沢田綱吉side
一体、何が起こったっていうんだ!?
あの人物が来てから、今までの日常が崩れ去った。
俺はラビットに食って掛かった。かからずにはいられなかった。
「天姫とリボーンはどこに行ったんですか!?」
消えたのはリボーンだけじゃなかった。
天姫も忽然と姿を消してしまった。10年バズーカーの誤射によって。
ううん、誤射じゃない。なんとなく違う気がする。
…そうだ、違う、違う!天姫は自分から勝手消えるなんてしない。
何か、大きな流れが働いてる……!俺の超直観が告げてる。
「天姫は!?リボーンは何処にやったんですか!?」
ラビットさんは俺の問いをのらりくらりとかわす。
「自ずとわかることだ。俺が言うことは何もないっていうか言えないの間違いかも」
あくまで何も言わないつもりなのか。
「……貴方は天姫の味方なんですか。それとも…」
敵なら、容赦しない……。
俺は適度に距離を取った。いつでも対応できるように。
「俺は天姫から対価を受け取った。俺の役割はそれだけ。それ以上、あいつから盗るものはないし俺も好きでこの仕事してるわけじゃなしな。誘われたからやってるだけ」
『対価』ってなんだ?ラビットさんだけじゃない、あの揚羽って人も、神男さんも、
何を考えて行動しているのか、まったく読めない。
読めないからこそ、今のところ、安全と思しき人物とは接点をもっていなくちゃ。俺は情報源がほしい。天姫を知る手がかりとなるものが。
「…『ラビットさんは』信用して、いいですか?」
これはあくまで確認だ。絶対ではない。
自分を語ろうとしない人物を信じることなどできるものか。
利用できるなら、利用してやる…。
「なんだ、俺だけか。『神男は』含んでいないのか。あーあ、かわいそうな奴」
わざとおどけて嘆いてみせる。
彼の目は包帯でいくえにもおおわれているのに、俺には彼の目が笑っているように見えた。
「俺は、あの人の真意が測れないです。接していても何をしたいのかまったくわからない」
そう、不可思議な領域にいる人。人間の『枠』を超えた人たち。
彼らの思考を理解しろなんていうほうが酷だ。
ラビットさんは、俺の言葉を聞いたうえで、ぽつりと漏らした。
「……『神』として縛られている奴がそう簡単に己を出すってのは難しいんかもしれないな」
「え?」
俺の聞き間違いかと思った。
だって、ラビットさんの口調はとても労りに溢れていて、なおかつ悲しそうに悔しむように聞こえたんだ。
「いや、今のは聞かなかったことにしてくれ。うん、しかし、助言くらいは許されるだろうから言っておく。これからお前には大変だろうからな。もう一人の奴にも言っておくか。『未来と言うのは一つじゃない。いくつもの分かれ道が幾重にも重なり、すべてが同じ結果とは言えない。だから未来を決めるのは未来を変える覚悟がある奴だけだ。無論、お前だけじゃない、それはアイツにも関係していることだ。アイツが気づき、己に足りないものが何なのかを自覚した時、未来は確定する。それが現在へと繋がるだろう。今まで隠された真実も紐解かれる』」
「え、ラビットさん?」
俺の言葉など無視し、マシンガントークで喋った。しかも、言葉の中に俺だけじゃなく他にも言っておくか、なんて誰のことを言っているんだ!?
「よし、言った!じゃあ俺は行く。腹がすいたしもう一人会ってこなくちゃならんし」
「ちょっ!?」
俺の呼び止めなど無意味に終わった。彼は言いたいだけ言って、意味深な台詞だけを残してきえた。
もやもやした気持ちだったが、まずは天姫とリボーンを捜すことが先決と判断し、俺は途中で合流した獄寺君と捜すことになった。
「天姫とリボーンさんが!?」
「うん、マズイことになったよ…」
「十代目、あのアホ牛捕まえましょう!もう一度アイツにバズーカを撃たせるです」
「そうだね、とにかくランボを捜そう!」
「はい!」
ランボの10年バズーカが原因なら、ランボにまた10年バズーカを出してもらえばいいという事になった。
でも、その過程で弾が俺と獄寺君の方向に飛んできてしまって、俺は気がつけば、なぜか棺桶に入っていた。
なんで棺桶に!?なんて頭が混乱したけど、もっと混乱する羽目になった。
だって見知らぬジャングルの中、
獄寺君とも合流はできんたんだけど、でも場所が10年後の世界だなんて……
そこで、新たな人物と出会った。
その人から教えてもらったこと、それはここが並盛の未来であること。
そして、天姫がこの世界にいるという事実を聞かされる。
※
雲雀恭弥side
こんなこと、初めての体験だった。
声をかけられてその人物がいたという事実に気づくなんてさ。
もう少しで書類も片付く頃、天姫を誘ってナミモリーユにでも行こうかなと少し浮き足立っていた時のこと。フッとある奴が僕の前に現れた。
「よ!」
「……誰、あなた…」
まるでマジックでも見ているかのようだった。机から視線を少しあげてみれば全身包帯男だなんて。一人仮装を見ている気分で嫌になる。しかもスーパーの袋に大量の林檎を入れて遠慮なしに林檎をもしゃもしゃと食べて汚らしいよ。
「俺、ラビット。よろしくー」
この馴れ馴れしさにあの態度。
厚かましいよ、初対面じゃなかったとしても嫌いな部類に入る。
「機嫌、悪そうだな」
「貴方のせいでね。僕に咬み殺されにきたの?だったら相手してあげる」
もしゃもしゃと遠慮なしにもう10個目の林檎を食べ続ける男。
何を言うかと思えば、マイペースすぎだ。
「うん、若いな」
「馬鹿にして、むかつく」
ゆっくりと椅子から立ち上がると僕はバッとトンファ―を装備してアイツに襲いかかる。
ちょどいい八つ当たりだと思った。
だから普段の動きでいったけど、その考えは甘かったよ。
ビュンッヒョイッ!
思わず「ワオ!」と口癖が出てしまったくらいだ。
だって奴はまるで、僕の動きを予測しているかのように軽やかな動きで簡単に僕の攻撃を避けるんだ。
「なかなか、面白いね」
「まぁな。俺、一回死んでるしそれなりに強いし」
「ジョークは面白くないけど」
最初は面白いと思った。けどこうも続いて避けられると癪に障るね。
一向にかすりもしないんだ。
まるで赤ん坊と対峙しているような感覚だよ。
それに相手が余裕そうなのもむかつく要因だ。
だって、まだ林檎食べ続けてるし。
どれだけ食べるつもりなんだろ。
「…お前に言いたいことあったような、アレ?忘れた」
「………」
なんか気がそがれて僕は動きを止めた。
こんなの相手にしてたら疲れた。
「あ!思い出した」
僕は無視してケータイをとりだした。もちろんかける相手は天姫だ。
でも電話をかけても彼女の携帯はずっと鳴りっぱなしで、本人が出ることはない。
そのうち、留守電のアナウンスに切り替わる。僕は留守電に一応伝言を残して電話を切る。
「……天姫、また携帯おいてどこかに行ったのかな」
何回言っても聞かないとこは彼女の子供っぽいところだ。
学習能力がないっていうのかな。たぶん言うと彼女は怒るはずだから言わないけど。
「……思い出しちゃった思い出しちゃったんだよ。俺。おい、きょん。俺の話聞いてくれ」
「やめてくれない。僕をそう呼んでいいのは天姫だけだよ」
「冷たいな。俺お前にいい事教えてやろうと思ってたのに」
「いいよ、どうせくだらないことなんでしょ」
早く消えて、と僕は背を向けた。
けど、聞き捨てならない言葉に僕は耳を疑った。
「まぁ、くだらないといっちゃそうなのか。………天姫なら出ないと思うぞ。だってこの世界にいないし」
この、世界にいない?
「!?今、なんていった…」
「だから天姫ならいないぞってこと」
「咬み殺すだけじゃ終わらないから、殺す」
「おいおい、さっきのから愕然と殺気があがったな。…怒った?」
「黙ってよ!」
ヒュン!
「若いもんがそんな簡単に殺すって言うなよ」
「……っく!?」
トンファーがはじき飛ばされ、空中で弧を描かく。首元が絞めらげられ同時に体全体が浮遊する感覚に包まれた
ダンッ!!
「っあ!!」
ソファに叩き付けられたという現実を受け止める前に喉元に突き付けられた、鋭利なナイフ。奴は、僕を見下ろす包帯男には、一切隙がない。
さっきまでのがつがつ食べていた印象は消え失せていたんだから。
「『殺す』って言葉は、その対象の全てを背負う覚悟で殺さなきゃお前が殺される羽目になる。第一、熱くなるなって。そんなんじゃ天姫ゲットできないぞ?」
「………どういうこと、天姫はもう僕のだよ。だって天姫はもう僕を置いていかないって約束したんだ。天姫が約束を破るはずない!」
「ああ、そうだろう。アイツは約束ごとは守る律儀な女だ。でもそれで『未来』が決まることはない。所詮約束は約束だ」
「天姫は絶対僕のものだ!!」
「………まっすぐだな。沢田と同等か、それ以上か……愛されてるな、アイツは」
「……なんで草食動物が出てくるのさ」
僕の問いは無視された。ムカツク…
「よし!俺きょんの事めっちゃ気に入った。お前だけ教えておこう。とっておきの情報だ」
「は?」
剣が喉から離れたけど、男の顔が近づいた。
吐息が触れ合うかどうかの間際。
「きょん、『鍵』を手に入れろ。それがあれば天姫は助かる。『未来』が変わるはずだ」
「か、ぎ?」
「『鍵』は『嵐』が持っている。それを天姫に使え。でも使う時にあいつ自身が受け入れなくては話にならない。だからお前が説き伏せるなりなんなりしろ。……アイツは『愛される』ことを恐れている。でも本当は『愛されたい』と思っている。矛盾の塊だがあれも人の子。感情までは麻痺していない。早いうちならやり直しもきく」
「………僕に加担する理由は何…どうしてそこまで…」
「……ある男のためだ。過去の者となった人間にいつまでも執着することはない。執着はいずれ狂気へと変わる。永い時間、共に過ごした仲間をみすみす破滅させる訳にはいかないしな、なにより」
「………」
「俺がお前を気に入った。雲雀恭弥」
男はにやりと笑った。僕も言ってやった。最大限に睨みつけて。
「僕は貴方が大っ嫌いだよ」
男は予想していたように瞳を細めて。
「上等、上等。それくらいの根性じゃなきゃ天姫には好かれないからな。ちなみに天姫の好みは精神的にも肉体的にもタフな男だ。本人には自覚ないだろうけど」
んじゃ、と包帯男は一瞬で消えた。
袋いっぱいに入った林檎を置いて行って。
『鍵』を手に入れる。僕に命令する訳?あの男…生意気だ
天姫の好みのタイプを聞けたのは良かったけど
『未来』なんて僕が決めるよ。誰の指図も受けない。
置き土産のつもりか知らないが、林檎がそのままになっている。
僕は林檎に手を伸ばして、噛りついた。
甘酸っぱい、まだ若い林檎。熟していないけど僕は好きだ。
だってその方が、どんな風になるか楽しみじゃないか。
確定されていないのなら、僕が決めてやる。
天姫は僕のものだ。