闇ニ花ヒラク蒼薔薇   作:サボテンダーイオウ

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標的122偽らないで飾らずに貴方に伝えたい

天姫side

 

「天姫、ちょっといいかな?」

 

背後にツナが立っていた。しんとした廊下、二人だけの気配しかない。

 

「何?ツナ」

 

動揺を悟られないよう、笑顔を作る。

 

「君と話したいんだ」

「あ、でも今日はちゃんと休まないと駄目だよ?明日はツナにも頑張ってもらわなくちゃいけないんだから」

「わかってる、でも今君と話したい」

「いいよ、長引かない程度にね」

 

廊下じゃなんだし、応接室行こう。

そういって私が先を歩き出した。ツナは黙って私の後に続いた。

移動する間、一切私たちには会話がなかった。

応接室に着いて、私たちは、向かい合わせに座った。

こうして、ツナを真正面からみることなんて、ここに来てから数えるくらいしかなかったね。

現代にいたころよりも、ずっと男らしく成長している様が、私には眩しくて、逆にみじめになった。

最初に声を出したのは、ツナだった。

 

「こうして、二人だけで話すの久しぶりだね」

「そうだね、ホント、久しぶり」

 

そこで、また言葉が途切れる。ツナは何か言いたいようだ。

もちろん、私も彼に言いたいことがある。だから、もう話すことにした。

 

「ツナ、貴方に聞いてほしい事があるの」

「俺、に?」

「うん、私の過去。私の全てを。貴方に聞いてほしい。それから厚かましいかもしれないけど、どうか私の願いを聞き届けてほしい」

 

私という女の出生、狗楽との関係、揚羽やパパとの関係、ヒナという『龍姫』の存在、異世界の仕組み、神男との『契約』そして『対価』。人間として生を終えることがない事を包み隠さず全て彼に伝えた。

 

ツナは何も言えない様子だった。

ショックを受けたって言葉のほうがしっくりくるかな。

うん、当たり前だと思う。人外な存在が目の前にいるんだもん。

普通な人間だったら、パニくるか現実逃避とかしちゃうと思う。

けど、ツナはゆっくりと言葉を選んで言ってくれた。

 

「俺は、何も知らなかった。君が教えてくれなかったから」

「うん」

「でも、教えてくれてありがとう、天姫」

「う、ん」

 

泣くな、まだ彼に言わなくちゃいけない事がある。

 

「ツナ」

「なに?」

 

私は決めたんだ。

こみ上げる涙を振り切って、私は彼に伝えた。

 

「私と、契約を破棄してください」

 

今、この10年後の世界では確かに私たちの契約は破棄されている。

でもそれはあくまで未来の私たちの間であって、今の私たちではない。

私は、今のツナとの契約を破棄したいのだ。

 

「………それは、俺が嫌いになったから?」

 

ツナの顔が歪んだ。私は必死に首を振って否定する。

 

「違うっ!そうじゃないのそうじゃない。そういうことじゃないの」

「じゃあ、どういう事なんだよ!?」

 

ダンッ!!ツナは怒りからテーブルを思いっきり叩く。

一瞬、びくっと体を震わせたが私はツナに向かって叫んだ。

 

「お願い、聞いて!私は、私は『虚像の花嫁』に囚われたくない!私は、神崎天姫でいたいの!」

「…天姫…」

 

あれ、おかしいな。泣くつもりなかったのに、私の頬を涙が伝う。

それも幾筋も。でも私はかまわずに言葉をつづけた。

伝えたい、私が考えていることを今伝えなければ、ツナとはこのままずっとすれ違うと思ったから。

 

「ツナと最初に出会った時、私は記憶を失くした『ジル』だった。そして、ボンゴレ十代目、沢田綱吉の婚約者『虚像の花嫁』だった。そして、再び貴方達の目の前に現れた時は偽りだったけど、ザンザスのもの『神崎天姫』だった。ずっと、私としてじゃない。『虚像の花嫁』が背後について回った。本当は苦しかった。悲しかった。『虚像の花嫁』って言われるたびに私を否定されてる気がした。消されてる気がした。私の力じゃない『虚像の花嫁』として、その力で全部を手にしたみたいな言い方だってされた。みんなにそのつもりはなかったのはよくわかる。私個人を大切にしてくれてたのだって、痛いほど感じた。でも!私は私なの!『虚像の花嫁』じゃない、私は神崎天姫なの!!」

「天姫」

 

お願い、私を見て。私はモノじゃない。

生きてる、鼓動だって動いてる。

人形のままでいたくない。

自分の足で歩きたい。

大地を走りたい。

大空を飛びたい。

 

「貴方に囚われたままじゃ、私は前に進めない。ずっと過去に縛られて、私じゃなくなっていつか本当の『虚像の花嫁』になる。それじゃあ、私は未来を生きれない。私、はいつか、私を殺してしまう……」

 

お願い、ツナ。

私は自分の体を抱きしめ、声を震わせて、ツナを見つめた。

 

「……助、けて、ツナ………」

 

私は初めて、ツナに助けを乞うた。

違う、そうじゃない。

劉牙以外の男に初めて、私は助けてほしかったんだ。

 

助けてと、願った。

この状況を救ってくれるのは、恭弥や武や、ザンザスじゃない。

私と契約をして私自身の楔を絶つことができる人。

 

沢田綱吉だけ。

 

瞬間、私は温かな腕に抱き締められていた。

そして、涙で濡れ、目を見開く私の唇に彼の唇が押し当てられていた。

ツナ……?

しばし、時間が過ぎ、彼の方から離れていった。

そして、まっすぐに見つめられ

 

「天姫、ごめん」

 

力強く、弱い私を射抜いた。

その言葉にどれだけの想いが詰め込まれているのか

 

「…ツ…ナ」

 

もう、自分の涙を止めることは私には不可能だった。

ただ、ツナだけの言葉を聞いていたい。

心からそう、思ったから。

 

「俺は君を理解したつもりで、俺は何一つ知っていなかった。君を『契約』の形で縛ることで満足してたんだ。君は俺のものだ、誰も手は出せないって。自己満足だったんだ。

君の苦悩を知りもしないで、自分だけ浮かれあがって、裏切られたから、君に八つ当たりして苛立ってた。子供だったんだ、俺は。君がヒバリさんに抱かれたって知って、嫉妬した。許さないなんて思った。でも最初からそんな嫉妬を抱く権利さえ俺にはなかったのに、俺は勘違いしてたんだ。情けないと思う。ボンゴレ十代目なんて肩書きだけで、君を支配できたって馬鹿な事ばっかり考えて。嫌われても仕方がないと思ってる」

「ツ、ナ」

 

零れ落ちる涙を不器用ながらも指でぬぐってくれた、優しい手つき。

 

「でも今度は、……今度こそは君に近づきたい。馬鹿でドジで間抜けだった俺だ、大切な人が傷ついてたのに、取り返しがつかなくなったどうしようもない大馬鹿な俺だけど、でも」

 

ツナは深く息を吸い込んで、私を見る。

 

「俺も、また、最初から君を知っていきたいんだ。また一から君を、ゆっくりと知っていきたい」

 

そして、勢いよく頭を下げた。

 

「だから、よろしくお願いします!!」

 

私は自然な状態で頷いていた。

 

「うん」

 

たった一言、これだけでツナはすぐに反応した。

拍子抜けしたみたいな?

 

「え!?」

 

私は目を細めて、微笑む。

 

「…本当…?」

「うん」

 

本当だよ、その意味を含めて私はコクンと大きく頷いた。

 

「…ありがとう…天姫……」

 

彼も目に涙をいっぱいに溜めながら私に礼を言う。そんな私は彼の名を呼んだ。

 

「綱吉」

 

『ツナ』ではなく、『綱吉』と私は彼を呼ぶ。

これでいい。

 

「うんっ!!」

 

私たちはふりだしに戻った。

『契約』に縛られる関係じゃなくて、自分たちが望む形として。

未来の自分たちがどうこうじゃない。

それは彼らの関係だ。

彼らは彼ら、私たちは私たち。

今から創めよう。

私たちの新しい関係がスタートするんだ。

 

沢田綱吉side

 

俺はこれが最後のチャンスだって思った。

だから、君に声をかけた。

平然と何事もなかったかのように接する天姫。

このまま、流れてしまう気がした。

何もかも、俺たちの繋がりも俺の君に対する気持ちも想いも

だから、俺は賭けた。

君との関係に終止符を打つときだって。

これで、君が変わらなかったら、その時は君を諦めようって。

 

「ツナ、貴方に聞いてほしい事があるの」

「俺、に?」

「うん、私の過去。私の全てを。貴方に聞いてほしい。それから私の願いを聞き届けてほしい」

 

それから天姫が語ったのは、俺の予想を遥かに上回る壮絶な内容だった。

ショックを隠し切れなかった、俺。

だけど、天姫は自分の全てを言ってくれたんだ。

 

「俺は、何も知らなかった。君が教えてくれなかったから」

「うん」

 

天姫は頷く。

 

「でも、教えてくれてありがとう、天姫」

 

語尾を震わせながら、天姫はまた頷いた。

 

「う、ん」

「ツナ」

「なに?」

 

天姫が何かを覚悟したみたいに真剣な表情で俺に言ってきた。

俺は純粋に天姫のアメジストの瞳を綺麗だと感じた。

それほどに彼女は美しく、燐としていたからだ。

「私と、契約を破棄してください」

「………それは、俺が嫌いになったから?」

 

なんとなく、予想はついてた。

君がその話をするんじゃないかって。

だから、俺に自分の事を包み隠さずに言ったんじゃないかって。

でも、ホントいうとショックだったんだ。

耳を塞いで、聞きたくなかった。

でも、そこまで俺も落ちたくない。だから、情けないけど、顔が歪んでしまった。

君が反論してくるのをわかって、やった間抜けな俺。

 

「違うっ!そうじゃないの。そうじゃない。そういうことじゃないの」

「じゃあ、どういう事なんだよ!?」

 

ダンッ!!俺は怒りからテーブルを思いっきり叩く。

一瞬、びくっと天姫は体を震わせたが、

 

「お願い、聞いて!私は、私は『虚像の花嫁』に囚われたくない!私は、神崎天姫でいたいの!」

「…天姫…」

 

天姫は泣いていた。

幾筋も幾筋も涙は流れ、頬を伝い、下に零れ落ちていく。

それほどに天姫は俺に伝えようと必死だった。

 

「ツナと最初に出会った時、私は記憶を失くした『ジル』だった。そして、ボンゴレ十代目、沢田綱吉の婚約者『虚像の花嫁』だった。そして、再び貴方達の目の前に現れた時は偽りだったけど、ザンザスのもの『神崎天姫』だった。ずっと、私としてじゃない。『虚像の花嫁』が背後について回った。本当は苦しかった。悲しかった。『虚像の花嫁』って言われるたびに私を否定されてる気がした。消されてる気がした。私の力じゃない『虚像の花嫁』として、その力で全部を手にしたみたいな言い方だってされた。みんなにそのつもりはなかったのはよくわかる。私個人を大切にしてくれてたのだって、痛いほど感じた。でも!私は私なの!『虚像の花嫁』じゃない、私は神崎天姫なの!!」

 

話を聞いて、俺は、愕然とし、自分の今までの行いに気づいた。

天姫に今まで一方的に気持ちも言わないで押し付けていただけ。

それじゃ駄目なんだ。それだけじゃ、互いに傷つくだけ。

傷ついて、傷ついて、遠くになってすれ違うだけ。

 

「天姫」

 

なんで俺は忘れていたんだろう。天姫がジルだった時。ジルを天姫だと認めた時。

天姫を天姫だと思った時。素直に思ったじゃないか。

彼女は彼女なんだと、見た目が変わったって彼女自身が変わるわけじゃない。

俺が好きな女の子だったんだ。

 

「貴方に囚われたままじゃ、私は前に進めない。ずっと過去に縛られて、私じゃなくなっていつか本当の『虚像の花嫁』になる。それじゃあ、私は未来を生きれない。私、はいつか、私を殺してしまう……」

 

押し付けるだけじゃダメなんだって、ディーノさんが言っていた。

俺、馬鹿だった。

あの時の気持ち忘れててただ一方的過ぎた。押し付けは自分も彼女も傷つけるだけ。

仲間にも迷惑かけさせるだけ。

お願い、ツナと、彼女の口がそう形づけられた。

天姫は震える自分の体を抱きしめ、声を震わせて、俺を見つめた。

 

「……助、けて、ツナ………」

 

君は初めて俺に『助けて』って言った。俺はもう迷わなかった。

君を引っ張って、俺の腕に閉じ込めて、俺は君を抱き締めた。

そして、君の柔らかな唇にキスをした。

俺は本当の天姫を今、初めて知った。思い知らされた。

君には、大空が似合ってる。だって、君に出会った時に思ったんだ。

銀の天使はずっと下界にいることはない。だって、君には翼がある。

ずっと鎖に繋がれままでは、いずれ君は翼を枯らし、声を失い、そして死んでいくのだろう。

俺はそんな事をしたくない。俺のわがままで君を閉じ込めたくない。

銀の天使を天界に帰す時が来たんだ。

 

俺は、天姫をまっすぐに見つめて、

 

「天姫、ごめん」

 

色々な意味で、俺は気持ちを込めて謝った。

 

「…ツ…ナ」

 

俺の名をいう君の唇が震える。アメジストの瞳が涙で揺れた。

その言葉にどれだけの想いが詰め込まれているのか。

君にうまく伝わらないかもしれない。けど、俺の気持ちを聞いてほしい。

 

「俺は君を理解したつもりで、俺は何一つ知っていなかった。君を『契約』の形で縛ることで満足してたんだ。君は俺のものだ、誰も手は出せないって。自己満足だったんだ。

君の苦悩を知りもしないで、自分だけ浮かれあがって、裏切られたから、君に八つ当たりして苛立ってた。子供だったんだ、俺は。君がヒバリさんに抱かれたって知って、嫉妬した。許さないなんて思った。でも最初からそんな嫉妬を抱く権利さえ俺にはなかったのに、俺は勘違いしてたんだ。情けないと思う。ボンゴレ十代目なんて肩書きだけで、君を支配できたって馬鹿な事ばっかり考えて。嫌われても仕方がないと思ってる」

「ツ、ナ」

 

俺は真珠のような零れ落ちる涙を指でぬぐう。

 

「でも今度は、……今度こそは君に近づきたい。馬鹿でドジで間抜けだった俺だ、

大切な人が傷ついてたのに、取り返しがつかなくなったどうしようもない大馬鹿な俺だけど、でも」

 

俺は深く息を吸い込んで、天姫を見た。

 

「俺も、また、最初から君を知っていきたいんだ。また一から君を、ゆっくりと知っていきたい」

 

今更遅いなんて、拒絶されるかもしれない。

怖い、怖いんだ。でも、言わずにいられない。

 

「だから、よろしくお願いします!!」

 

勢いよく頭を下げた。天姫の手を両手で覆ったまま。

目を瞑ったまま、緊張の一瞬を感じた。

 

「うん」

 

たった一言、俺はすぐに反応して顔を上げた。もちろん、すっごく間抜けな顔だったかもしれない。

 

「え!?」

 

天姫は目を細めて、綺麗に微笑んでた。

出会った頃の、天使みたいに、心が奪われるほどの極上の笑みで、俺を見つめていた。

 

「…本当…?」

「うん」

 

彼女はこくっと頷いた。歓喜が俺の中から湧き上がってくる。

 

「…ありがとう…」

「綱吉」

 

『ツナ』ではなく、『綱吉』と天姫は俺を呼んだ。

 

それでいい。

 

「うんっ!!」

 

俺たちは最初の関係に戻った。

『契約』に縛られる関係じゃなくて自分たちが望む形として。

未来の自分たちがどうこうじゃない。

それは彼らの関係だ。彼らは彼ら、俺たちは俺たち。

今から始まるんだ。

俺たちの新しい関係がスタートする。

 

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