天姫side
「天姫、君がユニと知り合いだったなんてわからなかったよ」
「知らなくて当然。私もついこの間まで知らなかったもん」
「白蘭様、ご安心ください。私が蒼龍姫とユニ様を連れ戻します」
桔梗とかいう男が随分と勝手にほざいてやがる。
そう簡単に私たちが捕まると考えているのか。甘いなと内心思いつつ、
さてどうしたもんかと考えた。
さっきまでの自分は確かに雑魚共と遊びたい気持ちに溢れていたのだが、ユニの涙を見たらその気持ちが急にしぼんでしまった。
かといって、白蘭を前にして逃げるのもなんか嫌だなと思った時、ちょうど
すんごい闘いそうにしてた恭弥とスクアーロにバトンタッチした天姫はスタコラとユニの手を引っ張って基地ユニットの中に早々に避難してきた。
「天姫姉様…」
「大丈夫、大丈夫」
心配しなくてもいいんだよと、意味を込めて彼女の帽子を軽くポンポンと叩いた。
不安だろうが今はこれくらいしかできない自分が恨めしい。
「…はい…」
瞼を伏せつつユニは力なく頷いた。
ああ、そんな顔をさせたいんじゃないの。
ああ、君には笑顔が似合うはずなのに。
自分では無意識の内に柔らかい肌に手が伸びていた。
両手で大切に包むかのように、彼女の瞳を捕らえるかのように顔を見合わせるために腰をかがめて、ユニの視界いっぱいに私を映させた。
「天姫、姉さま…?」
どうしたのですか、とユニは首をかしげる仕草を見せた。
ああ、純粋だわ。
愛おしい、この純粋が真っ直ぐな視線が。
私にはないものだから、尚のこと手に入れたくなる。ユニの姿があの子と重なり合う。
私だけを頼り私だけを見つめてくるあの幼い瞳。
私だけが独占してきたあの子の想い。
ゴクリ、と喉が鳴る。
あの子に逢いたい。
狗楽に逢いたい逢いたい逢いたい。
アイタイあいたいアイタイ。
ユニをゆっくりと自分の胸に抱き込んだ。
離したくなくて、この腕から逃したくなくて、
「大丈夫、私が貴女を守るから」
「…天姫姉様……」
この子の体は小さすぎて、でも大きな宿命の渦に呑まれそうになっていて、逃れらない現実が彼女の前に立ちふさがっている。
尚更、狗楽と重なる。あの頃の幼い狗楽が不安に泣きながら私の名を呼んで、私があの子を安心させるために名前を言いながら頭を優しく撫で続けたのだ。今のように…。
「ワタシが守ってあげるから」
これは私にとって魔法の言葉。無敵になれる素敵な言葉。
『守る』ことこそが私の正義。あの頃のように私が幸せにしてあげるのだ。それが最初の私だもの。
「…………」
ユニは何も言わず、ただ私に身をゆだねたままだった。
※
入江正一side
紅い瞳に魅入られた僕にとって抵抗など無意味だった。
いや、よく考えれば傷を負っていたのだから動くことはできないんだけど。
気持ちの面での話だよ。
「正一、気持ち悪いかもしれないが我慢してくれ」
「あ、天姫さっ!」
人の目が僕たちに集中してるのに、今僕たちは逃げかえっている途中なのに。
彼女の吐息が間近に迫って迫って
問答無用でまた僕の口が塞がれた。
喋っている途中だったから口は開いたまま、彼女の口からある液体がそのままお互いの
舌が絡みあいつつ僕の喉に流れ込んでくる。
鉄っぽい味……じゃなかったんだ。
彼女の真っ赤な血は。
僕は無理やり抑えられた状態で息を欲するためにそれを飲み込むしかなかった。
「…ハァ…ん…むぅ」
ちゅぱっと舌が絡む事で卑猥な音が密かにこの場所に響く。
転送システムが作動し、基地ユニットが振動に包まれる。
それでも僕たちはまだ離れなかった。これで何回目だろう…。
……酸素が足りなくなって頭がぼんやりしてきた。
なんとなく、今の行為に至るまでの数分前の出来事を思い出してしまう。
基地ユニットにて僕はチョイスで無様に負けてしまった僕が負った傷はかなり深いものだった。ジクジクではなくグギグギと痛みが走る。
ちょっと動いただけで痛みに顔を歪めてしまうくらいに。
ああ、なんて情けないんだ。穴があったら入ってしまいたいくらい僕は落ち込む。
というかへこむ。
あんなに意気込んできたというのに、結果は尻尾巻いて逃げかえるみたいだ。
綱吉君たちはよくやってくれた。
僕を信じて、未来の綱吉君たちを信じて行動してくれたのに
僕が無様にやられてしまった事によってそれらは一瞬で霧散してしまった。
取り返しがつかない。
未来の天姫さんを助けるどころがその一歩さえつかむことができないんだ。
ズドーンと落ち込んでいた僕にとって、天姫さんが取った行動は考えられないほど信じがたいものだったんだ。
「正一、傷治してあげる」
「え?」
彼女は僕が横たわるストレッチャーの横に立つと、腰の刀を引き抜き、
突然何をするかと思ったら彼女は何の躊躇いもなく自分の左腕を斬りつけた。
紅い鮮血が吹き出し、彼女の白い腕が紅に染まるのはすぐだった。
「天姫!?」「天姫ちゃん、なんでっ!」
「天姫姉様、まさか」
女の子たちが悲鳴に近い声をあげる中、自分自身がした行動になんの違和感を持たない様子の彼女が次にしたのは、滴り落ちる血に己が顔を近づけ紅い舌で血を舐めとる。
ちゅる
違う、そういう風に見えただけだ。
天姫さんは自分の血を口に吸いこんでいる。
じゅる、じゅるり
この場にいる者すべてが彼女のその異様な姿に目を奪われた。
思考から体の支配全てが天姫さんによって奪われている。
目を、離せない。………
「……終わり…」
やっと、満足するほどに酸素が僕の肺に入り込む。
僕は体を起こし、せき込んでしまった。
「けほ、ごほっ!」
天姫さんの手が僕の背中を優しくさする。
それによって僕の咳は収まってくる。
「………、天姫、さん……」
「まだ痛む?」
彼女の顔が僕のすぐ目の前にある。
瞬間、僕の顔が一気に火照り意識せずにはいられなかった。
「え、いやっあ、ああの!」
狼狽える僕の様子を見ながら天姫さんは血が流れ続ける腕で僕の血染めになったワイシャツに手をかけた。
そこには応急手当てがしてあるガーゼがあるのだが、天姫さんはそれを
躊躇いもなく剥がす。
捲られた僕の肌に僕自身が目を疑うほど釘づけになってしまった。
「傷、が…」
「うん、塞がったみたいだね」
効果音が発生してもおかしくないくらい天姫さんはご満悦と言わんがかりに微笑んだ。
ありえない、おかしい、違和感
ここにいる皆がそう感じているだろう。
僕を筆頭に。
異様な雰囲気はいまだ続行中。
「正一の方は止まったけど、私の方が止まんないなぁ~」
あはは、と自分の腕を押さえてユニが正気に返り、慌てて自分のポケットからハンカチを取り出して天姫さんの腕を止血する。
「天姫姉様っ!」
「あはは、どうすっかな」
「どうすっかなじゃありませんっ!ああ、血が止まらないっ」
あわあわとユニは泣きだす始末。
ぎゅうを傷口付近を一生懸命押さえてるがどうやら血が止まる気配はないらしい。
能天気に笑ってる本人が
「そういえばいつも神男に治してもらってたな、もしかして私ってアイツに治してもらわないと傷が塞がらない体かもしんない。特殊なのかもね」
「天姫姉様っ!何をのんきなことをっ」
とんでもない暴露をあっさりとした本人は慌てずに周りが彼女の代わりに慌てる。
最後はユニの怒鳴り声+周囲の混乱。
天姫さんとの唐突なキスの後は僕の傷が塞がるという衝撃的な展開で終わる。