あのγとの戦いで傷ついた俺たちの体は瞬く間に癒されていった。
普通ならあり得ない話だろうが、現実に起こったこと。
武が見てしまった、あの女。
あれがこの現象を引き起こしたに違いない。
そう睨んだ武は、ツナに気づかれないように
人気のない廊下に獄寺を呼び出し、問いただしたのだ。
「獄寺、あの女はどういうことだ。アレはどっかに封じられたんじゃないのかよ」
「……てめぇに、言うことなんざねぇよ」
「獄寺!」
「うるせぇ!」
しかし、獄寺はあくまでしらを切るつもりのようだ。
何をそんなに隠す必要があるんだと武は獄寺に疑念を持ち始めた。
どうにも剣呑な雰囲気が二人の間に漂い始める。
だが、それをぶち壊す人物が乱入した。
『やかましいわよ、そこの餓鬼ども』
半透明のあの時の女、『夕闇の女王』が獄寺の脇にふわふわと浮かび上がった。
『人が疲れて寝てるってのに大声出してよほど死にたいようね』
不機嫌全開に眉毛を吊り上げ、美しい美貌が怒りに染まっている。
獄寺があわてて、『夕闇の女王』に向かって叫んだ。
「げっ、馬鹿出てくんなっつーの!」
『誰に向かって言ってんのよ、このアホが』
「なんだとっ!!?」
『大体、このワタシがわざわざあんたらの傷を癒してあげたってのにお礼の一言も言えない訳?この殺すの大好きなワ・タ・シが、滅多に、ってか全然使った事ない癒しの類の能力使ってアンタらの怪我治癒してあげたってのに』
「じゃあ、この怪我の異常に治りは早いのはお前の仕業かっ!?姉貴が異常な目で俺をみやがったぞ、ってかなんか疑われたし!」
『何よ、そんな嫌そうな顔して。やっぱり使うんじゃなかったわ。無駄な労力使った、疲れたダルイ、ムカツク』
「てめぇが勝手にやったんだろうがっ!俺がいつお前に頼んだよっ!?」
一方的(?)な口喧嘩を始めだした二人に武は割って入った。
「ちょっと静かにしろ。他の連中に気づかれるぜ」
武に注意され、二人はしかたなく黙る。
「よう、また会ったな」
とりあえず、傷を治してくれた犯人はわかった。
武はニカっと笑みを浮かべ、助かったと礼を言った。
すると、『夕闇の女王』は機嫌よくし、武に近づいた。
『雨の子は素直ね。どっかの嵐の餓鬼とは大違いだわ』
横目で隼人を見つつ、武の頬を撫でる。
どうやら、武の態度に好感度を持ったようだ。
「天姫と同じ顔してるのに性格とか喋り方とか全然違うんだな」
『はぁ?天姫と同じな訳ないじゃない。ワタシは確かにあの子の半身で天姫よ。けど、性格まで一緒だったら、そもそも分離したりなんかしないわよ。だって同じなら拒否される事なんかないでしょうが』
「お前、べらべらしゃべるんじゃねぇよ!」
曹揚羽との約束忘れたのかよと、隼人が『夕闇の女王』に突っ込んだ。
「曹揚羽だと?」
武はばっちり彼の名前を耳にした。
隼人はしまった、と顔を青くさせたがもう遅い。
『夕闇の女王』はあらと愉しそうな顔で武の背後に回り、後ろから抱きしめる形で言った。
『お仲間が増えて嬉しいわ。計算外だけど、これはこれで楽しいし。それに、これで話し相手が増えたもの』
退屈しないわ、と
『夕闇の女王』は極上の笑みを浮かべ、微笑んだ。
『夕闇の女王』『嵐』『雨』
この3人が奏でるのはどんな曲?
【また駒が増えた】
※
沢田綱吉side
俺と、天姫、そして山本の関係にヒビが入ってしまってから数日後。
あれから天姫とは、完全に顔を合わすことが無くなった。
リボーンの話では天姫はヒバリさんの所で過ごしていると。
獄寺君の怪我や、山本の傷は初日には重傷なものだったのにあの日あった出来事、あの時から獄寺君と山本の傷はアッというまに回復していった。
それも普通では考えられないほどの回復力に俺は目を丸めるしかなかった。
まるで、何か別の力が働いたようなそんな気がしてならない。
でも、それを確かめる術は俺にはなかったけど。
あの群れることを嫌うヒバリ、さんは、普段俺たちなんかを自分の区域内に入れることなんて、まったくなかったけど山本は頻繁に出入りしていた。
たぶん、天姫に会いにいってるんだ。
天姫との距離が彼方のように遠くなった俺と、ことさら山本は彼女との距離が縮んだみたいだ。
だからって、俺は何も言えない。
自分でしでかしたことなんだから。
ついにミルフィオーレ打倒に向けて本格的な修行が始まった。
その内容とは以前のリング戦と同じように、そえぞれに家庭教師とつけて個人個人に専念するというもの。
今は自分だけの問題じゃないので、とにかく目の前のことに集中しようと頭を切り替えた。
俺と山本の間に漂う微妙な空気は、それなり皆に知られてしまったようで、獄寺君がやっぱりピリピリしていたし、山本は俺と話す時いつものフレンドリーさが欠片ほども無くなっていた。
山本はリボーン、獄寺君はビアンキが家庭教師となった。
そして俺は、ラル・ミルチかと思っていたのだがまったくの違う人物がいきなり攻撃を仕掛けてきた。
脅威のスピードで迫りくる針のような塊。俺は死ぬ気の炎を灯し、壁際まで攻められたところを両手で炎を射出しそれを何とか抑え込む。
だが、勢いが強すぎてトレーニングルームは爆発的なエネルギー空間となった。
コツコツと靴音を響かせ近づいてくる男。
「沢田綱吉、君の才能をこじ開けてあげるよ」
俺は目を見張った。
まさか、この場にヒバリさんが来るなんて夢にも思わなかったからだ。
「赤ん坊から聞いた通りだね、まったく今の君は弱いよ」
「何をっ!?」
「今の君が天姫の全てを背負うことなど許されない。僕が、許さない」
ヒバリさんの目は苛立つほどに正論を述べていた。
俺が、馬鹿なことしたばっかりに、あ天姫を傷つけたんだから。
「くっ!」
ヒバリさんが匣から発した針の威力が増してきた。
このままではヤバいと感じた俺は死ぬ気の零地点突破を試みる。
瞬く間に炎は、研ぎ澄まされた氷へと変化していき針先を凍らせていく。
でも、やった!と思ったのは束の間でそれが命取りになった。
針の山が急に分散しだして俺の周りを覆い始めた。
「なっ!?」
「アレは、増殖しているのかっ!?」
見守っていたラルたちにも緊張が走る。
俺は球体の中に閉じ込められた。
ヒバリさんはその球体は『球針態』といい、俺の炎でも溶かすことは不可能といった。
「早く出ないと死ぬよ。そこはだんだん酸素量が少なくなっていくからね」
容赦なく言い放った、ヒバリさんに躊躇いの言葉なんかなかった。
真っ暗な闇の中、俺は散々力を振り絞ったが、一向に亀裂さえ入ることはない。
このままでは…。
酸素量も残り少なくなってきて、呼吸も荒くなってくる。
なんで、……こんなとこで死ななくちゃいけないんだ……。
俺はまだ、倒れるわけにはいかないんだ……。
薄れゆく意識の中で、天姫の笑顔が浮かんだ。
俺が壊してしまった、大切な彼女の笑顔を…。
すると、俺の『大空』の指輪が闇の中煌々と輝きだし俺にある映像を見せだした。
それは想像を絶するモノだった。
歴代のボンゴレたちが行ってきた罪の塊の記憶。
炎に包まれる屋敷、爆破される車、無常に殺される人々、残された家族を想い、命乞いする敵。これは負の記憶。決して許されることのないボンゴレの悪行。
耐えられなかった、俺は必死に叫んだ。
「やめてくれ、やめてくれっ!!」
頭を抱え、深い悲しみから、罪の重さから俺は涙を流す。
なんで、こんな事が繰り返されるんだ!
誰かが俺の背後で言った。
『これは血塗られた歴史、ボンゴレの真実』
『大空を持つものよ、お前は受け止めることができるか』
『この力をこのボンゴレをお前は引き継げるか』
それは歴代のボンゴレボスたちだった。
「いやだ、俺はそんなの継ぎたくない、そんなもの欲しくない!」
俺は無我夢中で首を横に振った。
いらない、そんな血に塗れたものなんか欲しくない、そう泣き叫んだ。
『では逃げるのか Ⅹ世』
「違う、逃げるんじゃない!俺は最初からそんなもの望んでいなかった。……天姫がいたから、彼女がいたからここまでこれたんだっ!でも、俺はもう天姫と話せない、彼女を傷つけたから。俺が何も理解しようとしなかったから」
『蒼龍姫はボンゴレの所有物だ』
『アレはこのボンゴレにとって必要不可欠であり、究極の存在、手放してはならない』
『Ⅹ世よ、手に入れるのだ』
『アレはボンゴレのもの』
矢次に飛び出してくるのは、天姫の重要性、いくらでも使い道はある、手放すな、利用しろ、使え、全てをボンゴレに捧げさせろ、だ。
奴らに言われて、俺はようやくわかった。
天姫の気持ちを。モノとしてしか見られない切なさを。
残酷なほど、空しさ、悔しさ、悲しさ、苛立ちごちゃごちゃに混ざって、苦しかった。
天姫はこれ以上の気持ちをあの時感じていたんだ。
俺は叫んだ!涙を振り切り、自分の愚かさを呪った。
俺はお前たちと同類じゃない。
俺は命令されて、彼女を欲したんだじゃない!
天姫が、
天姫だから、好きになったんだっ!
「ふざけるなっ!天姫は苦しんでた、俺に物扱いされて泣いてた、本気で悲しんでたんだ!……『蒼龍姫』の力に固執したボンゴレなんか、いらない存在だ…ぶっ壊しやる、そんな欲に塗れたマフィアなんかいらない!好きな人を悲しませる原因なんか潰してやる、そんなボンゴレ、俺がぶっ壊してやる!!」
そう叫んだ瞬間、俺の視界は一気に光に包まれた。
突如現れたのは歴代のボンゴレのボスたち。
そして、中央の豪華なイスに座る、一人の男。あれは…強く揺らめかない炎をまとった男。男は立ち上がり、こう俺に言った。
『おまえを待っていた』
ま、さか。俺の体が震えた。本物だ。あれは、夢ではない、幻ではない。
彼は…初代、Ⅰ世……!
『ボンゴレの証をここに継承する』
彼は右手の俺と同じXグローブをかざし何かを行おうとした。
けど俺は叫び、待って!!と動きを止めた。
貴方が初代なら、蒼姫龍を知ってるはずだ!
『…懐かしい、響きだ』
Ⅰ世は目を細め、雰囲気を柔らかくした。
やっぱり、貴方は知ってるんだ!
蒼龍姫は一体何なんですかっ!?
なぜ貴方の前から『蒼龍姫』は消えたんですか!
彼女が、最初の彼女が出現しなければ、天姫が苦しむことなんてなかったっ!
『契約』に縛られることなんてなかったのにっ!
俺のぶつけるような質問にⅠ世はこういった。
『彼女は世界の柱。数多ある世界のバランスを司る者。彼女無くして世界は成り立たない。『蒼龍姫』などは名ばかり、彼女は『生贄』として捧げられた哀しき女性』
生贄!?なんでそんな事を…。
『神が望んだのだ、彼女を。我が妻、緋奈を『器』として利用しようとした。これは『血』により決められた神の『筋書き』なのだ』
……妻……?器?
しかも『契約』が筋書きだなんて…よくわからないけど、でも直観が働いた
もしかして、Ⅰ世の奥さんって……
『歴史は時として真実を語らない。本物を知る覚悟があるものだけが真実にたどり着く。Ⅹ世、……我らの血を受け継ぎし愛しき子よ、ボンゴレを生かすも潰すも好きにせよ。全てはお前が決めるのだ』
待って!?まだ、聞きたいことが―――。
俺の声は膨大な光と共にかき消されて、意識ごと見込まれていった。
そして気がついた時、俺の両手にはXグローブVer.V.R(バージョン・ボンゴレリング)に変化していた。
そして、俺はボンゴレの試練を乗り越えヒバリさんと対峙した。
結局、勝つことはできなかったけど『蒼龍姫』の事を聞けたのは良かった。
初代は決して『蒼龍姫』を道具として見ていなかった。
彼の目はとても澄んでいて、優しさに溢れていたから。
それが俺の中で一番、得るものとして大きかったんだ。
【真の強さとは如何なるものか?】