チェルベッロの女が判決を下した。勝利者はミルフィオーレだと。
「負けた、だと」
「…………」
勝てたと思えたのは一瞬だけでモニターから伝えられる情報は嘘をつかない。
これは一種の殺し合いだ。
ゲームだと口で言いながら命のやり取りをする、殺し合い。
正一が受けた傷は見た限り相当深い。早く応急処置だけでもした方がいいだろう。
ディーノ達はさっそく正一の所に向かうみたいだ。
ゴーラちゃんにも言ってもらうようお願いした。
大勢の気配が動く中、ただ天姫一人だけ動かない。
「天姫、行かないの?」
「…後から行くから…」
凪に名を呼ばれたが天姫はポツリと呟き一人その場所に残った。
負けた。この事実は変えようがないものだ。
だが天姫は白蘭に捕まるわけにいかないと思った。まだやらねばならないことがあるからだ。鳥かごに入るなどまっぴらごめんである。
うーんと一人唸りながら倒れこんでいる正一を囲む皆をモニターから見る。
すると。
「あ」
ある気配を感じて思わず天姫は声が出た。
これはあの子の気配だ、と。
ついに夢ではなく現実の世界であの子と会う。彼女の予言が間近に迫っているのだ。
時間がない…。気持ちに焦りが生まれる。まだ『彼女』を見つけていないから。
感覚だけはあるのに、どこにいるかわからない。
近いはずなのに、なぜだか遠いような気がする。思っただけじゃダメなのか…?
まだ天姫は受け入れる事を無意識に恐れているらしい。
悩んでいる間にも正一の方は傷を負った重傷な体でどうしてそこまで白蘭を倒す事に執着するのか今まで誰にも言わなかった理由を語りだした。
彼曰く、これはいくつものパラレルワールドの中の唯一、白蘭を倒せる可能性を持った世界。そして未来の私が唯一、存在している世界でもあると言う。未来の私いうことか。
天姫は軽く頭を振った。考えこんでる場合ではない。正一は重傷だ。何よりあの子の傍に居なければ。白蘭が一番に利用したいのはユニなんだから。
天姫はすぐさま基地ユニットから飛び出した。
ユニの気配がもうすぐそこまで感じられたから。
正一が語る真実にボンゴレの皆は驚愕するしかなかった。
いうなればまるでドラマの中の話のように現実味を帯びていないのだから。
だが正一が血を吐きながら必死に語るのは真実。
彼が一人で抱えてきた事実そのものだった。
正一がかたくなに白蘭を倒せと言い続けるのはここが唯一の白蘭を倒せるチャンスに恵まれた世界だったからなのだと。
しかし、真実が理解できたとて、チョイスでの勝利者が変わることはない。
それが痛いほど感じられたのは白蘭がご機嫌そうにこう言ってきたからだ。
「あれ?天姫はどーしたの?もしかして取られるのが嫌で隠しちゃったとか?」
「天姫は物じゃない!」
「そうだぜ、お前になんかやるわけにいかねぇ」
獄寺と山本が敵意を込めて闘う構えをみせるが奴の雰囲気が一気に変わるのを肌で感じたのだ。
「……そんなの、許さないよ」
ギラリとした底冷えするような凍てついた目でツナたちを睨む白蘭。
白蘭はそこまでして天姫に執着するのか…。
「白蘭さん、僕はチョイスの再戦を希望するっ!」
「正一さんっ!?」
「駄目だよ、君たちは負けたんだ。男なら潔く負けを認めたらどうだい」
白蘭は決して正一の必死な要求を呑もうとは言わないし、態度にもあらわそうとはしない。絶望的な雰囲気の中、彼女は光のように現れた。
「それを言うなら貴方の方ではないのですか?白蘭」
リボーンのおしゃぶりが眩いばかりに光を発する。まるで『何か』と共鳴するかのように。
小さな家庭教師はこちらに歩み寄ってくる少女に驚きつつも、何かを瞬時に感じとる。
可愛らしい容姿に大きな帽子を頭にかぶり笑みを浮かべた少女の首には、リボンと共に自分が持つおしゃぶりと同じものがぶら下げられている。
「…ユニ、…貴様……!?」
白蘭が信じられないものをみるようにユニと呼ばれた少女を睨みつけた。
ユニは絶えず笑みを浮かべながら
「貴方も男ならば負傷してまで貴方に再戦を乞うている入江さんの気持ちを汲み取ってみては?それにミルフィオーレ、ブラックスペルのボスとして、私にも決定権はあるはずです」
「えっ!?あの子がミルフィオーレのもう一人のボス!?」
ツナの叫びが響く。他のメンバーも驚きを隠せない様子だ。
「君に決定権を与えたつもりはないよ」
ユニは聞く耳を持たない白蘭を見て、こう告げた。
「では、私はミルフィオーレファミリーを脱会します」
瞳に宿すは絶対なる意思であり強要を認めないものだった。
だが、そうやすやすと利用価値があるユニを手放すはずがない白蘭であった。
自分にはまったく反応しなかった73(トュリニセッテ)がユニが手にした途端、おびただしいほどの光を発し始めたのだ。
ユニの魂とおしゃぶりたちが共鳴している事実である。
物言わなくさせた時の彼女と今の彼女ではこちらの方が何より白蘭にとって逃したくないものだろう。
天姫もまた然り。彼女を手に入れて初めて自分がしてきたことに意味があるのだから。白蘭にとって欲しいものは、天姫とユニである。
「僕が謝るよ、だからこちらにおいで?天姫もいずれ僕の元に来るんだから。寂しくはないだろう?」
「貴方は、天姫姉様を幽閉しているじゃないですか。天姫姉様を放してっ!」
さっきまでの表情とは一変して彼女の瞳には涙がたまっていた。
言葉として叫ぶと共に彼女の中でたまっていた想いが溢れだしたのだ。
ユニにとって姉のように接してくれて母との約束の為に自分を守ろうとしてくれた
神崎天姫を閉じ込めているあの男が何より許せないものだったのだ。
自分だけで飽き足らず未来の天姫だけでなく過去からやってきた天姫をも手中に収めんとする欲望の深さに悲しみ、なぜそうすることでしか道はなかったのだと
言いたかったのだ。
だが、それが彼に届くことはない。
なぜなら、今はわかりあうときではないからだ。
「ユニに手出しはさせない」
ユニの前にふわりと黒髪が舞うと同時に銃弾が白蘭の腕を掠めた。
ズキュ―――ン!
「天姫姉さま!」
「天姫!?」
背後でユニを守る形で佇むのは天姫であり、刀に手をやりいつでも応戦できる形でいた。一瞬だけユニの方を振り返り笑みを見せた彼女は、リボーンの腕裁きに感嘆しつつほめたたえた。
「リボーン、さすが家庭教師だね」
「当たり前だ、それにアルコバレーノのボスに手出しさせるつもりはねぇ」
その台詞の後に来るのが遅いんだよと付け足し、天姫に文句を言うが本人は苦笑いするだけにとどめた。
「綱吉」
ふと、名を呼んだ。
「天姫?」
「ユニを守りたいの」
だから一緒に連れて行ってもいいよね?
天姫のそれは『お願い』のように聞こえて実は、違うものだった。
敵である白蘭を見つめる瞳には闘えるという歓喜に満ちた獣のような美しさがあった。
でも、声で言うのなら、可憐な花のようにそよ風にさえ折れてしまうような儚さを含んでいた。だから、綱吉は声で判断した。
「うん、当たり前だよ!」
天姫が俺を頼ってくれている、それが何より嬉しいと彼は思った。
もちろん、ユニを白蘭に渡すつもりもなかったし、天姫が言わなくても守るつもりでいた。でも、こうして天姫が他の男じゃなく俺の名を呼んで頼ってくれることに意味があるのだ、と。場所が場所なれど綱吉には相当嬉しかったのだ。
でも、天姫はそうは思っていない。
私は真実が知りたいのに白蘭は必要な事は言わずに、こっちを引っ掻き回すような事ばかり発言してくる。
『踊らされる』のは嫌い。『躍らせる』のは好き。
だったらおびき寄せてやろう。『私』という餌で、食いついてみせろ。ユニはあげない。守らなきゃいけない子だから。
私にとって、『ユニ』はこの世界での存在理由の一つだから。だから、あげない。
彼女は紅い舌で唇をペロっと舐め、呟くように言った。
「どちらが踊り疲れるか、勝負しましょ?白蘭」
わずかに彼の表情が動いた。戸惑いと困惑が入り混じって口が動く。
きみは今、どちらの君なんだ?
その問いには簡単に答えてあげない。
楽しみが減ってしまうでしょう。サプライズは後に取っておくものだもの。
さぁ、はたしてワタシは誰でしょう?
【どっぺるげんがーは仮の姿】