和感感じることなく無人格に愛想を振りまいては復活の住人に愛されていることに気がついていないちょっとお馬鹿な女の子。
クロ(固定)
いつもヒロインにくっついている黒毛の子猫。
大虎に変化することが可能なミラクルな猫。愛情表現で人を襲うことがある。
もう一人の自分
見た目4歳
血のような真っ赤な瞳を持つジルの内に棲むもう一人の少女。ジルに過剰な愛情を注ぎ彼女の為にどんな事でもやり遂げるほど依存している。その理由は今定かではない。
オリジナルリングの設定
『虚像の花嫁』通称:虚像の指輪
初代ボンゴレの時代に『蒼龍姫』と呼ばれる人物の為に作られた指輪。『蒼龍姫』は人間離れした力と容姿で持ち、他のマフィアたちに狙われたが初代ボンゴレが決して手放さなかったという。
彼女の強大な力を押さえる力があったと言われている。初代の為だけに彼女は己の力を使いボンゴレを支え、そして初代が日本に渡った後消息を絶った。