最後の戦い。
そう感じていたのは綱吉たちだけではなかった。
彼等にとっても永い夜が明け、朝日が顔を出し始めた頃。
覆い茂る森の中、偉そうに椅子に座り足をくんで座っている男。白蘭。
その男の前に整列し跪きポーズを決めている桔梗、ザクロ、そしてブルーベルの三人。
「いよいよだよ。天姫とユニちゃんをゲットできる瞬間が」
「ハッ」
「ユニ様がおられる場所はすでに把握しております。トリカブトがユニ様に付着させた鱗粉がその場所を示しておりますので」
白蘭はその答えに満足そうに頷いたが、あえて桔梗の言葉に付け加えるように
「でもさ」
「ハッ」
「ちょっと前に相当大きい爆発音したよね、向こうの方で」
「……ええ……」
桔梗は何とも言えない微妙な顔をして返事をかえす。
桔梗たちにとっても予想だにしなかった事だったのだ。
あの爆発はこちらの方にまで地響きとして伝わってくるくらいの衝撃をもたらしたのだから。
「すっごいわかりやすいけどあっちらへんにいることは確実だよね。わざわざ教えてくれたのかな?本当にそうだとしたら……」
馬鹿だと思うけど、と素直に己の感想を述べる白蘭は面白そうにこみ上げる笑いを格闘しながら声を出す。彼に賛同するようにブルーベルやザクロも言いたい放題言いまくる。
「馬鹿っていうかおまぬけ集団の集まりよ!」
「バーロ、それを言うなら変人集団の方があってるだーろ」
「にゅっ!?何よ別になんでもいいじゃないっ!」
「言葉にセンスってもんがねーよ、やっぱお子様だな」
「にゅ~~~!」
いつもの口げんかに発展した二人は放置しておいて桔梗が
「…罠の可能性は否定できないと思いますが…」
「…まぁ、そうかもしれないけどそういう姑息な手は嫌うんじゃないかな?綱吉君は
彼って真面目じゃない?僕の一番大嫌いなタイプだよ」
そういう白蘭の視線はまったく冷徹以上のものが含まれており特に『大』嫌いの大の部分が協調されていたような…。一瞬だけ居心地の悪さを感じてしまう面々。
「「「…………」」」
それに当の白蘭は気がつくことなく、
「よし、じゃ行って?あ、それと天姫には手を出さないでよ?」
彼女は僕の手で捕まえるから
自信たっぷりに語る白蘭には何か秘策のようなものがあるのか
それを知るチャンスは多分彼らにはめぐってこないだろう。
※
天姫side
作戦に内容が決まった後、隼人はどこかソワソワしたような落ち着きがない様子だった。しきりに私の顔を見ては何かいいたそうな顔をして。
そんな隼人にいち早く気がついたのは綱吉だった。
「獄寺、くん?」
怪訝そうに声をだした綱吉だが、
「スイマセンっ!十代目、お叱りは後で必ず受けますからっ」
と、隼人は私の腕をとって走り出した。
「隼人っ!?」
「え、ちょっ!?」
いきなり引っ張られた私はつんのめりながらも隼人に遅れまいと彼の背中を見ながら走った。
覆い茂った森の中、皆から少し離れた場所でようやく止まった隼人と私。
「いったい、どうしたの…?」
少しでも体を休めておかなければいけないというのに、
何もこんな人気のないところまで来なくても話なら皆が居る所でもできたはずと、挙動不審な隼人を見た。
「…他の奴に聞かれたくなかったんだよ、それに…」
途中で言葉をやめた彼は言おうかやめようかと迷っている感じだった。
「……」
でも一呼吸すると、私の腕から手を放して
ぐいっ
「え」
肩を両手で掴まれた。まっすぐに隼人の顔が視界に入る。
近くなる距離。彼だけの言葉が私に流れ込んでくる。
「天姫、お前の事信じてる」
「…隼人…」
「山本がお前の騎士(ナイト)役だとか豪語してやがったけど…」
「武が?」
またなんでそんな事を…、人のいないところで何を言いまくっているのか。
呆れ気味なるところ、目の前の隼人の顔付は真面目そのものだった。
言いよどむ彼の雰囲気に瞳に引き込まれそうになった。
「天姫」
名を呼ばれた事で尚更私は隼人だけの声しか聞こえなくなっていた。
「俺は、お前の『裏』の部分を知ってる。だからってお前を否定したりとか嫌いになったりすることなんか絶対ない。『アイツ』と接してるうちにわかった。『アイツ』がお前に執着する理由もお前以外認めていなかった理由も。お前は他人に知られたくないことがあるのはわかってるつもりだし、お前が何をしたいかっていうのも知ってる。だけどこれだけは覚えてろ」
「…なんで、知ってる、のよ…」
隼人が言う『アイツ』とは。その存在をわかっている私だからこそ固まってしまう。
なぜ彼がそれを知ることに繋がっているのか。
どうして『彼女』の事を知っているの
「俺はお前がどんな過去を背負ってたって、どんな裏の顔を持ってたって。俺の、お前に対する気持ちに変わりはねぇ。天姫を守りたいっていう気持ちは誰にも負けねぇからな!」
「……隼、人……」
辛うじて言えたのは、彼の名前だけ。
目の前で自分の言った台詞に湯気が出そうなほど照れまくっている思春期真っ盛りの少年の名前だけ。でも、彼の事は私が思う以上に成長していたのだ。
何があってコレを手にしたのかはわからないけれど、でも彼なりにコレは影響を与えたはず。
「これはお前に渡す」
彼から無理やり手渡されたのは最愛の人からもらったカピカピに乾いた血濡れの髪飾りだった。
『アイツに消されるんじゃねぇぞ』
隼人の最後の言葉は私の頭には入ってこなかった。
ずっと思考は自分の手に乗せられたソレに奪われていたのだから。
劉牙の血がこびりついたあの出来事をフラッシュバックさせるには十分すぎるものだもの。
※
獄寺隼人side
今しかチャンスはない。この機会を逃せば天姫がアイツを得られるチャンスはなくなってしまう、そんな気がしちまった。
そう思った瞬間、俺の体は動いていた。
十代目の手前とか右腕に相応しくならなきゃいけない事とか吹き飛んでいやがった。
「獄寺、くん?」
案の定やはり十代目は不審げに俺に視線を送ってこられた。
…でも
「スイマセンっ!十代目、お叱りは後で必ず受けますからっ」
と、俺は天姫の腕をとって全速力で走り出した。
「隼人っ!?」
「え、ちょっ!?」
グイグイと腕をひっばって人気のない所を目指す。他の奴らには聞かれくないからな。
かといってどこまで行けばいいのか、勢いで来てしまっていることに今さらながら気がついた俺。
覆い茂った森の中、皆から少し離れた場所でようやく止まった俺と天姫。
「いったい、どうしたの…?」
「…他の奴に聞かれたくなかったんだよ、それに…」
曹揚羽が俺に託したのなら俺の手で返してやりたい。
一応、頼まれちまったからな。
今思えばあの男はこうなる事を見透かして俺に託したのではないかとさえ思ってしまうぜ。って、こんな事今はどうでもいい!!
「……」
ぐいっ
「え」
天姫の肩を両手で掴んだ。まっすぐに天姫の整った顔が目に映る。
近くなる距離。
やべぇ…心臓が爆発しちまいそうだ……。
覚悟決めろっ!!
「天姫、お前の事信じてる」
「…隼人…」
「山本がお前の騎士(ナイト)役だとか豪語してやがったけど…」
チッ、口に出しちまったらムカついてきたぜ。
「武が?」
「天姫」
「俺は、お前の『裏』の部分を知ってる。だからってお前を否定したりとか嫌いになったりすることなんか絶対ない。『アイツ』と接してるうちにわかった。『アイツ』がお前に執着する理由もお前以外認めていなかった理由も。お前は他人に知られたくないことがあるのはわかってるつもりだし、お前が何をしたいかっていうのも知ってる。だけどこれだけは覚えてろ」
「…なんで、知ってる、のよ…」
声を震わせ、信じられないと言った表情で俺を見る天姫。
やっぱり隠していたのか。
自分のもう一人の存在の事を。
その存在が天姫の後方の方に出現していた。
じっと俺たちの様子を伺っている。
たぶん、今は俺だけが見えているものだろうが。
「俺はお前がどんな過去を背負ってたって、どんな裏の顔を持ってたって。俺の、お前に対する気持ちに変わりはねぇ」
出会った時からお前に惹かれてた。
この気持ちを今は伝えるつもりはねぇし、かといって十代目に負けるつもりもねぇ。
行動で示せることもあるはずだ。
「天姫を守りたいっていう気持ちは誰にも負けねぇからな!」
「……隼、人……」
「これはお前に渡す」
やることはやった。
でも小さな不安が俺の中で消えることはなかった。
だから用心の意味も込めて天姫だけに聞こえるように耳元に囁いた。
『アイツに消されるんじゃねぇぞ』
アイツの事は認めてはいる。
過保護な奴だから派手な行動をとるだけだって、
でもアイツが体の主導権を握らないという要素がないわけじゃねぇ。
アイツだって天姫なんだからな。
人格が入れ替わる事態がこの先起こらない保障もない。
何事もなく順調にいってくれればいいが…。
消え去ることがない不安を押し戻しながら俺は白蘭との全面対決へと向かう。
この時俺はわからなかった。
アイツが泣きそうに顔を歪めていたのを。
※
夕闇の女王side
ついについに隼人が天姫に鍵を渡すときがきたわ。
高鳴る鼓動に期待が膨らみまくる。
ずっと夢見てきたのだ。この時をこの瞬間をワタシが天姫と一緒になれる瞬間を
「俺は、お前の『裏』の部分を知ってる。だからってお前を否定したりとか嫌いになったりすることなんか絶対ない。『アイツ』と接してるうちにわかった。『アイツ』がお前に執着する理由もお前以外認めていなかった理由も。お前は他人に知られたくないことがあるのはわかってるつもりだし、お前が何をしたいかっていうのも知ってる。だけどこれだけは覚えてろ」
「…なんで、知ってる、のよ…」
隼人がワタシの存在に気がついたようだった。
さぁ、言って?ワタシを天姫に手渡して?
もうすぐワタシの夢が叶う。
独りじゃなくなる、淋しくなくなる、安心できる。
でも、目の前に光景に自分の心は歓喜だけを感じることがなかった。
歓喜以外に違う感情がワタシを包み込んでいたのだ。
天姫の肩をぎゅっととって隼人は天姫に言うの。
「俺はお前がどんな過去を背負ってたって、どんな裏の顔を持ってたって」
裏、ってなに?ワタシは天姫なのに
ワタシは天姫の裏?ワタシだって天姫なのよ。
ワタシがいて初めて天姫でいられるのに…!!
「俺の、お前に対する気持ちに変わりはねぇ」
それはワタシじゃなくて天姫に言うの…?
ワタシじゃなくあ天姫に?
ズキン、と胸が疼く、鈍く痛みが広がる。
「天姫を守りたいっていう気持ちは誰にも負けねぇからな!」
隼人は天姫を守りたい、のね。
そう、最初からワタシは見られていなかった
隼人の瞳にいるのは天姫だけ、なのね……
ワタシじゃなくて、あの天姫なのね……
痛みがひどくなる、耐えきれずに胸元に手をやった。
でもそんなのお構いなしに痛みが広がっていくの、
グングンと勢いよくワタシは動けなくなっていく。
「……隼、人……」
「これはお前に渡す」
どうして、胸が痛いのかしら?
今までこんな感情に支配されることなんかなかったのに、
なんでワタシが取り乱さなければならないの……。
苦しいイタイ
痛いイタイ痛い
イタイ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い悲しい痛い痛い痛い痛い痛い
『アイツに消されるんじゃねぇぞ』
隼人の呟きがワタシをさらに追い込む。顔が、歪んだ。
隼人の顔が見られない。隼人がワタシを見ていない。
抑えきれない嗚咽がこぼれる。
『………っ……って……』
ワタシはここにいるわ。ワタシは隼人には映っていないの?
ワタシだって生きているのにっ!あの子じゃなくて、『ワタシ』を見て?ワタシだって、天姫なのに……!
(叫んでも叫んでも、キミには届かない声)