雲雀恭弥side
僕は不機嫌のまま応接室を目指していた。
今日は気分が悪いんだ。群れる草食動物どもが後から後から邪魔なくらい湧いて出てきたから。けどその不機嫌もあるものを目にして、消えてしまった。
「………君、なにしてるの」
自分の喉から出る声が震えていた。信じられないくらい、いつもこんなことがあるわけないのに。その時は、体が、全ての思考がその存在に囚われてしまったんだ。
この並森にそぐわない格好をしている子供が応接室の丁度目の前にいたから。
珍しい銀髪とこちらを振り向いた瞬間、目を奪われる紫紺の瞳。
白磁の肌に少しピンク色の頬。紅く潤う唇は真っ赤な果実みたいで、小さな手は必死に鼓動を抑えるかのように心臓部分にあたる服を抑えている。
心臓が早鐘を打つ。ただ視線が合っているだけなのに、これは何?
「リュックに入ってるの、取って」
「えっ」
少女のか細い声がすぐに耳に入った。
「リュックに入ってるの、取って」
僕は言われるがまま少女の背中に背負っているリュックを外し中を覗いた。
中には少女のものではないだろう男物の包まれたお弁当と箸、それにピルケースに入った白いラムネのような薬。それと小さい水筒が入っていた。
「これかい?」
「うん」
ピルケースを取り出して薬の数の多さに驚いた。数えきれないほどの種類に及ぶ薬が少女が服用する量とはとても思えないから。
もしかして、重症なのかな。
少女は胸を押さえながらいくつかの薬を取るとそのまま、口に含んだ。水筒を差し出すと
コクリコクリと飲んでいく。
「……ありがとう……おにいちゃん」
にっこりと笑う姿に僕は胸を撫で下ろした。
「……よかった。それじゃあ行こうか」
「え?」
「おいで、少し休んだほうがいい」
了承なしに抱き上げたのはマズかったかもしれない。でも歩くのも辛そうだったからできれば無理してほしくなかった。見た目通りの軽さで逆に心配になる。
少女は目を白黒させながら不安げに僕の制服をぎゅっと握る。僕は少しでも少女の不安が和らげばと安心させたくて微笑んだ。
「僕は雲雀恭弥、君は?」
「……ジル…です…」
これが君との最初の出会い。
(はぐれ猫に拾われる)
◇◇◇
やっと午前中の授業も終わりお昼タイムになった頃。
周りの生徒達がガヤガヤと中の良い友人とお昼を食べ始めていく。
屋上で食べようと誘ってくる山本にツナはあわててかばんの中を探る。けど必死に探しても弁当がない。
ないないないないない!?……ま、さか。
ツナは顔を青くし、ぽつりと呟いた。
「弁当、……忘れた?」
「十代目、どうかされたんですか?」
「ツナ、弁当忘れたんだとよ。そそっかしいなぁ」
「なんだとぉ!?十代目!どうぞ、俺の弁当を食べてください!」
無理矢理目の前に獄寺の弁当を寄せられた。だがそんな貰うわけにはいかないとツナは引きつった笑みで断った。
「ええっ!?いいよ。そんな……」
気にしないでと続けようとした途端、突然呼び出しのチャイムがなる。
ぴーんぽーんぱーんぽーん。
『沢田綱吉。至急、応接室まで来なよ』
ぴーんぽーんぱーんぽーん。
必然と静かになるクラス一同。視線は言わずもがな、ツナに集中する。
「俺、なんかした――!?」
「大丈夫です!俺が殺りますから!」
「お、よし。俺も一緒にいくぜ」
ツナの叫びに獄寺と山本はなぜか乗り込む気満々でいる。
それが逆に不安を煽るってことをこの二人は知らないのか!?
三者三様といった面々がたどり着いたのは魔の応接室と呼ぶにふさわしい場所だった。
「うう、開けたくない…」
「大丈夫ですよ!十代目、俺がこのダイナマイトで全部吹き飛ばしてやりますから」
「お前、こんな時に花火持ってきてんのか?大好きなんだな」
「馬鹿か!?これが花火に見えんのか!目腐ってんじゃねえか!」
「ああ!もう、やめてよ!?」
こんなところで大声出したらヒバリさんが!?
そんなツナの心配を知らない二人のケンカ(一方的な)はヒートアップしてく。
と、そこへ目の前の扉がガラリと開かれる。その瞬間
「あ、綱吉!」
そう、扉を開いたのは朝エンジェルスマイルで送り出してくれたジルだった。
「ジル!?」
ツナの戸惑いなどそっちのけで足元に抱きついてくるジルにツナはう、可愛いなと思いつつジルと同じ目線に膝をついて頭を撫でる。しかもジルはツナに会えて嬉しいのかニコニコとした笑顔を見せてくるものだから、場所的には鬼門なのにほっと和んでしまう。
「なんで、ここに?」
だが、その問いに応えたのはジルではなく並森最強の人雲雀であった。
物凄く不機嫌にツナを睨みつけあるものをいきなり投げて寄こした。
「おわ!」
「君、さっさとそれもって消えなよ」
抑揚のない低い声で牽制されたツナ。まるで邪魔だといわんばかりに。
自分の手には朝忘れたはずのお弁当がある。
「あ、あの。なんでジルがここに」
「綱吉のお弁当届けにー!」
無邪気に叫ぶジルがうらやましい。なぜかむぎゅっと更に抱きついてきた。
雲雀の眉間がピクンと反応した感じにみえたんだけど…
「おうコラ!?十代目を呼び捨てにするんじゃねー!」
「おいおい、滅茶苦茶可愛い子だなぁ。ツナの親戚か?」
獄寺君は大人げないこと言ってるし、山本は子供好きなのかわしわしとジルの髪を撫でている。二人の問いに素直にジルは口を開いた。
「ううん、こんやくむぎゅ!」
「ああー!なんでもないなんでもないよなぁーー?」
ああ、余計な事いわないでくれー!
喋らせないようにしたツナの行為が雲雀をイラッとさせた。
ぶちっ!とキレた雲雀はゆらりと背後に嫉妬の炎を燃え盛らせトンファーを装備する。
「咬み殺す」
ヒバリの嫉妬によってぼこぼこにされたツナたち。
ジルは心配そうにしていたが雲雀が抱き上げ家まで送り届けた。
さらにツナがへとへとに家に帰って来たときにはリボーンのしごきならぬスパルタ授業が待っていた。
(馬鹿ツナめ、ジルに負担かけやがって)
ジルに関する情報は既に耳に入っているリボーンだった。