天姫side
ハルの提案で私たちが向かう事になったのは、川平不動産という場所。
どうにも目の前の建物から出てきたのは、胡散臭い雰囲気を出す眼鏡をかけた男。
ラーメンをずずっと吸い込むかのように食いながら一通り私たちの顔を見た後、
「中に入りなさい。厄介な奴らに追われているんでしょう?」
と私たちの状況を知っている節を見せた。
言われるまま建物の中に入り込んだ私たち。綱吉はぼけっとしてるからその川平のおじさんに遠慮なく足払いを喰らい倒れこむまま中に転がってくる。
「イテッ!」
「大丈夫ですか、十代目!?」
過保護な隼人が綱吉に駆け寄る。そして川平のおじさんを睨むことも忘れない。
何やってんだかと見つつ、謎すぎる相手を観察してみる。
どうにも胡散臭い。
……なぜ一発で私たちの状況を判断できるのだ。
とても部外者=一般人ではないことが推測できるし、あの男も隠すふりはない様子。
怪しい…。
気に入らない、なんか落ちつなかい。
奴を見ると気持ちがザワザワする。
でも今は怪しい奴としてもユニの無事が何より最優先される状況。
今だけは目を瞑って気にしないことにした。
だってもし、私に害を被る奴なら即刻殺してやるから別に
構わないから。
あの川平が外に出てどうやったかは知らないが敵を遠くへと誘導させる事に成功したらしい。その証拠は川平自ら無傷で扉を開き入ってきたことで証明された。
「真6弔花は行ってしまったようですよ。これでしばらくは持つでしょう」
ラーメン片手にあの敵とどういう風に接したか知らないが、
やはり簡単に信用できる相手ではないというのがわかっただけでも収穫だ。
皆が川平の言葉に安堵の息を吐いている中、
私とリボーンは厳しい視線で川平を睨む。
すると、瞬間奴と視線が合わさった。
「奴らも恐ろしい事をする、こんな少女を追いかけまわすとはねぇ」
その問いかけは誰に対するモノなのか。
眼鏡の奥の真意を私は捕らえられなかった。
でも、決定打な一言によって、
「………」
私の紅い瞳は一気に開いた。
「……そう、は思いませんか?『神崎』のお嬢さん。……いや、『神崎琉歌』さんで合ってますかね。古き『血』を受け継ぎ者」
コレハテキダ
認識するまでに一瞬で私の行動は素早かった。体が反射的に動いた。
意識するまもなく。
シュッ!!
鋭い風が生まれたと思った瞬間、私と川平の距離は数cmという状況だった。
「天姫!?」
誰かが制止の叫びか戸惑いの叫びか知らないが私の名を呼ぶ。
それだけではなく動揺と驚きが後ろの気配から感じとれた。
けどすぐにそれらは消去する。
今私が行わなければならないのは、奴に月光を喰らわせることだけ。
もうすこしで、首を刎ねられる所なのに、川平は難なく受け止めている。
私の刃を箸で、だ。
「素直に首を刎ねられたらどうだ、川平」
脅しでない私の抑揚のない声は奴の飄々とした表情を崩すには少し足りないようだ。
周りの仲間たちはどうして川平に襲いかかっているのか理由がわからないだろう。
それはそうだ。
だって、ほとんど知られてない名前が飛び出てきたんだもん。
この男の口からね。
「その殺気を抑えなさい。お嬢さん方が息苦しくしてるじゃないですか」
殺気だだ漏れ状態なので殺気とは無縁の京子たちはもちろん、綱吉たちも息苦しいものみたい。
「ならば即刻貴様が消えろ」
もちろん、今ここで死んでくれても構わないの意味も含めて奴に言う。
奴が防御のつもりで受け止めた箸に刃がどんどん食い込んでいく音がかすかにした。
奴に時間はない。
与えるつもりもない。
もうちょっと刀を持つ手に力を籠め続ければ、川平の胴体と首はまっぷたつに飛ぶ。
「……その方がよさそうですね…」
川平はため息をつきながら私の刀ありえない力で瞬時に横に逸らすと
反動で私の斜め蹴りをギリギリの所で体を後退させて避けた。
「君たちには貸しひとつだよ」
川平はそういって扉から出て行った。リボーンが言葉を失ったままの武の肩に乗ったまま私を射抜くような鋭い目で追い詰める。
「天姫、お前なんで川平に攻撃した。それに神崎琉歌(るか)って言うのはどういう意味だ……」
「アレは葬り去るべき名、過去の置き土産よ」
誤魔化すわけではないけど、今は話す時じゃない。
たとえ、皆に恐怖が宿った眼で見られようとも。
今は、語るときではないのだ。
笑みを無理やり作りながら心で動揺を悟られないようにするのが精一杯だ。
私の捨てた名前を知っている、あの男。
なぜ、この世界で私の一族を知ることができる?
今、神崎の家は私が断絶させたし、生き残りである私と狗楽の情報は戸籍から抹消されたはず。なにより異世界の中での話なのだ。この世界に情報が漏れるような事などありはしないはず。
ありえない、ありえないだろう。そう、ありえないのだ。
そう自ら安堵させようとした。でも知らず知らずの私の額には汗が浮かんでいたのをその時わからなかった。焦りという感情が渦巻いている事に。
皆の突き刺さる視線が私に向けられているのを重々承知で私は無言を貫き通した。
それが場の雰囲気を暗く重苦しいものにさせていると知っていても、だ。
ぽん、といきなり頭に手を置かれた感触。その相手は私の隣に立つ武。
「まっ、今はとにかくなんとか逃げれてる事を喜ぼうぜ?」
ニカッと笑う彼は私に同意を求めるように「な?」と言ってきた。
目を細めて私を庇うかのように彼はさりげなく傍にいてくれた。
ふと、考えた。
なんで武はここまでしてくれるんだろう、と。
そういえばいつも彼は私の傍にいる。
気がつけば、いつも彼は私の傍で微笑んでいる。
夏の暑い日差から守る日傘のように
冬の厳しい寒さから身を守るコートのように彼はいつもいるのだ。
よく私なんか庇うもんだ。庇った所で得することなんかありはしないのに。
同情とか?あぷなっかしいから?すぐに敵を作るタイプだから?
武には以前取り乱した私を見られた時があった。
だから彼はそんな私を見て放っておけないとか感じたのかも。
武は優しいから、すぐ人助けするんだ。
それは彼にとって美徳だろう。
ひん曲がった生き方しかできなかった私とは大違い。
じぃっと彼の顔を見やりつつ
口だけ武にわかるように動かした。
『ありがと』
武はそれに目を丸くしながらも気がついて行動で示してきた。
私の髪をワシャワシャと撫でくりまわし最後にまたぽんっと2回ほど軽く叩いた。
ホント、ドコまでキミは優しいのかな
もしかして、キミの優しさって底なし沼なのか
そんなことはたぶんないだろうけど、でももったいない。
その優しさをもっと別の誰かに注げばいいのに
私のような女じゃなくて、もっと別にいるかもしれないのに。
それからまもなく武たちがアジトに戻るのは数分後のこと。
同時に敵の襲撃が始まることを私はその時わからなかった。
γとの再会もすぐ目の前まで迫っていた。
未来の私を憎むという、男が。
※
山本武side
人は元来いくつもの仮面をしているという。
家族に向ける仮面、友人に向ける仮面、恋人に向ける仮面、
会社の人間に向ける仮面、自分独りだけいる時の仮面、
様々な仮面を持って人は『人』となる。
天姫はまるで2つのお面をかぶっているみたいだと思った。
あどけない少女のように屈託なく笑い、怒り、泣き喜怒哀楽が分かりやすい天姫と、大人の女のように妖艶に微笑み獲物を逃さない絶対的な権力を持った獣のような瞳をもつ彼女。
両極端な天姫はコロコロと時々変わる節は前からあった。
でもこんなに頻繁なほどでもなかったはず。
未来に来た天姫はその裏の部分とも言える面が強く出てきてるのがヒシヒシと
俺に伝わる。
震えるほどの殺気を溢れさせて俺たちの存在を忘れてしまったかのように
自分勝手に行動して皆を驚かせて子供のように好き勝手して自分だけが納得すればいいと考えて黙り込む。
他人からみればこれは立派な傲慢だし許し難いものだよな。
でも俺は知ってる。
天姫がなんでそうなった事実を。
そうすることでしか大切な家族を守る手段がなかったから。
だから天姫はこうする事しか知らなかった理由を。
俺はわざと陽気な声をだして天姫の隣に立つ。
「まっ、今はとにかくなんとか逃げれてる事を喜ぼうぜ?」
周りが不自然と感じようが今は天姫を責めるような会話は避けたかったし
それをさせようとも微塵に思わない。天姫の頭に手を置いて
大丈夫だ、と落ち着かせるように撫でた。
そしてニカッと笑い俺は天姫に話しかけた。
「な?」(だからそんな顔するな)
一瞬だけ天姫の瞳が揺れた。でもそれはすぐに隠れる。
俺だけがわかった、天姫の虚勢。
『ありがと』
天姫の唇が音なく動く。
俺の考えが伝わってその礼なのか、それとも気がつかないまま素直に礼を言ってきたのか、そんな細かい事どうでもよかった。
ただ、天姫が傷つかないよう守れるならそれでいい。
天姫が二度と俺の目の前で泣かなければそれでいい。
天姫の髪はサラサラでぐしゃぐしゃにするつもりで撫でくり回したのに結局髪は乱れることなく綺麗に整っている。
俺のキャラじゃないかもしれないけど切に願う。
その想いを込めて俺は天姫の髪を触った。
(どうか、俺たちが帰る世界は、君が泣かない世界に変わりますように)