闇ニ花ヒラク蒼薔薇   作:サボテンダーイオウ

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標的129入江正一が抱える闇

対峙するは、宿敵とも呼べる男。

ツナはスパナの協力を得り、妖花アイリスを倒した。

続く幻騎士との戦闘も苦戦を強いられながらもなんとか退かせることには成功したものの、その先で待ち受けていたのは、捕まった仲間たたちの姿であった。

 

「よく、幻騎士を倒したものだ。沢田綱吉」

「入江正一!」

 

戦闘態勢に入ったツナ。しかし、驚くべき光景をツナを待っていた。

巨大なカプセル状の中に仲間の姿があったのだ。

 

「まず、その物騒な拳を下げてもらおうか。仲間の命を助けたかったらね」

 

皆を人質に!?

冷酷に告げる入江にツナはなすすべもかく黙って従うしかなかった。

一人、入江の様子を不審がる者がいたが。その人物は入江が普段からあんな冷徹な表情をする奴だとは思っていない。

 

「いてて、……十代目!?」

「みんな!!」

「なんで、チェルッベロが!」

 

皆が驚愕する中、ツナは一人足りないことに気がつく。

あの中にはいない彼女の姿を。ツナはたまらずに叫んだ。

 

「天姫は何処だ!」

「ああ、彼女ね。もちろん彼女は一緒にするなんて失礼なことはできないんでね。特別に収納させてもらったよ」

 

入江はそういい、チェルベッロの女に指示を出す。

 

「はい」

 

女がスイッチのようなものを押すと、地面から

 

「天姫っ!」

 

体に幾恵にも鎖を巻きつけられ、天姫は眠らされていた。

 

「ご覧の通り、彼女には眠っていてもらっている。『蒼龍姫』の力はいまだ未知数だからね。警戒しとくにこしたことはない」

 

入江は天姫の髪を指でもてあそびながら、視線を送る。

それは彼女を研究対象としてしかみていないモノ。

 

「入江ぇぇぇぇえええええ!」

「止まりなさい、沢田綱吉。仲間がどうなってもいいの?」

 

チェルベッロの女が手元でちらつかせるのは、仲間が入ったカプセルに毒を注入する作動ボタンリモコンだった。ツナは悔しさに奥歯をギリっと鳴らせた。

 

「………お前たち…!」

「沢田綱吉、そんなに『蒼龍姫』にご執心なんだね。ならいいものを見せてあげよう」

 

白く丸い装置。俺たちが狙っていたものが開かれた。

 

「君たちはアレが過去へ帰る乗り物か何かと勘違いしていたのかな?そんなもの存在しないよ。だって、アレは君たちが封印するためのものなんだから」

 

入江が言った意味。それは

 

「…10年後の俺たち……」

 

信じられない光景だった。

なんで自分たちがミルフィオーレの入江にとらわれているのだ。

 

「そして、僕のお気に入りをみせてあげよう」

 

入江が何らかのボタンに手を伸ばした。立体映像の中に浮かび上がったのは

氷の中に眠る黒髪の女性。

『銀の天使』

 

「ああ、嘘だ…!」

 

みたくなかった、信じたくなかった。

目の前の真実を受け入れることができなかった。

入江は驚愕の眼差しを向けるボンゴレのメンバーを面白そうに見た。

 

「信じられないかい?沢田綱吉。だがこれが未来の神崎天姫だ。本物を見せられなくて残念だよ。『本体』はここにはないからね。……とても美しいだろう。完璧な調和を彼女自身が再現してくれる。『銀白に眠る堕天使』、誰がこの名をつけたかは知らないけど、まさにその通りだ」

 

恍惚とした眼差しで入江は眠る天姫を見つめた。10年後の彼女は確かにそこに存在していた。透き通った氷の奥、翼をもがれた天使のように

彼女は眠っていた。今の天姫よりも長い黒髪に頭上で交差する華奢な腕、スラリと伸ばされた四肢。

彫刻かと思わんばかりの顔立ち。

魅力溢れる大人の女性として成長した彼女。

しかし、彼女が動くことはない。

氷と言う檻で閉じ込められ、閉じられた瞼が開くことはない。

 

「白蘭さんは彼女を欲していた。けど眠ったままの彼女じゃ役に立たない。

だから過去の君たちと一緒に彼女が来てくれたことは、僕らにとって、喜ばしいことなんだよ。そう、ボンゴレリングと虚像のリング。そして神崎天姫が必要だった。」

「貴様ぁ!」

 

入江はただ微笑するだけで、何も答えようとはしなかった。

バサリとマントを広げ、ツナに背を向ける。

 

「さぁ、あとは貴方だけ、大空のリングを渡しなさい」

 

どうする、チェルベッロに指輪を渡してしまったら、皆を助けることができない。

けど、逆に俺たちの目的を達成することもできなくなっていしまう。

 

「3秒カウントする、その間に指輪を渡しなさい」

「3」

 

どうしよう!

 

「沢田!ヤレ!」

「ラル・ミルチ!?テメー!」

 

獄寺君がラルさんに食って掛かった。

それでもラルさんは俺に言い放った。

 

「2」

「お前しかにしか出来ないんだ!さっさとやれ!天姫だって、それが望みだったんだ!未来を変えるためにアイツはここまで来たんだ!アイツの想いを無駄にするな」

 

勝手だよ、俺のことなんかいっつも無視して。自分勝手だ。

できるわけない、天姫が望んだからって、

俺にできるわけないじゃないかっ!

 

「1」

ズガァァァァン!

2発の銃声がこの部屋に響いた。倒れたのはツナ、ではなく

 

「…入江さ、ま…」

「ど、う……し……て」

 

バタリ

 

「ごめんよ、眠ってもらうだけだから」

「………」

「……入江…?」

 

そう、銃を撃ったのは、チェルベッロではなく入江正一、本人だった。

 

「……ハァ~。緊張した……」

 

そういったとたん、入江は腰を抜かしたかのようにへたり込んだ。

 

「何がどうなって」

 

いきなりの展開に頭がついていけていなかった。

もちろん、他の閉じ込められていた仲間も同様だ。

 

「……僕はこの時を待ってたんだよ、沢田君」

 

永かった、ここまで来るのにすごく

 

「入江、もしかしてお前」

 

何かを感づいていたかのようにリボーンが言った。

 

「察しの通り、リボーンさん。ようこそ、10年後の世界へ。ボンゴレの皆さん。僕は、君たちの敵じゃない。味方だ」

 

どうやら巻き返しの風が俺たちに吹いたみたいだ。

入江正一がさっきまでの態度から一変、腰を抜かし床にへたり込んだ姿はとても、さっきまでの冷徹な彼ではなかった。

むしろ、安堵しきりでツナたちを見やった。

 

「俺たちの味方…!?」

 

そう、ツナが代表して驚きの声を上げた。

 

「…信じられないかもしれないけど、そうなんだよ。ハァ~、普段僕の行動とかは部下に、監視カメラにもうずっと24時間見張られていて身動きなんかとれやしなかった。白蘭さんにも筒抜けだったしね。でも、やっと君たちとこうして話せる」

 

は~、よっこらしょ、と入江はようやっと動ける状態になった体を立たせる。

足元に倒れているチェルベッロの女二人は、麻酔で眠らせてあるので、しばらくは起きてこない。ベラベラ喋っていてもまったく起きる気配がないのはその証拠だ。

思う存分、入江は解放された気持ちで、驚きを隠せないメンバーに言うことができた。

 

「だって、この基地、この状況で出会うことが、僕たちのゴールだったんだからね」

「…ゴール…」

 

まるで、シナリオ通りに進んだ結果みたいに言う。

だが、獄寺は納得いかなそうに入江を睨みまくり、大声を出した。

 

「てめぇ、素直にそうハイそーなんですかって、信じてもらえると思ってんのかよ!」

「疑り深い獄寺君はそういうと思ってたよ。でも君たちを鍛え上げるためには仕方がなかったんだ。君たちをこの時代に呼び、僕を標的としてこの基地に来させる必要があった。君たちを鍛えあげるために」

 

必要な事だったんだと、入江は悲痛な面持ちで語った。

入江とて、何度もくじけそうになった。しかし諦めるわけにはいかなかった。

白蘭を止めるため、天姫を救うためには必要不可欠だったのだ。

その決意の現れが入江をここまで来させたのだ。

 

「白蘭さんが君たちの本当の敵だ。そして、白蘭さんから天姫さんを解き放つためには君たちが必要だった」

「天姫?……もしかして、未来、の!?」

「そうだ。あの立体映像に映し出された彼女、神崎天姫は白蘭さんの手元にある」

 

そういって、入江はあの立体映像を再び、皆の視界に出現させた。

 

「これは僕と、10年後の綱吉君と雲雀恭弥君、僕ら3人しか知らない計画だった。だから雲雀君はミルフィオーレの襲撃を予想できたんだ」

 

自分たちの名前を言われ、ツナと雲雀の顔に衝撃が走った。

 

「天姫は何であんな姿にさせられた!?どうして助けてあげられなかったんだ!」

 

ツナが悲痛に叫ぶ。あんな籠の鳥のような酷いを事を平気でする奴なのかと、入江を責める。しかし、

 

「僕だって助けたかった!」

「……!?」

 

入江は今までため込んできた想いをぶちまけた。

 

「天姫さんをあんな姿にさせたままで平気でいられる男だと思ったかい!?ああ、どうせ僕は弱い男だ。彼女に助けられたあげく、彼女を白蘭さんに奪われた。黙って計画がうまくいくように手回しをするしか能のない男だ!君らのように体を張って命賭けて全力で彼女を救いたかった!でも、でも………!」

 

今でも後悔の念に襲われ続けていた入江にとって責められる事は、苦しいことだった。

何度、夢にうなされたか。

腕を伸ばし、手を掴んだと思った瞬間、自分が掴んだと思った彼女の腕は何処にもなかった。

何度も何度も何度も何度も同じ夢を見続け、そのたびに現実を思い知らされた。

 

「僕の手は、彼女に届かなかった…!届かなかったんだっ……」

 

どうしても、と入江は嘆き叫ぶ。

 

「……入江、さん」

 

それしか言えなかった。

彼にしかその悔しさを悲しさを理解できないのだから。

これ以上言えることなどあるだろうか。

神崎天姫と、どういう関係なのか。

彼女に助けられたという状況はどうして発生してしまったのか。

誰も入江に尋ねることはできなかった。

 

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