さて、綱吉たちが背後で叫んでいるのを無視して一人ある場所を目指して
跳んだ天姫は目下、
「落ちるぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅうううううううう!」
とめっちゃ短いスカートを必死に抑え、乱れる黒髪を上に逆立てて若干涙目になりながら高速で遥か上空から落下しておりました。そうなんです、実は彼女。ザンザスの気配というかそれを頼りに目指したはいいのですがそれが地面ではなく空に移動してしまったのです。真下には緑豊かな森林、そして大地が大きく広がり、大体が日本ではない事を理解させるのですが今天姫にはそんなものを確認している余裕はありませんでした。
だって、空から落ちる事なんで今まで体験したことがないんですから。
パニくるってもんですよ。
「いやぁぁぁぁぁあああああああああああ!」
ごぅごぅと風を切っていく音が両耳に痛いほど聞こえます。
久しぶりに乙女らしい悲鳴を上げ、どうすれば自分はこの危機的状況を脱せられるのだと一生懸命考えを巡らせるがだんだんと
母なる大地が間近に迫ってきている事実に
「あわわわわあああああああああああ!?」
もうどうしようもないほど取り乱していました。
そして、どうでもいいのかわからないけど
スカートを抑えているけど下からみたら私のパンツ丸見えじゃない?
と思っていました。
そして、ああもうだめだ…私死んじゃう……
パンツ丸見えのまま地面に叩き付けられて死んじゃうんだわ
と涙目になりながら自分の死期を悟っていました。
みんな……さようなら!
ぎゅっと目を瞑り今にも地面に叩き付けられる!!と思った瞬間
ボスんっ!!
「んにゃっ!?」
柔らかい毛のようなものの上に落ち天姫の体がバウンドする。
そしてその上にうつ伏せの状態で止まった。
地面ってこんなにふさふさしてたっけ…と天姫はおそるおそる瞼を上げていく。
「…………ワォ…」
信じられない光景に目を疑うと同時に
あんまりにもびっくりしてしまいました。
「ガウ」
私を受け止めたモノが事実だと言ってくれます。
ちゃんとその『彼』の言葉が分かるのは私の昔からの能力によるものなんですが
今はそれ関係ないですね…。
今関係あるのはそのふさふさしている毛を撫でつつ「ガウ」と鳴き声を上げている
動物の上に乗っかっている私の状況。
そして、懐かしい、懐かしすぎる人物が目の前に堂々と椅子に座り足をテーブルの上に乗せ踏ん反りかえっている事でした。
彼は昔よりも偉そうで威張ってて、でも私を見つめてひどく
嬉しそうに慈しむように声を発した。
「…天姫…」
と、彼は私を呼ぶ。
ああ、そのハスキーな声が私の体の内に震える。
未来に来てもう昔のようだと感じていた事がそれは違うと叫ぶ。
彼は見た目偉そうだったけど若干手が震えているように見えた。
あ、彼が椅子から腰を上げた。そして私に向かって腕を伸ばす。
「久しぶり」
私は自然にあいさつの言葉を言っていた。彼に向けて。
「………」
彼は無言のままだったが彼の熱が籠った視線が私を貫く。
彼が動くのが早かったのか
「ザンザス」
それとも私が動物から飛び降りるのが先だったのか
もはやどうでも良かった。
ザンザスが私の腕を引き寄せ
私は笑顔で彼に飛び込んでいった。
「…逢、いたかった……」
「私も」
懐かしい彼の抱擁は痛いくらいでも幼い体をしていた銀の天使の時よりもぎゅっと
離さないといわんばかりに抱き締められました。
でも嫌じゃなかった
むしろ逆。あったかいくらい安心できるものでした。
私は10年後のザンザスとこうやって再会したのである。
※
私は地面に叩き付けられて死ぬ恐怖より骨が粉々にされて悶絶する苦しみの方が恐ろしいという事実を忘れていた。
「天姫ちゃん!」
「グエッ」
昔よりも強烈なハグを喰らい私は蛙がつぶれたような声を出してしまった。
無論、その行動を起こさせた犯人は10年後の筋肉ムキムキな逞しいお姉さん
ルッスーリアである。
サングラス越しに彼女?の涙を走馬灯のようなものを意識しながら
確認した。
ああ、悪いことしたな、なんて思いつつゴメン、意識が無くなりそうだわと訴えた。
傍でカエルの被り物した少年が面白そうに私を指差して
「絵になりますね~、女王さまがオカマに抱擁されてるって~」
「…………」
私はすぐに意識を覚醒させ「ギャッ!!?」と叫ぶルッスーを蹴り倒して
腰の刀を素早く抜き、息つく暇与えず少年の首スレスレに
鈍く妖しく煌めき研ぎ澄まされた刃を
躊躇いなくセットした。
「誰が、お前の師匠のオカンで守護者全員はべらせて天然で自覚なしに男口説きまくった魔性の女王サマだって?」
「………ばっちりその通りだと思いますけどね~」
「三枚に下したろうかっ!?」
この減らず口は何処から出てくるのか解剖してやってもいいんだが
それはかなわず。
だって、スクアーロが私を羽交い絞めにして無理やりやめさせようとしてんだもん。
「お前は殺人犯す気かぁぁああああ”””っ!?」
「別にそんなつもりないもん、ただ中身が知りたいだけ」
「それがヤバいっていうんだ"よ"ぉぉぉおお"お"!!」
「お前、お姫に殺されたいワケ?物好きだな」
「そんなことありませんよ、ミーはただ女王サマの事知りたいだけですもん」
私がスクアーロと口論している間にちゃっかりと逃げた少年がベルと余裕ありげに談笑していた。後から聞いたらあのムカツク彼はフランと言うらしい。
後でみじん切りにでもしてやろうと決意しとりあえず懐かしいメンバーに顔をほころばせた。
「レヴィは重傷みたいだけど他は元気みたいで安心したよ!」
「お姫の蹴りで潰れてるオカマいるけどネ」
「ベルはお黙りっ!」
イシシと意地悪く突っ込んでくるベルに一喝し私はルッスーの事は無視した。
無視してみんなとの再会を心から喜んだのだ。
そして重傷なレヴィの存在はすぐに頭から消え去っていた。
とりあえず瓦礫と化した場所でいるのもなんなので
私たちはゆったりと話ができる所へ場を移した。
サングラスが割れたルッスーが意識を取り戻し女の子がそんな乱暴に足技使うなんて
お下品よ!!なんて言うからだったら私は年がら年じゅうお下品だわと言ってあげた。
「キー!アーいえばこう言う!?」
昔は可愛かったはずなのにー!!と叫ぶルッスーに
「けけけけ」
と笑ってやった。そんな幻想を抱くアンタが悪いのだ。
「お姫、全然性格変わってないじゃん。むしろこっちの方が吹っ切れてるカンジ?
イカレテルって言葉が正解かもしんない」
「歪んでいると思うがなぁぁ」
「お前らも全然進歩してないみたいだね」
ベルとスクアーロの進歩のない会話にイラッとしつつも
私は広い二人掛けのソファに座り向こう側にはヴァリアーの皆が座っている。
ザンザスは私の膝でのんびりと昼寝をしだした。
ちょっと重かったが本人には好きにさせておいた。だって動こうとしたら
ガシっと彼の手が腰元に固定されていて動くに動けないのだから。
「ところでなんで私がアンタの師匠のオカンなワケ」
ちゃんと理由を説明しなさいとひと睨みした。
「それはですね~。ミーの師匠が変態だからです」
「私の知り合いに変態はいねーよ!」
「六道骸は女王サマの育ての息子じゃなかったんですカ~?」
「超知り合いだった!」
骸の弟子であるフランの毒舌ぶりはなぜか凪のように感じとれたのは私だけだろうか。
「変態師匠は相変わらず変態です~」
そういわれてああ、未来の世界でも彼は変態だったんだと、嘆いた。
そして
「ああ、私って教育に失敗したのかも…」
とどよーんと重く暗い陰気くさい気持ちになってしまった。
しかしフランはまだ口を閉じる事はなく尚更私に容赦なく追い打ちをかけてくる。
「師匠の拷問のほとんどは女王サマの影響でしたよ。だってミーに『お前の修行は1日に肉まんとアップルパイを100個ずつ完食することです!さぁ喜んで食べなさい、なぜなら僕の愛しい天姫がわざわざお前のためだけに作ってくれたのですから!もう一度言いますよわざわざお前の!ためだけに!作ったのですよ!?私の分は一切ないと断言してまで!?』と悔し涙浮かべながら強要してきたんですよ~?」
「それはスイマセン」
「あれは地獄でしたね~、死ぬかと思いました~。食べ物で死ぬなんて前代未聞ですよ~。しかも高カロリーだからミーよりももっと甘党な師匠は糖尿病ですね~。コレも貴女の影響でしょうね~。はた迷惑もいいとこです」
「……どうもスイマセンね!」
我慢だ、私よ。すぐにキレてばかりいたザンザスが今じゃ
大人しくしているのだから。
そう、冷静になりなさい。
天姫、貴女の精神年齢はこいつらよりももっと上をいっているでしょう?
と自分を無理やりおさえつけた。
そう私は素敵な大人。
子供のように癇癪起こして暴れたりしないのよ?
そう、自分を抑えるの、心を鎮めるの
そうすれば、ホラ?
世界は輝いてみえるはず…でも
「謝罪に気持ちが入ってませんね~」
だからって
「師匠の悪いところって貴女の悪いとこばっか引き継いでいるんじゃないですか~?」
許せることと
「乱暴なとことか人の嫌がるとこ見て喜ぶSっ気があるとことか性格破綻してるとことか」
許せない事があるはず
「子供の責任は親にあるっていうジャないですか~。だからやっぱり女王サマの教育が悪かった結果ですよ、失敗しましたね~」
ぐっと立ち上がった私、それと同時にザンザスが反動的に床に落ちてしまっても気にしなかった。
私は愛刀『月光』を容赦なく引き抜いた。
「とりあえずそこに座れそしておとなしく私に斬られてしまえぇぇぇぇぇえええええええ!!」
「やばい、天姫ちゃんがマジ切れだわ!?」
「こっわ~」
「怒ってもやっぱり女王サマなんですね~」
「お前ら撤収しやが゛れ゛ぇ゛ぇええぇ゛え゛え゛ええ゛えええええ!」
「待てやコラぁぁあああああ」
自分で自覚してへこんでるっていうのに
さらに追い打ちをかけてきたアイツが憎くてたまらないっ!
そうさ、私の教育は失敗したさ、でもなぁ…
「それを他人から言われると腹立たしぃんだよぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!」
ダッシュで部屋を出ていく男ども。私もそれを追いかけるつもりだったのに
まったく進もうとしないのだ、自分の体が。
「うがぁぁぁあああああああああ!!」
『ガウ』
ザンザスの匣兵器であるベスタ―に器用に背中の生地だけを銜えられ
その事実に気がつかずに怒りで顔を真っ赤にさせて雄叫びをあげる私を椅子に座り直し静観しているザンザス。彼はポツリと呟いた。
「進んでないことに気がつけよ」
と、小さく突っ込んだのだった。