闇ニ花ヒラク蒼薔薇   作:サボテンダーイオウ

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標的140闇が下りる寸前、紫は紅に染まる。

天姫side

 

ベッドに座った状態の私はまるで抜け殻のようです。

あんな告白大会みたいな事が立て続けに発生した直後、本気で私はこの世界から逃げたいと思った。

なんで皆、ストレートに告白してくるんだよ!

恥ずかしいというか青春のまっただ中と言うか、若さだなぁ~なんて感心したと同時に、

逃れられない現実が私を待っているのだ。

3人に言った事。『保留』という共通点。

思わず、自分の顔を両手で覆ってアホやないか自分と泣いてしまった。

真剣に告白して来てくれた相手に、同じ事しか言えない私。

保留じゃ、ちゃんと返事しなくてはいけないじゃないか!?

今の私に誰かを選べる余裕なんて正直ない。

仲間の大切さに気がついたばかりだと言うのに、また大切な人を選ぶ事などできない。

だって『私』は怪物なのだ。『人』の枠からはみ出た異形なのだ。

『人』である彼らとはいつか別れが来てしまう。

彼らはいずれ老いり朽ちていくのだろう。

だが私は永遠に20歳を超えることがない。老いない。

一緒に老いることができないのだ。

それに私がずっと同じ世界にとどまる事などできはしない。

 

それが私、神崎天姫という女だから。

 

この未来の世界にいるという『神崎天姫』は、私の一つの選択した未来の一つなのだろう。私が選択した…。もしかしたら、『柱』から逃げればあるいは彼らと同じとまでは行かなくとも共に最後を迎える時があるのかもしれない。

 

けど、

 

私は選べない。

私は選ばない。

 

私はまだ知らない事がたくさんある。

納得できない事がたくさんある。

それに、『彼女』を見つけていないから。

だって、まだ自分は『不完全』だから。

自分の首に鎖に通した指輪を手のひらに乗せ眺めた。

そこにあるは、『契約』の証である虚像の花嫁。

これがヒナがしていたものであり、未来の私が手放してしまったもの。

蒼龍姫が手にしてきたもの。

 

この指輪に恥じない私でありたい。

この指輪の持ち主に相応しい私でありたい。

 

だから彼等に自分の気持ちを伝えるのは、この世界と決着した後にする。

それまで私は、ただまっすぐに目指そう。

この世界のあるべき姿を取り戻す為に。

私は事前にゴーラちゃんに頼んでいたモノに身を包み、黒く長い髪を後ろで一つに縛った姿。コンコンとドアを叩く音がした。

たぶんもうすぐ時間だから呼びにきたんだろう。

私はそれに軽く返事し、

 

「…行くか…」

 

と立ち上がった。

 

すでに体の一部と化している、愛刀『月光』を腰元のバックルに差し込み

瞼を閉じすぅっと一呼吸した。

たぶん鏡に映っている自分の姿。

瞼を開いた時、鏡に映った私を見た。

 

自分の瞳は紫ではなく紅い瞳に変わっていたのだ。

どうしてだろう、違和感はなかったが不思議に思った。

まるで『彼女』が近くにいるような錯覚に陥る。

前にもあった同調のようだ。

だが、これが不快に感じることはなく、むしろ自然に思えた。

もともと、幼き私の瞳は最初から血のように紅い瞳を持っていたのだから。

 

沢田綱吉side

 

「準備できたか?」

「まぁね」

 

リボーンがそう俺に言ってきた。

自分の格好がいまいちなんだか照れくさくて頬をポリポリとかきながら

返事するだけにした。

山本と雲雀さんはここにはいない。

山本は現地集合で、雲雀さんは群れるのを嫌うから先に外にでているのだろう。

皆がお揃いの黒いスーツに身を包み、準備万端かと思いきや

ふとよく見ると人数が揃っていないことに気がついた。

それは天姫だった。

彼女だけがこの場所にいない。

 

だけど、ぞくっ。

 

突然、俺の背中に言いようのない寒気が走った。

と同時にリボーンも同じように殺気が分かりやすいくらいにじみ出ていた。

他の皆も何かしら感じとったらしい。

恐怖や畏怖のような感情が顔から見て取れた。

俺たちに動揺を与えたモノ。それは

 

「私が最後か、来るのが遅かったかな」

 

音もなく彼女はそこに立っていた。後ろにゴーラを従えさせて彼女はいたのだ。

黒く艶やかな髪を後ろで一つに束ね

蒼い中国風の衣を纏い、黒の太ももまでのブーツを履き腰元に刀を装備したスタイル。

その姿はまるで絵巻物から飛び出たような綺麗さだった。

でもそれで綱吉たちが目を奪われたわけではない。

天姫の瞳が紅く染まっていたからだ。

 

「天姫…、瞳が…」

 

綱吉がたまらずに彼女に言った。それ天姫は妖艶に微笑み

 

「うん、わかってるよ。紅いでしょ」

「…天姫ちゃん……」

「びっくりさせちゃった?」

 

ゴメンねと天姫は苦笑しながら戸惑う京子ちゃん達に近寄った。

雰囲気がまったく違うのだ。以前の天姫と。

だから京子ちゃん達は少し顔を強張らせていたし、俺たちも何か異常のようなものを感じ取った。

 

「普段の私は紫なんだけど、もともと私の瞳は紅だったんだよ。見た目がアレだから黙ってたけどね」

 

おどけてみせる彼女だが、本質が違うのだ。

今までの天姫ではない。

まるで今にも鞘から飛び出る勢いの鋭い煌めく刃のような印象だ。

まったく隙がない。だからリボーンも動揺を隠せないのだ。

 

「大丈夫、私はちゃんと『正常』だから」

 

安心させるように、落ち着かせるように彼女は言う。

 

まるで俺の心を見透かすかのように俺に微笑んだ彼女。

少女のような外見をしつつも、彼女は俺たち子供とは違う『次元』にいることを

再度認識させられたんだ。

 

「行こうか、彼の地に」

 

天姫は目を細めた。

微笑みながらまるで敵の喉元に食らいついた瞬間の獣のように

勝利を確信したかのように。

 

「全ては私たちの為に」

 

天姫は紅い唇をにやりとさせた。

俺は知らなかった。

天姫があの姿で現れた事によって引き起こされていた現象の事を。

 

 

獄寺は綱吉の隣である光景を目にし驚きを隠せなかった。

なぜならば、

 

「大丈夫、私はちゃんと『正常』だから」

 

と天姫が微笑んでいる姿のすぐ目の前に『彼女』が飛び出たからだ。

 

『ああ、ワタシの可愛い天姫!!ええ、貴女は『正常』よ、だってそれが普通だったんですもの、ワタシ達!!』

 

天姫の頬を己が両手で挟み込み熱を含んだ視線をまっすぐに天姫に注ぎ込む。

彼女は歓喜する。唄うように叫ぶ。

心の底から嬉しさをこみ上げながら。

 

『段々近づいてきているのね!融合が、ワタシ達が混ざり合う時が!』

『天姫は段々ワタシに近づいている!ワタシに染まっていく時が!』

 

彼女は瞳を潤ませて頬を染める。

 

『ああ、ワタシの半身』

『ああ、ワタシの唯一のワタシ』

 

彼女はまるでこの世で愛しい人に縋り付くように身を寄せた。

 

「行こうか、彼の地に」

『ええ、行きましょう』

 

天姫の言葉の後に彼女は言葉を続けた。

 

「全ては私たちの為に」

『全てはワタシ達の為に』

 

紅い瞳の彼女は思う。貴女の背中はワタシが守るから。

だって、貴女はワタシ、ワタシは貴女だから、と

 

『夕闇の女王』の絶対なる存在を間近にすぐそばに感じながら彼女は天姫と同じように紅い唇をにやりとさせた。

獄寺は確信してしまった。『彼女』の覚醒が近い事を。

ついに訪れる、瞬間が近いことを。

 

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