沢田綱吉side
俺が知った天姫の事ってまだ断片にすぎないと思うんだ。
彼女の生い立ちとか、どうやって生きてきたのか
それは情報として俺の中に一生残り続けるだろう。
でも、それはあくまで情報としてだ。
実際に体験していない俺に100%彼女の理解が出来るなんて思っていない。
でも苦しいや、痛み、悲しみは切ないほど伝わってきた。
天姫の心からの叫びによって。
「ユニぃぃぃぃいいいいいいいいいい!…いやぁぁぁああああああああああ――――」
天姫の絶望に満ちた悲鳴が俺の耳に痛いくらい響いた。
髪をぐちゃぐちゃにして頭を抱えて、息を乱れさせて涙を流す様は、酷く痛々しくて
彼女はいったいどれだけ苦しまなければいけないのか。
体に傷を作り、心に癒えない痛みを背負って
それでも大切な人の為に体を張ってきた天姫。
なのに大切な人を失うと知った瞬間、現実は彼女を絶望の淵へと叩き落すんだ。
こんなの、こんなこと……
ユニを追い詰めて、天姫を、また悲しませるなんて……泣いて欲しくない
そう思って行動してたんだ
誰も犠牲のない形で現代に帰ろうってそう決めてたのに白蘭が全てをぶち壊した
俺の計画を邪魔した
その事実に俺の中でついに何かがキレた。
抑えきれない怒りで気が狂いそうだった。ギッと睨む相手はただ一人。
「俺は、俺はお前を許さない……びゃくらぁぁあああああああああんんんん!」
「ん、許さない?」
殺したいほど憎しみが溢れたのは俺の中で初めてだ。そのきょとんとしたわざとらしい態度すらも忌々しいほど視界から消え去りたいくらいだ。
ドロドロとどす黒い気持ちに支配されつつある俺。
理性なんか吹っ飛んでた。
ただ、天姫を泣かせたアイツが消えろって消えて、いなくなれ
ってそう思って、俺は体を動かしてた。ただ無我夢中に闘って闘って最後に残った時、俺はふと我に返った。
白蘭は俺の炎に溶け込んで死んだ。
その時後から気がついた。
俺って、はじめて『殺意』を抱いたんだ、って。
(俺の『殺意』誕生の瞬間)
※
天姫side
ユニは死んだ。皆がユニを助けようと結界を破こうと必死に動いた。
けど、間に合わなかった。
ユニがアルコバレーノたちを復活させようと魂を捧げ、結果アルコバレーノたちは
この世に再び復活した。
ユニとγの命を引き換えに。
私が守れなかったから、弱いからユニは最初から自分の死を予知していたんだ。
その事を私に言わないで、心配をかけたくないから。
皆が幸せになれる手段を自らの魂を捧げることで造った。
「……嘘つき…」
嘘つくなよ、ユニ。
本当は生きたかったくせに、好きな人と大切な仲間と一緒に生きたかったくせに
どうして、逝ってしまうの。
あの子は一度だって私に「助けて」と口にしなかった。
頼って欲しいのに、無理難題言ったって絶対嫌だと思わないほど私はあの子に
正直でいてほしかった。
我儘を言わない大人のような女の子。
みんなの平和の為に散った娘。
自分の方がおとぎ話の儚い御姫様みたいじゃないか。
おとぎの国じゃずっと幸せに暮らしましたって最後だけど、そこにはどんな風に幸せになったのか書いてない。
大雑把に単純に『みんなで幸せになりました。おしまい』
で終わり。
そんな未来って現実にないじゃない、絶対。
どこかにかならず悲しみが隠れているし、苦しい事だってある。
だからこそ、生きてるって感じることができる。
「……嘘つきが…約束破ったじゃんか」
私はゆっくり自分の小指に視線を動かした。
今でも感触が残っている。今でも彼女が目の前で笑っている。
全部終わったら、私の話を聞かせてあげるっていう約束。
指切りげんまんしたじゃない。
「針、千本飲まなきゃいけないんだから……」
じんまりとまた、涙が溢れてきた。
視界が波打って滲んで涙で弾けた。
もう、弱いままじゃいられない 不完全なままじゃ役立たずに終わる
『あの子』を怖がっていたら、また私は何もできないままだ
手をポケットに入れてあの髪飾りを触った。
ほのかに温かみを帯びていた。
(全てを受け入れて 私は完全体となろう これ以上手から零したくないから )
※
白蘭side
今、暴露するなら僕は最初から大量殺人とか好きじゃなかったし、人に関心なんかなかった。他人とかどうでもいいし、自分に悪影響を与えない程度に人付き合いはしてきたつもりだと思う。適度な距離ってやつ?
でも、ある時君に出会った。
とある町中日暮れの頃、行き交う人々は家路につこうとしていた時間帯。
僕はただフラフラと歩いていた。
暇だったからってのも理由の内だったけど、なんでか胸が騒いでしょうがなかったんだよ。ザワザワして落ち着かなかった。
妙な感覚に僕はちょっとイラついてた。
ちょっとした裏路地に入ったんだ。そこはガラの悪い連中のたまり場みたいなものだった。
そこには予想通り、複数の若い男どもがたむろってた。
僕は、ちょうどいい八つ当たりができると嬉々としてそいつらの所に向かって歩いていった。
『おい、お前。金もってねぇかよ?』
『ちょっと俺たちに恵んでくれよぉ~』
『いいじゃん?慈善事業だと思ってさぁ~?』
案の定、男どもは僕を囲むようにして群がってきたよ。集団行動でしか動けないとは
やっぱりつまらないものだね。
落胆の溜息しか出なかった僕。
男の一人がそれに気がついて「気に入らねぇな、あんちゃん」って僕につっかかってきた。
予想できるまるわかりな展開にやっぱりため息が出ちゃった。
どうせ、キレかかって僕に殴りかかってくるんだろうなぁ。
僕も痛いのは嫌だからそれを難なく避けて逆にやりかえすんだよなって、
全部思ったことが目の前で実現していく。
男は罵声を僕に浴びせながら拳を強く握って僕に向かってふるう。
ああ、避けなきゃ
スローモーションで僕が予測して展開が起こると思った。その時は。
ひゅうぅぅぅうううううううぅぅぅうぅ。
ドスンっ!!
『うぎゃっ!』
目の前の男が上から落ちてきた何かによって潰されるまでは。
『なんだぁ?!』
『上からなんか降ってきたぞっ!?』
汚い所だから煙が舞って視界が遮られた。僕は一歩後ろに後退して煙から視界を守った。
徐々に晴れていく視界。
下の方から僕の視界に入ったのは、地面に倒れこんでいる男とその男すぐそばに立つスラリとした足首。黒のブーツだ。
女とみてとれた。
『着地には成功。でも汚いとこだわ、空気が腐ってる。というかこの場自体が腐ってる』
鈴が転がるような耳に心地いい声なのに、内容は結構酷いことを平気で言っていた。
後ろを向いていて顔は見えなかった。でも、黒髪が腰にまで揺れてスタイルは抜群だとすぐに見て取れた。
『てめぇこのアマが!』
仲間がやられたことにやっと気がついた他の男たちは一斉にその女に襲いかかった。
でも、女の
『煩い』
の押し殺した声と共に男たちは簡単に吹っ飛んでいった。漫画みたいに。
彼女の華麗な回し蹴りによって、壁に激突して一気に気を失ったんだ。
見事な手際のよさに感嘆が漏れる。
『…見事だね…』
『……ん、他に誰かいたの…』
女は僕の存在に気がついていなかったらしい。顔をちらりと僕に向けた。
女はサングラスをして、黒いのワンピースに身を包んで皮ジャンを羽織っていた。
首元には、鎖に通した指輪のようなものを身につけて。
かなり整った顔立ちだとすぐに感じ取れた。
『っていうか君は何処から降ってきたんだい?この上はビルだし。…もしかして飛び降り自殺?』
『だとしたら生きていないだろうね』
『まぁそうだね、じゃあ君はなんだい?』
『人に名を聞く前にまず自分の素性を明かす方が先じゃないのかな、少年』
マナー違反だよ、と目の前の女が笑う。
『それもそうだね、……僕の名前は白蘭だよ』
一応助けてもらったのかどうかわからないけど、礼は言った。
女は別に助けたつもりはないと首を振って、結果そうなったなら良かったなと言う。
それからブツブツとやっぱアイツの所為だとか、早くここから出たいとかぼやいていた。
『それで、君の名前は?』
『……忘れてた、神崎』
神崎、そうって女はサングラスを外した。
僕は、女の瞳に釘づけになった。目を離せない、動けない。
『神崎天姫。よろしく、白蘭』
透き通るほど綺麗な紫の瞳にすっきりとした首筋、目鼻整った顔立ちそして紅い唇。
この世の生き物とは思えないほど、女は僕に微笑んだ。
これが君との初めての出会い。
今から考えると、君って空から降ってくるのが定番みたいだね。
ジェットコースターとか苦手なんだよね、君って。よく平気だよ
そういえば、君は頬を膨らませて拗ねたよね。
機嫌を戻すまで僕は必死にご機嫌どりした事が笑えるよ。
それから二人でたくさん過ごした。僕の退屈していた日常はあっという間に君色に染められて鮮やかになった。マーレリングなんて存在も忘れるくらい君に没頭して、君に惹かれて君を愛おしく想って年月が重なるたびに君に告げた。
『どうか、この先も僕とあり続けて欲しい』と、とてもおとぎ話の王子みたいにうまくはできなかったけど、僕なりの気持ちを込めて。彼女の前で跪いて、視線を合わせ給料三か月分よりも贅沢した指輪を君の薬指にはめて、僕は君にプロポーズした。
君は目元に涙を溜めて、はにかんで、嬉しそうに目を細めて
『うん、喜んで』と君はオッケーをくれた。
僕たちは笑みを浮かべてお互いを離さないように抱き合うんだ。
ずっと一緒にいられるねと互いにおでこを合わせて。
でも、君は連れていかれた。
あの神に、言いようにこき使われてボロボロにされて生贄にされて、実験用として器として使えなくなった彼女はぼろきれのように捨てられた。
僕は君の亡骸を抱いて、抱きしめて頬を寄せて冷たくなった唇にキスを落とす。
悲しくて涙を流すんじゃない、悔しくて情けなくて涙を流すんだ。
天姫を助けられない無様な僕を呪って。
僕は決意した。マーレリングを使って君を助けようって。
神の計画を粉々に砕いてやるって。君の笑顔を再び間近で見る為に。
僕は、仮面をかぶった。
イカレタ残酷で残忍な男の仮面を。
…もっと、君との思い出を思い出したいのに時間は待ってくれないみたいだ。
綱吉君との闘いに僕の勝算はないみたい。
体が炎に焼かれて痛みがすさまじい、よ。地獄の業火ってこれ以上なのかな。
「うぎゃああああああ」
ああ僕、もう終わりなんだ…。
結構頑張ったつもりなんだけど、天姫にとっては裏目に出てしまったのかな
僕が君と何処で出会ったのか、それを伝えようと思ってたのにそれも無理みたい…。残念だよ、残念すぎて未練たらたらだし。
体の感覚さえなくなってきた。もう、時間なんだね。
………もういちど、つぎの世界で。
天姫、もう一度君に逢いたいと言ったら。
怒、るか…な。
僕の思考はそこで途切れた。
(次は君と笑える世界で生きたい)