闇ニ花ヒラク蒼薔薇   作:サボテンダーイオウ

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標的107ともだち

キッチンは賑やかな環境になっていた。

天姫は材料の皮をむき、足元にはチビッ子二人がドタドタと忙しなく駆け回る。

 

「あ、京子!人参とって」

「うん、…あ!ランボちゃん、ここで遊んじゃダメだよ」

 

京子の近くにあった人参は天姫の手に渡り、天姫の足元には京子に窘められてつまらなそうにすがりつくランボ。不満たらたらな顔をしていた。

 

「え~?ランボさんつまんなーい!」

『邪魔しないの、ランボ!!』

 

するとイーピンがお姉ちゃんらしくランボを叱る。するとランボはわかりやすく反抗して「あっかんべー」と舌を出してイーピンから逃げた。

すると逃げられると追いたいもの。イーピンがランボを追いかけまわし始めた。

どたどたと、走り回る音は先ほどよりもうるさくなってしまった。

 

「二人ともー。危ないからここで騒がないのー。って聞いちゃいないね。ゴーラちゃんお願い」

 

今、包丁使ってるから非常に危ないのだ。私のお願いをきいてくれたゴーラちゃんがおチビ二人確保に乗り出した。だがちょこまかと動きまくって、ゴーラちゃんもなかなか確保に至らず。

 

グォングォングォン……。

「ギャハハハハ、ランボさんは捕まらないもんねー!」

『ランボ、うるさい!!』

「くぴゃ!?」

 

イーピンの攻撃がランボに当たったようだ。

元気なことでよろしい。

 

「は、はひ!?あ!ランボちゃん!?じゃがいも、持って行っちゃ駄目です!」

 

構ってもらえない寂しさからいたずらでみんなの気を引こうとする幼さにクスっと笑みがこぼれた。ご飯づくりの時でなければいくらでも構ってあげられるのだが、今は無理だ。なんせ作る量も多い。少年たちには特に少しでも早く元気になってもらわねばならない。

今日から、女子3人で家事をやることになったのだ。手は抜けられない。

ちなみに今日はカレーを作るつもりでいる。

 

その材料となるじゃがいもをランボが持ち去ってしまった。

逃げ足の速い子。その本領をリボーン相手にでも発揮すればいいのに。ある意味残念な子だ。

 

「ハル、取り返してきます!」

 

ハルが意気込んでランボの後を追いかけるためにキッチンを出て行った。

グォングォングォン……

「転ばないようにね」

 

リベンジのつもりなのか、ハルに次いでゴーラちゃんもランボを追っかけに行ってしまった。

 

「…ホント、感情が豊かになったみたい」

 

最初はちょっとびっくりしたけど、慣れれば不思議と違和感もなくなってくるものだ。

京子がクスクスと笑いながら、

 

「ゴーラちゃん、すごく生き生きしてるね。表情がまるで違うもの」

「表情は変わらないと思うけど…」

 

皮むきをする手は止めずに天姫は答えた。

 

「そんなことないよ、天姫ちゃんがいたからゴーラちゃん、元気になったんだと思う。私もハルちゃんもおんなじ。ランボちゃんだって、イーピンちゃんもだよ」

「………」

 

天姫は何もいわず、黙々と手を動かす。

細かく切り、ザルに放り込む。

京子も手を止めずに作業をこなす。

 

「天姫ちゃん、聞いてもいい?」

「答えられる範囲内なら」

「天姫ちゃんは、本当は魔女っ子じゃないんだよね」

「………まだあったんだ。魔女っ子設定」

「うん」

「私はちゃんと魔女っ子って名乗った覚えはないってハルに言ったんだけどね」

「ハルちゃんもわかってるはずだよ、ホントは」

「…………そう、なんだ」

「言いたくなかったら言わなくてもいいよ」

「……とりあえず、魔女っ子は否定しとく」

 

今、言えるのはこれだけと天姫は付け足した。

そして、ごめん、京子、ハルと謝罪をした。

 

本当なら説明しなくちゃいけないこと。

でも本当のことを言えば、彼女たちは今の状況がどれだけ過酷なことなのだとわかってしまう。平凡な世界にいた彼女たちに、教える必要はない。

これ以上怖い思いをさせる必要はないのだ。

 

京子はそれ以上聞くことはなかった。

ただ一言だけ、付け加えた。

 

「私とハルちゃんは、天姫ちゃんの友達だよ。何があっても」

 

天姫の胸にそれは温かく染み渡った。

 

その後は事態が慌ただしく動いた。

ジャンニーニが来たり、煮込んでた鍋が焦げたり男連中が騒ぎを聞きつけて駆け込んで来たり、ラル・ミルチがツナたちに修行つけてやる、と怒鳴り込んで来たりと。

 

それはそれは賑やかで、

でもツナと天姫は、お互いに話すことはなかった。

 

少し前の医務室にて。

 

天姫とすれ違いで入室したのは獄寺だった。

獄寺はツナが横たわるベッドの脇の椅子に腰かけ、今も痛みで魘されるツナを見つめた。

 

重傷の傷を負ってしまったのは、俺が守るべき人。

それなのに…。

 

「十代目、俺がもっとしっかりしていれば……!」

 

自分の不甲斐なさに嫌気がさす。

十代目に気を配っていれば、起こらなかったのもだってのに。

俺の背後でいかにも退屈そうな女の声がした。

 

『あ~あ、スモーキン・ボム。暇だわ。ここって殺風景なんだもの。それに薬品の匂いで嫌になっちゃうわ』

「うるせぇ、黙ってろ」

 

間髪入れず獄寺はぴしゃりと言い放った。

だがそれくらいの言い方されたくらいで引っ込む女ではなかった。むしろ獄寺をけしかけるように言った。

 

『何よ、あんな猿共。ワタシが出ればすぐに殺してあげたのに。全然出してくれなかったわ。おかげで退屈でワタシが死にそうよ』

「黙れって言ってんだろーが!十代目がこんなに苦しんでるっつうのに」

 

食って掛かるように獄寺は椅子を倒す勢いで立ち上がり怒鳴った。

女は鼻先でせせら笑った。

 

『弱者を労わる心はあいにく持ち合わせてないの。ワタシより強かったら話は別だけど』

「…………」

『あら、だんまり?つまんない……。その男嫌いよ。天姫を泣かしたわ。こりもせずに愚かな事をしてくれるわ。……今ここでバラバラに引き裂いてやりたいくらいよ』

「そんな事、俺がゆるさねぇ」

『…おお、怖いこと…、フフ、今は見逃してあげるわ』

 

女は怖がった素振りをみせて実はこの会話を楽しんでるように獄寺は思え、「ケっ」と面白くなさそうに小さく吐き捨てた。そして、あの時のやり取りを思い出す。

ツナが天姫に一方的に詰め寄る場面を。

 

それは見ていて胸糞悪いもので、もし、あの時獄寺がツナを止められていたら天姫が嫌な思いをすることはなかったはず。

だが獄寺は止められなかった。

 

やましい気持ちを抱いていたからだ。

これで、ツナと天姫の関係がこじれる、と。

邪な考えが一瞬でも頭をかすめていたからだ。

 

「……アイツ、なんであんなに背負いこむんだよ。はっきり言葉にしねぇから十代目もあんな事言ったんだ」

『…アンタ、なんで揚羽に選ばれたかわかってなかったの。頭いいかと思ってたけど、馬鹿だったのね』

 

女に呆れ気味に問われ、獄寺はわかりやすく怒りをあらわにした。

 

「ああ!?なんだとっ」

 

女はにやりと微笑した。

妖艶に、甘くとろけそうなほどの笑みを浮かべる。

 

『扱いやすいってのも理由にあったけど、それだけじゃないのよ?アンタ、腹違いの姉がいるでしょ』

「て、テメーに関係ないだろうが」

 

なぜか獄寺はドギマギしてしまった。

 

それが何の理由になるってんだ。

こいつと接していると自分がおかしくなる。

 

『関係あるわよ。だって天姫はアンタと同じ境遇だもの。育った環境は違うけど』

「なん、だと?」

 

聞き間違いかと疑うほど、獄寺それはじられなかった。

 

『アンタは愛人の子供。姉は正妻の子供。それを天姫と狗楽で当てはめてみて』

 

狗楽ってあのくるくるした茶色い髪の女。天姫の実の妹。

 

「ま、さか」

 

う、そだろ。

思考が停止した。それが真実だとしたら俺はとてつもない秘密を知ってしまった。

女は正解とでもいうかのように唇をにいっと上にあげた。

 

『簡単でしょ?天姫と狗楽は異母姉妹。天姫は愛人の娘なのよ』

 

天姫が愛人の娘……!

寝耳に水とはこのことである。だが獄寺は考え直した。

この女の言っていることが正しいと誰が決めた?

ぜってぇ嘘だと。

 

「そんな事信じられるか!?お前の言ってることなんか」

『天姫とワタシは表裏一体。すべてが繋がっている。記憶も体も心も、全部。だってワタシは天姫だもの。あの子のことで嘘なんかつきやしないわ』

 

そうだった。

こいつは天姫の事に関しては嘘はぜったい吐かない。

背後霊みたいにくっついてただけあって、この女の性格みたいなもんを大体は把握してしまっている。

 

獄寺ははぁっと大きなため息をついて椅子に座りなおした。

 

……どうしろってんだよ、俺に。あんな不安定な状態の天姫に言えるのか。

『鍵』がなければお前は駄目になっちまう、なんてよ。

 

(真実は何処にある)

 

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