闇ニ花ヒラク蒼薔薇   作:サボテンダーイオウ

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標的123貴方がくれた分を上回るほど私が捧げてみせる。

隼人になかなか懐かない、あの『瓜』ちゃんを届けてきた恭弥が欠伸をかみころしながら部屋に帰ってきた。天姫は、微笑みながらお帰りと彼を出迎える。

恭弥は縁側で寛ぐ天姫の隣に座り、ごく自然に天姫の膝に頭を置いた。

 

「……眠い…」

「ご苦労様……。しかしなんでここにまで来ちゃったんだか。可愛いから遊べたけど」

 

クスクスとおかしそうに天姫が笑う。

さらりと甘えてくる彼の髪を撫で、恭弥は気持ちよさそうに目を閉じた。

 

「僕は君との時間を邪魔されてムカついたけどね」

「そういいつつ、じゃれつかれてまんざらでもなさそうだったのは、どこの誰かしら?」

「………意地悪だね…」

「フフ、可愛いから苛めたくなるのよ」

 

そういって、天姫がまた恭弥の髪を撫ではじめた。

 

最後の時間。

せめて、今だけは静かにゆったり過ごしたい。

綱吉たちもぐっすり眠れているはずだろう。

 

あの、『ツナ』から『綱吉』と彼の呼び名が変化した後、私は無言で恭弥の部屋に戻った。

恭弥は縁側で一人お茶を飲んでいた。

私はその隣に座った。

恭弥は綱吉との関係を一切聞いてこなかった。

 

涙で濡れ、目が真っ赤になった状態で彼を見上げた。

 

彼は私を見つめ、ただ、抱きしめてくれた。

そして、優しく甘い声で

 

「お帰り、天姫」

 

と言ってくれた。私も微笑返して

 

「ただいま、恭弥」

 

と返事した。これだけで、私の気持ちは落ち着いた。

さっきまで綱吉に対する罪悪感や『契約』から解放された嬉しさ、そして少し残った空虚感となぜか寂しさ。

それがごちゃごちゃに入り混じりあって私を責めていた。

 

私は本当に正しいことをしたのか、もしかしたら間違った選択をしたんじゃないかって。

 

でもね、恭弥に抱き締められて他愛のない会話してこれで良かったんだって思えた。

少なくとも、私は前進できたって思えた。

 

ホント、恭弥といると不思議でたまらないよ。

もしかしたら、恭弥って湯たんぽでできてるのかなって馬鹿なこと思っちゃった。

本人に言ったら、怪訝な顔して。

『僕が湯たんぽだったら君を抱きしめることができないじゃないか』って、真顔で言った。

 

……こんな恭弥だから、私は一緒にいて安心するのかも。

 

明日の作戦、恭弥は囮として大多数の敵を相手にする。

彼はたぶん、私にアジトに残れと言うだろう。

 

でも、私は待ってる女じゃない。

 

大切な人たちが命をかけて、闘うというのに、ただ帰りを待ち続けて祈りを捧げるか弱い女じゃない。彼らと共に武器を手にし、信念を胸に立ち向かう彼らの背を守りたい。

 

不完全な私だけど、やれることはある。

私たちは、この悲しい未来を変えなくてはいけない。

悲しみの連鎖をここで断ち切らなくては。誰一人欠けることなんて許さない。

 

そうなるような原因は全て壊してやる。

それに、この世界の恭弥にはたくさんの安心をもらった。

彼の溢れんばかりの気持ちは未来の#name6#天姫たっぷり注がれていたことがわかる。

過去の私にも同等に接してくれた彼に少しでも恩返しがしたい。

 

彼の背を守る これも私の務め

 

未来の#name6#天姫がどのように彼との婚姻を承諾したのかはわからない。

けど、何かしらの愛情がない限り、私は絶対、『彼』以外の手をとることはないはず。

私にもその兆しが芽生え始めた事は否定しない。

この愛情がどういうものなのか、名前を付けるために、その先を知りたいから。

だから、彼は私が守る。

 

「天姫」

 

恭弥が自分の髪を触る天姫の手を掴んだ。

名を呼ばれ天姫は何も言わずに彼と視線を合わせる。

恭弥が紡いだ言葉は、

 

「君はここに」「残らないわよ」

 

途中で天姫が見事言葉をふさぐ。

天姫はあきれ返った瞳で彼を見下ろし、おりゃ!と恭弥を床に転がした。

 

「いたっ」

 

まさかの不意打ちをくらい床に放り出された恭弥は恨みがましい視線を天姫に送った。

 

「乱暴すぎ」

「やかましい、私の膝は有料なんだよ。さっきのままでいたかったら私が行くのを許可しやがれ」

「………」

 

機嫌が悪くなった恭弥は不機嫌全開を現す。

だが、認める気は毛頭ないようだ。だが天姫とて負けていなかった。

ジロリと見返し綺麗な眉を吊り上げ睨みつける。

 

「二度と膝枕してあげない」

「ダメ、君はここに残るんだ」

「二度と一緒にご飯食べないし、一緒にまったりしてあげない」

「……ダメはものは……ダメ」

 

弱弱しく言い返すが力も籠っていない。

そもそも恭弥の目にさっきまでの鋭い目力が入っていなのだ。

チャンス!巻き返しの時だわと、天姫の目がピカリンと光った。

 

「クフフフフ、これで貴方は私に屈服するしかなくなるわ、それほどに精神的ダメージを与えてあげる!」

「っ!!僕にとどめをさせると思ってるのかい?侮らないでよ」

「余裕こいていられるのも時間の問題よ?」

 

恭弥が耳をふさぎ、防御の体勢にはいった。

しかし、天姫がクフフフと妖しい笑みを浮かべながら恭弥の手をはがしにかかる。

こういう時、天姫は骸のようにいい笑顔をみせるのだ。

対して恭弥は必死な顔して、反抗していた。

 

「二度と、」

「聞きたくない!」

 

グギギギギと二人の攻防が続く。

一瞬、恭弥の手と、耳との隙間を確認した天姫は、すかさず、彼に耳元に囁いた。

甘く甘くそれでいて残酷な一言を。

 

「二度と、口きいてあげないしこれから一生、恭弥を『空気』として扱うから」

 

ガーン!!

 

もろにその言葉を聞いてしまった恭弥は、ショックのあまり放心状態になってしまった。

対して天姫は、クフフフフ!と笑みを深くした。

 

エア恭弥、なんか面白いかもっ!!

 

そして、自分の勝利を確信したのだ。

なぜなら、一時放心状態だった、恭弥がぶつぶつと何かを呟いたのだ。

それはあまりにも小声で聞き取りにくいもの。

しかし、顔をうつぶせ、肩を震わせる彼は

 

「……った」

「なんて言ったの?」

 

わざとらしく天姫は聞き返した。

すると、バッと顔をあげ、いつも凛々しい彼の顔は悲しみで歪み、唇を噛みながら

 

「わかったから、『空気』だけはやめて!」

 

と天姫に抱き着いてきました。

 

「よしっ!!勝った!」

 

嬉しさのあまりにガッツポーズをかます一方で

 

「天姫の馬鹿っ」

 

と恭弥は半泣きしながら、天姫の腰に抱き着いてました。

所詮、惚れた女には最強な男でも勝てないという実例が出来上がった瞬間だった。

 

もしかして、天姫は彼氏を尻に敷くタイプなのかもしれない。

はたから見れば、バカップルにしか見えないのだが、まぁ、とくにかくにも天姫は、決戦に向けての恭弥との共闘を許されたのである。

 

そして、絶対伝えることはないけど天姫は目を細め、恭弥の髪に指を通した。

不思議そうな顔していたが、恭弥は気持ちよさそうに目を閉じた。

 

猫のように頭を摺り寄せてくる君。

なおさら、この時間が愛おしい、かならず、この時間を守ってみせる

天姫はそっと屈み、彼の髪にキスを落とした。

 

『貴方は私が守るから』

 

その決意を込めて君にキスを捧げよう。

 

(触れた先から、愛しさが込み上げてくる)

 

天姫side

 

敵突入前に、私は皆に包み隠さず言った。

 

「私は恭弥と共に行くわ」

 

絶対反対されるかと思った。でも言わずにいられなかった。

だって、余計な心配をさせて、敵との戦闘でそれを気がかりにさせたくないから。

私が決めたことを私がやると行動することをわかってほしかったから。

綱吉が一瞬唇を噛んだ。まるで言葉を飲み込むみたいに。

でも、彼は言葉を飲み込んだ。私の意思をくんで。

 

「気をつけて、天姫」

「…綱吉…」

 

君に全てを明かしたことで、前より距離が縮まったような気がするのは、私だけの勘違いなのかな?

ポンっと頭に手を置かれた。隣には苦笑してる武だった。

 

「こういう時の天姫の顔見れば何も言えなくなるって。でも無茶するなよ」

「うん、わかってるよ。武」

 

だから突入前に髪の毛ぐちゃぐちゃにしないでよ。

いやだから笑顔でさらにかき混ぜるようにしないでください。

 

「…ヒバリが一緒なのが気にくわねぇが、まぁ俺たち突入隊と一緒よりはマシかもしれねぇな」

「隼人」

 

そっぽ向いて、本当は心配しまくりなの、隠せていないね。

でも嬉しいよ。その素直な所が君の美徳だ。

 

「この無線機で連絡取り合うんだ。暴れてなくすんじゃねーぞ」

「リボーン…」

 

多分大丈夫だよ。最近暴れてないから、加減できないと思うけど。

ぽいっと投げられたのはイヤホンタイプの無線機だった。

ぎゅっと手に大切に握りしめた。最後に可愛い娘。

顔を俯かせ、しょんぼりとしたように肩を落とす。

 

「凪」

「……」

 

彼女の前に立ち、そっと顔を両手で包んだ。持ち上げた凪の顔。

やはり心細いのだろうか、凪の瞳が揺らいでいる。

でも行かなきゃ守れない。

 

「京子たちを守りなさい」

「…………」

 

そういって置いていく私に怒っているのだろうか?それとも残されていく寂しさ?

 

「凪、約束を覚えてる?」

「…う、ん……」

 

『約束』二人だけの約束。

 

「それがあるから、私は強くいられる。だから凪、貴女も強くなりなさい」

 

未来を勝ち取る為に自分の力で。

私の手に凪の手が添えられた。コクンと頷いた後、

 

「……いってらっしゃい…天姫!」

 

と無理やり笑顔を作り、心配させまいと懸命な彼女。

今はそれでいいよ、凪。私も笑顔で言うよ。

 

「行ってきます」

 

そういって、おでこをこっつんこした。

ちゃんと、ただいまを言うために私は帰ってくるよ。

自分の未来を掴むため『仲間』といるために。

 

※※※

 

愚か愚か愚かなり。

いくら群がってこようとも、

いくら精鋭を揃えようとも、

我が敵ではない。

殺意を感じなくとも、殺す一歩前まではいかせることはできる。

そうこれは殺意ではない。

快楽だ、抑えきれないほどの狂乱。

 

私は、彼の背を後ろから見ながら狂気を隠す。

 

もともと私の中に存在するもの。

 

最初からあったもの、『彼女』はそれの塊なだけ。

根本は私に巣食っていたのだ。根深いほど、分離できないほどに。

 

自分の手をこっそり盗み見た。どうやら震えているようだ。

自分の事なのに他人事のように感じてしまうこれは私の手だ。

 

これから行うことも私がすること。

ああ、この高揚感は久しぶりだ。

 

思わず自分の体をぎゅっと抱きしめる。

 

抑えられない、この衝動を。

抑えきれない、この狂乱を。

 

芯の底から体が火照ってたまらない。

焦らされていく感覚に堪らずにはぁっと甘い吐息が出た。そ

 

れに気がついた恭弥が振り向いた。

私の変わりように彼は目を見張った。

 

「フフフ」

「天姫」

「愉しくてたまらないのよ、恭弥」

 

私は彼の体にしだれかかった。体をピタリと密着させると同時に彼の体が反応する。

足を絡ませ、豊満な胸を彼の胸に押し当てる。

ミニスカから覗く白く程よい太さの太ももがなるで引き寄せられるかのように絡み付く。

恭弥はごく自然に私の腰に手をそえ、もう片方の手で柔肌な太ももをすっと撫で、ぐっと自分の下半身に固定する。

背の高い彼を見上げるには首全体を上向きにさせなければならない。

だから、私の片手は彼の首回りに伸ばされ、おのずと彼は私に引き寄せられた。

でもそれだけじゃ足りない。

私に魅了されたように動かない彼のネクタイを引っ張り、唇が触れ合うギリギリの所まで持ってくる。

 

「恭弥ぁ」

「君の体、熱いね」

 

彼が喋る吐息が肌に直接あたる。

 

「熱いのよ、たまらなく熱いわ」

 

紅く熟した果実のように、私の唇は熟れていた。

 

「僕にその熱を分けてよ」

 

肉食動物のような彼が私を獲物と決めた。

 

でも、駄目よ。

 

私は彼の唇に噛みついた。

 

ガリっ

「っ」

 

口の一気に広がる鉄の味。ぺろり、とじわじわと溢れだした彼の血を舐める。そのたびに私の唇にも血が付着する。

 

「………痛い…」

「獲物は奴らでしょう?私ではないわ」

 

そういって、また彼の血を舐めだす私。ああ、今私の舌も紅くなってるはず

 

「天姫のエロ」

「恭弥こそ」

 

さっきから、人の太ももから上の方をまさぐってるのは何処の誰よ。

ペシリと、それを叩いて彼から体を離した。

 

さて、お楽しみはここまでかしら。

複数の鼠どもが、せっかくのお遊びを無粋にも邪魔しに現れたしね。

 

さぁ、始めよう、死を体験できる世界へと誘ってあげる。私直々に、ね。

 

鼠共はちゃんと、罠にかかってくれた。しかもかなりの大勢ね。

思わず、「ワォ!」なんて恭弥のマネをしてしまったもの。

 

「弱いばかりに群れをなし」

 

二丁のトンファーを両腕に装備し、冷酷な声を出す。

 

「咬み殺される、袋の鼠」

 

カチャリ、と恭弥は自分の下にうじゃうじゃいる敵を見下ろす。

 

そして女が高いヒールで絶妙なバランス感覚で網目の上を歩きながら、恭弥の隣に並んで立つ。

女は男と揃いの黒で全身を染め、艶やかな黒髪を後ろで縛り高く結い上げている。

黒のサングラスで目元を覆い表情がわかるのはその美しい鼻筋と唇のみ。

腰元に、チェーンに繋ぎとめられた、『虚像の花嫁』が異彩を放つ。

そう、これは綱吉との『契約』が破棄された証。

女の左薬指には何もつけられていなかった。

視界に映る、虫けらのような男どもに吐き捨てるように言った。

 

「そう、それに臭い。虫けら……そう、弱者の匂いが蔓延してる……」

「なっ、これは罠!?」

「!!」

 

どうやら奴さんども、これが罠だと今更気がついたらしいわ。

 

凪のバッグに忍ばせておいた発振器をぽいっと奴らの頭上に投げ捨てた。

腰元に装備しておいた未来の天姫が使っていたという武器を手にかけた。

それは、彼女が偶然手に入れたという刃先が鈍く淡く蒼さを帯びている『月光』(げっこう)という日本刀。

黒革のベルトにホルダーをセットし、そこに差しこんでいる。

黒の鞘から鈍く刃が煌めく。

それに映すのは自分の狂気に満ちた瞳。先攻をとったのは天姫の方だった。

 

「天姫、一人で愉しまないでよ。僕も一緒だから」

「あら、だったら二人でイキましょうか?」

 

そういって、彼女は狂乱をアメジストの瞳に宿し敵を殲滅しにかかる。

恭弥も標的を見定め、ニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

君は血に塗れてこそ本当の美しさを手に入れるそして、天姫は不敵に言い放った。

 

「……死ねない地獄を、見せてあげよう。……屑共、お覚悟はよろしくて?」

 

と、口端をにっこりと吊り上げた。

高ぶる感情によって、引き起こされる同調。

女帝は少しずつ覚醒していく。懐かしき気配を感じながら、ね。

 

(隠された剣が垣間見える)

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