闇ニ花ヒラク蒼薔薇   作:サボテンダーイオウ

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標的110ワタシの玩具に手を出さないで

別チームに分かれた二人。

 

並盛神社の森にて。

獄寺と山本はブラックスペル第3アフェランドラ隊 隊長γ(ガンマ)と交戦中だった。

それもこの二人、闘いの途中で口論となったりしたのだが、男の殴り合いで通じるものあり、それなりにはまとまることに成功したのだった。

しかし、γは油断ならない男。

二人が見事なコンビネーションをしたとて、簡単に倒せる相手ではない。

まだまだ、獄寺と山本の実力では到底敵うものではなかった。

匣を使う闘いにも不慣れな二人は、コテンパンにγにやられた。

血まみれになった獄寺はγの攻撃をまともにくらい、起き上がることもできなかった。

容赦なくγは攻めたてる。

 

「十代目はなぜ、生きている?奴は射殺されたはずだ。それにお前たちのリングに見覚えがあるのは気のせいか?」

「だ、…れが、いうか、ぐぁぁあああああ!」

 

メキリとγの容赦ない足によって、踏みつぶされた獄寺の右手。メキメキと嫌な音を発し激痛が獄寺を襲う。

 

「うぐっ、ぁぁぁあああああ!」

 

ビュッ、がきぃぃぃぃいいいいいん!

山本が決死の表情でγに立ち向かう。

 

「拷問に二人もいらない。お前は用済みだ」

 

だが、γは邪魔なごみを見るかのように、山本に襲い掛かる。

 

「……!」

「や、めろぉぉぉぉぉおおおおお……!」

 

γの電撃が武に襲い掛かろうと、牙をむく。

隼人の叫びが地に響いた。

だが、突如謎の攻撃によりγの体自体が突然宙に浮き、そのままものすごいスピードで木々に叩き付けられる。

 

「ウグッ!?」

 

その破壊力はすさまじいものだった。

γが当たった木は重さに耐えきれず、木々ごと、地面に倒れこんだ。

根ごとにだ。一人の女らしき声が頭上から響いた。

 

「野蛮人はどこまでいっても野蛮人なのね」

 

獄寺は目を見張った。山本も同じこと。

 

「お、…まえ……」

「…なんで?…」

 

女はいた。宙に座った状態で大胆に足を組み、面白そうに眼下を見下ろす。

そして、天女のようにゆっくりと地面に降り立ち、艶やかな髪をたなびかせた。

場違いな中国風の女。身体にフィットした服は体の線を優艶に表現し、豊満な胸が動くたびにゆれる。

ギリギリの線というきわどいところまで出しているスリット付きのミニスカ。

引き締まった太ももはすらっとモデルのように伸び、足の先まで完璧さを出している。

腰まで伸ばされた艶やかな黒髪。

意思の強さを表す瞳、それは吸い込まれそうなほどの深い紅。整った容姿はバランスよく作られる造形美のよう。

唇は真っ赤な林檎のように熟れていて見る者を魅了させる。

 

女、ここからは『夕闇の女王』と呼ぼう。

 

彼女は自分のものを触られるのを極端に嫌う。

その原因となる、γを底冷えするようは瞳でとらえた。

 

「ワタシの、『おもちゃ』で遊ぶだなんてどんな命知らずかと思ったら……てんで坊やじゃない」

 

自分の期待からかけ離れた弱者に彼女は愚痴り、「この実体化って疲れるのよね」と盛大にため息を吐く。

 

そして、彼女は地に降り立った。

二人の目の前に。山本が魅入るように、彼女をみた。

信じられないといった表情で。

 

「…なんで、天姫が」

「あら、雨の子。随分遊ばれたのね、血だらけじゃない」

 

『夕闇の女王』を天姫と認識してしまうのも無理はない。

なぜなら『夕闇の女王』は天姫なのだから。

『夕闇の女王』が雨の子と言ったのは、山本武の事だろう。

γが体を支えながらも立ち上がった。

 

「お前、は、死んだはず……!」

 

あの女は死んだはず、そうγは記憶していた。

そう、行方不明とはされていたが、死亡説の方が有力とされていたのだ。

『夕闇の女王』はまだ生きてたと感心し、それでも言いのけた。

 

「あいにくワタシに雷坊やの知り合いはいないの。ごめんあそばせ」

「……てめぇ…!!」

 

γは自分の匣に手を伸ばそうとした。しかし、それは無駄に終わる。

γが持つ匣が急激に重くなり、それはあっという間に地面にめり込んだ。

その匣だけ通常の重力を加えられたようだ。

 

『夕闇の女王』はγの驚いた顔を面白そうに見る。

 

「ワタシはこの子を回収しにきただけよ。遊んでいる暇はないの。あ!ついでに雨の子も拾って行こうかしら。天姫が悲しむものね」

 

そういって背を向けた瞬間、γが動いた。

隠し持っていた匣で攻撃を繰り出す。

 

「お前にはたっぷり恨みがあんだよっ!!」

 

ばちぃぃいいいいん!!

 

『夕闇の女王』は片手を前にだし、見えない防御を生み出した。

それが強力な電撃を防ぐ。

 

「無駄に体力使うだけよ」

「御忠告、どうも、よ!」

 

タラリ、と一滴の血が流れた。

不意を突かれ、それは『夕闇の女王』の頬を掠めたのだ。

真っ赤な一筋の線から血が流れる。

『夕闇の女王』はその個所を軽く触り、己の指先があかくなったのをみると、それを一舐めした。血よりも赤い舌でべろりと舐めとる。

 

「紅い血。フフ、雷坊や。随分とワタシと遊んでほしいようね?」

 

より一層『夕闇の女王』の瞳は爛爛と赤くなった。まるで、怒りが増幅されてかのように。

反対にγは背筋が凍りついていくのを感じた。

本能で悟ったのだ。

 

これは、『本来であれば、手を出してはならない質』だと。

 

「…や、め」

 

『夕闇の女王』がこれから何をするつもりなのか、瞬時に悟った隼人は、なんとかやめさせようとするが、『夕闇の女王』は止められない。

いや、止まらないの間違いだ。彼女を止められる者は誰もいない。

 

「いいわよ、遊んであげる。でも痛くても苦しくても死にたくても我慢しなさい。

だって遊びたいんでしょう?このワタシ、と」

 

と、一歩踏み出せば全ては一瞬にして終わる、はずだった。

だが、『夕闇の女王』は動かなかったのだ。

ある気配が近づいてきたのを感じていたから。

 

「…やめた…つまらないわ。だってスモーキン・ボムにこれ以上嫌われたくないもの。だってワタシのお気に入りだし?」

「てめぇ」

 

γが額に筋を浮かび上がらせる。けど『夕闇の女王』は気にせずに言葉をつづけた。

 

「それに、『雲』の子が来てしまったわ、タイムリミット。残念ね。雷坊や」

 

カサリと草むらが動いた。

 

「君たち、並盛の風紀を汚さないでくれない?」

 

『夕闇の女王』が言う、『雲』の子。

 

格段に整った顔立ちにむかつきをちらつかせ、黒のスーツを身に纏った並盛の秩序。

雲雀恭弥が帰ってきたのだった。

 

(ここは僕の領域【テリトリー】だと、彼は言う)

 

 

京子は花が保護してくれたらしいとの情報に天姫はほっと安堵した。

アジトにある境界線の所で待ってたら、向こうの通路からツナたちがやってきた。

ツナはボロボロにされた隼人を背負って、もう一人は同じくボロボロの武を背負って。

 

皆が生きて帰ってきた!これに勝る喜びなどない。

天姫はリボーンを抱っこしながら、出迎えた。

 

「ちゃおっス」

「お帰り」

「リボーン、…天姫…どうして、ここに」

 

本当は顔を合わせるのも辛いのだが、今はツナの無事を心から喜ぶことにする。

そう割り切って天姫は無理やり笑顔を見せた。

驚くツナに、くさっぱを銜えたリーゼントの男性がここは今まで使われなかった通路だと軽く説明していた。けど、距離が近づくにつれて、その男の人の表情が驚きに変わる。

 

「お嬢!?」

 

あれ、よく見るともしかして超お知り合いではなかろうか。

妙にリーゼントが長い。いや今は関係ない。

天姫はリーゼントのことは吹き飛ばして、自分を見て驚く彼の名を呼んで確かめてみた。

もしかしたら、もしかしたらのあの人ではないかと。

 

「……草壁さんっであってるよね?」

「……ええ、俺です。お嬢」

 

なんか感慨深そうにしてるのはなぜだろうか。下手すりゃ感動して泣きそうな感じである。

あ、それよりも二人の手当急がなくちゃ!!

 

「とにかく、今は二人を医務室に運んで?ゴーラちゃん、お願い」

グォングォングォン……

「あ、ありがと…」

「……ゴーラが動いている…!今まで数か月起動していなかったのに…」

 

びっくりしてる姿が何とも意外だった。

何みても動じない人かと思っていたがそうでもないらしい。

 

とりあえず、積もる話はまたあとでもできるしそれに、それに。

ツナとはあまり顔を合わせていたくなかったのだ。

天姫もそうであるように、ツナもそう思ってるから天姫に必要以上声をかけることはなかったのだろう。

 

隼人の方にはツナとリボーンが付き、天姫は武に付き添うことに。

ベッドに寝かされた武の体中に包帯が巻かれ、どれだけ敵との戦力差が明らかかはっきりと天姫は感じてとれた。辛うじて生きて帰ってこれた。

敵との戦力さは見るからに大きい。

 

「…武…」

 

天姫の指が武の髪を撫でた。それでも彼からの返事は、ない。

激しい闘いだったのだろう、武のいたるところに巻かれた包帯の数だけ、その闘いが想像を超えるものだったのがよく窺い知れる。

 

未来の天姫は氷に守られて眠ってる。

10年後の武に言われた言葉が今でも天姫の頭をよぎる。

 

ラルは未来の天姫は『蒼龍姫』ではなくなり、『力』を失った。

結果、敵に捕らえられ『蒼龍』によって生じる力を使うことが出来なくなった天姫は、何らかの罠で氷の中に閉じ込められた。

しかし、今の天姫自身とて今は『蒼龍』を身に宿していない。ならば条件は同じはず。

普通の人間がそう簡単に彼女を封じ込めるなどできるのか。

否、それは不可能だ。

それは天姫自身がよくわかっている。

 

自分は明らかな異質で異能な存在であると。故に、別の可能性が浮上した。

『普通でない人間』か、もしくは『人間でない者』に仕掛けられたことを。

 

それに当てはまる者が一人だけ存在する。

 

天姫の永遠の宿敵、倒すべき、敵であるノイズ。

未来の神崎天姫は、そのノイズに目をつけられた。

 

『蒼龍』をなんらかの理由で失い、ノイズとの戦闘で傷を負い隙をつかれ氷に閉じ込められた。

これが仮説ではなく真実に近いものだとしたら、厄介な話である。

それは今の天姫にも関係してくることになるからだ。

未来の自分自身でさえ叶わない相手に勝てるとは到底思えない。

今の天姫は不完全なのだ。

その事実を痛いほど知っているうえで、なんとか打開策を見出さなければと焦る。

 

どうすれば、『蒼龍』を戻せる?あるいは、手がかりさえ見つかればなんとかなるか……。

全ての発端が未来の神崎天姫にあるならば、彼女を助ければあるいは何らかの手立てを教えてくれるのではないか?

 

どのように封じ込められたかは定かではない。でも賭けに出ることはできる。

同じ者同士、少しでも彼女の意思が残っているならば、同じ蒼龍姫同士、共鳴が起こるはず。そのわずかなシンパシーを頼りに彼女の場所を探り当て、突破口の糸口に繋げられれば。

 

しかし、本来であれば、過去の自分と、未来の自分が同じ場所、同じ空間、同じ世界に存在することは=(イコール)世界が破滅する恐れがある。

タイムパラドックスがまさにこれに当てはまる。

しかし、自分の場合は特殊なのではないかと天姫は予測する。

時の流れに逆らい続ける存在ならあるいは可能か。『時間』の概念に捕らわれない己なら。

 

時間は刻々と無常に迫る。こうしている間にも、ミルフィーオーレがこのアジトを見つけようと血眼になって行方を捜索していると考えると背筋がぞっとする。

このアジトには非戦闘者がいるのだ。彼女たちにもしものことがあったらと。

失いたくない、自分の所為で誰かを失うのは、もう経験したくないのだ。

 

だと、したら選択肢は一つだけ。

天姫は決めた。

 

皆に迷惑をかける結果になったとしても私にはやるべきことがある。

譲れない決意がある。それにやっぱり無理だよ。…ラル……。

こうやって、皆が傷を負って、そのたびに私は待ってるだけしかできないなんて。

……、いいや。私が待っていなきゃいけないことなんてない。

私はいつから待つ女になった。

なんでこんなとこでうじうじと悩んでなきゃいけない。

おもむろに天姫はイスから立ち上がった。

 

「……ごめんね、武」

 

そう、切なそうに謝罪の言葉を述べて、天姫は医務室を出た。

決意を固めた彼女。

 

迷ってられない、立ち止まってられない。

迷った分だけ犠牲が出る。取り返しがつかなくなる前に急がなくては。

『蒼龍』の手がかりを探さなきゃ……。

待ってるだけじゃ、欲しいものは手に入らない。

 

(だってそれが私じゃないかと言い聞かせる)

 

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