沢田綱吉side
「これは、いったい何事でしょうか?」
「詳しくはわからないのか?ジャンニーニ」
ヒバードに取り付けられたカメラも黒耀の一部に入った途端、画面が映らなくなってしまい酷い雑音が入るのみだった。
俺はその雑音が混じった映像を食い入るように見つめる。
天姫が外に飛び出てしまったのが迂闊だった。
あれだけ口をすっぱくして外に出るなって言っておいたのに。
天姫がアジトから抜け出したと、ヒバリさんから言われた瞬間、俺の全身の血が凍りついた。
それと同時に怒りがこみあげて、いい加減にしろという気持ちになった。
自分勝手で人の気持ち無視して、なんだよ!天姫だって、天姫だって……!
俺はいてもたってもいられずに、獄寺君や山本が自分が暴れるのを止めようと躍起になっている。
「もう、待てないよ!」
「十代目!?」
まさに駆けだそうとした俺を山本がぐっと力を込めて肩を掴んで怒鳴った。
「俺だって探しにいきたい!けど、お前はボンゴレ十代目なんだ皆を引っ張っていく立場の奴が足先乱してどうすんだよっ!」
すると、その言い方にカチン!と頭にキタらしい獄寺君が
「てめぇ、十代目に向ってなんって口のきき方を」
と山本と言い合いを始める。しかも山本も獄寺の性格をわかっている上で挑発するような言い方をする。
「正当な意見を言ってるだけだ、邪魔するなよ。獄寺」
「て、てめぇぇえぇえええ!」
言い合いどころか喧嘩勃発!?
「やめてくれ、二人とも!」
俺を止める獄寺君や山本がいつの間にか、俺が二人を止める立場に回ってしまった。
…正直不安だ。こんなので、こんなてんでバラバラなチームで、俺たちはミルフィオーレに立ち向かうなんかできるのかよ?
ひと悶着はあったけど、無理やりそこはリボーンが抑えることに成功。こういう時はリボーンの存在が頼もしい。
黒耀ランドでの気配は反応があったもののすぐに消えてしまった。
だがそれと入れ替わるように得体のしれない強烈な力が働きモニターの機能を停止させる。
それどころか、他の機能までもが正常に働かなくなってしまったんだ。
だがそれは一人の屈強な男によって遮られた。
「沢田、お前がわざわざ出向かんでもこちらから来たぞ」
懐かしい声に全然変わらない姿にある意味驚いた。
「笹川センパイ!?それにクロームも…」
「芝生頭!」
怪我をしているクロームを抱き上げて笹川センパイの登場だ。
しかも彼だけではなくひょっこり、悪びれる様子もなく顔を出したのがずっと人を心配させていた根源の彼女。
「もっと丁寧に扱え。笹川兄」
「天姫!」
「……」
俺は思わず彼女の名を呼んだ。でもはっきりと無視された。こうまで露骨に拒絶されると落ち込むけど、でも俺は自分自身でびっくりするほど声を荒げていた。
「どれだけ、人を心配させればいいんだ、君は!」
「………」
視線さえ合わせようとはしない。俺はぐっと拳を握って耐えに耐えた。
ここでキレちゃいけない、これは俺が招いたことなんだから…!
でも、天姫にとって俺ってどうでもいい存在だったわけ?
そりゃ、確かに俺が悪かった。
あんな所有物扱いしちゃって、天姫を泣かせてしまった。
それがどれだけ酷いことしたのかはわかってる。でも俺はすごく後悔してるし、謝る機会を与えてくれるならいくらでも頭を下げて謝りたい!
でも、だからって、俺を、今まで一緒に過ごしてきたってのに、他人みたいに冷たい目でみなくってもいいじゃないかっ!
「………」
どうしようもない怒りがたまって、拳を握る力がさらに込められた。
憤りのない怒り。ヤバい、これ以上は爆発しそうな。
自分の気持ちを抑えられなくなった、その時
「いてっ!?」
「今は黙っとけ」
「…リボーン…」
後頭部をはたかれて俺はハッと我に返った。
これじゃあまた、あの二の舞になるところだった。
リボーンが俺の代わりに代弁するみたいに天姫を厳しい口調で叱った。
「…天姫、皆に謝れ。敵がいる外にさえ捜しにいこうとしてたんだぞ」
「……ごめんなさい」
リボーンの指摘に天姫はぼそっと小さくだけど、ぺこりと頭を下げて謝罪を述べた。
山本が、安心しきった様子で天姫に近づき彼女の額を軽く小突いた。
「じゃじゃ馬天姫だな」
「どうせ、私はまっすぐにしか走りませんよ!」
そういって、天姫はぺろっと舌を出した後山本と笑いあった。
ホントだったら、俺もあの場所に立ってるはずだったのに。
悔しくて、悔しくて、見ていられなかった。
真っ黒でどす黒いものが俺の中で駆け廻ってた。
笹川センパイはなんだか懐かしい場面をみるように視線を和らげていた。
「うむ、昔と変わらないようだな。そのお転婆は元気な証拠だ」
「お転婆じゃなくてじゃじゃ馬天姫って言うんだよ」
リボーンが天姫の肩に乗っかり、つっこむ。
「……凪を医務室に運んでください」
これ以上いることが苦痛なのか、天姫は笹川先輩にせかすように言った。
あくまでも天姫は俺を無視する方向で決めたみたい。
俺がそのままにしとくと思ってるの。
俺の突き刺すような視線から顔青くして逃げてった彼女。
俺は天姫がいなくなってから深くため息をついた。
俺、相当怖い顔してたのかも。
「………はぁ~…」
もう、何度目のため息だか、わからなくなってしまった。
もう以前の俺たちには戻れないのかな…
(溜息は虫歯の痛みのように連続して起こる)
※
天姫side
逃げてきてしまった。
私はツナから逃げてしまった。あの責める目が怖くて仕方がないんだ。一緒にいるのも苦痛っていうか、怖い。あの追い立てる目が私を、恐怖へと引き立てる。
医務室へ向かうため、一足先に凪を運ぶため笹川兄には行ってもらった。私は、少し誰もいない廊下で気持ちが落ち着くまで一人で過ごしていた。
「…よし…」
なんとか無理やりだけれど気持ちを落ち着かせて私は医務室へと歩きだした。
すると向こう側からバタバタと慌ただしい足音が近づいてきた。
それは恭弥と哲さんで、
「天姫!」
「お嬢!」
「恭弥、それに哲さんも、うわっ!」
恭弥に腕を掴まれた反動でそのまま、彼の胸に引き込まれるようにダイブした私。
思いっきり彼の胸板に鼻先をぶつけてしまった。痛いの言葉すら言えず、ぎゅうぎゅうと抱き締めらたことで、心配かけてしまったと罪悪感に苛まれる。
ああ、また怒られるかもと覚悟さえした。
でも彼は絞り出すように言ったのは
「…心配した…」
の一言。
「ごめん、でもどうしても凪を助けに行きたくて」
「最初から君を止めようなんて考えてないよ。ただ一人では行かないで。僕も一緒についていくから」
「本当に、ごめんね」
凪の様子を見終わったら僕のとこ来てねと、しつこく繰り返されはいはいと手を振って哲さんと戻っていく恭弥を見送った。私は彼らがいなくなったのを確認して凪が寝ている医務室へと入った。
凪の容体は軽い栄養失調と軽傷ですぐに凪の意識は戻った。
私はベッドで身を起こす凪の手を両手で握りしめ、安堵した。
「凪、一人にさせて本当にごめん」
「天姫、ううん。いいの。来てくれるって信じてたもん」
「信じてた?そっか、ありがとう」
こんないじらしい子に大の男が指輪欲しさに襲い掛かるなんて、ミルフィオーレに今一度腹立たしさを感じてならなかった。そしてなんであれ、無事に助け出せたことに心から安堵した。凪のムクロウなる匣兵器のフクロウはまだ眠っていたし、よほど疲れたのだろう。私はそのフクロウに頑張ったねとねぎらいの言葉を声をかけながらそっと撫でた。
「うん。だって天姫は私の……」
「私の、何。言って?」
凪は顔を赤くして、一気にまくしたてた。
「私のお母さん、だからっ!」
そういって素早くベッドに潜り込んだ。私は凪の予想外な言葉にしばし固まってしまったが、
「お母さん、か…」
「……ダメ?」
凪はおそるおそる、私のの様子を伺うようにのそりとシーツから顔を出して問う。
私は苦笑しながら凪の頬に手を伸ばす。
「光栄だよ、可愛い娘。まさか骸たちみたいな問題児に続いて娘もできるとは思わなかったからね」
びっくりしたけど、嫌じゃない。凪は本当の子供のように思えた。
骸や、犬に千種、そして凪。
この子たちには幸せになって欲しい、といつも願っていた。
凪が私を『母』と思うことで彼女が幸せと感じるなら、これにまさる喜びはない。
凪は可愛らしくおそるおそる、さっそくねだってきた。
「じゃあ、あの、時々、そう呼んでいい?」
「いいよ、凪の好きな時に呼んでかまわないから」
凪の髪はサラサラだ。劉牙との子供がもしいたとしたら、こんなにはサラサラじゃないかもしれない。だって彼の髪質はクセ毛が強かったから。
「じゃ、えっと。……『お母さん』?」
「うん、なに?」
私じゃ母親代わりなんて大役務まらないかもしれないけど、親の愛情を知らない私だけど、求められているものを否定できない。
止めなくていいんだよ。
その想いを込めて、凪の頭を自分の胸に抱きよせた。凪は押し殺していた感情を曝け出して思う存分泣き出した。
「………お母さん…!」
「凪」
普段感情を大きく出すことがない少女が、今私だけに見せる。
「お、お母さん……っ、淋し、かった…」
「うん、一人で来ちゃったんだものね」
「誰も、いなくてっ……こわっ、かった……ん…」
「そうだろうね、ごめんね。凪」
「うぅ、……うっぁぁぁぁああああああ!!」
タカが外れたかのように凪は泣きだした。安心して泣けたのだ。
抱き締めてくれる存在があってだから泣ける。
凪にとって、天姫は「お母さん」なのだ。
「よく我慢した、よく頑張ったよ。凪」
私が悩みまくってた時に凪は一人で耐え忍んでた。本当にごめん。
今は現代に帰ることだけを考えなくちゃ、と
天姫はツナとは一線を引いて接しようと思ったのだった。
感情よりも、理性で行動しようと。
大人気なかった。明日からは普通に接しよう。
皆にも気を使わせてしまったし。
そして、全部終わって
現代に帰ったら、………うん。そろっと潮時かもしれない。
あの家を出よう。
『契約』がのちに破棄されることはわかった。なら、今のうちに、傷が浅いうちに離れよう。
10年後、共にいることが無くなったのなら私の価値はボンゴレにとって無くなったも同然。
そうすれば、ツナは『蒼龍姫』にとりつかれることもなくなる。
ツナは権力に魅了されたんだ。だって、あんなのツナじゃない。
あれは所有物を見る目だったもの。『私』を見る目じゃなかった。
お互いがおかしくなる前に、手後れになる前に
離れるしかない。私は決断した。
ある程度泣きまくった凪の頭を撫でながら、なんとなく言った。
「凪、あのさ」
「……ヒぐ…な、に…?」
「未来から帰ったら、一緒に暮らそう」
「?」
突然の提案に凪は混乱している様子。だから凪の目をみて天姫は再度言った。
「私と、凪と骸と犬と千種と、燐華とシロとゴーラちゃんの8人で一緒に暮らそう。約束したもんね。一緒に暮らそうって、あの時」
あの時とは初めて凪と骸を会わせたあの夢と現実のはざまの世界。
ずっと叶えることができなくて、凪に可哀想な事をした。これもいい機会だ。
いつまでも、奈々ママにしがみ付いていられない。
あの家は居心地が良すぎた。
あれは束の間の夢だったのだ。
私にとって、淡雪であった。もういいかもしれない。
夢を見るのは。夢に浸るのは。
私には両親はいない。最初から存在しない。でも、もうそれでいい。
だって、私を必要としてくれる子がいる。
「ホント?」
「本当、だよ」
純粋に私を必要としてくれる人たちがいる。だから、もういいんだ。
嬉しそうに笑う凪とおでこをこっつんこしながら二人で笑いあった。
(親離れとはこういうことなのかな?)