ジルside
あの沢田のお弁当届けた日は大変だった。
なんせ、恭弥(呼び捨てでよんでと言われた)に家まで送ってもらったはいいんだけど、暇ならいつでも僕のとこきていいからと気に入られたらしく、自分専用の携帯は一応渡されてるんだけど、早速アドレス交換をした。だが私は言っとくが一切望んでいない。きっと、恭弥の機嫌がたまたま良かったんだろう。沢田をボコボコにしたから。
ちなみにバイクで送ってくれたがやはりノーヘルだった。二度と乗りたくないと思った。
そして家に帰れば、
「ただい」「ジルちゃーん!」
「むぎゅう!?」「すごくすごーく心配したのよ?ディーノ君からジルちゃんが体が凄く弱いこと、聞かされてたんだけどさっき電話があってジルちゃんが学校で倒れたってきいていても経ってもいられなくて心配で心配で心配で!」
奈々さんが凄く心配したようで玄関開けた途端に抱きしめられた。それから延々と説教とこれからは一人で行動しないと約束させられ、私は「ええ、もうしませんから!」と泣きながら奈々さんに言った。嘘泣きだけど。ぐぇへっへっへ。あたしゃ悪い子だよ。
でも、嬉しいと感じてしまったのは嘘ではない。この感情は久しぶりだな。
誰かにこんなに心配されるのは。
?久しぶり?どうして、そう思うんだ。だって私はお父さんとお母さんと私の三人暮らしのはず。そう、いつもこんなに心配をかけていたではないか。でも、本当にそれは両親に対してだろうか。もっと、違う誰かにいつも心配をかけていたような気がしてならない。
ズキン、ズキンといつもの頭痛に襲われる。
駄目だ。余計な事を考えるといつもこうなってしまう。思いだそうとするといつもこの頭痛に悩まされる。かといって、考えるのをやめるとすぐに消え去るこの頭痛。
まるでこれは警鐘のようだ。
思い出してはいけない。貴方には今があるのだから。過去などどうでもよい。
そんな風に言っているように。
「ジル?どうかしたの?」
ふと名を呼ばれ、思考を現実に戻せば目の前にはビアンキが心配そうに私の顔を覗きこんでいた。
「ううん!なんでもないよ。………うわぁ、それ、ビアンキ姉の手作り?」
それとダブルで物凄いなんともいえない臭いが鼻を直撃する。
ビアンキが私の問いににっこりと答え、ずいっとポイズンクッキングを差し出す。
「ええ。貴女は少し栄養が偏っているみたいだから、これ作ってみたのよ。さぁ、食べなさい」
ゲッ!?私用に作ったのか!?何かしているなと思いはしたが思考に浸っているあまり、目の前の惨事に気がつかなかったとは。
「さぁさぁ!」
笑顔で差し出してくるビアンキ&ポイズン料理。どう切り返すか……汗が頬を伝う。
私に残された手段は……もう、あれしかない!
私は命がけの演技をすることにした。バレた時こそ、私の終わりである。
子供らしく嘘泣きStart!
「………ぐすっ…ふぇ……」
「あら!?ジル、どうして泣くの?」
ビアンキは慌てて私の頭を撫でてくれる。
いきなり私が泣き出したことにビアンキは戸惑いを隠せないようだ。しめしめ。上手く騙されてくれている。
「……あのね、凄く嬉しいの。……こんなに優しくし、てくれた人…初めてなの……」
「まぁ!」(どきゅーっん!)
「でもね、私凄くビアンキ姉の料理食べたい……!でも、食べれないの…(死ぬから)、お医者様が無理に食べてしまうと身体に凄く悪いって(それどころかあの世行)、だからね、悲しくて、なみ、だ、でちゃうぅ……ふぇ……ヒック……(食べたくないから涙も出るんだ)」
「ジル!なんて、なんていい子なの!」
ガバリと自身の胸に抱きしめ、私を閉じ込め髪を撫でてくる。
「いいのよ!いいのよ!ジルがそんな事を考えていてくれたなんて……私は嬉しいわ!大丈夫よ、これはツナに食べさせるわ。だから、貴女は無理に食べることないのよ。……その気持ちだけで私は嬉しいわ」
「……ホント…?」
「ええ、ホントよ」
また、更にぎゅうぎゅうに抱きしめてきた。
私の死亡フラグ、折ることに成功。
※
日が暮れた公園のベンチで私はぐったりと座り込んだ。
隣にはくたびれたのかぐーぐーと寝息を立てているランボがいてつい頬を引っ張りたくなる。八つ当たりである。
「なにもできなかった。せっかく誰にも邪魔されずに動けると思ったのに!」
もはや肩を落とすしかない。しかし、なぜ私にランボを子守する任務が与えられたのだろうか。この牛柄幼児に異常に好かれてしまった私は金魚の糞の如くランボに付きまとわれてしまったのだ。その姿を見た奈々さんから「仲がいいのね~。今日は天気もいいからお外で遊んでらっしゃいな」と家から締め出されたので、しめしめとほくそ笑んでいたのもつかの間、ランボの子守Startである。一気に絶望の淵に叩き落された私が気が付けば周囲は夕方である。相棒のクロは私のの肩に乗り器用なバランスの上で寝ているし。
これからこのランボを背負って家に帰られねばいけないのかと思うと憂鬱である。
正直に言えば、置いて行きたい。だが我儘ランボだが可愛いところもあるので憎めないのだ。最終手段は沢田を携帯で呼び出して来てもらうという選択肢だが、アイツに頼ることは私の矜持が認めないのでやっぱり私が背負うことになるんだろう。
一人ため息をついていると足元の先に影がかかった。
「……お前、こんなところでなにしてやがる?しかもアホ牛と」
なんと見上げればあの十代目命の、
「…隼人…?」
爆弾少年が訝しみながら立っていた。
◇◇◇
獄寺隼人side
今日はついていないような気がする。
学校をフケてる途中、姉貴から電話がかかってきてこっちは恐怖しか感じないというのに実は貴方にお似合いの子がいるだとか結婚するならこの子にしなさいとか訳分からんことを次々に口走るから電話を切ってやれば恐ろしいほどリダイヤルでかかってくるしそれを拒否したら今度はメールを大量に送りつけてくる。
もう、ふざけんなっ!と携帯の電源を切って雲隠れしようかと思えば今度は学校に出現しやがった。思わず瞬時に学校を脱出し、家に帰ろうとすれば何かが仕込まれているような殺気を感じて中に入るここができず姉貴から隠れるためにいろいろとぶらぶらするしかなかった。
そして夕暮れ時、姉貴もいい加減戻っただろうと帰宅しようとしたとき、あのガキがいた。
誰も居ない公園でポツンとベンチに座り込んでいる。体が小さいから直のこと目立つ。
隼人は話しかけるつもりなど毛頭なかった。だが、黄昏時、少女の憂いをおびた顔が余りにもはかなく消えてしまいそうに見えたからだ。
だから、知らず知らずに声をかけていた
「……お前、こんなところでなにしてやがる?しかもアホ牛と」
すると少女は驚いた様子でばっと顔を上げた。
夕暮れの日が丁度少女の顔を当てそれは絵画のように清廉とされたもので少女の周りがキラキラと光ってみえた。
そして少女もまた当然のように完璧な絵画の一部のように燐としていてそれでいて儚い幻のように魅了させられる。
銀色の髪が風に踊り揺れ、アメジストの瞳は星が踊るようにキラキラと輝いている。
俺はそれが一瞬のように感じて息を呑んだ。
「隼人」
下の名前を憶えていてくれたのかよ、とこそばゆい気分になるぜ。
つい癖で舌打ちしたくなった。だが照れ隠しみたいなもんだ。誤魔化す為に舌打ちをする。
「ッチ、……おい。もう夕方だろ。なんで家帰らねんだぁ?」
少女、ジルだったよな。隣にいたランボを撫でつつポツリと呟いたが、その様子は悲しみを含んでいたようだった。
「私の家は、遠いんだ」
「っ!?」
訊いちゃいけねぇことを訊いてしまった。幼い身の上で家族とも言えるディーノから引き離れてしまったんだ。遠いに決まっている。それをただの話題の為に振ってしまった話がまさかジルを傷つけてしまうことに繋がるなんてよ。
ジルもそれが分かっているからここにいるのだ。
決して帰ることの出来ない故郷(イタリア)を考え、ここで必死に涙を堪えていたのだ。
俺はすぐにジルに向かって深く頭を下げて謝った。
「す、すまない!」
「え?」
俺を気遣って知らぬ振りをしていることは明白だった。だからこそ、自分の何気ない発言に悔いた。
こんな子供に余計な気遣いをさせてしまうなんて十代目の右腕失格だ!
ずーんっと落ち込んでいるとポンと何かの感触が頭に乗る。そして、なでなでなでと撫でられた。
「隼人はいい子いい子」
「お前……」
反射的に顔を上げようとする俺をジルは少し撫でる力を強めて抑えた。たかが子供の力とは思えないほど抗えなかった。いや、そもそもこんなことされて抗えるかよ。
「隼人はとってもいい子だよ。私にはわかるよ。隼人はとっても素直ないい子だもん」
ぽん!と最後に軽く叩いてジルは俺の顔を両手で挟んで視線を合わせようとする。
全てを見透かすかのように笑うジルに俺は見惚れてしまった。
「隼人、帰ろう」
「……ああ…」
こうも俺を素直にさせる奴なんて今まで現れたこともなかったし、血の繋がりのある姉貴の前でさえなったことはない。それをジルの前じゃあっさりなるなんてな。
後に俺は現実を思い知ることになる。
ジルに相応しい人は俺の憧れる人なのだと。
◇◇◇
ジルside
あと時はびびったよ。
だってまさか、獄寺隼人が現れるなんて考えなかったから。つい名前呼びしてしまったので、子供である私に『気安く呼ぶんじゃねぇ』とか怒鳴ってくるかなと身構えたら普通に
私の隣に腰かけた。いや、これから帰ろうとしていたんだが。
「ッチ、……おい。もう夕方だろ。なんで家帰らねんだぁ?」
だからまさに帰ろうとしていたんだよ。隼人曰く、このアホ牛を背負ってさ。
ぐわしともじゃもじゃ頭を掴んでやった。まだ寝てるよ。
「私の家は、遠いんだ」(幼児にはキツイ道のりだ)
「す、すまない!」
「え?」
あの獄寺隼人が一幼児である私に頭を下げるという謎の怪イベントが発生してしまった!
私の選択肢はこうだ。
一、 ランボを置いて逃げる。
二、 ランボを盾にして逃げる。
三、 ランボを引きずって逃げる。
駄目だ、ランボを犠牲にして逃げることしか浮かばない!
この一瞬が永遠にも勝ったが、私は慌てず騒がず大人の態度をとってみせた。それは、誤魔化すということである。すなわち、頭ナデナデしてあげよう。
「隼人はいい子いい子」
「お前……」
頭を反射的に上げようとする隼人を馬鹿力で押さえつけた。
今全力で撫でることに力を注いでいるのだ!邪魔するでない!
「隼人はとってもいい子だよ。私にはわかる。隼人はとっても素直ないい子だもん」
だから、帰らせてください。早く帰らないと奈々さんとかビアンキが怖いんだよ。ポイズンクッキングで迫ってくるんじゃないかと気が気じゃない。
「隼人、帰ろう」
そう笑顔で促せば隼人は
「……ああ…」
と納得してくれたようで素直に返事してきた。これは好機とランボを背負ってもらい無事に家に向かうことができた。しかも帰り際
「またな、…ジル」
とフレンドリーに名前呼び。一体何処が彼の中で私に対する好感度を上げるきっかけとなったのか。まったくもって、謎である。
(沢田はやっぱりおなかを痛めて苦しんでいました)