ユニの母であるアリア。
彼女は、神崎天姫にとって、かけがえのない人の一人だった。
天姫は必死にアリアに懇願し、訴えた。
諦めるな、あともう少しだ。
あともう少し、私の血がお前に活力を与える。
「アリア、諦めるな!」
だから、逝かないでくれ。
短剣を床に放り出し、ベッドから起き上がることのできなくなった友を抱き上げる。
時間が残されていないわ、と弱弱しくアリアは虚ろな目で天姫を見上げた。
「天姫、あの子を頼むわ」
アリアが天姫に託したいと願ったあの子とは、大切な愛娘。
大きな宿命を背負った愛しい娘。
「私は貴方をむざむざ死なせるつもりはない!」
天姫の腕はいくつもの切り傷があった。何回も己自身で傷をつけてきた証拠。
そして今もポタリと鮮血が流れ出す。
白の袖口が血で真っ赤に染まっていく。
アリアの服にもそれは伝染していき、白のシーツが徐々に血を吸いこんでいく。
「こ、れは決めら……れたこと」
そんな諦めきった顔する女だったか、アンタは。
「だから、運命を受け入れると!?黙ったまま、何もしないまま『死』を受け入れるというの?」
「ユニに未来を託したいのよ」
それは母親だから?親子の愛情が為せるものだから?
だから私に納得しろというのか。
私に友である貴方を見送れと。
そんな友情の最後があってたまるか!
「だからって!どうしてアリアが犠牲にならねばいけないんだっ!」
天姫は、アリアに本来の道から外れた治療を施した。
それは、自分の『血』を分け与えること。
『蒼龍姫』の血は強すぎる不老と、強力な回復薬のような力があったのだ。
それを数滴ずつ、傷ついた者に与えれば、その者の傷はたちまち癒え、驚くほどの回復力を見せるという。
天姫は、それでアリアの死期を伸ばそうとした。生きてほしい。
アルコバレーノの呪いなどに友を奪われてなるものかと。
アリアのファミリーに不信感を抱かれたとしても天姫はやめることはなかった。
だが、いくら天姫の腕を傷つけ、血を流し続けても、与え続けてもアリアが回復に向かうことはなかった。だが、天姫は諦められなかった。
だから、何回でもいくらでもナイフで自分の腕を斬った。
そのたびに、アリアが拒絶しても顔をそむけても強引に飲ませた。
あとちょっと、あともう少し
そう思い葛藤し続けたのに。希望は残されていると思ったのに。それを数滴ずつ、傷ついた者に与えれば、その者の傷はたちまち癒え、驚くほどの回復力を見せるという。
天姫は、それでアリアの死期を伸ばそうとした。生きてほしい。
アルコバレーノの呪いなどに友を奪われてなるものかと。
アリアのファミリーに不信感を抱かれたとしても天姫はやめることはなかった。
だが、いくら天姫の腕を傷つけ、血を流し続けても、与え続けてもアリアが回復に向かうことはなかった。だが、天姫は諦められなかった。
だから、何回でもいくらでもナイフで自分の腕を斬った。
そのたびに、アリアが拒絶しても顔をそむけても強引に飲ませた。
あとちょっと、あともう少し
そう思い葛藤し続けたのに。希望は残されていると思ったのに
「アリアは私に言ったはず。私が関わってきた事だけは未来を読み取れない!だから貴女には私の未来がわからないって。まだアリアの未来は決まっていないっ。だってそうでしょう?私が関わっているんだ…!!アリアの『死』は確定されていないんはずなんだっ!!」
貴方が言ったことじゃないか。
アンタといると私の先見の力も役立たずねって。笑って言っただろう
ただの『龍姫』となった自分だが、やれることはある。
この呪われた『血筋』でも役にたつことがあるのに。
どうして、貴女は笑える。
ユニとアリア。二人で笑い合える日々がきっと来るはず。
貴方達を囲むファミリーの皆と一緒に親子二人で暮らせる日があるだろっ!!
私の頬をボタボタと涙が堕ちていく。
「ユニを、ユニを置いて逝くなっ!」
「…あんたがいるじゃない。あの子はわかっているわ」
そんなの屁理屈だ。ユニは我儘を言わないんじゃない、我儘を言えないんだ!!
まだあの子には母親が必要だ。
「なのに!」
「……天姫……」
アリアは、わずかな力を振りしぼり、天姫の頬に手を伸ばした。
すかさず、天姫がそれに手を重ねる。
己が血で真っ白な彼女の手を汚してしまっていても気にしなかった。
気にしていられなかった。
「楽しかったわ、あんたと一緒にいた時の私は……先が見えなかった…だから怖くもあった、何が起こるのかワクワクもした…ドキドキもした……でも…普通の『アリア』でいられたわ……」
「逝かないで、アリアぁぁ!」
『血』ならいくらでも分け与える
この身を捧げてもいい…だから!!!
「……アンタの破天荒なとこ、大好き、だった……」
「アリア…」
お願いだ、彼女を連れて行かないでくれ。
もっと一緒に笑っていようよ。
希望をもってみようよ。
私の願いは天に届かなかった。
「『大空』を見上げなさい……天姫」
アリアは眠るように瞼を閉じた、永遠に。彼女は笑顔で逝った。
私は、彼女の力無くした手を両手で握りしめた。ぎゅうっと。
「うぅ」
どうして、私の手から、大切なものはこぼれていってしまうの。
涙ばかり流して、子供のようだ。
私は絶叫した。
悔しくて悔しくて、
悔しくて悲しくて、
「ああああああああああああああ―――――!」
私の咆哮が屋敷中に響いた。
それを聞きつけたアリアの部下の足音が複数、こちらに近づいてくる。
私はドア付近に彼らが近づくのを生気が抜けた瞳でおぼろげに見やった。
そしていまだ流れてくる涙を強制的にふき取ることで終わらせた。
足元に落ちていたナイフを拾い上げると同時に永遠に返事を返してくれない彼女に言った。
「…自分だって、滅茶苦茶じゃない」
自分の部下に何も言っていないだろう。
代々『大空』のアルコバレーノは短命であると。
ユニまでがそれに囚われていると知ったら、貴方の部下はどうなる?
いずれ、白蘭もユニに目をつけるはず。
その時に、確実にユニを守れるのか、貴方のファミリーは…。
人は大切な者を失った時、怒りを感じる。
制御できないほどの苦しみを悲しみを怒りへと力に変える。
だが、圧倒的な力の前に怒りだけでは勝つことはできない。
だから人は強くなる。
目標を殲滅するためならば、人は立ち上がる。
力の使い方を間違わなければ。
「怒らないでよ、アリア」
私は己が頬を伝う涙を拭った。奴らは私が貴方を殺したと思うだろう。
だがそれでいい。
奴らにとって憎むべき対象となれば、アイツらは強くなるだろう。
私を殺そうと、己の力を高める。
いずれ、白蘭と闘う日が訪れる機会がかならずやってくる。
その時まで、『演技』をしようか。
ドアが蹴破られ、大勢の黒服がなだれ込んでくる。
「お、まえ…」
γが、私を見た。私はゆっくりと奴らに言った。
「アリアは、旅立った」
と。
お前たちは強くならなくてはいけない。
だから、私を憎みなさい。
二度と、大切な人を手放さないために。
手放さないだけの力を確実に手にするの。それはユニを守るために必要な力。
あの子を守ろうとしたアリアの気持ちを無駄にしないためにも。
ジクジクと、傷が呻いた。
ナイフで斬った痛みではなく友を失った、深き悲しみから血は流れ続ける。
※
天姫side
両者とも引けをおとらずの闘いとなった。
恭弥が最後のリングをすべて指にはめ、『裏 球針態』なるもので、幻騎士を内側に取り込んだ。
膨大な光とトゲトゲと共に二人の姿は取り込まれていった。
私にできることと、いったら彼の無事を祈るばかり。
こちらからは、一切攻撃を加えることができず、恭弥の手助けをすることもできない。
幻騎士の攻撃によって傷を負わされた武、それに負傷したラル二人を私の側に移動させた。
私に狗楽のような治癒能力があれば、彼らの怪我を癒してあげられたのに。
あいにくと、私の専門分野は主に攻撃系統が強く、反面狗楽は、癒しの類にたけている。
いつもの私なら自分単体だけが怪我などしても、気にしたことなどなかったのだが、仲間という大切な人たちを背負うことで、こんなにも自分の能力、力が役に立たないとは悔しいことであり、無念でならなかった。
そして、彼の助力さえにもならない。私はあの球針態に視線を移した。
「恭弥…」
あの中では相当熾烈な闘いとなっているのだろう。ピリピリとした殺気がヒシヒシと伝わってくる。
幻騎士、相当の手練れであり、骸と凪と同じく『霧』の術士。一筋縄ではいかない強敵だ。
彼が負けることなど絶対ありえない。
だが、万が一にも彼が手傷を負い、不意を突かれたら?そんな不安が頭をよぎる。
恭弥……お願い、
ピィぃぃ―――ん
来る!!
私は本能的に刀に手を置き、ばっと引き抜いた。
片膝をつき、負傷した二人を背に刃をかざす。
突然、球針態に亀裂が入り、それは瞬く間に広がっていった。
「球針態が、壊れるっ!?」
強烈な風が発生し、私は月光をガツっと地面に突き刺した。
そして、瓦礫と化した球針態が頭上から降り注ぎ私たちに向かって落ちてきそうになる直前、私の重力を操る力で、次々ち右と左に別れさせ、ドンッドンッと激しい音、土埃を発生させながら落としていく。
くそ、視界が開けない…
気配が二つ、しかしはっきりとしない。あの幻騎士のものしか感じられない。
「…恭、弥……」
だんだんと、景色がはっきりしていく中、佇む後ろ姿は恭弥ではない。
では誰か、奴だ。決まっている、倒すべき対象、幻騎士。
奴は私をしたり顔で見やった。
「奴は死んだ」
幻騎士は私をめざし、歩み始めた。彼、が、
「恭弥が死ぬはずない!」
お前の言うことなんか信じてたまるか
ググッっと月光を握りしめる手に力が入った。
いつでも応戦できるように、奴だけに意識を集中させる。
「願望に過ぎない、蒼龍姫」
「願望じゃない、これは」
かすかに、並盛の校歌が聴覚を刺激する。これは、ヒバードの声。
あ、ってことは……もしかして、来ちゃった、とか?
ふっと、私は嬉しくて笑みを浮かべた。
反対に幻騎士は怪訝に私を奇妙な目で見る。
できるだけ声を低くし、お前の読み間違いだと、訂正してやる。
「甘く見るなよ、幻騎士」
幻騎士も気がついたようだ。恭弥がいた場所、そこに新たな者が降り立った事を。
今更ながらに気がついた。
「…アレは…!?」
馬鹿がと私は奴を嘲笑った。彼に敗北なんて似合わない。
「彼は、雲雀恭弥。『雲』であり並盛最強と言われる男。孤高であり、群れることを嫌う人。だからこそ、強い。だからこそ、何者にも何物にも囚われない」
空中を舞っていたヒバードがぐるりと旋回しながら、下に降りてくる。
「10年前の、雲雀恭弥っ!!」
「何、ここ。……って天姫!?」
どうやら私の存在に気がついたらしい彼が私の名を呼ぶ。
「なんせ、ボンゴレ『雲』の守護者なんだから。よっ!きょん、おひさ~♪」
片手をあげ軽やかにあいさつをする私。
敵が迫っているというにめっちゃ余裕である。
ヒバードを肩に乗っけた彼。
学ラン姿が妙に懐かしく感じ、顔が緩んでしまった。
元気だったみたいで、良かった。
そんな安堵感が生まれる。敵を目の前にして余裕たっぷりに。
10年前の雲雀恭弥は、私がいることにびっくりした様子でした。
でも、みるみる内に彼の顔付が変わっていく。
「そこの変な眉毛の君、天姫に物騒なもの向けないでくれる?ってか」
うーん、恭弥の目つきがギラリと光った。
「僕の、天姫から離れろ」
出た、恭弥の独占してます発言。
まだ初々しいというか、若いというか。うん、とりあえずの感想を述べよう。
きょんはいつでも雲雀恭弥ってことですね。
闘いになれた彼は本能的に敵が誰であるかを察知したようだ。
ならば、私も参戦しよう。
「第2ラウンド、逝っとく?」
ニヤリと、奴に笑ってやった。馬鹿な事を言ったアイツに目に物をみせてあげる。
女帝は悦に浸った。
もがき苦しむ様をこの目で、この手で愉しむことができる。
乱れ、一房の髪が目元に垂れた。女帝はそっと、耳にかける。アメジストの瞳がゆらゆらと炎を灯したかのように煌めく。
退屈と感じていた時間が嘘のようだ…。
さぁ、始めよう。生きながらの地獄を今度は、私も。遊ばせてもらうよ。