天姫side
彼が私を欲する理由は世界が欲しいが為なのか。
超高層ビルが複数立ち並ぶ場所に白蘭たちは待ち構えていた。真6弔花を従えて。
ほんの数メートル先に佇む彼が一歩だけ踏み出したと同時に、私は綱吉の背に隠され、皆に守られる。
そんな皆の気持ちが嬉しく思いながらも私はあえて彼の背から顔を出した。
ありがとう、皆と感謝の言葉を表情で現して。
「こうして面と向かって話すのは久しぶりだね。天姫」
「夢の中での事を言っているのだったら私の中ではカウントしていないからこれが初めてになるわね。白蘭」
「瞳が紅いのは同調しているから?無駄に終わるかもしれないんだよ、その行為が。それでも君は『鍵』を欲するのかい。僕なら君を助けられるんだよ?辛い『過去』を受け入れることが天姫、君に可能なのかい?いつも逃げてきた君が」
白蘭は甘い蜜のような言葉で私を誘う。
たぶんこれから私に待ち構えている現実は、正直耐えられない事かもしれない。
確かに私は逃げた。それがいつもいつもの私だった。
認める、認めるがいつまでも私は逃げるだけじゃない。
自分に足りない存在を受け入れようと思った時から私は前に進んでいたんだ。
変化を恐れた自分が恥ずかしい。
恐れていたんだ、何もかもが変わり自分だけが置いていかれることに。
でも違った。自分が取り残されるんじゃない。
自分が立ち止まっていただけなんだって気がついた。
そうしたら歩けたんだ。上を向くのはつらいけど前は向ける。
私の足は歩けるから。
「私が助けを乞うとしたらその人はこの世界で『二人』しかいないわ」
背後で綱吉が息を呑む音がした。
ただ正直に言ったまでだがわずかに白蘭が開眼した。面白そうに私に問うてくる。
「へぇ~。誰ダレ?」
「チョイスでお前が勝ったら教えてあげるわ」
「随分強気だね」
「強気が私の売りだから」
でなければ私ではないとニヤリと笑ってやった。
始まったチョイス。互いに対峙し向き合う姿。
彼と私。お互いが目指す道は決して交わってはいない。
いないはずだろうに、どうして彼は一瞬だけ悲しそうな顔をしたのだろうか。
「…白蘭…」
その顔を見たのは私だけだったとその時は思った。
運命の瞬間であるチョイスが始まる前に。
※
白蘭side
「こうして面と向かって話すのは久しぶりだね。天姫」
夢ではなく通信越しではなく
こうして直に直面することでビリビリと痺れてしまいそうに、君が眩しかった。
「夢の中での事を言っているのだったら私の中ではカウントしていないからこれが初めてになるわね。白蘭」
ボンゴレファミリーに守られ慈しみられ大切にされる彼女。
僕ではない他の人間に微笑みかける天姫。
僕には絶対ありえないだろう、その光が羨ましかった。
僕が望めないものを彼らは得ていたのだ。
知らぬ内に、それが当たり前の行為だと思っている。
「瞳が紅いのは同調しているから?無駄に終わるかもしれないんだよ、その行為が。それでも君は『鍵』を欲するのかい。僕なら君を助けられるんだよ?辛い『過去』を受け入れることが天姫、君に可能なのかい?いつも逃げてきた君が」
僕は卑怯だ、こうして彼女が逃げることを望んでいる。
そんなもの君が望むわけがないと知っているのに言わずに言われない。
逃げることが時に罪になることはないんだと。
甘い誘惑をかける。揺らぐことなどありはしないと言うのに。
案の定、彼女はきっぱりと言い切った。
「私が助けを乞うとしたらその人はこの世界で『二人』しかいないわ」
彼女の目は透き通る水のようによどみなく清らかだった。
本心からの答え。それがこんなにも僕を貫く行為だとどうして理解してくれないのかな。
僕に向けて言い切った彼女の言葉になぜか反応したのは、沢田綱吉だった。
動揺したといった感じか。
天姫が言う『二人』の内の一人が彼なのか。羨まくもあり切なくもある。
もし君と違う形で出会えていたら、彼女が言うその助けてほしい人というのは、『また』、僕になっていたのかい?
その問いかけにもならない願いが一瞬だけ僕の顔を歪ませた。
誰も気がつくことはないと思ってた。
僕が彼らに背を向けた瞬間、君が驚いたように信じられないようにポツリと呟いたのを僕には聞こえなかった。
「…白蘭…」
僕は聞こえなかった。
僕は知らなかったんだ。
…さぁ、定められたチョイスを今始めよう。
※
沢田綱吉side
気がつけば天姫はいつも俺の先頭を走っていた。
俺は無我夢中でその背中にたどり着きたいと願いようやっと苦労して
その背に追いついたと思った瞬間、また距離がぐーんとひらいてしまう。
追いつけども追いつけども俺はいつも天姫の背中ばかり見ている事実。
やっぱり俺は彼女の隣で走れないのか。
俺じゃ駄目なのかと落胆してしまう。ガラリと雰囲気が変わった彼女。
「こうして面と向かって話すのは久しぶりだね。天姫」
「夢の中での事を言っているのだったら私の中ではカウントしていないからこれが初めてになるわね。白蘭」
「瞳が紅いのは同調しているから?無駄に終わるかもしれないんだよ、その行為が。それでも君は『鍵』を欲するのかい。僕なら君を助けられるんだよ?辛い『過去』を受け入れることが天姫、君に可能なのかい?いつも逃げてきた君が」
白蘭に悟らせちゃいけない。毅然とするんだ。
敵の前だ。ボスである俺が取り乱した様子をひとかけらでも見せちゃいけない。
俺は自分を律した。
落ち着け、落ち着くんだ。沢田綱吉!!
「私が助けを乞うとしたらその人はこの世界で『二人』しかいないわ」
俺は思わず息を飲んでしまった。
だって天姫が言った事に動揺してしまったんだ。
俺の脳裏に瞬時に浮かんだのは、天姫と俺が本心からぶつかり合ったあの時
天姫が耐えるように縋るように俺に言った言葉。
『……助、けて、ツナ………』
初めて天姫の口から他人に助けを望む声。
彼女がいうもう一人はおのずとわかった。
たぶん『彼』だろう。最初の天姫にとって忘れることがない人。俺が含まれている。
こんな時に不謹慎かと思ったけどでも、正直嬉しかった。
彼女にとって俺は頼れる部類に入っていると実感できたから。
でもあの声が俺の耳に入ったんだ。
「…白蘭…」
聞き間違いかと思うほど小さく
天姫がそう、小さく呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
油断、できない。
いろんな意味で、俺は一瞬だけでも浮かれてしまった自分を恥じた。
負けることが許されないチョイスが今始まったんだ。
※
天姫side
観覧席から綱吉たちがバイクで疾走する姿を眺めながら、あ~、私もバイクの免許、取っておくべきだったなとなんとくなく後悔した。車の免許は一応持ってるが、ほとんど移動は馬だったので機械なんてものに触れることなど昔の話になっていたし。
あ、それよりも説明しとこうか。
つい先ほど前に、戦闘メンバーが決まり自分がそのメンバーに
入っていないことを知った恭弥が不満たらたらに文句つけた所で
ディーノが登場し不満そうな恭弥をうまく丸め込み正一の生贄的な展開があったりしながらハイスタート!なんて言った時に白蘭が思い出したようにこう言ったのだ。
「前にも言ったけどさ、このチョイスの戦利品は全てのマーレリングに全てのボンゴレリング、そしてすべてのアルコバレーノおしゃぶり。すなわちトゥリニセッテだからね?……あ、忘れてた。天姫。キミも報酬の内に入ってるから♪」
「何だとっ!?」
「なんで天姫が!?」
と驚く仲間たち。私はまぁ、そんなこったろうと思ってたので黙ったままを貫き通した。未来の私を捕らえた時点で何かしら予想はできるものだ。
そう自分の末路を冷静に分析しつつさっさと始めろと顎で敵方を促す。
案の定、白蘭は予想どうりと言わんばかりにさっさと始めた。
怒りまくる綱吉たちを無視してね。で、さっきのバイクの話に至ると言う訳。
チョイスと言うゲームは、正一が造り出したものらしい。
よくこんな頭が痛くなりそうなゲームを作るもんだと感心しつつ、綱吉たちの動向を見守る。
「おい」
「何、リボーン」
目線を彼に移すことなく声だけで応える。
なんかちょっとリボーンの声が低い気がしたのは気のせいにしよう。
「まだ隠してることあるんじゃねーのか」
「あるよ」
ここで嘘ついても仕方がないので正直に言った。
すると複数の仲間たちの視線が一気に私に集中したのを背後で確認する。
でも、私はモニターだけを見つめ続ける。
「素直に吐く気は」
「ない」
言った所で今は理解してもらえるとは思わない。下手に混乱を与えればそれは敵にとって有利な事となるだろう。
だから今は言わない。
リボーンもそれをわかっているのか、呆れた奴だなとだけ愚痴って終わる。
でも後で問いただされそうな脅しはかけてきた。
「言わなきゃ現代のゴーラ。解体してやるからな」
「わかってるって」
私の大事なゴーラちゃんを解体されたら泣いちゃいますからね。
だからちゃんと言うよと返事をかえした。
ちゃんと言うよ?
『現代』に帰ったらね。
だって『いつ』とは約束していないもの。そうでしょう?
嘘じゃないから、と心の中で付け加えた。
武の相手だった『サル』と呼ばれていた術士はホントは綱吉が倒したと思われた幻騎士でした。
でも、強くなった武に倒され、白蘭の捨石に利用された模様。
っていうか死んだ?
あ、まだ図太く死んでない。
ディディがモニターからこれから先を予測して、すかさずモニターを青い顔して固まってる京子とハルの視界を塞ぐように目の前に体をずらした。
「天姫、喉渇いたろ」「うん」
私も二人の前に顔を突き出して笑いかけながら
「ビアンキ姉~、喉渇いた~」とせがんだ。
ビアンキ姉が反応のない京子とハルの頭を自分の胸に抱き寄せながら
「わかったわ、向こうに冷蔵庫があったから行ってくるわね」
と二人を無理やり連れて行った。
うん、可愛い二人には酷すぎる場面だものね。
凪もちょっと辛そうなので、肩を引き寄せた。
偉いね、ちゃんと見なくちゃいけないって考えてるようだ。
そう、ちゃんと見てあげなくちゃ。
彼の『最後』を。裏切りというのは簡単に起こるというものを。
彼女はあっけなく私に身を委ねた。やっぱりショックだよね。
目の前で人間が死ぬのは。
たとえ敵だろうと。凪は私と違って優しい子。
だから私と違うから守ってあげたくなるのだ。京子とハルも同じ。
私と同種だったら……。たぶん気に入らないかもしれない。
リボーンとディディ達は押し黙ったままモニターを見る。
あっけない。なんとゴミのような扱いだろう。
私も闘いたいな~。だって、どうせ死ぬのなら
『ワタシが死なせてあげたかったのに』
と口だけが動いたのには誰も気がつかない。
もちろん、嗤っていることにもね?
※
沢田綱吉side
天姫を物みたいに扱いやがって…。
これが一番俺の怒りの火種になった。
そして幻騎士の件もあってさらに怒りのボルテージが上がった。
怒りが俺の心に充満した。こんなにもあっさりと固く忠誠心に溢れた幻騎士を白蘭はいとも簡単に捨て駒にしたからだ。
こんなのってない!!
そう感じたのは俺だけじゃなかった。
山本や獄寺君、入江さんたちも同じ気持ちだったみたいだ。
「よし!皆一気にたたみかけよう!」
『ああ!!』
入江さんの並々ならぬ決意が込められた号令により俺たちは行動を開始した。
山本は標的へ一直線させ敵がこちらの区域に到達する前に獄寺君が時間稼ぎを
してくれる。
どうでもいいけどあの桔梗の「ハハンッ」っていちいち呟いてるのが無性に腹立つ。
アレは決め台詞?それともあれを言わないと落ち着かないとか?
マジどうでもいいや。くだらなすぎる……。
戦闘に集中しよう!
獄寺君が桔梗と対峙したらしいけど彼の匣兵器を封じ込められている状況になってしまうし、俺がトリカブトの敵を倒しそこなったことで奴の幻覚空間から抜け出せずにいたのがまずかった。敵に時間を与える行為に繋がってしまったのだ。
でも、俺は間に合うことができなかった。
桔梗が放った攻撃が入江さんのわき腹を通過し彼は血と共に地面に倒れていた。
どうしようもない焦燥感と早く助けにいきたいのにチェルベッロ機関の女により行く手を遮られ歯がゆい思いを感じた。
彼がやられたとき敵方にも変化はあった。
危機一髪間に合った山本の方も同時刻に標的を倒したみたいなんだ。
緊迫した空気の中判定されたのは、引き分け、ではなかった。
敵であるデイジーという男が山本の攻撃から復活し、胸に消したはずの炎をともしたのだ。これが意味するのは、敗北。
信じたくない現実が呆然とする俺たちに否応にもなく叩き付けられた。